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国体 関東甲信越ブロック大会 初日レース前

 国体の関東甲信越ブロック大会は、インターハイも行われた茨城県で開催される。

 しかし、インターハイに比べると、参加チーム10チーム、出場選手数も40名と流石に規模は小さいので、公道を通行止めにして行われるようなレースではなく、ひたちなか市にある交通安全センターを周回するコースとなっている。

 冬希からすると、神崎高校に入学する前に出場したレースと同じ場所で、あの時は、何もできないままに福島の松平に千切られてしまった。あの頃からは、自分を取り巻く状況も随分変わったなと冬希は思う。まさか、松平に勝てるようになるとは、夢にも思わなかった。

 現在のところ関東甲信越地方に、冬希に対抗できるスプリンターは居ない。

 初日は、冬希を中心にレースが進む事が予想された。


 コースクリアとなり、試走が開始された。

「じゃあ、行ってきマッスル!!」

 千葉県の選手である平良柊は、細い腕と薄い胸板で、ボディビルダーのようなポーズをとって、ドヤ顔で振り返る。

「ナイスポーズ、切れてるよ!」

 間髪入れず、冬希の掛け声が飛ぶ。

「お前らはレース前、いつもこんな感じなのか?」

 同じく、千葉の代表選手である大川駿が、呆れた様子で平良潤に言った。

「まあ、今日は出場人数も少ないレースだし、いつも以上にリラックスはしているかな」

 潤は苦笑しながら言った。

 人数が少ないレースでは、選手同士の間隔も比較的広くなり、落車などのトラブルに巻き込まれる可能性が減る。勝負処で他の選手が壁になり、力を出し切れないままに敗退する可能性も低くなる。

 そう言った意味で、実力差が出やすい状況になり、1年生にして高校No.1スプリンターと呼び声も高い冬希にとっては、有利な展開となる事が予想された。

「だからまあ、気楽に行こう。キャプテン」

 表情が固い大川に、潤が気をつかう様に言った。

 大川は、国体自転車ロード少年男子の監督である槙田の推薦で、神崎高校の3人と共に県の代表選手に選ばれた。

 本来は、個人タイムトライアルの選手であり、もっぱらロードバイクではなくタイムトライアルバイクに乗る時間の方が長かった。

 槙田は当初エース候補とされていたが、本人が断固として拒否し、初日の平坦レースでは冬希が、2日目の山岳レースでは潤がエースを務めることとなった。

 しかし、チームのキャプテンについては、大川が任命された。ロードのレース経験に乏しい自分にキャプテンなど務まるかと、大川は最初は拒否していたが、流石にここは槙田が譲らすに、ついには大川が折れる結果となった。

 名ばかりのキャプテンで、任命されても、特に何にも口出ししなければ、無害でいられるだろうと思っていた。それに、歴戦の神崎高校の3人が、ロードレースの経験の浅い自分をキャプテンとして受け入れるはずがないとも思っていた。

 しかし、驚いたことに、3人は大川がキャプテンを務めることに、むしろ積極的に賛成してくれた。

 大川は、全国高校自転車競技会、全日本選手権、インターハイと、TV越しで見てきた神崎高校の強豪選手たちに、自分を受け入れてもらえた気がして、嬉しかった。胸に熱いものが込み上げてきた。

 彼ら3人とチームを組むということは、恥ずかしい走りはできない。自分はどうなってもいいから、なんとして彼らの勝利に貢献したいと思った。


 大川、潤も試走のためにコースに出た。

 コースの状況を確認する。落ち葉などがあり、滑りそうな部分。路面の悪い部分。高低差があり、アタックが仕掛けられそうな部分など、二人で情報を共有しながら走った。

「ロードの場合、どの程度ウォーミングアップをするんだ」

 大川は、個人タイムトライアルの選手であり、スタート前にはかなり入念にウォーミングアップを行う。心臓を動かし、血流を良くし、血管を広げ、血液が身体中に酸素を運ぶ道を確保しておく。しっかりウォーミングアップを行うか行わないかで、競技が始まってからの苦しさが全く変わってくる。

 しかし、ロードのような長丁場のレースでは、スタートする前に疲れ切ってしまうわけにはいかない。その辺りの匙加減が、大河にはよくわからなかった。

「ウォーミングアップをどの程度やるかは、コースや予測される展開によっても変わってくるな。スタート直後から逃げに乗るためのアタック合戦が始まったり、スタート直後からいきなり登りがある場合なんかは、スタート前から入念にウォーミングアップも行うけど、序盤からゆっくり流れそうな時は、レースを走りながら体を温めていくことになると思う」

 今日のレースがどのような展開になるかは、順にも読めなかった。ゴール直前までダラダラ走るかもしれないし、スタート直後から潰し合いのようにペースが上がるかもしれない。だから、ある程度は試走で体を温めておくべきだと潤は考えていた。

「あれは青山か」

「ああ、話している相手は、東京代表の植原だな」

 千葉県のサイクルジャージを着ている冬希と並んで走っているのは、東京都のジャージを着た、慶安大附属高校の1年生、植原博昭だった。

 二人とも、真剣な表情で話しをしている。レースの駆け引きは、もうスタート前から始まっているのだろう。大川は冬希たちの勝利を目指す姿勢に感嘆を禁じ得なかった。


 植原は、神妙な面持ちで冬希と話していた。

「青山、浅輪さんはドイツに行ったんだってな」

「ああ、沢村さんから聞いたのか」

「そうだ。けど、その割に元気そうにしているな」

「まあな、色々あったんだよ」

 全く関係のない話をしていた。

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