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氷解

 立花は、近田を座らせて、スポーツドリンクの入ったボトルを渡した。

 近田は少しずつそれを飲む。

「立花、助かった。ありがとう」

「いえ、青山に言われたんです。近田さんがボトルを落としたから、届けてやれって。静岡のアタックで、運営車からもらう余裕はないだろうからって」

「青山君か。また、助けられたな。彼自身は、貸しだなんて思っていないのだろうけど」

 近田は正義感が強く、困っている人を放っておけないタイプだが、その近田をもってしても、冬希の

親切心というか、全方位への配慮のようなものは、尊敬の念を禁じ得ないものがあった。

 先頭から遅れた選手たちが続々とゴールしてくる。

「近田、大丈夫か!」

 舞川も遅れてゴールして来た。

 舞川は、大会運営のモトバイクから、近田が止まって自転車を降りたという情報を聞いていた。

「ああ、ドリンクボトルを落としてしまって、ピンチだったんだが、立花がボトルを持ってきてくれた。そのあと、ゴールまで俺を引っ張ってくれたんだ。おかげで大きく遅れずに済んだ」

「立花・・・ありがとう。俺からも礼を言う」

「いえ、そんな・・・俺の方こそ、迷惑ばかりかけてしまってて・・・」

 舞川も、立花も黙り込んでしまう。お互いがお互いに対して、複雑な気持ちを抱いていたのだ。

 ふと立花の目が、チームメイトに曳かれてゴールに入ってくる冬希の姿をとらえた。

 近田もそれに気づく。

 冬希はアイウェアを外し、立花たちに、わざとらしいうえに、かなり下手なウインクを何度もしてきた。

 あまりにコミカルな顔に、近田も立花も舞川も、吹き出してしまった。

 立花は、意を決して、胸に秘めていた思いを口にした。

「近田さん。俺も、福岡のチームの一員として走らせてください」

「立花・・・」

 舞川は、驚いたように立花を見た。

 近田は力強くうなずいた。

「お前のような強力な選手が力になってくれるなら、こんなに心強いことは無い。よろしく頼む」

「はい!」

「その前に、やっておかなければならないことがあるな。立花、一緒に来てくれ」

 その後、大会運営は、福岡の近田選手の自己申告により、補給禁止区間での補給を受けたとして、総合タイムに1分のペナルティを課すことを発表した。


 第3ステージと同じ場所に立てられたステージの横に、総合1位の船津、スプリントポイント1位の冬希、新人賞の植原が揃っていた。

「あーあ、黙っていればバレなかったのに」

 近田にペナルティが課されるという決定を、4人はすでに聞いていた。

 冬希は、口では残念そうに言ったものの、少し嬉しそうな顔をしているように、船津や植原には見えた。

「それが、近田という男なんだろう。勝つことを求めるあまり、曲がったことを許容できなかったんだ」

 そういう人間とギリギリのところで勝負していることが、船津も冬希も植原も、本当に楽しかった。


 遅れて、ステージ優勝かつ、新たに山岳ポイント1位の尾崎が現れ、表彰式が始まった。


■第6ステージ結果

1:尾崎 貴司(静岡)1番 0.00

2:植原 博昭(東京)131番 +0.56

3:船津 幸村(千葉)125番 +0.56

4:立花 道之(福岡)405番 +1.07

5:近田 徹(福岡) 401番 +1.07


■総合成績

1:船津 幸村(千葉)125番 +0.00

2:尾崎 貴司(静岡)1番 +0.52

3:植原 博昭(東京)131番 +2.02

4:近田 徹(福岡) 401番 +2.59


■スプリント賞

1:青山 冬希(千葉)121番 193pt

2:坂東 輝幸(佐賀)441番 146pt

3:柴田 健次郎(山梨)191番 71pt


■山岳賞

1:尾崎 貴司(静岡)1番 63pt

2:船津 幸村(千葉)125番 44pt

3:丹羽 智将(静岡)2番 44pt

4:近田 徹(福岡) 401番 38pt

5:秋葉 速人(山形) 61番 37pt

6:植原 博昭(東京)131番 31pt

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