高校総体自転車ロード 第4ステージ 表彰式
露崎、千秋に遅れること7秒、船津がゴールラインを通過した。
自転車ごとズッコケている千秋に対して、露崎が苦笑しながら小さくガッツポーズしている姿を見て、露崎が勝ったのだろうと思った。
コースはかなり狭くなっていた。船津は、狭くなっている区間に先に進入する千秋の後ろ姿を見ていた。このコース状況で露崎がどうやって勝ったのか、全く想像がつかなかった。
さらに数秒遅れて清須高校の岡田がゴールする。こちらは、他者を気にする余裕はないようだ。
係員が寄ってくる。
「次の選手がゴールしたら、今いる選手はそのまま下山してください」
「かなり狭くなっていて、すれ違えないと思うのですが」
登ってくる選手がいた場合、はち合わせになって動けなくなるのではないかと船津は思った。
「次の選手がゴールした後は、しばらく離れているので大丈夫です。その間に下ってください」
ゴールの先は、山頂の展望台への行き止まりになっており、100名超の選手が留まれる場所がない。ゴールした選手から、合間を見て下山していくしかないということだ。
少し待つと、丹羽と植原が先頭交代しながら登ってきて、ゴールした。
露崎、千秋、船津、岡田、それにゴールしたばかりの丹羽と植原を含めた6人は、係員に急かされるように下山していった。
248号線に出ると、駐車していた車たちはいなくなり、道幅は広くなった。そこから、待機していたバイクの先導で、船津たちは登ってきたばかりのコースを下りていく。
ヒイヒイ言いながら登ってくる選手たちとすれ違う。
郷田、冬希ともすれ違った。二人とも、疲労を溜めないようにのんびりと登ってきている。
それに対して、今日の登り始めまで全力で曳き続けた山賀、赤井の表情は疲労の色が濃い。
前を走る露崎も、多少は疲労しているように見える。
勝負は明日だと思った。第6ステージは、総合成績に影響しないことが決まっている。明日の1レースでだけ、総合成績で露崎を逆転できれば、その後露崎にひっくり返す機会はもうないのだ。
全国高校自転車競技会で、船津は総合優勝した。
その時には、追われる立場だった。
どういう戦い方で来られると総合リーダーは嫌なのか、船津は身に染みてよくわかっていた。
下山して、千秋と丹羽がスタート地点の旧中学校に戻ると、そこにはニュートラルカーに便乗して下山した尾崎の姿があった。
右腕には、スタート時とは違う色の痛み止めの湿布が巻かれている。
もはや右手でブレーキを握れない尾崎に、自力での下山は無理だった。
「千秋、レースはどうだった?」
結果はどうだったか、という聞き方をしないのが尾崎らしいと丹羽は思った。
「ひどい話っすよ」
千秋は、ゴールでのことの顛末を尾崎に話して聞かせた。
「道路の外に出てゴールしていったのか」
流石に尾崎も驚いた。途中で降りた尾崎は、ゴール前がどういう状況だったのか見ていないので知らない。
「その割には、あまり悔しそうには見えないな。千秋」
「いやぁ、まぁゴールのかなり前からずっと露崎さんにケツを突っつかれてましたし、道が細くなかったら、あっという間に露崎さんに千切られてたのは間違いないので、ゴール前接戦になっただけでも運が良かったっす」
サバサバした表情の千秋の様子に、尾崎と丹羽は顔を見合わせた。
全員が下山し終わってはいなかったが、表彰式は始まった。
ステージ優勝、総合1位に加え、山岳賞まで露崎が獲得した。
新人賞は変わらず千秋で、新人賞の表彰式の途中に下山してきた坂東が、スプリント賞の表彰を受けて、最も距離の短く、最も厳しい第4ステージが終わった。
■第4ステージ
1位 露崎隆弘 慶安大付属 0:00
2位 千秋秀正 洲海高校 +0:00
3位 船津幸村 神崎高校 +0:07
4位 岡田敏彦 清須高校 +0:11
■総合成績(ボーナスタイム含む)
1位 露崎隆弘 慶安大付属 0:00
2位 船津幸村 神崎高校 +0:24
3位 岡田敏彦 清須高校 +0:28
4位 千秋秀正 洲海高校 +0:29
■スプリント賞
1位 坂東輝幸 佐賀大和 79pt
2位 青山冬希 神崎高校 78pt
3位 露崎隆弘 慶安大付属 71pt
■山岳賞
1位 露崎隆弘 慶安大付属 30pt
2位 千秋秀正 洲海高校 22pt
3位 船津幸村 神崎高校 16pt
4位 岡田敏彦 清須高校 16pt
■新人賞(1年生総合成績)
1位 千秋秀正 洲海高校 +0:07
2位 植原博昭 慶安大付属 +4:05
3位 青山冬希 神崎高校 +8:58
4位 赤井小虎 清須高校 +9:03




