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高校総体自転車ロード 第3ステージ (霞ヶ浦〜筑波山)

 第3ステージは、定刻通りのスタートを切れた。

 第6ステージのルール説明で、選手達から不満が出なかったからだ。

 露崎のいう通り、強豪校のエースが事前に話していたのと大きく異ならないルールに落ち着いていた。

 それは、大会運営側や監督達も、選手達が危惧していたような問題について、同じ認識を持っていたためだが、強豪校で事前に話し合っていたことが無駄だったかと言うと、そういうわけでもなかった。

 大会運営側から第6ステージについてのルールが説明された時、その場で議論するのではなく、強豪校のエース達は事前に話し合っていた、想定の範囲内のルールで収まっていたため、すんなり受け入れることができた。

 強豪校から異論が出なかったため、他の参加校達からも反発はなかった。

 第6ステージは、総合争いをするチームにとっては不安材料でしかなかったし、最終ステージで花を咲かせたいスプリンターチームにとっては、ガチンコ勝負に総合争いを持ってきてほしくなかった。


 第2ステージと変わらない4賞ジャージの選手達が先頭でスタートしたが、すぐに逃げたい学校によるアタック合戦が始まった。

 第1、第2ステージは平坦だったので逃げ切りは最初から難しかったが、第3ステージはスタートから30km超は平坦だが、そこから筑波山を2回登るコースになっている、山頂ゴールの山岳ステージになっており、ど平坦のステージに比べて、逃げ切り易いステージになっている。

 スプリンターにとっては、試練のステージになるため、序盤から積極的に逃げをつぶしにかかっている。

 大人数で逃げられた場合、レース自体のペースが速くなり、「先頭のゴールタイムの15%以内」と定められた制限時間により、失格になる可能性が高くなる。

 ゴールまでゆっくり走ってほしいスプリンターチーム達は、大人数で逃げられては困るため、必死に人数が多くなりすぎた逃げを潰しにかかっていた。

「なあ、青山」

 激しいアタック合戦の中、涼しい顔をした露崎が冬希に話しかけてきた。

「なんですか」

 冬希は、不満そうに露崎を見返した。昨日の真理の件をいまだに根に持っていた。

 表彰式に向かう前、冬希は自分が真理に何を言おうとしたのか、自分でもよくわかっていなかった。そもそも、春奈に抱いているもの、真理に抱いているものがそれぞれ恋愛感情なのかどうかもわからないのだ。女の子のこともよくわからない。冬希が知っている女性は、強烈な個性を持っている姉ぐらいのものなのだ。

「なあ、青山、郷田ってすごいよな。あいつを俺にくれないか?」

 想定外の話を振ってきた露崎に、冬希は反射的に、あげませんと言いかけたが、露崎の目に冗談以外の色が見えたので、躊躇いつつ聞き返した。

「マジですか?」

「マジマジ」

 逃げ潰しは、リーダーチームである慶安大附属の、露崎以外のメンバーとスプリンターチームが行っており、郷田は船津とメイン集団の後方にいる。

「一応、どういうことか聞いてもいいですか?」

「今度俺は、フランスの結構デカいチームの育成チームに入ることになっているのは知っているか?」

「なんとなく」

「チームのランク順に、ワールドチーム、プロコンチネンタルチーム、コンチネンタルチームという順になっているんだけど、俺が入るところは、プロチームが若手の選手育成用に作ったコンチネンタルチームなんだ」

「そこで成果を出せばプロチームに昇格できるんですね」

「ああ、話が早くて助かる」

 その程度は、自転車歴の長くない冬希でも想像できる。

「実は、そのコンチネンタルチームの練習に参加させてもらったりしてるんだけど、全然レースに出させてもらえないんだよ」

「はぁ」

「俺もよくわかってなかったんだけど、プロの選手って、チームに入る時には大体自分のアシストとかを連れて入ってくるみたいなんだ。ワールドチームで活躍する選手になると、移籍する時に3、4名の選手や、栄養士、マッサージャーを引き連れてチームを移ることが殆どなんだそうだ」

「露崎さん、そういう仲間はフランスにいるんですか?」

「いないんだなぁこれが」

 冬希は、漸く話が飲み込めた。

「もしかして、わざわざフランスから戻ってきたのって、一緒にコンチネンタルチームに入ってくれるアシスト選手を探すためだったんですか?」

「ご名答!」

 露崎は、チーム代表に、レースに出せと直談判した。お前のアシストは誰がやるんだと言われた時、露崎のために走ると言った選手は皆無だった。チームには、エースかそのエースのお抱えのアシストしかおらず、自分のエースの地位を脅かす選手の為に働こうとする者はいなかった。

 自分のエースが活躍して、プロコンチネンタルチームへ昇格すれば、アシストの自分達も昇格できる。露崎は邪魔な存在だった。

「一人で大丈夫だと、アシスト無しでレースに出たけど、ゴールが近くなるともうプロトンの前の方に居場所がなくって。誰も入れてくれねぇの。無理やり入ろうとして、コース外に弾き出された」

 日本では、露崎はネームバリューがあるので、集団の前の方に割り込もうとしても、すんなり入れてもらえる。ダメだと言える選手は、殆どいない。

 だが、海外では無名な露崎は、勝負するところまでも行けなかった。

「実力で負けてる気はしないんだけど、やっぱりアシストがいないとなぁ。俺も自分の仲間をつくらないと、全く勝負にならないんだよ」

 海外で戦っている露崎が、なぜわざわさ日本の高校生の大会に参加しているのか、冬希は全くわかっていなかったが、漸く謎が解けた気がする。

「坂東さんとかいいんじゃないんですか?」

「実力は申し分ないんだけどな。あいつが誰かの下で働くような男だと思うか?」

「確かに」

 冬希は考えた。郷田の件については、自分で勝手に断るわけにもいかず。つまり露崎は郷田を紹介しろと言っているのだろう。いや、むしろ説得しろと言われている気がする。

「とりあえず、郷田さんと話をする場をつくりましょうか」

 冬希には、郷田がどれぐらい海外の自転車競技に関心があるのかわからなかった。だが、話をしてみるぐらいはいいのではないかと思った。

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