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高校総体自転車ロード 第4ステージ(八溝山ヒルクライム)①

 第4ステージは、超短距離のヒルクライムとなっていた。

 冬希も含め、各選手ともスタート前にローラー台で心拍数を上げておくことに余念がない。

 スタート直後から激しいレースになる。距離が短いからといって、楽だとは限らない。

 総合上位選手たちも、スタート時刻が近づくにつれて、緊張感が高まっていった。

 17kmしかない今回のステージ。わずかなミスで、これまで積み重ねてきたものが、すべて失われる可能性もある。パンクや落車、他人の落車に巻き込まれただけでも、1年間辛い練習に耐え、準備してきたことが、すべて無駄になってしまう可能性もあるのだ。プレッシャーも段違いだ。

 ただ、スプリンターたちは気楽なもので、今日のレースは制限時間がかなり緩和されている。

 距離が短い分、レース時間が短くなり、通常の15%という基準では、ほとんどの選手が失格になってしまうため、今日だけ50%と、ほとんど制限時間がないのと同じぐらいのレベルで緩和されていた。

「えっと、27番グリッドってどこなんでしたっけ?」

 冬希が、地面を見ながらウロウロしている。

「前後の選手で探した方が早いかもしれん。俺は清須高校のゼッケン2番山賀の前で、ゼッケン3番赤井の後ろと」

 郷田は、地面を見ながらのスタート位置探しは諦めたようで、スタート位置を見つけた選手を基準に考えようとしていた。

 今日のスタートは、総合順位の順番で、F1のスターティンググリッドのように決められた位置から一人一人間隔を空けて一斉に本スタートが切られるルールになっている。

 ただ、ビニールテープで決められたスタート位置の番号表示が小さく、自転車に乗った状態では見えにくいので、自分のスタート位置を探すのに全員往生していた。

 上位10名ぐらいは、流石に簡単に自分のスタート位置を見つけられたが、真ん中が1番前で、次に1番右、次に1番左と3列にスタート位置が設定されており、選手たちも慣れないスタート方式が一層混乱を招いていた。

 この事態に、1番焦っていたのは、洲海高校の尾崎だった。

 尾崎は、痛み止めを飲んでスタート位置に来ており、可能な限り早くスタートして、痛み止めの効果が切れる前にゴールしたかった。

 しかし、尾崎の願望も虚しく、レースはスタート時刻を30分過ぎて、ようやく全員が指定のポジションに着くことができた。


 スタート地点に用意された大きなスクリーンに、F1のシグナルのような映像が表示され、赤いシグナルが1つずつ順番に3つ点灯した後、それがグリーンシグナルに変わる。

 冬希は、前の方の動きを注視しながら、慎重にスタートを切った。

 予想に反して、露崎、岡田、尾崎を含む前方でスタートした総合上位勢は、全員パレードランでも始めるのかと思うほど、ゆっくりと走り出した。

 船津は、スタート直後に郷田と冬希と合流するために、あえてゆっくりとスタートすると言っていたが、どうやら他のチームも同じようで、まずはチームメイトとの合流を優先させていた。

 主催者の目論見は見事に外れ、スタートして500mも進めば、いつものプロトンが出来上がっていた。

 メイン集団のペースが落ち着いているのを見て、山岳逃げ職人の秋葉と、日南大付属の逃げの常連、小玉が二人でアタックをかけ、集団を引き離しにかかる。

 メイン集団はこれを容認するかに見えた。

 しかし、スローペースもここまで。総合上位勢としては、ごちゃごちゃしている集団のまま登りが始まると、ただでさえ狭い道なのに、接触や落車の危険度が一層上がるため、可能な限り集団を絞っておきたいと思った。

「山賀、行け」

 インターハイ3連覇中の清須高校のエース岡田の指示が飛び、2年生の山賀が勇躍して集団を曳き始めた。


「畜生!」

「あぁ、ダメだ・・・」

 秋葉と小玉は、登り始めまでなんとか持ち堪えたい。登り始めればまだチャンスはあると、全力で先頭交代を繰り返しながら逃げ続けたが、清須高校が主導権を握ったメイン集団に、なす術もなく飲み込まれた。

 山賀と赤井は、岡田の前で先頭交代しつつ、メイン集団を牽引する。岡田を手段前方で登り始めさせるためのポジション取りの動きだ。

 他のチームは、とても前に出られない。

 メイン集団も、どんどん絞られていき、スタート時点で120名超いたはずが、すでに25名ほどしか残っていない。

 総合上位勢の学校と、それ以外は各校のエースクラスのみ。

 それほど清須高校の引きは強烈だった。


 スタートして9kmほど進むと、県道28号線から県道248号線に入る。ここからが登り始めになる。

 主導権を取っていた清須高校のペースが一旦落ち着くと、立花、舞川、近田の福岡産業トレイン、郷田、冬希、船津の神崎高校トレイン、阿部、植原、露崎の慶安大附属トレインが並びかけた。

 横に広がり、並んで登っていくものと思われた。

 しかし、各校の間を縫って、洲海高校の尾崎が一気にアタックを仕掛けた。

 ゴールまで残り7.5km地点でレースが大きく動いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 尾崎は身体の痛み押して他のチーム潰しに入ったか ハードだ
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