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第5ステージの作戦会議

 ホテルの窓から覗く外はもう暗く、窓からは街の光がぽつり、ぽつりと見えているが、地元の福岡市内などと比べると、ほぼ真っ暗と言ってよかった。

 阿蘇市内のホテルで、福岡代表の福岡産業高校のエース、近田徹と舞川祐樹は、翌日の第5ステージの展開について、話し合っていた。

 二人の話題は、もっぱら静岡の尾崎と丹羽の関係である。

 静岡には、尾崎という絶対的なエースが存在するが、現在は丹羽の方が総合リーダーとなっており、そのタイム差も2分近くついている。

 エースとアシストの関係にねじれが生じており、それは隙を生むと近田も舞川も考えていた。

 二人が知る限り、静岡は優秀なアシスト陣に恵まれ、鉄壁のチームワークを誇っており、去年も数々の総合系チームが揺さぶりをかけたが、結局隙らしい隙を見せることも無く、尾崎の総合リーダーのポジションを脅かすことは出来なかった。

 今年、ここまで荒れた展開になっているのは、千葉の青山と船津の二人の働きによるものだ。

 光速スプリンターと呼ばれる青山は、初戦から最強世代と呼ばれるスプリンター達を倒し、3連勝を勝ち取った。

 その結果、平坦ステージだけで尾崎に対して無視しえぬタイム差を作り出し、静岡からマークされることになった。

 そして彼が静岡のマークを引きつけている隙に、ノーマークの船津がアタックし、尾崎に対してタイム差をつけた。丹羽が総合リーダージャージを着ているのは、その船津のマークをしていた結果にすぎない。

「丹羽は、尾崎を置き去りにして自分が総合優勝を狙いに行くと思うか?」

 自分だったら恐らく狙いに行くと、近田は思う。全国高校自転車競技会の総合優勝というのは、それだけの価値があるものだ。

 しかし、舞川の回答は否だった。

「余程、尾崎の調子が悪ければ話は変わってくるが、基本的にそれは無いだろう」

 丹羽は安定した実力を持っているが、それだけで残り6ステージの間、近田や植原を一人で抑えきれるものではない。

「丹羽が総合リーダーなのは、形だけで、最終的には静岡は尾崎で勝負してくると思う」

 しかし、近田の視点は少し違っていた。

「静岡的にはそうかもしれないが、丹羽が独断で総合リーダーを狙いに行った場合だ」

「ふむ・・・」

 舞川は考える。もし尾崎より丹羽の総合優勝の確率が高くなった場合、静岡としては丹羽をエースにする可能性はある。丹羽がそういう状況に故意にもっていくとしたら・・・。

「試してみるか」

 舞川は地図を開き、一点を指さした。

「阿蘇山頂にあるゴールまで、残り10km付近から、勾配がきつくなる区間がある」

 赤いペンを入れていく。

「このあたりで、一気にペースを上げた時に、丹羽がどう動くか見極めてみよう」

「それでわかるのか?」

「丹羽と尾崎は、登り方のタイプが全く違う。まあ、見ておけ」

 舞川は、何か確信があるように、ニヤリと近田に笑って見せた。


 翌朝、冬希は運営の担当者から届けられた、グリーンジャージを身にまとっていた。

 前日まで、総合リーダーのイエロージャージを着ていたので、違和感は拭えない。

 スプリントポイント首位の冬希は、2位の坂東とは97ポイントも差が開いているため、制限時間内にゴールさえしていれば、少なくとも次の平坦ステージである第8ステージまでは抜かれる心配はない。

 当分はこのグリーンジャージと付き合っていくことになる。

 カーテンを開くと、雄大な阿蘇の山々が見えている。

 前日、大観峰でゴールをした後に、その景色の迫力に冬希は圧倒された。

 これほどの景色を、冬希は見たことが無かった。

 今日は、阿蘇山頂のゴールで、火口付近がゴールになっているという。

 火山ガスの濃度が高ければ、ゴール地点が少しだけ変更になるかもしれないという。

 火口を是非見てみたい。冬希はゴール地点に行くのが少しだけ楽しみだった。


 朝方、神崎高校の面々は作戦会議を行った。

 船津は今日も山岳ゴールを狙いに行くため、不文律として、集団の牽引をお手伝いする「仕事」を神崎高校も行うことになる。

 基本的に、平良潤と平良柊は山岳アシストとして残しておく必要があるため、消去法で冬希と郷田で行うことになる。

 スタートして2級山岳までの間にスプリントポイントがあるため、冬希はその時点で集団を牽引し、逃げ集団が通過した後の余ったスプリントポイントを頂いてしまおうという話になった。

 というよりも、2級山岳の登りに入ったら、山岳の登坂能力が平均以下な冬希は、ほぼ無用の長物なのだ。

 冬希は、そのままグルペットに入って、制限時間内にゴールを目指すことになる。


 ホテルの食堂で朝食をとり、出発の準備を整える。

 ほぼほぼ荷物もまとめた後、スマートフォンを取り出す。

 1件メッセージが届いていた。春奈からだ。

 ゴールデンウィーク中なので、まだ起きる必要はないはずなのだが、朝6時過ぎにはメッセージが送られていた。

『福岡に行く話、お父さんに話したらOKだって!だから、今日も頑張ってね!ボクが行くまで負けちゃだめだぞ!』

 冬希は静かに目を閉じる。しばらくして目を開く。

「仕方ない。やるか。」

 両眼には、気力が満ち溢れていた。

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