セレクション:個人タイムトライアル②
受験番号は、五十音順になっているらしく、冬希は一番最初の出走となっていた。
個人タイムトライアルのスタートの要領はわかっている。袖ケ浦で経験済みだ。
渡良瀬遊水地の中央エントランスにあるスタートラインに立つと、谷中湖の中央を通る道が見える。
係の人が、指でカウントダウンをしていき、GOサインが出たところでスタートした。
いきなり全力では踏まない。大体80%を意識して踏む。右から吹く風が強い。
ゴール前では強烈な向かい風になるだろう。そう思うと冬希はげんなりした。
中の島まで渡ると、左に進路を取る。追い風でかなりスピードに乗った。呼吸もそこまで苦しくない。調子はいいのかもしれない。
スタートして2㎞程過ぎたところ、湖岸に差し掛かったあたりで、冬希は背後の音に気が付いた。
もう追いつかれた。だが抜いていかない。冬希を風よけに使って休んでいるようだ。
三叉路にさしかかり、係の人が左へと誘導する。だが、係の人によるドラフティングに対する注意は無い。
暫くすると、冬希の後ろに張り付いていた受験者は、冬希を追い越していった。
追いすがって背後に付けば、多少はタイムを稼げたかもしれない。
だが、冬希は自分のペースを守ることにした。
それに、冬希が体験した個人タイムトライアルは、ドラフティングが禁止されていた。許可されていたとしても、自分の知っているルールを守ることにした。
その後、3㎞付近で同じようにもう一人の受験者が追い付き、しばらくドラフティングをして、また追い抜いて行った。残り500m付近では、3人目に追い付かれ、ゴール直前まで後ろに張り付かれた。
強烈な向かい風で、冬希はへとへとになっていた。結果も芳しくない。何しろ、15秒差でスタートした3人に抜かれたのだ。最低でも45秒遅れということにはなる。
ゼッケンと計測タグを返却し、芝生に大の字になる。気持ちいい。
やれることはやった。結果は残念だったが、ドラフティングを使わなかったことも、妙にスッキリした気分にしてくれている。
全選手の走行が終わると、受験者は学校名の入ったバスに乗せられ、面接の為、神崎高校へ移動となった。自転車は、親の車で来た受験者以外は、一緒に学校まで運んでくれることになった。
面接は3つの教室に分けて行われた。その意味は、後でわかることになる。