国体 関東甲信越ブロック大会 山岳ステージ ①
国体自転車ロード関東甲信越ブロック大会は、曇天の中、午前9時に北茨城市内をスタートした。
パレードランなどはなく、一斉スタートである。
自然に、現在ポイント1位である千葉がレースをコントロールするべく集団の先頭に位置する。
大川、冬希、柊、潤の順番だ。
その後ろに東京代表の麻生、夏井、伊佐、植原が続いている。その後ろは団子状態だ。
その団子の中から、時折逃げのためのアタックを仕掛けようとする選手が現れる。先日の平坦ステージで下位に沈んだチームは、それぞれ選手の一人に「逃げられたら逃げろ」と指示を受け、散発的にアタックを繰り返す。
彼らのチームも、可能であれば2周目の登り口でなるべくいいポジションを確保するためにアシストは温存しておきたい。全力で逃げにトライして失敗して力を使い果たし、序盤で貴重なアシストを失うリスクは冒したくない。その結果「逃げられたら逃げろ」という中途半端な指示になっていた。
千葉と東京は、そういった中途半端な逃げへのアタックを徹底的に潰していった。
大人数でローテーションしながら逃げられると、追う側として捕まえるのが大変だというのもあり、力の弱い逃げを決めさせてしまうと、今度はレース全体のペースが遅くなってしまうという問題もある。千葉は、レースをコントロールするという責任上、東京は早々にレースを安定させて山岳での千葉との一騎打ちの形に持ち込みたいという希望上、現在は協力しながら逃げを潰していく。
新潟県代表の角という選手がアタックした。ある程度差をつければ、逃げたい他チームの選手も続くはずだ、と一気に加速する。すかさず、千葉県代表の青山冬希がチェックに入る。角にとっては全力のアタックのはずだったが、冬希は驚くべき瞬発力で、あっという間に角を捕まえる。
ここで角がペースを緩めなければ、独走力という面ではそこまで能力が高いとは言えない冬希を千切って引き離すことが可能だったかもしれない。しかし、角は全国トップクラスのスプリンターである冬希に捕まっては、逃げ切れるはずがないと考えた。良い意味で、冬希の実力を誤解してしまったのだが、チームからも中途半端な指示しか受けておらず、ここで無駄なアタックを続けて力を使い果たすよりも、逃げを諦めて体力を残したまま集団に戻ることを選択した。
千葉のエース平良潤も、東京のエース植原博昭も、中途半端にしか逃げようとしない選手たちに頭を抱えていた。逃げるならもっとちゃんと逃げろよ、と集団に向かって叫びたい気分だった。
一旦、逃げたいチームのアタックがひと段落し、集団が落ち着いた一瞬、茨城県の牧山という選手がアタックした。
キレのあるアタックで、一瞬で集団を20mほど引き離した。
冬希は、東京代表の方を見る。捕まえようとする動きはない。次にエースである潤の方を見る。静かな瞳が「追うな」と言っていると思った。
千葉や東京とって、単独であり、それなりに独走力のある牧山のアタックは、むしろ注文通りの動きだった。タイミングも完璧で、他のチームの逃げたかった選手も油断しきっていて、追うことができない。
アタック合戦は終わり、集団は千葉県のコントロールで安定したペースを保ちつつ、逃げた牧山を追走し始めた。
不味いな、と東京代表のエース植原は考え始めていた。
千葉のコントロールでレースは進んでいるが、15km走った所で逃げる牧山と追うメイン集団とで、既に5分のタイム差がついてた。それは千葉が、本気で牧山を捕まえるつもりがないことを示していた。
現在、千葉と東京は、25ptと18ptでポイント差となっており、このレースで東京が優勝すれば、千葉が2位でも同ポイントで、直近のレースの順位が上の東京が総合1位となる。
ところが、全然関係ない茨城の牧山に逃げ切られると、東京が2位で千葉が3位となっても、東京と千葉の差は18ptと15ptで3ptしか縮まらず、千葉が総合1位となってしまう。
植原も、千葉が別のチームを逃げ切らせるという手段に出てくるかもしれない、とは思ってはいた。
しかし、大人数で逃せば、そのまま大人数で逃げ切られ、千葉の順位も大きく下がり、東京以外のチームにも総合ポイントで逆転を許すかもしれないので、そんなリスクは冒さないだろう。
仮に少人数の逃げの場合、追い付かないように集団をコントロールするとレース自体のペースが遅くなり、メイン集団に残る選手が多くなり、ゴール前で大勢でわちゃわちゃとしてしまえば、千葉とて3位どころか、もっと下の順位でゴールすることになるというリスクを負うことになる。そんな手段に出るか、という疑問を持っていた。
植原の予想を裏切った最大のポイントは、牧山がかなりいいペースで逃げているという点にあった。
順調にメイン集団とのタイム差を広げている。
このままでは、千葉が勝負どころで集団から他県の選手たちを削り落とすためのペースアップをおこなったとしても、ゴールまでに牧山に追いつかない可能性もある。
そうすれば、東京ではなく茨城の牧山にこのレースを勝たせつつ集団を絞って、東京との争いに持っていくという千葉にとっての理想的な形となってしまう。
「・・・行きましょう」
植原の指示のもと、東京代表の麻生、夏井、伊佐の3人が千葉から主導権を奪い、牧山に追いつくためにメイン集団の先頭に立って、集団のペースアップに入った。
それは、千葉の作戦を潰しに行くということと同時に、東京のアシストの足を消耗するということも、意味していた。




