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高校総体自転車ロード 第3ステージ 表彰式

「露崎さん」

 植原は、露崎に声をかけた。

 露崎は、ゴールの先にある筑波山つつじヶ丘駐車場に用意された待機エリアで、クーリングダウンもせずに街を見下ろしていた。

 1年以上ずっとフランスに居て、大会終了後にすぐにフランスに戻ることになる露崎は、山から見下ろす日本の街並みを心に焼き付けていた。

「勝ったんですね」

「まあな。だが思ったほどタイム差はつけられなかった」

「あのパンクから、優勝まで持っていくことが出来ただけでも、十分だと思います」

「ニュートラルカーのスタッフの人の腕に感謝しなきゃな」

 ディスクブレーキのホイールの取り外しや取り付けは、リムブレーキのそれよりも時間がかかる。

「お前もよくやってくれた。お疲れだったな」

「僕は、あの後はグルペットでゆっくり帰ってきましたから」

 植原は、冬希や秋葉を含む20人ほどの、制限時間内にゴールを目指す集団、グルペットに入って疲労が残らない程度の走りでゴールまで帰ってきた。

 グルペットの中では、1番早い集団だったので、一応露崎から3分ほどの差でゴールできた。

「ローラー、乗りますか?」

「ああ、表彰式まで乗っておくことにするよ」

 露崎は、慶安大附属のタープテントがある方向に向かって歩き始め、一歩後ろから植原も続いた。


 露崎と尾崎がゴールした後、神崎高校の船津は、インターハイ3連覇中の清須高校のエース、岡田と共に、露崎から4秒遅れでゴールした。

 岡田にもタイム差をつけられる可能性もあったのだから、傷は最小限に抑えた。

 待機エリアのテント内で、ローラー台でのクーリングダウンを行なっていると、グルペットでゴールした冬希が入ってきた。

「船津さん、お疲れ様です」

「青山、随分と山も登れるようになってきたな」

「今日は多分、たまたま調子が良かっただけですよ」

 冬希はスプリンターで筋肉質なので、本来は登れる体ではない。それにしては、1つ目の山岳でメイン集団に残れていたのは、かなりの進歩だと船津は思っていた。

「それに、メイン集団に残れたからといって、潤先輩や柊先輩のように、船津さんをアシストすることもできませんでしたから・・・」

 潤や柊といった、登れるアシストだったらもっとできることがあったのではないかと思っていた。

「いや、今日は誰がいてくれてもどうにもならなかったよ。並ぶ間も無く、一瞬で露崎に抜かれていた」

 瞬発力もそうだが、登り始めで1分以上差があったものを、余裕で追いつかれたという点も、船津には衝撃的だった。

「登りも強いなんて、もう手がつけられませんね」

「まあ、諦めるのはまだちょっと早いだろうから、また対策を考えよう」

 船津の表情にも言葉にも、悲壮感は感じられない。

 冬希は、前輪を外してローラー台に固定し、後輪をローラーに乗せてクイックリリースを後ろの金具に固定すると、サドルに跨り、ボトルの水を飲みながらペダルを回し始めた。


 洲海高校のタープテントでは、尾崎、丹羽、千秋の3人がクールダウンを行なっていた。

 千秋は、直ぐに飽きたのか、ローラー台から降りてスマホをいじっている。尾崎にも丹羽にも、クールダウンが必要なほど千秋が疲れているようには見えなかった。

 尾崎は、クーリングダウンをしているうちに、右肘に痛みを感じるようになってきた。

 ゴール前の興奮状態から気持ちが落ち着いてくることで、感じなくなっていた痛みや疲労が出てきたようだ。

 痛みを感じる右肘は、1つ目の山岳の上りで落車したときに、肘から落ちてしまった時に打ったようで、擦過傷の痛みではなく、もっと骨の奥の方から来ているように感じた。

 右手でハンドルや、ブレーキを握ると、ずんという感じの痛みが右腕に走る。

 近田の後ろ、6位でゴールした千秋、そしてグルペットでゴールまで戻ってきた丹羽に、腕の痛みについて話をする。

「救護用のテントで、一度見てもらった方がいい」

 丹羽が付き添って尾崎と共にテントを出ようとすると、千秋はスマホをいじりながら、いってらっしゃいと、タープテントに留まろうとしていた。

「何をしている千秋。お前は表彰式だ」

「へ?」

 丹羽の声に、千秋は腑抜けた返事をした。

「千秋、おめでとう。お前が今日の時点での新人賞だ」


 今日のステージの結果で、スプリントポイント賞と新人賞のジャージ着用者が代わることになった。

 冬希がグルペットでゴールしたことで、最後までステージ優勝争いの場にいた千秋が1年生の総合1位となった。

 また、スプリント賞は、中間スプリントを1位通過した坂東が獲得ポイントトップとなり、10位通過した冬希を逆転した。

 冬希は2つの賞の両方でジャージを失った。


■第3ステージ

1位 露崎隆弘 慶安大付属 0:00

2位 尾崎貴司 洲海高校 +0:00

3位 岡田敏彦 清須高校 +0:04

4位 船津幸村 神崎高校 +0:04


■総合成績(ボーナスタイム含む)

1位 露崎隆弘 慶安大付属 0:00

2位 尾崎貴司 洲海高校 +0:09

3位 岡田敏彦 清須高校 +0:14

4位 船津幸村 神崎高校 +0:15


■スプリント賞

1位 坂東輝幸 佐賀大和 79pt

2位 青山冬希 神崎高校 78pt

3位 露崎隆弘 慶安大付属 71pt


■山岳賞

1位 秋葉速人 月山高校 12pt

2位 露崎隆弘 慶安大付属 10pt

3位 尾崎貴司 洲海高校 8pt

3位 坂東輝幸 佐賀大和 8pt

4位 千秋秀正 洲海高校 7pt


■新人賞(1年生総合成績)

1位 千秋秀正 洲海高校 +0:00

2位 青山冬希 神崎高校 +2:58

3位 赤井小虎 清須高校 +3:03

4位 植原博昭 慶安大付属 +3:05


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