表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
335/391

全国高校自転車競技会 第2ステージ①

 第2ステージは、佐賀空港から二見ヶ浦までの60.3㎞のコースとなっている。

 山岳ポイントは三瀬峠のもっとも標高が高い地点に設定されている。

 三瀬峠を上った後は、ゴールまで25㎞ほど下りと平坦を走ってゴールとなるため、平坦カテゴリとなっている。

 千葉県代表の神崎高校のキャプテンとなった平良潤は、チームメンバーになるべく固まって走るように指示を出していた。

 ポジションについて指示しなかったのは、千葉が総合順位でそれほど高い位置になかったので集団をコントロールする立場になかったのと、メンバーが固まって走っている状況になれば、後からでも全員に指示が出せると思ったからだ。

 しかし、潤は結果的にこの判断を後悔することになった。

 30人という驚くほど大人数の逃げが決まってしまったのだ。

「どういうこと!?」

「山口が、逃げ集団を潰しきれなかったんだ」

 驚きを隠せない冬希に、東京のエースである植原が苦々しい表情で答えた。

 スタート直後の事だった。総合リーダージャージを着用する黒川の所属する山口代表チームが集団をコントロールし始めた時、いつも通り散発的なアタックが発生した。

 最初の様子見程度のアタックではあったが、予想以上に山口の選手たちの動きが悪かったため、チャンスと見た茨城の牧山、佐賀の水野らがアタックをして、それを見た逃げたいチームが便乗してアタック。慌てた福岡や愛知、宮崎らのスプリンター系のチームが集団に蓋をしたころにはもう30人ほどの逃げ集団が出来上がってしまっていた。

「スプリンター系チームが協力して追っているけど、俺たちも協力して追わなければまずいかもな」

 総合上位では水野が逃げに入ってしまった。

 佐賀の坂東裕理は、これ見よがしに集団の中で大あくびなどして見せている。総合系チームでは、佐賀だけが逃げに選手を潜り込ませたので、彼らだけ追走に協力する必要がない。

 冬希は、集団前方に進んであたりを見渡し、知っている顔を見つけて話を聞くことにした。

「立花」

「青山か、お前が来たらすぐにわかるよ。選手たちがきれいに道を開けるからな」

 前回大会からの顔なじみで、福岡のエーススプリンターでもある立花直之に対して、冬希は

「立花が今の彼女と付き合えるようになったのは自分のおかげだよなぁ」

 と植原や立花自身に対して言って憚らない。二人からすると、そういう側面もあるのか、という程度の影響具合でしかないのだが、冬希は恩を返せとばかりに逃げが決まった状況について話を聞き出そうとした。

「山口代表は、一応は集団をコントロールしようとしたんだ。多田選手は、アタックを掛ける選手が集団から飛び出す前に、もう捕まえていたぐらいで、見事なものだった。うちの1年にも見習わせたいぐらいだった。だが、多田選手、黒川選手以外の3人は、集団の先頭まで上がってくるだけでもう脚を使い果たしていたようで、とても逃げを捕まえようという感じではなかった。最初は5人ぐらいのアタックが決まったんだが、3人縦に並んで、メイン集団前に蓋をするような形になって、もたついているのを見て、次々と選手が飛び出していった」

 メイン集団の先頭に立ってコントロールするには、まず40㎞/h以上で走るメイン集団の前方部分まで自力で上がっていかなければならない。並の選手ではそこまでで脚を使い果たしてしまい、そこからさらに、アタックを掛ける選手を捕まえる、という仕事までできるのは、強豪校のアシストぐらいになってしまうのも無理はない話だ。

 だが、リーダージャージを着用する山口代表チームはレースコントロールに失敗して大規模な逃げ集団を作ってしまった。黒川も先ほどから苦虫を噛み潰したような顔をしている。思った以上に自チームの3人が使えなかったのだろう。

「決まってしまったものは仕方ない。立花たちも追いかけるだろ?」

 三瀬峠を上りはするものの、それほど長い上りではないため、一応平坦カテゴリのステージとなっている。スプリンターたちにとっては取りこぼしたくないはずだ。しかし、立花の返事は歯切れが悪いものだった。

「いや、それが・・・・・・」

「どうした?」

「うちのチームも一人逃げに乗せてて、追いかけられないんだ」

「マジか」

 考えてみればありうることだった。30人逃げに乗っているという事は、1チーム一人が逃げに乗ったとして、47チーム中30チームは逃げに選手を送り込んでいることになる。実際には、2名以上を逃げに送り込んでいるチームもあるだろうが、福岡代表チームの選手が乗っていても不思議ではない規模の逃げ集団が形成されている。

「使えないやつだな、お前は」

「一応敵チームなんだから、便利に使おうとするなよ」

 立花は苦笑しながら言った。だが、スプリンター系の立花と総合系の冬希とでは、そこまで競合はしないだろう。

「じゃあ愛知に話に行くかな」

「愛知も一人乗り込んでたぞ」

「ずこー」

 立花の話では、福岡は405番の都府楼守という1年生、愛知も234番の玉置陽大という1年生を逃げに送り込んだという事だ。

 植原の話では、彼の所属する東京は逃げ集団に選手を送り込んでいないようだ。集団コントロールに失敗した山口も当然そうだろう。

 宮崎は、小玉が最初の逃げグループの形成に加わっており、最悪の場合、東京と千葉の2チームだけで逃げグループを捕まえなければならない可能性が出てきた。

「こりゃ終わったかな・・・・・・」

 メイン集団には、有力選手である全日本選抜優勝の植原や、Jプレミアツアーシリーズチャンピオン黒川、さらには国体総合優勝の天野がいる。

 逃げ集団に乗れた全員に、全国高校自転車競技会の総合リーダージャージを手に入れる可能性が出てきた。

 逆にメイン集団に取り残されたチームは、一気に逃げている選手たちに大きなタイム差をつけられる可能性が出てきてしまった。

 総合優勝を決めてしまいそうなほどの大規模な逃げ集団が作成された。冬希は、諦め半分で、策を練るためにチームメイトがいるポジションまで、メイン集団の中を下がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ