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短編集

もよりの古書店。

作者: 桜橋あかね

「……今日も、開店。」


▪▪▪


夏川もよりは、商店街の外れにある小さな古書店の店主。

建物の奥はカフェになっており、持ち寄りの本を読みながら珈琲を飲める。


「もよりちゃーん、今日の珈琲豆よっ。」

開店直後、同級生の赤橋栞がやって来た。

彼女は食品卸しの仕事をしていて、珈琲豆を毎日仕入れている。


豆の買い置きは基本的にしない。

使う分だけ買うが、豆の選別は栞に任せている。


▪▪▪


「相変わらず、本は減らないわね。寧ろ増えている気がするよ。」


会計を済ませたあと、栞はそう呟いた。


「まあ、他の人から貰ってるし……売っている本より、読んで貰う本が多いかも。」


売る用の本は独自路線で仕入れている。

その他、店内読書用の本は別途に置いてある。


「まあ、それがもよりっぽいね。」


▪▪▪


『栞ちゃん、行ったか。』

部屋の奥から声が聞こえた。


「うん、行ったよー。」

そう言うと、奥から背の小さい人が現れた。


『……たく、あの子は本の良さは分からないかい。』


声の主は、[本の妖精]。

もよりしか見えない妖精だが、何故か栞が来る時は奥に引っ込んでいる。


「栞の本嫌いは前からよ。読むのは苦手だって。その代わり、漫画集めに励んでいるわよ。」


▪▪▪


[本の妖精]は、もよりが今の古書店を切り盛りするようになってから、目に現れるようになった。

[妖精]曰く、「何十年も居る童っぽい」と言っている。


元々の店主は、叔父が切り盛りしていた。

数年前に亡くなって、後任の店主の件はもよりに話が来たのだ。


理由は、「大の本好き」が高じたらしい。

……まあ、叔父の影響があったけどね。


『……来る人、かなり減っているねえ。』

ふと、[妖精]が言った。


店を請け負ってから、早10年は過ぎた。

ここ数年、本を買いに来る人は減った。


「うん。……最近は、電子書籍とか増えているし、仕方がないと思うけど。」


『本ってモンは、紙を触ってめくって読むのが本来だろうに。』

確かに言えているかも。やっぱり、手に持って読んでもらいたいな。


▪▪▪


「あ、あの。」

夕方、一人の女子学生がやって来た。


「いらっしゃい。」

確か、前に何冊か本を買っていった記憶がある。

……何か、言いたそうにしているな。


「……あの、あの。今度、学校新聞を作る事になって。お姉さんの古書店について、記事にしたいのです。」


「えっ?」

こんな事、初めて言われたなぁ。


『受けても良いんじゃない。知るキッカケになると思うよ。』

後ろから、[妖精]の声がする。

確かに、ね。その通り……かも。


「いいよ。貴女の都合のいい日に、またいらっしゃい。」


彼女は笑顔を見せて、「ありがとうございます」と言った。


▪▪▪


週末。またあの女子学生がやって来た。


「じゃあ、何から話そうか。」

奥のカフェで、質問を受けた。


本を好きになったキッカケ、古書店をやろうと思った理由、おすすめの本……

もよりの話を、彼女はノートに書いていく。


「ふふ、真剣ね。」

ふと、もよりが言うと彼女は頬を赤らめた。


「ううん、からかうつもりは無いわ。ねえ、私をクローズアップしたのは何でかな。」


気になっていた事を聞いてみた。他にもっといいネタがあると思ったから。


「お姉さんが、『好きを仕事にする』って感じがして、イキイキしていたから。」


へえ、私……そう思われていたのか。

ちょっと嬉しいかも。


その子は、新聞が完成したらコピーを持ってくると言ってくれた。

もよりは「楽しみにしている」、そう伝えた。


『想いが伝わった瞬間、だわね。』

去ったあと、[妖精]はそう言った。


「ある意味、妖精さんのお陰かもね~」


そう言うと、[妖精]は照れた顔をした。


もよりの古書店は、今日も平和です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本の妖精さん、いいですね。そういった存在が住んでいる本屋さんって、素敵だと思います。
[一言]  読ませていただきました。 古書店にカフェつき、お洒落ですね。 まったり、くつろいで買った本をカフェで読めそうです。 本の精、本当にいるかもしれませんね。 自分の背中を後押ししてくれる、そ…
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