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高校総体自転車ロード 第1ステージ 結果

 春奈は、乗馬クラブに居た。

 少しでも馬に乗って、以前の感覚を取り戻そうとしていた。そうすることで何かを掴める気がしていた。

 練習を終えると、相棒ウエスタンブルー号の馬装を解き、馬を丸洗いして汗こきで水気を切る。

 タオルで馬体を念入りに拭くと、夏の暑さもあってあっという間に乾いた。

 馬を馬房に入れ、飼い桶にヘイキューブと呼ばれる5cm四方のブロック状の草の塊と、ペレットと呼ばれる配合飼料を入れる。他の馬達は、既に昼食用の飼料に貪りついていた。

 ウエスタンブルーは、鼻でヘイキューブを全て飼い桶の外に弾き出すと、ペレットから食べ始めた。

「相変わらずだな君は」

 春奈が怪我をする前からの、ウエスタンブルー流の食べ方だ。

 ふと、時計を見ると、12時を過ぎている。インターハイ自転車ロードで、ゴールしていてもおかしくない時間だ。

 春奈は、クラブハウスに戻り、更衣室のロッカーでスマートフォンを取り出すと、スポーツニュースのアプリを開く。緊張しながらインターハイのタブを選択すると、そこにはこう記載されていた。

『露崎圧勝、総合リーダーへ。青山はステージ3位もスプリント賞、新人賞ジャージ獲得』


「お前でも無理だったか」

 冬希のもとに、松平、草野がやってきた。

 二人とも疲弊している。負け方が良くなかった。圧倒的な差を見せつけられた。精神的な疲労もあった。

「あれは勝てないですね。明日以降、ちょっと考えます」

「それでも勝つ方法を考え続ける点はさすがだな」

 松平が苦笑する。松平が初めて露崎に負けた時は、次にどうやって勝つかなど、もう考えられなかった。

「だが、明日も厳しいかもな。ゴール前、露崎は左右を振り返っていただろう。あいつは去年もそうだった。必要最小限の力で勝とうとする。可能な限り翌日に疲労を残さないんだ」

 草野が、口惜しいといった感じで言った。

「うーん、疲れさせて勝つのは難しそうですね」

 冬希は考える。この調子で露崎の疲労が蓄積するまで待っていたら、間違いなくインターハイが終わってしまうし、何より露崎が潰れる前に、他の選手全員疲労で潰れているだろう。

 自分一人の考えではどうにもならない。神崎や船津、平良潤など、いろいろな人の意見を聞いてみようと、冬希は思った。


「膝か」

 インターハイ3連覇中の清須高校のコーチである藤堂は、自転車を降りた赤井に怒気を孕んだ声で言った。

 ゴール後、赤井は左足をペダルから外したまま、右足だけでペダルを回して帰ってきた。左足を痛めているように見えた。

「すみません。多分、明日になれば大丈夫だと思うのですが」

 藤堂は天を仰いだ。なんという馬鹿なことを。アシストとしての役割を与えられながら、自分で勝負に行って無理をするなど、あってはならないことだ。ステージ優勝が懸かっていたならまだ気持ちがわからないでもないが、2位を獲るために無理をするなど、正気の沙汰ではない。神崎高校の青山冬希なら、絶対にこんな真似はしないだろう。

「無理するような状況ではなかったはずだ。なぜこんな馬鹿なことをした」

 赤井は、目を伏せながら

「青山にだけは、負けたくなかったので」

 と絞り出すように言った。

 その瞬間、藤堂は赤井に無理をさせた原因が自分にあったことを悟った。

 藤堂は、スタート前の赤井に、「青山の動きをしっかり見ておけ」と言った。それが赤井のプライドを傷つけたのだ。赤井は、同じ1年である冬希に対するライバル心を抑えきれなかった。藤堂に、自分が冬希より上だということをわからせたかった。

「わかった。炎症がひどくならないように、しっかりアイシングしておけ」

 藤堂は、それ以上赤井を責めることはしなかった。自分の指揮官としての未熟さを反省はしたが。


 清須高校のエース「鋼鉄のオールラウンダー」岡田は、「トラクター」と異名を取る山賀に労わりの言葉をかけ、待機エリアへ戻ってきた。後輩が準備していた固定ローラーに自分の自転車を設置し、クーリングダウンを始める。

 岡田は目を閉じて、露崎がスプリントを開始した瞬間を思い出していた。

 確かに露崎のスプリント力に驚きはした。だが、まだ自分の脅威になるとは思っていなかった。

 露崎は本質的にはスプリンターで、山岳についても苦もなく登るが、自分と勝負できるほど登れるかという点については、実際に見てみなければわからないと思っていた。

 尾崎、船津、近田はピュアクライマーと言ってもいいレベルで、山岳で勝負するタイプのオールラウンダーだ。国内トップクラスの選手達が、海外で活躍しているとはいえ、登れるスプリンター相手に後れを取るとは、考えにくかった。

 岡田には、高校最強の自負があった。露崎との戦いを楽しみにしていた。


■第1ステージ

1位 露崎隆弘 慶安大付属 0:00

2位 赤井小虎 清須高校 +0:04

3位 青山冬希 神崎高校 +0:04


■総合成績(ボーナスタイム含む)

1位 露崎隆弘 慶安大付属 0:00

2位 青山冬希 神崎高校 +0:03

3位 赤井小虎 清須高校 +0:05


■スプリント賞

1位 青山冬希 神崎高校 42pt

2位 露崎隆弘 慶安大付属 38pt

3位 赤井小虎 清須高校 29pt


■山岳賞

1位 秋葉速人 月山高校 1pt


■新人賞(1年生総合成績)

1位 青山冬希 神崎高校 0:00

2位 赤井小虎 清須高校 +0:02

3位 植原博昭 慶安大付属 +0:04

3位 立花道之 福岡産業高 +0:04

3位 天野優一 佐賀大和高 +0:04

3位 千秋秀正 洲海高校 +0:04

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[気になる点] 露崎のボーナスタイムは1位フィニッシュで3秒、青山のボーナスタイムは中間スプリント1位の3秒と3位フィニッシュ1秒で合わせて4秒なので、第1ステージの差が4秒だったら青山の総合成績は4…
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