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全国高校自転車競技会 第6ステージ(菊池~阿蘇大観峰)①


 第6ステージは、予定通り菊地をスタートした。

 今年は天候にも恵まれ、まだ雨の中を走るということもなく、今日もかなり天気が良かった。

 ただ、この日は平年を上回る暑さが見込まれており、阿蘇のカルデラの中は、かなり気温が上がるのではないかという予測になっていた。

 

 アクチュアルスタートから、あっという間に逃げが決まり、集団をコントロールする役割を担う、総合リーダーチームの千葉神崎高校と、総合上位勢はすぐに集団に蓋をした。

 昨日、総合リーダーチームだった静岡が、いともあっさり逃げ合戦を終わらせられた理由について、冬希は考えていた。

 静岡は、どんなメンツが逃げても追いつける自信があったから、逃げの選手を選り好みしなかったのだ。

 冬希達の神崎高校は、総合タイム上位については特に頭に入れ、逃げそうになれば捕まえに行くという事をやっていたが、この日は、選手を見ずにアタックが落ち着いたタイミングで蓋をした。

 ただ、逃げ集団は20名にもなってしまった。

 逃げ屋と呼ばれる京都の四王天、山岳逃げ職人と呼ばれる山形の秋葉、そしてスプリントポイントが欲しい全日本チャンピオンの佐賀の坂東も加わっている。

 総合で5分以内の選手も、大分の藤松、岡山の森野の2名がいる。

 ただ、神崎高校の頭脳と呼ばれる平良潤も、船津も、逃げの質や人数については何も心配していなかった。静岡が早めに動かなければならない理由が、一つ増えるだけなのだから。


 スプリントポイントは、例によって坂東が1位通過で20ポイントを獲得。冬希は0ポイントなので、一気に坂東にポイント差を詰められることになる。

 ただ、冬希はもうスプリントポイントリーダーについて、気にはしていなかった。

 第1ステージからずっと表彰式用とレース用のジャージを新しくもらい続けて、もう鞄の中がパンパンになってきた。

 一度、学校に送ったが、スプリント賞のグリーンジャージについては、毎日順調に2着ずつ増え続けている。


 先頭集団はがんばって逃げており、時折、人数を減らしつつもメイン集団と5分程度のタイム差を保っていた。

 メイン集団は、今日のステージを狙う総合上位勢がアシストを一人ずつ供出し、先頭交代に加わりながら、逃げ集団とのタイム差を維持していた。

 そして、阿蘇山頂への登りが近づいてくると、集団の中を散らばって走っていた静岡チームが集団の前の方に集まり始めてきた。

 それを見て、新人賞ジャージを着用し、現在総合4位の植原を擁する東京と、現在総合同点3位の近田率いる福岡も集結してきた。

 最初から登りで静岡が勝負をかけてくると読んでいた冬希達は、既に全メンバーが集まっているので、特に動かない。泰然自若としている。

 尾崎は、神崎高校のトレインを見る。

 第2ステージから第4ステージまで、冬希が総合リーダージャージを着ていたため、その間はメイン集団のコントロールを担ってきた。

 今大会では、断トツで一番多くメイン集団をコントロールしてきたチームだ。

 実力で静岡が千葉に劣るとは、尾崎は微塵も考えなかったが、集団をコントロールする経験については、もはや静岡は千葉のメンバーには敵わないとも思っていた。

 揺さぶりをかけても簡単には乗ってこない、手強い。

「進学校という話だが、やはりかなり頭が切れるのだろうな。丹羽」

「そうかもしれん。だが、今更計画の変更は出来んぞ。尾崎。やるしかない」

 昨年総合優勝の尾崎に、昨年国体王者の丹羽。二人には悲壮感はない。むしろチャレンジすることへの充実感すら感じていた。


 メイン集団の先頭が、静岡のトレインに代わる。そして、それをマークするように福岡のトレインが真後ろに付ける。

 遅れまいと、東京のトレインが続き、千葉はその後ろにいた。

 これらのチームの後ろに位置したのは、この静岡、福岡、東京の3チームが、どのように動くかを後ろから見極めるためだった。


 静岡のトレインがペースを上げ、福岡がそれに食らいつく。

 これらの動きは、決して逃げ集団を捕まえる目的ではなかったが、静岡と福岡が争うことでペースが上がり、逃げ集団とのタイム差は瞬く間に2分を切った。

 静岡のトレインは強烈で、淀みの無いペースが続く。

 ふと、東京のトレインの中で中切れが発生した。

 夏井が静岡と福岡のトレインに付いて行けず、みるみるメイン集団内で、静岡5名、福岡4名のトレインと、その後ろのメイン集団との間で距離が出来始めていた。

 慌てた東京の植原たちは、必死に前に追い付こうとしていたが、後ろを見ると冬希達が慌てるでもなく、マイペースで登っているのを見て、前を追うのを止めた。

 

 植原は、メイン集団に戻ると、慌てた様子で、千葉の冬希に話しかけた。

「追わなくていいのか!?あの2チームが協力して逃げ始めたら、かなりのタイム差をつけられるぞ」

 しかし、植原にとって冬希の回答は、驚くべきものだった。

「追う必要はないよ。あの2チームが協調することは無いから」

「なぜ、そう言い切れるんだい?」

「昨日、近田さんは尾崎さんにゴール前で勝っちゃったからなぁ」

「は・・・そうか!」

「二人一緒にゴール前まで行ってしまうと、尾崎さんはまた近田さんに勝たれてしまうから。ゴール前までは連れていけないんだ」

「確かに、スプリント力は、尾崎さんより近田さんの方があるからね」

 冬希は、徐々に離れていく静岡、福岡のトレインを見ている。

 ふと、冬希が地面を指さした。

 植原は、そっちを見る。ドリンクボトルが落ちていた。

 最小限の動作でボトルを避け、後ろの集団に注意するように声をかける。

「静岡は、全力で福岡を潰しにかかるぞ」

 植原には、冬希は少し心配そうにしているように見えた。

 そして、落ちていたドリンクボトルが、このレースの展開を大きく左右するかもしれないとも、冬希は思っていた。



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