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反省会

 レースを終えた冬希は、レースの報告のために自宅ではなく神崎高校へ向かった。神崎高校がエントリー代を出してくれたレースだ。当然報告の義務があると冬希は思っていた。


 部室には潤がいて、冬希を連れて理事長室に向かった。理事長室には、船津と監督の神崎がおり、応接用のソファーを勧められ、潤の隣に座る。向かいには神崎と船津が座った。

「報告をしてもらえるかな」

 神崎に促され、紙とペンを借りてコース図を描き、説明しながら赤ペンで記載をしていく。

まず、レース全体の展開を説明する。そして自分がどのような動きをしたかを客観的に述べ、次に何故そのような動きをしたかを説明していく。

 冬希の報告は良く整理されており、聞いている3人は自分が走っているかのような感覚になった。

挿絵(By みてみん)

「なるほど。スタートで出遅れてしまったのは仕方ない。その後、協力して先頭に追い付いたのも好判断だ」

 神崎の感想に、船津と潤もうなずく。

「先頭交代のローテーションはずっと会津若松高校の日向くんの後ろで回ってたんだね」

「はい、じっくり観察しようと思いまして」

「毎回同じところで先頭が回ってこなかったかい?」

 たしかに、一番長い直線部分で毎回先頭になっていた。

「そしてそこは向かい風だったんじゃないかな?」

 冬希は、はっとした表情になった。


「嵌められたな」

 潤がぼそっと呟いた。

「まぁ、自分が体力を使わないでいいように、向かい風の直前で先頭を変っていただけだろう」

 船津の言う通り、日向は冬希を知らないし、敢えて脚を消耗させるべき相手でもなかっただろう。要するに、ただのとばっちりだ。

「そういう曲者がいるから、だれの後ろに付くかは気を付けないといけない場面は出てくるよ」

「俺は、敵として潤の後ろは走りたくないしね」

船津の言い様では、潤も後ろの選手に何かを仕掛けたりすることはあるようだ。


 神崎の解説は続く

「結果的に脚を使わされ、集団の後ろに追いやられた。そして最終周に、勝負できる位置まで上がるのに脚を使ってしまった。結果、スプリント出来ずに終わってしまった」

 やりましたよスプリント。ひと踏みぐらいは、と冬希は心の中で反論した。


「後方から見ていて、会津若松の松平の動きはどうだった?」

 船津は興味津々という感じで聞く。松平は同じ歳の全国屈指の選手だ。興味があるのだろう。

「まず、ラスト2周までは動きはありませんでした。その後、日向選手の後ろに入って、先頭交代が進むにつれて2人一緒に前に上がっていきました」

「理想的ですね。労せずに前にポジションを上げられる。日向がずっと先頭交代で回っていたので、同じジャージの松平がその後ろに付いても、だれも文句は言えないでしょう」

 潤は納得という表情でうなずく。

「日向くんはどこで松平くんをリードアウトしたかわかるかい?」

「わかりません。二人より前に付けてしまったので」

「恐らく、どこかのタイミングで冬希のように前に上がっていく選手の後ろに乗り換えたのでしょう」


「青山くん、スプリントを開始した位置はここだったね」

神崎が青山が赤ペンで印を入れた位置を指さす。

「はい、ゴールが見えたのでつい」

「潤くん、ここからゴールまでの距離は?」

「300メートル程度です」

スマートフォンを地図アプリで距離を測ったようだ。

「スプリント始めるの早すぎだね」

 早いな、早いですねと船津と潤も異口同音で頷く。


「青山くん、次のレースは12月のJCSCだったね。場所は?」

「フレンドリーパーク下総です」

 神崎は、タブレットでフレンドリーパーク下総の地図を開き、一点を指さした。

「野球場を過ぎて、公民館のコーナーを曲がるまで、スプリントを開始するのを我慢してみないかい?」

 勝てなくてもいいからと付け加える。

「はい。わかりました」

「今日は、協力して先頭に追い付いたのも良かった。ゴール前に10番手以内に付けるというのも、潤くんの言ったことをよく守ってくれた。着実に成長しているね。次の課題は、仕掛けのポイントを遅らせることだ」

 神崎は立ち上がりながら言った。

「次のレース報告も、楽しみにしているよ」


■神崎高校■

船津幸村ふなつ ゆきむら

神崎高校のエース。山岳に強いオールラウンダー。2年生


郷田隆将ごうだ たかまさ

一定ペースで走ることに長けたルーラー。強靭な肉体と精神を持つ。2年生

神崎高校へは編入で入ってきた。病気の母がいる。


平良潤たいら じゅん

神崎高校の参謀格。オールラウンダー。1年生


平良柊たいら しゅう

神崎高校の鉄砲玉。山岳での強烈なアタックが得意なパンチャー。1年生

「勉強の出来るバカ」の異名を冬希につけられた


青山冬希あおやま ふゆき

神崎高校へ入学が決まっている。中学3年生


神崎秀文かんざき ひでふみ

神崎高校の若き理事長。自転車競技部の監督でもある。

過去の出来事から、ツール・ド・ジャパンで一日でもリーダージャージを獲得することに執着する。



■会津若松高校■

松平幸一郎まつだいら こういちろう。2年生

会津若松高校のエーススプリンター。破壊力のあるスプリントで「白虎」の異名を持つ


日向政人ひゅうが まさと

松平を高校トップクラスのスプリンターに成長させた名アシスト。会津の知将と呼ばれる。

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