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平良兄弟

 土曜日になり、冬希は神崎高校の部室棟を訪れた。

 制服で、公共交通機関を使って行くべきかとも一瞬思ったが、自転車競技部を訪問するのに自転車なしで行くのはさすがに思慮が足りない気がして、結局サイクルジャージで自転車に乗って来た。

 入り口で守衛さんに、学校名、氏名、訪問先と訪問目的を告げると、端末で訪問予約を確認してくれ、仮入館証を貸してくれた。帰りにまた来てくれという事と、部室棟の場所も教えてくれた。


 部室棟に「自転車競技部」の看板が掛けてある部屋を見つけた。表に自転車ラックがあり、2台のロードバイクが掛かっている。冬希もそこに自分の自転車を掛ける。知らない場所を訪問することに対して、冬希は少なからず緊張していた。

 入り口に立ち、ノックをしようとすると扉が開き、冬希は慌てて下がった。中から出てきたのは、サイクルジャージ姿の少年だった。小柄で髪はおかっぱ、一瞬冬希は美少女がいると思ったが、凹凸の無い体型が男性であることを示していた。

「ん?なんだお前は」

「青山冬希と申します。神崎先生から呼ばれてきました」

 口をへの字にして冬希を上から下まで値踏みするように見ている。気まずい・・・。すると、奥から別の声が聞こえた。

「監督から聞いてるよ。来年入学で、自転車部に入ってくれるらしい」

 奥から出てきたのは、同じ服装、同じ体型、同じ顔をしたもう一人の先輩だった。違う点と言えば、眼鏡をかけていて、髪は後ろで結んでいる。あと、ちょっと優しそう。

「僕は、平良潤。1年だ。こっちは弟の平良柊。よろしくね」

「よろしくお願いします」

 1年で弟という事は、双子のようだ。いや、4月生まれの兄と3月生まれの弟で同学年という可能性もある。

「監督から、君に色々教えてやってほしいと言われてるんだ。自転車は持ってきている?」

「はい、そこに」

 ラックにかかった自分の自転車を指さす。

「じゃあ、走りながら話そうか」

「えー?こいつも行くの?」

 柊は不満そうに潤を見る。ぷーっとほっぺたを膨らませている。駄々っ子のようだ。

「監督からお願いされているからな」

「俺は嫌だ!一人で先に行くからな!」

 柊は一人で行ってしまい、やれやれという感じで苦笑しそれを見送る潤。

「じゃあ、僕たちも行こうか」

 自転車にまたがり、二人で学校を出ると、風向きを見て「今日は利根川方面へ」と走り出した。


「うわ、横風きついですね」

 利根川のサイクリングロードを関宿方面に向かって走る。利根川側から吹く横風が強い。冬希は潤の真後ろを走っているのに、全く楽にならない。ドラフティングが効いていないようだ。

「横風の場合は、真横、もしくは斜め後ろに付かないと風除けにならないんだよ」

 潤は少しだけ内側を開けてくれた。そこに冬希は滑り込む。

「あ、楽になりました」

「じゃあ、交代しながら行こうか」

 その後、潤は冬希にいろいろなことを教えてくれた。3年生は二人いたが引退したこと、2年生も二人いるが、今日は監督と筑波山へヒルクライムの練習に行っていること。そのほか、自転車ロードレースの基本的なルールや、不文律なども教えてくれた。

 その後、二人は関宿で少し休憩した後、また先頭交代しながら江戸川を下って、利根運河から学校へ戻ってきた。

 しばらくすると、柊も戻ってきた。

「なんで追いついて来ないんだよ!」

 半泣きになりながら文句を言ってくる。完全にべそをかいている。

 どうやら、利根運河を、冬希たちとは反対方向の江戸川方面に行った後、なかなか追いついて来ないので学校に戻り、二人ともいないのでずっと利根川方面から冬希たちを追いかけていたらしい。置いてけぼりを食った子供のようだ。

 ずっと機嫌が直らないので、冬希が

「すみません、先輩。走り足りないので申し訳ないのですが、少しお付き合いいただいてよろしいでしょうか」

というと、一気に上機嫌になり、

「仕方ないなぁ!お前感謝しろよ!」

と言って、みさとの風広場まで3人で往復した。潤はコッソリ冬希に「ありがとう」と両手を合わせていた。

 二人とも悪い人ではなさそうだ。冬希は二人のことが好きになっていた。今まで、あまり先輩というものに恵まれなかった冬希は、こういう人たちもいるのかと、めぐり合わせに感謝した。

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