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好きな女の子と同じ高校に行くために自転車競技を始めたら光速スプリンターと呼ばれるようになっていました  作者: 中原圭一郎
全国高校自転車競技会 2年生編

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開幕へ向けて

 全国高校自転車競技会は、いくつかの特徴がある大会だった。

 1つは、ステージレースであること。

 昨年、黒川がシリーズ優勝したJプレミアツアーは、月1回〜2回のレースを年間通して10回行う形式だったが、全国高校自転車競技会は、全10ステージを連日戦い抜く。途中でリタイアすれば、それ以降のステージへの参加はできないし、休息日はあるものの、体を動かさなければ調子を崩すため、誰一人として完全に休める選手などいない。

 もう1つは、個人タイムトライアルが無いこと。

 Jプレミアツアーは、10戦の中に、個人タイムトライアルがあり、本格的なタイムトライアル用のバイクで走る。

 それに対して、全国高校自転車競技会は、過去に個人タイムトライアルを行ったことはあったが、学校や個人の財力により、タイムトライアルバイクが用意できたりできなかったりで、用意できたバイクの性能でタイム差がつき過ぎた。それまでのレースがなんだったのか、というほど個人タイムトライアルで総合優勝が決まってしまっていたため、レースプログラムから消滅していた。

「それが、プロローグとして復活するようです」

 1年生部員である竹内の言葉に、何が何だかわからないという表情をする冬希を見て、伊佐が呆れたように補足した。

「プロローグというのは、第1ステージの前に行われる、特別距離が短いタイムトライアルです。今回は、第1ステージが行われる福岡市の大濠公園を一周する2kmで行われるそうです」

「伊佐、個人タイムトライアルって行われなくなったんじゃないの?」

「大会規則として消滅したわけではありませんから」

 着替え終わったばかりの平良潤がロッカーの隙間から出てきた。

「タイムトライアルバイクではなく、通常のロードバイクで行うという条件と、距離を短くすることで大きなタイム差がつかないように配慮した上で実施するということだろう」

「なるほど。でもプロローグをやるメリットって何なんでしょうね?」

「全国高校自転車競技会は、TVで中継されるから、第1ステージを総合リーダージャージを着用された状態でスタートしたいということらしい。総合リーダージャージには、スポンサーのロゴが入っているから、特に世間から注目される第1ステージで着用者がいないのは、大会的に何とかしたかったんだろう」

 確かに、去年は冬希や当時のエースである船津が着用したリーダージャージには、スポーツ用品メーカーのロゴもプリントされていた。

「冬希さん、練習しましょう」

 竹内が、冬希の両肩を掴んで真剣な表情で言った。

「え、俺は一定ペースで走ることについて、それなりにできるようになったから、個人タイムトライアルもそれなりにいい所行くような気がするんだけど」

「そんなに甘いものではありませんよ。個人タイムトライアル、走ったことないんですか?」

 伊佐は、先輩である冬希に対しても容赦がない。

「高校のスポーツ推薦の実技の時ぐらいかな。全然ダメだった記憶がある。でもそれは、自分がどれぐらいできるか分かってなくって、ペース配分がめちゃくちゃだったからだと思うんだけど」

「ど素人時代と比べても仕方がないですよ。今回のライバルである黒川選手は、Jプレミアツアーの個人タイムトライアルで優勝した経験もあります。全日本選抜で勝った植原選手は個人タイムトライアル早いですし、国体総合優勝の天野選手だって、それなりの心得はあるでしょう」

「でも練習って言っても、何の練習をすればいいのか」

 練習全体での比率は減ったものの、一定ペースで長時間走る練習は現在でも続けている。これ以上行って個人TTが早くなるとは冬希には思えなかった。

「距離が短い個人TTは、平均時速が恐ろしく速くなります。小さな周回コースですと、コーナーリング技術が重要になってくるのです。急なコーナーに高速で突っ込んでいく度胸も必要になります。その辺の慣れも重要です」

 竹内の説明に、冬希はハッとなった。

「冬希は、個人タイムトライアルって聞くと、どの程度のペースで走る能力があるかを競うっていう先入観があるようだけど、今回のようなプロローグでは、F1のタイムアタックみたいなイメージでいた方がいいだろう」

 それなら冬希も理解できた。コーナーリングのテクニックや、減速、加速力も結果を大きく左右するだろう。

「とにかく、慣れです。練習あるのみです」

 冬希は、竹内に半ば引きずられるように腕を引っ張られて部室から出ていった。

 中体連の個人タイムトライアルで上位入賞した竹内に、冬希は渡良瀬遊水地で、徹底的に個人TTの指導を受けることになった。

 付け焼き刃、というには濃厚な練習ができた。

 強力な敵相手に、やれることは全てやっておきたいと、冬希自身も思うようになっていた。

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