真理とのデート②
茨城県の自然博物館は、静かな玄人向けの展示物を想像していた冬希たちの期待を上回り、驚くべきスケールを見せつけていた。
「冬希君、ほらっ!」
「動いている・・・」
トリケラトプス、そしてティラノサウルスと見られる恐竜が対峙していた。今にも戦い出しそうな勢いだ。小さな子供たちの中には、恐がっている子もいるほどの臨場感だ。
「こっちはティラノサウルスだよね。冬希君」
「うん、向こうは、トリケラトプスだね」
「ティラノサウルスの横にいる小さいのはなんだろう」
「えっと、ティラノサウルスの子供だって。大きい方が18歳、小さい方が2歳だって」
冬希たちの前には、展示を見ていた母親とその足にしがみついている男の子がいる。展示の解説を読んでいる冬希の声が聞こえたのか、母親は
「ほら、あのちっちゃい恐竜さん2歳だってよ。あんたと同じよ」
と足元の子に話しかける。しかし、子は母の足を離そうとしない。母親は歩きにくそうだ。
冬希と真理は、顔を見合わせて笑った。
「ナマズだ」
「ナマズだね」
自然博物館とはいえ、水族館並みの水槽と魚の展示もされている。
「ナマズって美味しいのかな」
「蒲焼きとかにするらしいよ。でも淡水魚だから泥抜きとかしないと、生臭くて食べられないんじゃないかな」
真理がそんな話をしてきたからか、水槽で泳いでいるナマズは、確かに丸々太っていて美味しそうに見えた。
「お腹すかない」
真理がそんなことを言った。ということは、真理はお腹が空いているということなのだろう。
「そうだね。博物館にレストランがついてたはずだから、そこで軽く何か食べようか。まだ11時だからそこまで混んではいないはずだから」
冬希は、展示物を見ながら、レストランを目指した。
「おぉ、これは」
一通り展示物も見て、レストランの方向を示す案内板も見えてきたところで、冬希はガチャガチャを見つけた。
種類も豊富だが、冬希の目を引いたのは、甲羅がプラスチックでできているリクガメのガチャと、恐竜のガチャだ。どちらもポーズを変えることができるので、冬希の父などは喜びそうだ。
どちらにするか迷ったが、リクガメが五百円で、恐竜が三百円だったので、恐竜にする。
「ちょっとあれやってみていい‘?」
「あ、面白そう。私もやってみようかな」
冬希は、百円玉を3枚投入し、プラキオサウルスが出ますように、と念じながらレバーを回す。
色付きの半透明のカプセルに入ってはいたが、中身が何かまではわからない。
続いて、真理もお金を入れてレバーを回す。
同じく、色付きの半透明のカプセルが出てきた。中身はわからない。
「とりあえず行こうか」
「うん」
冬希に促され、真理もレストランに向かって歩き出す。
レストランの入り口は、博物館の退場口の外にあるが、入場券の半券があれば再入場は可能らしい。
グッズ売り場も退場口の外にある。冬希は興味があったが、広くないグッズ売り場は入場が制限されていて、行列ができていたので、レストランを出た後に空いていたら入ればいいだろうと思った。
レストランは、昼食にはまだ早いためか、比較的空いていてすぐに入ることができた。
入り口で、冬希はソフトクリーム、真理はドーナツセットを注文して中に入り、窓際の席に座る。
窓からは、美しい景色が一望できた。
「カプセルを開けてみようか」
「そうだね」
冬希が辛抱たまらんと言った感じで切り出し、真理も笑いながらポケットからカプセルを取り出した。
二人はカプセルを開け、バラバラになった状態の恐竜を取り出した。
「なんだろこれ」
「うーん、わからないね」
冬希たちが回したガチャガチャは、4種類の恐竜が入っているもので、二人が組み立て始めた恐竜は、プラキオサウルスでもステゴサウルスでもないことはわかっているのだが、残る2種類、ティラノサウルスなのかアロサウルスなのかがわからない。
「どっちだろ」
冬希が緑色がかった恐竜を組み上げる。
「わかんないね」
真理は赤色の恐竜を組み上げている。
カプセルの中に入っていた説明書は白黒印刷で、ティラノサウルスとアロサウルスのどちらが何色かまでは書いていない。
「・・・あ」
「冬希君、何かわかったの?」
「手が・・・」
説明書では、アロサウルスは、両手が猫の手みたいに丸く握られているが、ティラノサウルスは右手だけ手が伸ばされていた。
「あ、じゃあ私がアロサウルスで」
「俺がティラノサウルスだね」
2つの恐竜を並べてみる。右手の形以外では、やはり外観では違いがわからない。
「そういえば、動いてたティラノサウルスは、首の後ろの辺りに毛が生えていたね」
「ティラノサウルスの仲間の恐竜に毛が生えていたことがわかって、それでティラノサウルスにも毛が生えていたんじゃないかって説が出てきているらしいよ。この博物館では先取りして毛を生やしたみたいだね」
「その子、毛は生えてないみたいだね」
「確かに」
話の途中で、冬希のアイスクリームが届いた。お皿の上にコーンフレークが敷かれており、その上にソフトクリームが乗っている。
待ちきれない真理は、小さな声で歌い出した。
「どどどーなっつ、どどどーなっつ、まんまんまるまる・・・」
「輪っかっか!」
冬希は、恐竜の口をぱくぱくさせながら乗っかった。
「ちょっと、冬希君溶ける前に食べなよ」
「おっといかんいかん、ついうっかり」
「どういううっかりなのよ。しかも恐竜に歌わせてるし」
真理は楽しそうに笑っている。
そんなやりとりをしているうちに、真理のドーナッツセットも届いた。
「輪っかっか・・・じゃないね」
「ね・・・」
皿の上に乗ったドーナッツは、棒状のものだった。
「ぷ・・・」
「あー、おかしい!」
冬希も楽しくなって笑った。真理も腹を抱えて笑っている。
冬希は、中学の頃を思い出していた。中学の頃も、二人はこうやってとりとめもない話をしては、笑い合っていた。
今日は終始、こんな感じだ。すごい展示を見て二人で驚き、感心し、笑った。
淡い恋心を抱きつつも、一歩を踏み出せなかった冬希からすると、高校生になって二人きりで出かけるというのは、本当に夢のように幸せな時間だった。




