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高校総体自転車ロード 第2ステージ(銚子大橋〜大洗港)②

 逃げ集団の4名、坂東、秋葉、四王天、小玉は、均等に先頭交代を繰り返しながら、メイン集団との差を広げにかかった。

 メイン集団は、総合リーダーの露崎を擁する慶安大附属がコントロールを始めていた。

 阿部、植原、露崎の順で、その後ろは清須高校の山賀、赤井、岡田の3名がつけているが、コントロールに参加するつもりはないようで、露崎達の動きを静観している。

 その後ろは、神崎高校の郷田、船津、冬希と洲海高校の丹羽、尾崎、千秋が並行して走っており、その後ろはスプリンターチームが占めていた。

 逃げ集団とメイン集団との差は、4分まで広がっている。

 現在の地点から40kmほど先に中間スプリントポイントがあり、このままでは逃げている坂東に1位通過20ptを奪われてしまうことを危惧したスプリンターチームが、協力して逃げ集団を追い始めた。

 一般的には「10kmで1分差なら追いつける」と言われており、40kmで4分差は、まだ射程圏内といえる。

 松平幸一郎を擁する会津若松高校、草野芽威を擁する八雲商業、土方一馬を擁する函館第一高校、柴田健次郎を擁する富士吉田工業、他にもスプリント賞を狙うチームのアシスト達は、集団の前に上がってきて、先頭交代をしながら逃げ集団を追い始めた。


 逃げ慣れている秋葉、四王天は、中間スプリントポイントまでに追いつかれないことが重要だと思っていた。

 中間スプリントポイントの1位通過を狙うスプリンターチームは、第1ステージで、中間スプリント2位通過で17ptを持っている坂東を、中間スプリントポイントまでに捕まえたいと思っているはずだ。

 逆に、中間スプリントポイントまでに捕まえられないとわかれば、一旦諦めて、ゴールが近づくまでは現在の逃げ集団を捕まえにくることはないはずで、逃げ集団から逃げ切り勝利をあげる選手が出る可能性が、格段に上がる。

 早めに逃げ集団を捕まえてしまうと、本当は逃げたかった選手達が我先にとアタックを始め、そこからまたアタック合戦が始まり、メイン集団の選手達が疲弊してしまう。それは、メイン集団にいる総合上位勢やスプリンターチームも、誰も望んでいないことだった。

 そこで、秋葉、四王天、小玉は、モトバイクがホワイトボードに書いて定期的に見せてくれるメイン集団とのタイム差を注視しながら、ペースをコントロールしていたが、メイン集団が全く追ってこないことに違和感を感じていた。

 中間スプリントポイントまで残り30km、20km、10kmと近づいても、タイム差は4分を切るどころか、5分に達しようとしていた。

「どういうことだ」

 秋葉、四王天、小玉は首を傾げ、平然としている坂東を見る。

「坂東、お前何かやったのか?」

 秋葉が怪訝そうに坂東に問いかけた。

「俺は何もやってねえよ。俺はな」

 坂東は不敵な笑みを浮かべている。事実、坂東自身は何もやっていなかったし、何の指示も出していなかった。だが、メイン集団で起きていることについて、予想はついていた。


 メイン集団のペースが上がらない。

 中間スプリントを狙うチームが、前方を固めているにもかかわらず、逃げ集団との差が縮まらないどころか、広がりつつある。

 問題は、メイン集団の先頭から4番手に坂東のチームメイト、佐賀大和の天野優一が入っていたことだった。

 メイン集団前方は、確かにスプリンターチームのアシスト達が占めていたが、4番目にいる天野が先頭交代に参加しないことで、ぞろぞろいるアシスト達の中で、天野より前にいる3人で先頭交代せざるを得ない状態になっていた。天野は、故意にアシスト達の先頭交代を妨害する意図で、メイン集団の前方に位置していた。

 逃げ集団は4名、メイン集団は3名で先頭交代をおこなっており、人数の上では、逃げ集団の方が有利になる状況を天野が作り出していた。

 インターハイ3連覇中の清須高校でエースの岡田は、上手いなと、天野を見て思った。

 スプリンターチームのアシスト達も当然一枚岩などではなく、自分のチームのため、隙を見て自分より他人を働かせたいと思っているような連中ばかりだ。好き好んで先頭集団を牽きたいなどとは思っていない。

 そういった心理を逆手に取り、天野は自分より後ろの選手達に、先頭を牽かなくても仕方ないと言い訳できる状況を作ってやっている。

 岡田は動くつもりはない。別に逃げ集団の中から逃げ切る選手が出ても、総合成績には影響がない。総合タイムで遅れている選手たちの逃げだからだ。

 ところが、逃げ集団が中間スプリントポイントを通過した時点でタイム差が5分に広がり、ついに動きが出た。

 動きが出たというか、メイン集団の前を走っていた大会運営車から、運営委員がスピーカーでタイム差が広がりすぎているので、いい加減にしろというお叱りの言葉が飛んできた。

 大会運営側としては、警察に申請している道路使用許可の関係上、早くレースを進め、早く道路の通行止めを解除する必要がある。今日のレースは、運営側が想定しているペースより、かなり遅れが発生していた。

 それに、逃げ集団に大差をつけられての逃げ切りが発生すると、自然とタイムアウトで失格になる選手も増えてくる。明日以降のレースの継続に関わってくる。運営者が、顔を真っ赤にして選手達を叱りつけるのには、そういう背景があった。

 我に返ったメイン集団の選手達、特にスプリンターチームのアシスト達は、急激にペースを上げ、スプリンターチームによる中間スプリントポイント争いも決着し、逃げ集団を本気で追い始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] この作品のこういう心理戦とか、大人の事情が競技に影響するところとかがほんとに面白い
[一言] 運営から怒られること、あるのか… 千葉⇔大洗間は結構車通り多いから仕方ないですね
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