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勝負は、楽しまなくては意味がない

 表彰式を終えると、冬希達は急いで自分のチームの待機エリアへ戻る。

 待機エリアには、自転車と、それをメンテナンスする道具類が置かれており、急いで自転車の整備に取り掛かる。

 後輩たちや、整備担当の部員がメンテナンスをすると思われがちだが、全国高校自転車競技会では、整備も自転車競技の一環として、選手が自分で整備するという不文律が存在する。

 整備不良で成績不振や事故が起こった場合、他人の所為に出来る状況というのは、選手の心の育成に支障をきたすというのが理由だ。

 もともと、神崎高校では、「自分のことは自分でやる」が基本なため、余程の事情が無い限りは、整備関係も自分たちで行っている。

 整備用スタンドに乗せて、前後のホイールを外し、ホイールやブレーキシューを清掃していく。

 自転車全体に、泡状のスプレーを噴射し、丁寧の拭き上げていく。

 パーツクリーナーをチェーン、スプロケット、チェーンリングにかけ、汚れを拭き、油を差す。

 ゴール地点から、大会運営側が専用のトレーラーで機材を次のレース地点まで運んでくれるのだが、締め切り時間が決まっており、あまり時間が無い。

 なんとか、自転車の整備を終え、大会運営の輸送担当者に自転車を預け、人心地つく。

「いやー、なんとか終わりましたね」

「終わりましたねじゃねーよ。敵に塩を送ってどうするんだ。福岡が強くなっちまったじゃねーか」

 柊が、ぷーっと頬を膨らませて怒っている。立花が、福岡チームにはっきりと合流したことを言っているのだ。

 事情は、冬希から神崎高校のチーム全員に話してある。

「相手がごちゃごちゃしていると、なんか気持ち悪いじゃないですか。それに1年生のアシスト1人、柊先輩の敵ではないでしょうし」

「ま、まぁ、そうだな。当たり前のこと言うなよ」

 満更ではない顔で柊の機嫌が治る。単純で助かる、と冬希は思った。

「近田は確かに強敵だけど、3位争いが激化した方が、うちも戦いやすい」

 メンテナンス道具の片付けを終えた船津が、冬希たちの元へ戻って来て言った。

 現在は、総合順位1位だけがゴール後に表彰されているが、最終ステージ後の表彰式では、3位までが表彰台に上がることができる。

 山岳ステージも残り2つしかないため、目標を総合優勝から表彰台圏内へシフトするチームも出てくる。

 そうなった場合、表彰台狙いのチームから標的にされやすいのは、福岡の近田と東京の植原になる。

 現在は、船津と静岡の尾崎の一騎討ちになりつつあるが、チーム力でもエースの実力でも、今のところは尾崎の方が存在感を示しており、真っ向勝負では苦しい戦いが予想される。

 だが、3位争いが激化し、トップ集団が活性化すれば、神崎高校にも、船津にも、いろいろな戦術が生まれる可能性が出てくる。

 静岡の選手たちは、実力者揃いだが、今年レギュラーになった選手も多く、メイン集団をコントロールした経験で言えば、第2ステージから第4ステージまでずっと冬希が総合リーダーだった為に、神崎高校の選手たちが1番経験豊富であるし、想定外の事態になった時の、個々の判断力とそれに対する連携については、静岡より上だと船津は思っていた。

 個性的な連中ではあるが、県内屈指の進学校の生徒なので、頭を使う勝負ではそうそう負ける事はない。

 ここからは、いかに得意な土俵に持って行くかだ。

「本当に楽しくなるのは、ここからだ」

 船津は、心から楽しそうな表情を見せた。

 心のどこかでは、福岡のチーム内のギクシャクした関係に対して、冬希だけではなく、船津も、そして他のメンバーもきっと、もやもやしたものを感じていたのかもしれない。

「これで勝てれば、きっと楽しいと思いますよ」

 不敵に笑う冬希に、船津は心から同意した。

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