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真理とのデート④

 ピークの時間帯を少し過ぎたファミレスは、順番待ちこそ発生していないものの、夏休み期間中ということもあり、学生や子ども連れなどで、そこそこの喧騒に包まれていた。

「有名な選手だったんだなぁ」

 冬希は、成田空港でサインを求められたラルフというドイツ人サッカー選手が、どういう人物かを説明する小田のスマートフォンを覗き込んでいる。

 杉山と真理は、お互いの近況などを話し合っている。

 テーブルの上には、小田によって注文された、人気メニューの一つであるフライドポテトが1皿置かれており、杉山、それに冬希と真理もご相伴にあずかっている。

「お、荒木さんじゃん」

 通路を挟んで斜め向かいの席から声がした。通路側の奥の席に座っている真理だけが見えているようで、冬希からは斜め後ろの席になるため、冬希や小田、杉山の姿も見えていないようだ。

「あ、ほんとだ。懐かし」

「マジ?荒木今日参加だっけ」

「最初出席だったけど、途中で欠席になってたよ」

 男1人に女3人の4人組のようだ。

「荒木さん、参加してくれる気になった?今からでも参加OKだよ」

 そういう男の声に聞き覚えがあった。中学2年の頃のクラスメイト、中野だ。

 同窓会の集合時間は、14:30で、開催場所もカラオケボックスのパーティルームだ。14:00前にファミレスにいるということは、仲が良かったメンツで早めに集まっているのだろう。

「ううん、今日は友達と約束があるから」

 真理は、キッパリと断った。

「最初参加にしてたじゃん、こっちの方が先だったんじゃないの?」

「久々の同窓会なのに、後の友達優先するって酷くない?」

「荒木さん、そういう人だったんだ」

 3人の女子は、口々に嫌味を口にした。

「荒木さんが欠席の回答をしたのは、出欠確認の期限日の前だったはずだ」

 冬希が立ち上がり、中野たちの席の方を向き言った。

 中野たちは、突然現れた冬希に、言葉を失っている。

「今日は同窓会だったんだな。俺は連絡をもらってないから知らなかったぞ、中野」

 本質的に温厚な冬希は、怒鳴ったり殴りかかったりするようなことはしない。しかし、その両目は明らかに怒気をはらんでいた。

「お、おい、青山。もう行こう」

 慌てた小田が冬希の腕を引いて、レジの方に連れて行こうとする。

「小田くん・・・」

 中野と一緒にいた女子3人は、学年でもトップクラスの人気を誇った小田もいるのを見て、固まった。

「中野くん、私たちはあなたのやる同窓会に参加するつもりはないから。行きましょう。荒木さん」

 杉山が、毅然とした態度で中野たち4人に言い放ち、真理と共に小田と冬希の後を追う。

 中野は、言葉を発することもできず、冬希たちの背中を見送ることしかできなかった。


 支払いを済ませて店の外に出た冬希たちは、特に目的地もないままに歩き出していた。

「頼むから、あんな奴ら相手に揉め事なんて起こさないでくれよ。お前は県を代表して国体に出る身なんだから」

 小田が、やれやれといった感じで言った。

「そうだな、悪かったよ」

「冬希君は、私のために怒ってくれたんだよね」

「そう面と向かって言われると、恥ずかしいけど」

 真理は、申し訳なさそうに言うが、その反面、どこか嬉しそうにも見える。

「でも、流石に中野君たちには何を言われても、気にならないよ」

「荒木さん、結構辛辣ね」

 杉山が若干引き気味に言った。

「青山、お前たちは今からどうするんだ?」

「今日はもう帰るだけだよ」

 横で真理も頷いている。元々お昼を食べたあたりで解散する予定だった。

「じゃあ、折角だし連絡先を教えてくれよ」

「ああ、もちろん」

「荒木さん、私たちも」

「うん」

 小田と冬希、杉山と真理はそれぞれ連絡先を交換した。

「ラルフの連絡先も知ってたら教えてくれよ」

「残念ながら知らないよ。というか知ってても教えるわけがないだろう」

「じゃあ、どうやって写真もらったんだよ」

「通訳さん経由だよ。それもAir Dropだから、連絡先は交換してないよ」

「そうかぁ」

 小田は頭を抱えている。杉山が、ばか、と頭を小突いた。

「じゃあ、俺たちは行くから」

 冬希と真理は、並んで小田たちと向き合った。

「ああ、またな」

 冬希は、小田と杉山に軽く手を挙げ挨拶をすると、真理と一緒に帰路に着いた。


 冬希と真理の後ろ姿を見送る。

 小田には、全国で活躍しているという事以上に、冬希に敬意を表す理由があった。

「ん?」

 杉山のスマートフォンが鳴った。メッセージを受信したようだ。

「どうしたんだ?」

「アサミからなんか着た」

 アサミというのは、同窓会に参加している杉山たちの元クラスメイトだ。

「安田先生が、同窓会の集合場所に来たらしいんだけど、すぐ帰ったんだって」

「へ、なんで?」

「荒木さんが今日参加しないって聞いた瞬間、顔色が変わったって」

 小田も杉山も、表情が険しくなった。

「安田って、噂になってただろ」

「うん、何年か前に、女子生徒にラブレターを送って問題になったって・・・まさか今度は荒木さんを?」

「荒木さん、ヤバいやつに目をつけられたかもな。あいつ、学年の中では優しい先生って印象持ったやつが多かったけど、実際にはかなり頭のおかしい行動を取ってたんだよ」

「なんか、青山君を目の敵にしてるって話は聞いたことがあった」

「青山とは、1年の時から色々あったんだけど、荒木さん絡みで安田が青山に嫌がらせをしていたとすると、辻褄は合う」

「色々って何があったの?」

「1年のキャンプでオリエンテーリングをやった時、女子は別ルート行動だったから知らないと思うけど」

 小田は、苦々しい表情で、冬希と安田の確執について語り始めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 二百うん十話ぶりの懐かしいお名前がw そして行動が想像を絶するほど気持ち悪いwww
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