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会津若松の白虎

 冬希は、来年度から先輩となる平良潤、平良柊の双子と関宿城まで来ていた。学校から30㎞程の場所である。今日は、集団を牽引する練習として、結構なハイペースで、しかも冬希一人で潤と柊を引っ張ってきた。

 潤はボトルの水を。冬希と柊は、自販機で買った1本のアイスクリームを二人で交互に食べている。


「潤先輩。今度、ひたちなかのエンデューロに出場することになりました」

 冬希は、監督である神崎から指示で、すでにエントリーしているJCSCのレースの前に、2時間のエンデューロに出場することになった。

 冬希のレース経験はまだ2戦で、上級者の出場するレースにはまだ出ることが出来ない。だが、今回のエンデューロは経験によるクラス分けが無く、いろんなレベルの選手が混在するレースになる。草レースとはいえ、トップクラスのアマチュア選手が出場するので、一度見ておけという事だった。

 費用は、神崎高校が出してくれるので、お金の心配は要らない。それはありがたいのだが、そんなレベルのレースに自分が出ていいものかと、不安になる。


「ひたちなかは、良いコースだよ。あと・・・"白虎"がエントリーしてるな」

 潤はスマートフォンでエンデューロのエントリーリストをチェックしているようだ。

「白虎・・・?」

「会津若松高校のスプリンター、松平幸一郎」

会津若松なので白虎か、わかりやすい。

「すごい選手なんですか?」

「山岳は弱いけど、スプリントでは高校自転車界では五指に入ると言われている。今年のツール・ド・ジャパンでも、その後に全日本チャンピオンになる坂東を抑えて1勝を挙げている。これは凄いことだ」

 冬希は、ちょっと間近で見たい気持ちになってきた。


「二つ名持ちってなんか、カッコいいですね」

「よし冬希。お前も俺に何か二つ名をつけてみろ。この俺を象徴するような二つ名だ」

「えっと、『勉強の出来るバカ』・・・?」

「お前、うちのおふくろと同じことを言うんじゃねぇ!」

 柊は冬希に飛び掛かって馬乗りになる、冬希はたまらず俯せになるが、後ろから裸締めで締め上げてくる。柊の母親も、なぜ息子が超ハイレベルな神崎高校に合格できたか不思議だったようだ。

「ヒルクライムで超絶速い俺を褒めたたえる二つ名だよ!」

「くぎぎぎ、しゅうせんぱいくるしいっす。えっと・・・『やまえもん』とか・・・」

「絶望的にセンスが無いな」

 流石に潤も呆れている。お前の子供がかわいそうだと、柊は拘束を解いて憐みの目で冬希を見ている。もしも子供が生まれたら、奥さんになる人に名前を付けてもらおうと冬希は思った。


 レース当日、冬希は常磐線の勝田駅まで輪行でやってきた。駅から自転車で会場に到着。コースは公園などではなく、どちらかというと自動車教習所のようにも見える。どうやら何かの研修施設のようだ。

 貴重品は小銭入れとその中に入れてある交通系ICカードのみ。それはサイクルジャージの背中のポケットに入れ、その他の荷物はリュックに入れて、手荷物預かり所に預けた。

 コースを試走してみる。一周5km弱と言ったところか。コースは幅が狭いところでも2車線分はある。森の中のあたりは、結構アップダウンがある。そしてゴール付近は下り坂だった。これは初めてのパターンだ。ゴールはスピードが上がりすぎないように上り坂に設定することが多い為だ。


 試走を終え、ピットエリアに座り込む。今日は、高校トップクラスの選手が、どれ程のものかを確認するのが目的だ。動画サイトで、ツール・ド・ジャパンの松平選手の勝つシーンを見た。体が大きく、虎というより猛牛のように見えた。ジャージのデザインも覚えたので、レース中に見つけることが出来るだろう。


 そして、スタートの時を迎えた。

人物紹介

■神崎高校■

船津幸村ふなつ ゆきむら

神崎高校のエース。山岳に強いオールラウンダー。2年生


郷田隆将ごうだ たかまさ

一定ペースで走ることに長けたルーラー。強靭な肉体と精神を持つ。2年生

神崎高校へは編入で入ってきた。病気の母がいる。


平良潤たいら じゅん

神崎高校の参謀格。オールラウンダー。1年生


平良柊たいら しゅう

神崎高校の鉄砲玉。山岳での強烈なアタックが得意なパンチャー。1年生

「勉強の出来るバカ」の異名を冬希につけられた


青山冬希あおやま ふゆき

主人公。神崎高校へ入学が決まっている。中学3年生


・神崎秀文

神崎高校の若き理事長。自転車競技部の監督でもある。

過去の出来事から、ツール・ド・ジャパンで一日でもリーダージャージを獲得することに執念を燃やす。



■会津若松高校■

松平幸一郎まつだいら こういちろう。2年生

会津若松高校のエーススプリンター。破壊力のあるスプリントで「白虎」の異名を持つ


・日向政人

松平を高校トップクラスのスプリンターに成長させた名アシスト。会津の知将と呼ばれる。


■中学校■

・荒木真理

冬希の想い人。

自分が目標とする神崎高校に冬希が黙って一人で合格したことにショックを受ける


・安田

冬希の担任。私的な理由により冬希を嫌っている。

穏やかな外見を持つが、人間として問題があり、女子生徒のラブレターを送るという行為が問題となった


・橋口聖子

冬希の副担任。安田の冬希への不当な冷遇に同情し、冬希の神崎高校受験をサポートした


・浜池

自分の職務に忠実な学年主任。頭はバーコード。

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