高校総体自転車ロード 第5ステージ(鹿島神宮〜磯浦海岸)①
第5ステージは、鹿島神宮から海沿いを北上し、スタートから90km地点から登り、峠を越えた後に磯原海岸まで降りてくる、約130kmの中級山岳ステージとなっている。
90km地点までは平坦で、残り40kmあたりから登りが始まり、降り終えたらすぐにゴールという、難易度は高くないコースになっているが、ゴール直前に山岳があるため、スプリンターが勝負するには厳しいレイアウトになっている。
中間スプリントは85km地点にあり、山岳ポイントはこのコースの最高到達地点である115km付近にある。
第5ステージのスタート前、郷田、船津、冬希の3人は、スタートラインの最前列に位置した。
それ自体はいつものことで、他校の選手たちになんら不審に思われることはなかった。
船津は総合2位で、総合優勝争い、もしくは3位までに入り総合表彰台を目指す立場にある。総合タイムでそれほど大きな差がない選手たちが逃げに入れば、逃げ切られた時に表彰台から転げ落ちることになるため、逃げに入ることを阻止する必要があり、そういった意味ではメイン集団のコントロールの一翼を担うことになるはずだ。
しかし、3人とも4賞ジャージを持っておらず、スタート前のかなり早い段階からコース上に並んでいた。
第6ステージは、総合成績から除外されることが決定しているため、総合争いが行われる最後のステージとなり、爪痕を残すために逃げてやろうという中堅どころのチームの選手達も多かった。
しかし、全日本チャンピオンの郷田、全国高校自転車競技会総合優勝の船津、今大会唯一の露崎以外のステージ優勝者である冬希が現れると、快く最前列を譲ってくれた。
この人たちなら仕方ない、という雰囲気が選手達の間には出来上がっていた。
スタートラインのさらに前には4賞ジャージの獲得者の4人が並んでいる。
総合リーダーの露崎、スプリント賞の坂東、繰り下がりで山岳賞の岡田、新人賞の千秋だ。
号砲が鳴り、審判車が走り出す。
パレードランが始まった。
実況『今日は6つあるステージの中でも、1番長いレースになります』
解説『逃げが早く決まりすぎると、中間スプリントポイントまで動きがないかも知れないですね』
実況『そうなると、我々も間を持たせるのが大変ですね』
解説『我々にとっても、我慢のステージになるかも知れません』
前半は、ひたすら長い平坦区間があり、その後で一つだけ登りがあり、そこを下りた先がゴールになっている。ラストに登りがあるため、スプリンター向けのステージではないが、山頂ゴールではないため、クライマー向けというわけでもない。
有力選手達の中でも、坂東や露崎のような、比較的山岳も登れるスプリンターが有利と見られている。
逃げ集団にもチャンスがあるため、逃げ切りで一矢報いようとする選手や、逃げ集団に加わることで最後に目立っておこうとする選手達で、激しい逃げ合戦が行われることが予想されていた。
スタートラインから4kmで、アクチュアルスタートが切られた。
まず、4人がアタックを仕掛けて、それをさらに3人が追っていく。
しかし、監督から逃げろと指示を受けている選手達はもっと多いようで、逃げたい選手達が次々に飛び乗り、結局メイン集団とつながった状態となり、最初に仕掛けた4人と、その後の3人も諦めて集団に吸収された。
次に、5人が飛び出したが、この中に総合タイムで3分程度の遅れの選手が含まれており、慶安大附属の阿部、植原が追って、この逃げも失敗した。
「郷田、青山。清須高校の動きが悪い」
船津が、先ほどのアタックを見て言った。
先ほどの逃げは、真っ先に清須高校が捕まえにいくところだったはずだった。無論、追いかけてはいたが、出だしが悪く、慶安大附属のアシスト達に任せることになってしまっていた。
洲海高校に至っては、尾崎を失って千秋がエースとなり、そのアシストとしては丹羽しかいないため、逃げを捕まえることに対して協力すらしていない。
2名がアタックをかけた。総合100位台の選手達だ。追う選手はいない。実力的に、捕まるのは目に見えているからだ。最初から捕まるとわかっているアタックに便乗しようとする者はいない。誰だって無駄足を使いたくない。
だが、この逃げを積極的に捕まえにいく総合有力勢がいた。
神崎高校だ。
郷田、冬希、船津の隊列で、20秒ほど離れたこの2名と、一気に差を詰めにいく。
捕まえた、と誰もが思ったが、この3人はそのままの勢いで捕まえた2名を従え、ハイペースで走り続けた。
「あいつら、仕掛けやがった!」
坂東は、舌打ちをした。
メイン集団は、パニックになった。逃げを捕まえに行ったと思っていた総合有力チームが、そのまま逃げに乗ってしまったのだ。
「この逃げは決まる」
逃げ集団には冬希がいる。冬希がスプリントポイントを上位で通過すれば、逆転で坂東はスプリント賞を失うことになる。坂東としては、逃げを潰すか、逃げ集団に加わるしかないが、坂東は直感的にこの逃げが決まると思った。
決まると思った理由は、考えればいくらでも湧いてくるだろうが、それよりもまず逃げに加わることが先決だ。
「裕理、天野、俺を運べ」
坂東の弟、裕理と天野が、逃げ集団を追いかけ、自分達も逃げに混ざろうとする一団に加わった。
パニックに陥っていた総合有力勢も、ようやく追いかけ始めた。しかし、メンバーが1名欠ける洲海高校、前日の疲労から動きが悪い清須高校、慶安大附属も前日の尾崎の捨て身のアタックへの対応で疲労が残っている植原も反応ができていない。
何より、スプリンター系のチームが、逃げの追走に一切手を貸していない。
スプリンター系のチームが逃げを追いかける理由は、スプリント賞争いのための中間スプリント狙いか、タイムアウトによる失格を避けるため、逃げの人数を絞るというのがある。
しかし、スプリントポイントは、露崎、冬希の2名以外は既に坂東に20ポイント以上差をつけられており、この二人以外に逆転の可能性はない。
なので、スプリンター系チームは、今日はエース、アシストとも体力を温存し、第6ステージのステージ優勝に照準を定めていた。
タイムアウトについては、今日は距離が長く、ゴールまでの時間が長いのと、コースの難易度が高くないため、普通に走っていればそれほど心配はない。無理して逃げを追う必要はなかった。
スプリンター系チームの協力を得られない総合上位のチームは、自分達だけで神崎高校を追う羽目になっていた。
今日がカクヨムコンの読者選考の最終日です。
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