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~リーヴァの森を抜けて~

「今いるのはここら辺。で、目的地は恐らくコレ」

食後、ボロ地図に小石を置きながら現在地の確認。

 ろくに使っていないはずの地図の縁がすでにボロボロになってきていた。


 ギュメル大陸全体の6割を占める原生林。

 その間を通る古い古い道について描かれている地図だけど、数回使っただけなのにインクはかすれてるし、羊皮紙を謳っていたはずだけどかなり薄いお粗末仕様。

 焚火の光に照らされれば裏側からでも書かれている内容が見えてしまう劣悪品質。

 これでお値段50000PA(パシファル)

 5000〜8000あれば船で海外に行けるお値段だ。

 職人が作った地図は安くて100000PAくらいするらしいので、安いは安いけど・・・・・・。


 通ったであろう経路に引かれた赤線はラレスがちまちま書いたものだ。

 リュオ曰く星の位置で現在地が割り出せるという。

 とは言え樹木が生い茂る中、空の星を正確に読み取るなんて至難の業。

 僅かに見える星と日の当たり具合とか、もうよく分からないことを参照しているらしい。


「なんも問題なけりゃ、明日の午後には森を抜け、港町ゼラディに無事到着ってとこだな」

「何の問題もない、ということは何かあるってことかい?」

顎に手を当てて、考え込むように尋ねるラレス。


 迷子になったりって意味じゃないんだね。それ。


「あー、んー、そだなー。進路上に食人植物の群生地があるんだ。踏み抜いてハマったりするとアレだな」

地図の一か所を指でトントンと叩きながら目をあたしから逸らす。


 む、ドジだと思われてる?!

 一応指差した辺りに目を落とすと目的地"港湾都市ゼラディ"の目と鼻の先一帯だった。

「迂回できないのか? リスクは最小限にしたいんだけど」

ラレスは、ただ安全に通過したいだけだ。他意はない・・・・・・はず・・・・・・。

「あー、今から東側の街道に戻って道なりに北上すればなんとかなるぜ?」

つまりは近道せずに後戻りして、通常のルートを通るってことで。

「今から戻って道なりに進めば・・・・・・1週間? もっとかかるか?」

ラレスが地図を見て、空を仰ぎ見て、何かを思い出すように顎に手を当てると独り言をつぶやく。

 街道を進むっていう事は大陸の端をぐるっと回るという事だ。

 内陸部を突っ切る道は無い。

 無かったと思う。たぶん。

「ねえねえ、踏み抜かないと思うけど教えて。ハマるとどうなるの? 骨になったりする?」

バイパスとしての森の中を強行軍するか、街道沿いに進むか思案モードに入っているラレスを尻目に、あたしはリュオに尋ねる。

 ただの興味本位だけど。


 むかし旅人に聞いた話では、食人植物に捕まった冒険者が消化されて骨になったとかいう。

 この博識なチャラ男リュオなら知っていそうだと思っただけだった。

「奴らの中には半透明の液体が入ってんだ。で、ドボンすると粘質に変化する」

「ヤニみたいにベタベタするから暴れれば暴れるほど絡まっていって、やがて動けなくなる。あとはじっっっくりと時間を掛けて消化されるな」

低い声でゆっくりジワジワと語る。

 怖い話は本当だった。

 ジワジワ溶けていく様を想像し、背筋に寒気が走る。


 うわ、エグい!


「ま、暴れなきゃ良いんだけどな。半透明の液は薄い衣服とか髪の先とかなら溶かすけど人体とかでかいモノなんて簡単に溶けねぇよ」

ようは半透明の液に落ちて、もがくと成分が混ざり合って粘質に変化するらしい。

 でも液体ってことは結局、浮くために何かしないと沈んじゃうんじゃ・・・・・・。

 そこを落ち着いて救助を待て、ということらしい。


「落とし穴式のフタって派手な色をしていたように思うんだけど」

ラレスが小首を傾げて記憶を漁る。

 どうやら計算することをあきらめたらしい。地図はキレイに巻かれて紐で軽く縛ってあった。

 ラレスという青年は、割と几帳面なのだ。

 リュオは、結構アバウトで雑なところがあるので、実は案外いいコンビなのかもしれない。

「すげぇシマシマで派手な色のとかあるよな。視界に入ると平衡感覚がおかしくなって踏み抜くんだとよ」

目がチカチカする変な模様のやら根っこ部分がムキムキマッチョで歩き回るヤツもいるとか、積極的に動く生き物を追い掛けてくる食人植物もいるらしい。

 まさに秘境という感じがしないでもないけど、割とポピュラーな連中なのだ。


 もっと珍しいものになると身の丈数十mの巨木の精霊とかいうのだっているらしいってウワサだ。

 ちなみに総じて葉や消化液で満たされている通称“つぼ”は刃物も通らない強度だとかなんとか。

 植物なら燃えるんじゃないのって聞いてみたら生木と同じで燃えねぇよとリュオに一蹴された。

「じゃあ、万一中にハマったらドカンと内部から吹き飛ばせばいいんじゃ?」

「おお、イイ考えだな! ところで誰か爆薬持ってるか爆発魔法使えんならな」

爆薬なんて高級品持っている者なんていないし、あたしも爆発魔法は得意じゃないしなぁ。

 学校では習ったよ! ただ使いこなせるかどうかってのは本人の資質との相性が、ほらナントカカントカって・・・・・・。


「えぇ・・・・・・じゃあどうすんの? 手の打ちようが無くない?」

燃えない、切れない、粘質で動けなくなるってダメじゃん。

「中にも外にも目ん玉に当たる部分があるからブスリとやるんだよ。あるいは爆破しちまうかだな」

目潰しとか過激。


 ブスリとやるならできなくも無いけれど。

 現実的じゃないから、やっぱり爆破する方が・・・・・・。

 いやいや、爆発魔法は、こう、なんてというか術式が複雑っていうか存じ上げないっていうか、まあそのアレなワケで。

 とにもかくにも眠気が来るまで不思議な生き物講座は続いた。


 夜は2時間ごとに見張りを交代しながら何事もなく朝を迎えた。

 焚火があるし、なるべく安全そうな位置(リュオが場所選びをしている)で野営しているけど、寝ている間に正体不明の敵に襲われていた、なんてことになったら人生一回休みだ。


+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

 

 東の空と思しき方角から白い光が広がり、木立の合間から朝日が差し込む。

 季節は夏のはずだけど、森の中は少し肌寒い感じがして自然と目が覚めた。

「んーーーーっ! いい朝!」

背伸びして思いっきり深呼吸。

 木々の香りと土のにおい、朝の澄んだ空気が美味しい。

 装備の点検をするラレス、火の後始末はリュオがやっていた。


 一応、見習いといえど騎士。

 ラレスはマントを羽織り直し、一度も抜いたところを見たことが無いロングソードを腰から下げる。

 前髪を少し上げると鉢がねを巻く。

 鉄兜は持ってないらしい。

 視界が悪くなるからって理由だとか。

 布の服の上から白銀の軽装鎧を着込む。

 鉄製では無く、軽量金属らしいけど何がどう違うのかは分かんない。


 おとぎ話に出てくる騎士って言うと白銀の鎧にロングソード、風にたなびくマントを身に着けて、白馬に乗っているイメージだった。挿絵で見たのもそんな感じだった。

 馬がいないので、いつかどこかで乗ってみてほしいとか思ったり。


「よし、今日こそたどり着こう!」

小道具が入った布袋を担いだラレスが地図を取り出す。

「ほらよっ」

靴ひもを結びなおしたリュオがコンパスを投げる。

「ありがとう」

軽やかにキャッチし、朝日に輝く爽やかなラレスの笑顔。


 大変なイケメン。


 着替えを押し込んだ革袋を樫の木でできた杖の出っ張りに引っ掛けながら心の中でご尊顔を拝む。

 眼福眼福。

「準備完りょー」

「おう。ちゃっちゃと行こうぜ」

ラレス、リュオ、あたしの順で道なき道を歩き出す。

 

 とは言っても地図上では、かつての細道だったらしい。

 今は、膝丈くらいの草がボウボウに茂っていた。


+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+


 彼らとの出会いは、なんていうか運命だったと思う。

 あたしは、ミフェールという農村から月一回、首都スンガの学校に通っていた。

 どんぐりみたいな形をしたギュメル大陸の北東には標高2000~3000mの山脈が大陸北端まで連なる。

 その山脈の登山口のひとつがミフェール村だ。

 

 といっても登山を楽しむようなところじゃないけどね。

 夏場は涼しく、冬は極寒。岩肌剥き出しでトゲみたいな葉のついた植物がチラホラ生えているだけ。

 口伝えでは昔々の竜人たちの都市遺構があるとかなんとか。

 ただそれだけでミフェールは農耕、畜産、南北に突き抜ける街道沿いにあるから宿場くらいしか産業は無い。

 まさに田舎を体現したかのようなところ。


 村で生まれ、村で育ち、農民になるか家業があれば商人になる。

 それが当たり前だったけど、いつの頃からか華やかなところに行きたい子どもたちは都市部の学校に通い、冒険者になったり、商人になったりし始めた。

 最盛期は100人ほどいた村人も時と共に減っていき、今や70人を切っている。

 空き家は宿に改装されたり、納屋になったりしたけれど、これといって珍しいものもないので旅客も少ない。


 あたしは父さんが冒険家だったので冒険家になりたいなぁとか思っていた。


 ところがスンガにあるのは魔法学校。

 より生活を便利にしたり、必要に応じて武器にもなるのが魔法だ。

 実際、魔法と鍛冶を合わせた職人もいたりするし、魔法使いの冒険者だっている。

 選択肢が無いからってワケじゃないけれど、あたしは魔法学校に通うことにしたのだ。


 通学は乗合馬車で行っていた。

 まさか何日も・・・・・・いや何週間も街道を歩いていくなどという度胸は無い。

 ところにより賊も出るっていうしね。


 そんな南北に突き抜ける街道には、乗り合い馬車が常時行き来していて、北は貿易港ゼラディ、南は人口50人ほどの漁村イーノまで運行している。

 そこで乗り合わせたのがリュオだった。


「かわいいじゃん」から始まり、「何歳?」とか「どこ住み?」とか軽いノリでグイグイ接触してくる。

 気付けば横に座ってボディタッチなんて朝飯前。


「きれいなボディラインだよな」とか言いながらそっと肩を撫でてきたり、「髪の毛サラサラじゃん」とか言って髪の毛撫でたり。


 しどろもどろに相槌を打っていたけど心の中は暴風雨が吹き荒れ、パニックに陥っていたのは秘密だ。

 そもそも村の同年代や年上の男の子なんて、ただの顔見知りだからもはや男だとか女だのの区別なんてない。


 いつもは長く感じる旅路がとっても短く感じた。

 甘い言葉の連撃にそっとあちこち触れてくる遠慮のないボディタッチ、首都スンガについた頃には理性がショートしていた。


「今夜のメシおごるよ」とかなんとか言いながらグイグイ引っ張られ、大衆食堂に連れてかれる。

あれよあれよという間におすすめメニューとやらがテーブルに並び、ドリンクには酒が並んでいた。


 ここでハッと我に返る。

 これはナンパというヤツでは?!


 ナンパというヤツは、たらふく美味しいものを与えられて、トドメにお酒が出てくる。

 そのあと毒牙にかかりドナドナされるって噂に聞いた。

 毒牙というからなんか大変なことになるに違いない!


「ごめんなさい。未成年だから気持ちだけ貰っときますね」

愛想笑いを浮かべ、そっとお断り。

 ふむ、と一瞬考えこんだ彼が一言。

「あ、オレも未成年だわ。いいんじゃね?」と遠慮なし。

バレたら退学になるかもとか色々言い訳した結果、食事だけよばれて解放された。



 翌日、学校に行くといつも通りの日常の繰り返しだった。

 というような事があったから余計に軽い感じの男、というイメージが付いたのかもしれない。

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