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第8ステージ表彰式前

 冬希の、勝利後の第一の感想は「ホッとした」だった。

 ゴールライン通過後、土方はガッツポーズしようとした手でハンドルを叩き、激しく悔しがった。柴田は、信じられないという表情で冬希を見ていた。草野は諦め切った表情で大きく息を吐いた。松平は、ぽんぽんと冬希の背中を叩き、待機エリアの方へ進んでいった。

 6位に入った立花は、無言で待機エリアへ消え、坂東に至っては、ゴール後から姿が見えなかった。


 船津がゴールラインを通過した。集団でゴールしたため、タイム差はゼロだ。

「ご苦労様」

 船津が冬希を労う。最初から勝利を疑っていなかったかのような態度で、冬希は困惑してしまう。

 冬希にとっては、そんなに簡単な勝利ではなかった。

「なんか、嫌なフラグ立ちまくってたんですけど・・・」

「フラグ?」

「注意深く、慎重に走ったら、意外となんとかなるもんですね」

 ふぅ、と一息つく。

 冬希は、遅れてきた報道部活連の記者達に囲まれ、インタビューを受け始めた。


「よく頑張った。お前より先にゴールしたのは、4大スプリンター達と4勝目の青山君だ。これはもう仕方ないだろう」

 近田は、慰めるように立花に言った。近田は、立花が冬希に劣っているとは思っていない。しかし、チームで走るようになってまだ日が浅いため、連携がうまく行っていないように見えた。チームメイトからアシストはして貰えているが、古賀や黒田はまだ立花の最適なペースで牽引できていないし、立花は立花で、アシストをうまく使いこなせず、勝負処で無駄な脚を使ってしまっていた。

 立花は、同じ年代の冬希に負けたことより、チームメイトにアシストをして貰ったにも関わらず、勝てなかったことで、チームに申し訳ない気持ちで一杯だった。そしてその気持ちは、近田にもよくわかった。

「今後はこう言うことが多くなる。だから慣れるんだ。優勝できる人間は、1つのレースで1人だけなのだからな。大体アシストしてもらって勝てないことでいちいち落ち込んでいたら、俺はどうなるんだ」

「はい・・・でもどうやって青山に勝てばいいのかわからないです。今の俺とあいつとの差は、あまりにも大きいような気がします」

「簡単に勝てる相手ではないのは間違いない。だからこそ、自転車競技は楽しいんだ。チームとして、これから考えていこう」

 立花にはまだ3年間の時間がある。これからチームと一緒に育っていってくれればいい。自分が引退しても、チームは立花中心でやっていける。近田は安心した。


「4勝も出来ているのは、全てチームのおかげなんです」

 冬希は、繰り返し主張した。謙遜だと言う声、冬希がとんでもない実力を持ったスプリンターであると言う声を、冬希は真っ向から否定した。

「チームワークの勝利と言う事でしょうか」

 報道部活連の女子インタビュアーが聞いてくる。確か、人気No.1の子だ。確かに可愛い。

「それもあります。自分は先輩方と、多くの距離を走りました。先輩方は、自分がどのぐらいのペースであれば、脚を使わずに走れるかを知ってくれています。それは一緒に走った時間が長かったからです」

「なるほど、千葉は、総合リーダーとして集団のペースをコントロールしていました。つまりそれが青山選手の走りやすいペースだったと言う事ですか?」

「はい、ご存じの通り、平坦ステージとはいえ、屋久島はアップダウンが非常に多いコースでした。自分に合わせたペースで集団が走っていたので、自分は大丈夫でしたが、他のスプリンター達にとっては、疲労が蓄積されていったと思います」

「そして、残り3kmで郷田選手が集団を牽引しました」

「はい、他のスプリンター達に、休む時間を与えなかったと言う点で、必要なペースアップでした」

「そして、ゴール前で見事に差し切りました」

「それまでの布石があったので、僅差ですが、勝つことができました。全てがうまく働きました。そうでなくては、勝てなかったと思います」

 この子は、よく話を聞いてくれる、と冬希は感心していた。ちょっと距離が近いのが気になったが。


「青山選手、表彰式お願いします」

 運営の係の人から呼ばれ、インタビューは終了となった。冬希は、第1ステージからずっと出ている、8度目の表彰式へ向かった。

 

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― 新着の感想 ―
進学校ならではの頭脳プレイとレースメイク 何よりもチームワークの勝利でしたね
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