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全国高校自転車競技会 第7ステージ(屋久島灯台〜淀川登山口)③

 尾崎のアタックにより、一気にレースが動き始めた。

 尾崎は、近田たちのメイン集団を引き離すと同時に、前方にいる逃げ集団の秋葉、四王天の2人との差を一気に縮めていった。

「尾崎かっ!!」

 四王天は驚愕の声を上げた。

 先ほどモトバイクの示したタイム差は1分はあったはずだった。

 このわずかな時間の間に、一気に差を詰められたことになる。

「くそっ!早すぎるだろ!」

 四王天は、抵抗する間も無く尾崎に抜かれる。

 秋葉は、50mほど抵抗したが、やはり力尽きて尾崎にかわされた。

 

 しばらくして、秋葉、四王天はメイン集団に吸収された。

 そして、しばらく集団に留まったのちに、メイン集団からも遅れていった。

 

 植原は、前を走る近田と船津を観察していた。

 近田には焦りが見えるが、船津は冷静に仕掛けどころを探しているような、そんな余裕さえ感じられた。

 植原は、自分が動くべきかとも思ったが、船津の様子を見て、船津が仕掛けるまで待つことを決めた。


 雨の中、尾崎は先頭を走る。

 山頂ゴールは、第9ステージにもあるが、尾崎はこの第7ステージで船津を逆転しない限り、勝ち目はないと思っていた。

「調子が落ち始めている」

 尾崎は、チームメイトの丹羽に言った。スタートしてしばらく、アタック合戦を見守っている時だった。

 好調の時に比べ、ペダルが重い。呼吸も、楽ではない。

 一度下り坂になってしまった調子は、ステージが進む毎に、落ちて来る。

 尾崎は、早期決戦を仕掛けるしかなかった。

 幸い、まだ戦える程度の好調さは残っている。濡れ路面で、落ち葉の上や、苔が生えて緑色になっている箇所を避けながら、単独で走り続ける。

 尾崎は、今回の全国高校自転車競技会で、自分と戦えるレベルの敵はいないと思っていた。

 昨年、露崎が第1ステージから第4ステージまで勝った後、国内に敵はいないと、大会を棄てて海外に渡っていったことは、尾崎の自尊心を大きく傷つけた。

 露崎がいなくなったから勝てた、と世間から言われている気がしていた。

 そのため、尾崎は露崎を越える、史上まだ誰も達成したことのない偉業、第1ステージから第10ステージまで、全制覇を目標に、第1ステージから最高の状態で戦えるように、調子を上げてきた。

 だが、第1ステージを、もう一歩のところで1年生スプリンターである冬希に敗れ、早くも夢は潰えた。

 総合争いでも、近田、船津、植原らは手強く、尾崎は思うように勝てない自分に苛立っていた。

 第6ステージで、ようやくステージ優勝を獲った時には、安心からか涙が止まらなかった。

 そして、今は総合首位を奪うべく、早めのアタックから後続に差をつけにかかっていた。


 登り初めて13km、ゴールまで残り10kmの地点、メイン集団に2分差つけたところで、それは起こった。

 尾崎は、後輪から「シュー」という音を聞いた。

「くっ、パンクか!!」

 なぜこんな時に、と尾崎は心の中で叫んだ。

 雨が降れば、小石などが濡れたタイヤに付きやすく、それが原因でパンクしやすい。

 ホイールを差し出してくれるアシストはいない。

 大会運営の用意した、選手たちのサポートをする、通称ニュートラルカーを待つしかない。

 しかし、モトバイクは交換用のホイールを持っておらず、メイン集団と一緒に登ってくるニュートラルカーを待つしかない。

 パンクしたホイールのまま、しばらく走ろうかと思ったが、横滑りしてとても走れたものではなかったので、諦めて、自転車を降りて待つことにした。

 

 近田に代わり、先頭でペースを作っていた、総合リーダーのイエロージャージを着用した船津は、パンクしたホイールを持ち上げて路肩に立つ尾崎を見て、心から同情した。

 それと同時に、後ろに向かって手を上下させ、ペースを落とせと合図した。

 自転車ロードレースには、「紳士協定」があり、有力選手がトラブルで遅れた時に、アタックしてアドバンテージを得てはならないという不文律がある。

 近田、植原らも、そのことは承知しており、船津の合図に合わせてペースを落とした。


 集団の後方にいたニュートラルカーは、尾崎に気づくと、すぐに車を止めてホイールを取り出し、尾崎の自転車の後輪につけた。

「後輪だけか?落車してないか?よし行け!」

 あっという間に作業を終えると、尾崎の背中を押してリスタートさせた。

「なんだ・・・?」

 尾崎は、交換されたホイールに違和感を感じた。だが、考えている暇はない。

 尾崎は平坦区間を利用して、メイン集団に追い付いた。

 それを確認した船津は、集団に合図し、再びレースは再開された。

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