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好きな女の子と同じ高校に行くために自転車競技を始めたら光速スプリンターと呼ばれるようになっていました  作者: 中原圭一郎
全国高校自転車競技会編

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全国高校自転車競技会 第7ステージ(屋久島灯台〜淀川登山口)①

 第7ステージの朝、朝食後のミーティングで冬希は、船津の纏う雰囲気に、いつもと違うものを感じていた。強力な気迫のようなものと、どこか近付き難い空気を感じていた。

「今日は、ゴール付近は雨になるので、タイヤの空気圧を低めにしておくように。以上、各自準備に取り掛かってくれ」

 各々が準備に取り掛かる。

 そんな中、冬希は、話しかけにくいと思いつつも、アシストとして必要なことと思い、船津に聞いてみることにした。

「船津さん、昨日何かありました?」

「ああ、青山。以前話した幼馴染から、メッセージが届いた」

「そうなんですか」

 良いメッセージなのかどうかはまだ分からないため、冬希は言葉を選びながら言った。

「応援している、と。見ていてくれているようだ」

 船津は、自転車で努力し、活躍すれば、遠くへ行ってしまった幼馴染の目に留まるだろうと言っていた。目標としていたことが叶ったと言っていいだろう。

「それでですか。なんか今日、船津さん気迫が漂ってますよ」

「そう見えるか。お前がそういうのだったら、そうなのだろうな」

 船津は、不敵な笑みを浮かべている。船津自身、気力が漲っているのは感じている。だが、すでにステージ3勝を挙げている冬希がそう感じるのであれば、実際にそうなのだろう、と思った。

「青山。今日ほど勝ちたいと思ったことは無い」

 冬希には、この普段と違う船津の気迫が、良い方向に出るのか、悪い方向に出るのか、まだ分からないという、漠然とした不安を感じていた。


 ウォーミングアップも兼ねて、スタート地点である屋久島灯台まで、自走で向かう。これはコースの下見にもなる。

 風は南東から吹いており、予報通り、ゴール前残り20kmぐらいは雨になりそうだ。

 スタート時は、背中のポケットにレインウェアを入れてスタートとなった。

 屋久島灯台の駐車場からパレードランが開始され、通りに出て、しばらく経ったところでアクチュアルスタートが切られた。

 スタート直後のアタック合戦は、苛烈を極めた。

 残りステージも少なく。平坦ステージでは逃げ切りは難しいため、見せ場を作りたいチームが積極的に、逃げ集団に入り込もうと、アタックを続ける。

 静岡と、冬希たち千葉、そして福岡、東京の4チームで、総合タイム上位の選手がいたり、逃げの人数があまりに多くなりそうな場合は、逃げようとしている選手たちを捕まえ、集団に吸収していった。

 特に、福岡の積極性は激しく、総合タイムが10分以内の選手は、積極的に動いて、捕まえに行った。

 その分、福岡のアシストの消耗が激しく、他校は楽ができるのだが、福岡としては、総合3位の表彰台を狙うという意図があり、それを脅かす存在を、できるだけ逃げに入れたくはなかったのだった。

 結局、逃げ合戦は10kmほど続き、「山岳逃げ職人」山形のエース秋葉、「逃げ屋」京都の四王天、そして冬希からスプリント賞ジャージの奪取を狙う、全日本選手権王者、佐賀の坂東を含む10人の逃げ集団が形成された。

 

 総合上位勢は、メイン集団の前方に出て、これ以上アタックが発生しないように、集団に蓋をするように広がった。

 逃げ集団は、積極的に先頭交代をしつつ、メイン集団から離れていった、

 秋葉、四王天、坂東の共通の特徴として、レース開始直後の激しいアタック合戦の中、一瞬ペースが緩む瞬間を見逃さないという点がある。

 総合上位も、逃げたい選手たちも、無尽蔵にスタミナがあるわけではなく、ハイペースが続くと、どこかで一息入れる必要がある。その一瞬の緊張の緩むタイミングで、アタックをかけ、逃げを成功させてしまうのだ。

 そのタイミングは、地形とペース、アタックが失敗になった回数や、そもそもレースに参加している選手たちの質など、ステージごとに変わってくるが、3人には、それがあとどのぐらいの時間で起こりそうかというのが、大体わかるようになって来ていた。


 逃げ集団とメイン集団のタイム差が7分まで広がり、痺れを切らした福岡が、集団をコントロールしていた千葉にかわり、メイン集団の先頭に出て、逃げ集団の追走を始めた。

 福岡のエース近田は、総合リーダーの船津とのタイム差が大きい分、総合優勝のためには、レースを激しくする必要があった。

 落ち着いたレースになってしまえば、それは船津の思う壺で、仲良く集団で一緒にゴールすることにでもなったら、近田は船津との総合タイム差を広げることができなくなってしまう。

 近田は、船津の纏う気迫が尋常では無いことを感じていたが、それに反して、千葉が落ち着いたレースコントロールをしていることに、焦りを感じていた。

 主導権を奪った福岡は、古賀、黒田、立花の強力な3人のアシストのローテーションで、逃げ集団を追った。


 一方、逃げ集団の方では、2つのスプリントポイントを1位通過して、今日の目標を達成した坂東が、逃げの先頭交代のローテーションに加わらなくなり、それを見た他の選手たちも、可能な限り自分の余力を残しておこうと、本気で先頭を牽引しなくなったため、一気にメイン集団に差をつめられてしまった。

 四王天と秋葉は、

「本当にこいつ邪魔だな」

 と坂東を忌々しげに見た。自分の目的を果たすと、途端に仕事をしなくなる、ある意味、極めて合理的な動きをする男だ。だが、だからこそ全日本チャンピオンになれたのだろう。

 このままでは、すぐにメイン集団に追い付かれてしまう。

「2分だな」

 秋葉が言い、四王天はその意図を理解し、即座に同意した。

 平坦区間は集団の状態で逃げ、メイン集団に2分差をつけた状態で、登りに入りたい、という意味だ。

 2人で逃げ集団に入った時は、毎回2人でこの時間を確認していた。

 山岳に入った瞬間、残りの逃げ集団を引き離して、2人で仕掛けるつもりだった。

 

 四王天が、空を指さす。

 雨がぽつりぽつりと落ちてきた。

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