全国高校自転車競技会 第1ステージ表彰式
表彰式が始まった。
ステージ優勝の南は、あまり饒舌なタイプではないようで、ええ、はい、そうですね、の3つの単語だけで優勝者のインタビューに答えていた。
それに比べて、ステージ脇でインタビューを受けていた宮崎の監督、一色祐樹は、聞かれてもいないことまで話し始め、インタビュアーを困らせていた。
一色は、昨年末頃から宮崎県代表の日南大付属高校の監督に就任していた。
日南大付属の自転車競技部は昨年、宮崎を走る別々のクラブチームに所属していた5人が集まり、形ばかりの顧問を据えただけの、校内で最も小さな部だった。
本来であれば、愛好会、同好会と、実績によって昇格していくものであるはずだったが、全国高校自転車競技会の予選会に出るには「部」である必要があり、例外的に部として登録されることとなった。
当時、校内に愛好会や同好会がなく、ほかの部から異論が出なかったことと、部員である小玉正司が、部として全国高校自転車競技会の予選会に出場し、全国へ出場できなければ愛好会から再スタートする、という
「実績の前借り」
という条件で話をつけ、仮で部としてエントリーすることが許された。
有馬、小玉をはじめとする5名は、無事に全国出場を果たし、全国高校自転車競技会、インターハイ、国体とそれぞれ上位に入賞することで、校内で最も実績を上げた部となった。
想定外であったのは、活躍しすぎたため、学校からの支援が強化されすぎたことだった。
インターハイや国体の遠征費用を学校が負担してくれたまではよかったが、外部の監督を招聘するという、行き過ぎたサポートは5人を困惑させた。
学校が部の監督に据えた一色と5人との溝は、最初から現在に至るまで、一切埋まることはなかった。
有馬をエースとして総合優勝を目指すためのチームであるという5人の主張に対して
「うん、そうだね」
とニコニコしながら聞くふりをして、裏ではあらゆる方面から探してきたスプリンターをチームに入れようと画策した。
有馬たちは、もはや日南大付属高校の自転車競技部が、自分たちのものではなくなっていっていることを思い知ることとなった。
創部メンバーの5人の強みは、全員が昨年の全国高校自転車競技会を経験していることに会った。千葉の神崎高校や、東京の慶安大付属は、5名中2名が1年生で、彼らに色々教えながら大会を戦っていかなければならない。それに比べ、昨年も出場した有馬たち5人は、全員で積極的に動くことが可能となる。相手が昨年度の全国優勝校であっても、全員攻撃で引きずり回してばらばらにして崩すことが出来る、そういう自信があった。
だが、一色は上位入賞は果たしたものの、ステージで1勝もしていない有馬をエースにするつもりはなかったようだ。あるいは、自身の実績をアピールするため、自分が連れてきた選手を勝たせるということをやりたかったのかもしれない。
一色が南を連れてきたのは、全国高校自転車競技会の直前だった。
身長が175㎝、体重は80㎏を超える体格で、アウタートップのギアに入った状態でペダルを軽々と踏む。規格外の選手だった。
合同で練習することもなく、いきなり実戦で一緒に走ることになった。
「平坦ステージだから、有馬君も今日は動かないよね」
と、一色の指示で有馬も含め、南のアシストに回されることになった。
南は勝った。
勝つかもしれない、と有馬は思っていた。だが、南が規格外であるとはいえ、あの青山冬希を倒すほどまでとは考えてはいなかった。
青山冬希は勝負しなかった。総合狙いという話は聞いていた。それでも、心のどこかで一色の目論見を阻止してもらいたいという気持ちはあった。これは自分たちではどうしようもないことだ。
節操なくはしゃぐ一色の姿を見て、有馬は舌打ちを禁じえなかった。
同時に、焦りも感じていた。
南は、ステージ優勝を遂げた。スプリント賞のジャージの着用も決めた。
それがどういう結果をもたらすか、有馬には容易に想像が出来た。
有馬は、小さく息をついて宮崎チームのテントへ向けて歩き始めた。
ふと視線を感じて顔を上げた。
佐賀の坂東裕理の姿が見えた。
こちらを見て、嗤っているような気がした。
冬希がローラー台でペダルを回していると、平良潤、平良柊の兄弟が戻ってきた。
「あまり気にするな。お前は総合エースなんだ。黒川とのタイム差だけ考えておくようにしてくれ」
潤が言った。きっと、そう言わせてしまうほど難しい顔をしていたのだろう。
ショックがないと言えば噓になる。
レース直後に黒川がやってきて
「青山、お前あいつと勝負してたら、勝てていたか?」
と言われた。
「勘弁してくださいよ」
と返すのがやっとだった。正直、あれは別カテゴリだと思うしかなかった。フォーミュラカーのレースにドラッグレースの車が出ているようなものなのだ。
今考えるべきは、平坦ステージに勝つことではなく、総合優勝を決めるために、どこで力を温存し、どこで勝負をかけるかだと思い定めた。
「へんな対抗心を燃やすなよ」
柊が心配そうに言った。冬希は珍しいなと思った。
「気にしてませんよ。そんなに気にしているように見えますか?」
冬希以外の4人が、顔を見合わせ、困ったような表情をした。
■第2ステージ
1:南 龍鳳(宮崎)455番 0.00
2:水野 良晴(佐賀)415番 +0.00
3:赤井 小虎(愛知)231番 +0.00
4:伊佐 雄二(千葉)2番 +0.00
5:立花 道之(福岡)401番 +0.00
・・・
10:青山 冬希(千葉)1番 +0.00
■総合
第1ステージ
1:黒川 真吾(山口)351番 0.00
2:山賀 聡(愛知)232番 +0.01
3:水野 良晴(佐賀)415番 +0.01
4:植原 博昭(東京)131番 +0.05
5:竹内 健(千葉)5番 +0.05
・・・
52:青山 冬希(千葉)1番 +0.09
■新人賞
1:竹内 健(千葉)5番 +0.00
2:永田 隼(愛知)235番 +0.02
3:藤松 良太(栃木)341番 +0.03
■スプリント賞
1:南 龍鳳(宮崎)455番 50pt
2:水野 良晴(佐賀)415番 43pt
3:赤井 小虎(愛知)231番 40pt
4:立花 道之(福岡)401番 31pt
5:伊佐 雄二(千葉)2番 18pt




