神話の存在
私が向かった先には何十人かの冒険者たちが居た。
が全員目の前の光景に愕然としていた。
そりゃそうだ。
目の前には神話上でしか存在が確認されていない魔物。
全身を黒い鱗で多い、その羽は天を総べるものの証。
その口からは灼熱の業火を吐き、全ての生物の頂点に君臨する伝説の魔物。
ドラゴンが目の前にいるのだから
ドラゴンはジッと冒険者たちを睨み、のそ、のそと四つん這いで歩いてきた。
私は一人の男の冒険者に近づき肩を叩く。
「…だ、だれだっ!!」
困惑して持ってした武器を私に振り回してきたがそれを軽々と受け止めると冷静になったのか「すまない」と直ぐに謝ってきた。
「…貴方たちは早く逃げなさい、私はこの為に呼ばれたのですから」
「で、でも!!」
「でもでもへったくれでもありません!…絶対この魔物は討伐して見せます、私の名にかけて」
それを聞いた冒険者達は私を神妙な面持ちで見たあと全員が逃げていった。
「…さて、ドラゴンさん、初めまして…私は貴方を殺す存在ですよ」
自分の愛用している二刀レイピアを引き抜くとドラゴンも私が害をなすものだと理解したのかグォォォォッ!!と空気が痺れるほど大きな咆哮を私に向ける。
その咆哮が止まると同時に私はドラゴンの死角となる腹部へと一気に近づくと手始めにと言わんばかりにレイピアを1本突き刺そうとするが弾かれた。
私は顔を顰めすぐにバックステップを踏むが、それを見切られていたのかバックステップしたところ目掛けてドラゴンの牙が私を襲う。
だがそんな事を予想できない奴はS級冒険者にはなれないのだ。
「ウインドブラスト!!」
1本のレイピアを杖の代わりにしレイピアの先からドラゴンに向かって暴風が吹き付ける。
ドラゴンの口の中にクリーンヒットしドラゴンは少し仰け反ると再び私に向かって咆哮した。
「…ほぅ、私の愛剣「双風のアウラ」の攻撃をものともしないとは…」
私の相棒であるこの二刀レイピア、「双風のアウラ」はあるダンジョンで手に入れた伝説級の武器。
効果は自分の移動速度上昇に風属性の魔法を威力3段階引き上げるというもの、並の魔物なら先程の「ウインドブラスト」で跡形もなく吹き飛ぶのだが…さすが伝説級の魔物と言ったところか
「ならば、地道に削りましょうかねっっ!!」
私は一気に詰め寄るとその硬い鱗の柔らかい部分を探すために至る所を突き刺し、切りつけ始めた。
だが全てが弾かれ、ドラゴンもその大きな体格のせいか、防戦一方なようすで、私の攻撃をこらえている様子だった。
だが決定打にかけていた。
これでは私の武器の方が摩耗し最悪折れてしまうだろう。
切り続けていると1箇所だけ微かに感覚が違った。
それはドラゴンの首元だった。
「そこです!」
私はそこに目掛けてレイピアを2本突き刺すとドラゴンも焦ったのか暴れ始めるが私はそれにこらえながら自分の全身全霊を持って、自分の中の最強の魔法で終わらせようとした。
「そよ風よ、その真の姿を表せ、その風は全てを蹴散らす暴風なり、触れるもの全てを切り裂く暴風よ、我が命に答えよ!!トルネード!!」
私が突き刺したドラゴンの口元が大きく膨らみ魔法が暴発。
口から煙を吐くドラゴンを見ながらもレイピアを引き抜く。
私が地面に足をつけると同時にドラゴンがバタリと倒れ込んだ。
「…ふぅ、これで…終わりですかね」
私が振り返り戻ろうとするとドラゴンがまた動き始めた。
「……やはり、伝説級の魔物だとそうなのですね?」
私は再び振り返ると今度はドラゴンがその大きな羽を羽ばたかせ空高く舞い上がった。
「…ふぅ、あまり使いたくはなかったのですがね…「天」魔法。」
レイピアを鞘に収め、じっと空を見上げこの土地の人々に許しをこうように右手を心臓に胸を当てる。
「…天よ、私をお許しください、この非力な人間がこの世界の破滅を告げるのを…風は吹き荒れ、空が荒れる…」
私の言葉に合わせてこの一体の雲が集まりだしドンドン黒くなっていく。
雲の中では雷が鳴っていた。
それを警戒したのかドラゴンがブレスを吐こうとしているのか口の中が赤く光っていた。
だがそれでも私は辞めなかった。
天に向けて両手を広げ言葉を続ける。
「その風はこの世全てを切り裂き、その雷は全てを焼き尽くす、その雨は全てを飲み込む、この世全てに天災を……この世全てに、等しく終焉を…この世を全てを地獄へと作り替えよ……ヘルテンペスト…」
詠唱を終えるのとともにブレスが吐かれるが吹き荒れる暴風がそれを巻き込みドラゴンを包み込む。
私にも少し飛び火して頬を火傷した。
周りの建物には雷や業火を巻き込んだ暴風が当たり、石造りの瓦礫が熔けていた。
ドラゴンはと言うと羽が焼け、体に雷や自分のブレスを巻き込んだ暴風が当たり、呻き声を上げていた。
数分しないうちにドラゴンが空から落ちてきて焼けこげた皮膚が雨で冷やされていくが、所々魔物特有の紫の血が溢れており、絶命寸前のところに容赦なく頭に向かって雷が落ち、ドラゴンは死んだ。
私が唱えた魔法は禁術であり、本来であれば王家に確認をとって許可が降りなければ使えない魔法。
それが風属性の亜種である天属性魔法。
その根本は天候を操るところから来ており、1度唱えるとその場所の天候は荒れ狂い、そして不毛の土地となる。
そんな魔法。
なぜそんな魔法が私が使えるかは私でも分からない。
ただ、偶然夢で見たのだ。
それを見た私は遊び半分で故郷で唱え、自分の手で故郷を壊したのだ。
ある人のおかげで罪からは免れたものの、私は常に生きることに苦しんでいるのだ。
この魔法を覚えてしまったが故に、私に生きる価値などないと…思って生きている。
私は死に急いでるのかもしれない…だが野垂れ死にたくもない。
だから、少しでも人の役に立ちたくて、こうして剣を振るう、冒険者となったのだが…今回は感謝はされないだろうな…
雨に打たれ、自分の涙かも分からないぐちゃぐちゃの顔で、泣き叫ぶ。
許して……私を……だれか、許してくれと、常に願っている。
だから私はあの拾った子に期待をしているのだ、師匠として最後に…死という別れを……持って私はこの世を去ると決めたのだ。
私を責める雨は強く当たり、雷鳴がその怒りを私に伝えた。
私はただ……その場に佇むことしか出来なかった。
今回は読んでいただきありがとうございます。
時々私も見返すと思いますが、誤字脱字ございましたら是非ともご指摘いただければとおもいます。
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