何かを辞めるのにも、エネルギーが要る
表彰式の対象は、3位以上の選手で、表彰台に上がって、表彰されていた。
6位の冬希は、受付で賞状と賞品だけ受け取った。
賞品はホイールバッグだった。
高そうだが、ホイールは現在ついている2つ以外持っていない冬希に、使いどころがあるかどうかは微妙だった。
冬希は、いまだに信じられない気持ちでいた。
6位入賞。それも、あれほどの大人数の中でだ。
それが自分の実力だとは思わない。
レースは、ずっとプロのチームが引っ張っており、一度も先頭を曳かなかった。
冬希自身は、前を走る選手の後ろを、ずっと走っていただけ。
他の多くの選手が、集団から脱落していくことによって、結果的に入賞できただけだ。
ただ、8年間も勝てない柔道を続けてきた冬希にとって、その6位の賞状は、何物にも代えがたい特別なものに思えた。
帰宅後、なんとなく姉に聞いてみた。
「なんで俺、8年間も柔道やってきたのかな」
「はぁ?なに、いきなり」
気持ち悪いっと、ゴミを見るような目で見てくる。
「辞めようと思うほどの、何かが無かっただけでしょ。何かを始めるには、大きなエネルギーが要るけど、何かを辞めるにもそれなりにエネルギーが要るからね」
「辞めるのにも?」
「そう。だって環境が変わるわけだから。自分の意志で環境を変えるのって、すごい大変なことなのよ?」
姉は、冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。
「何が何でも続けたいと思うほど、好きでもなかったかもしれないけど、何が何でも辞めたいって思うほど嫌でもなかったんでしょ」
「え、キツかったし、いじめっ子みたいな嫌な奴もいたし、だいぶ辛かったんだけど」
「そういう時でも辞めるって発想はなかったでしょ。流され体質っていうか、あんたはそういうところあるから・・・」
流され体質・・・そうかもしれない。
「今まで辛い思いをした分、きっと今後が楽しいと思えるだろうから、まぁ、それも悪いことじゃなかったんじゃない」
そうかもしれない。
今は、自分からやりたいこともできた。
最初は、スポーツ推薦での入試のために始めた自転車だったが、今は趣味であり、特技と言ってもいいかもしれない。
スポーツ推薦がダメだった場合、恐らくまた神崎高校を一般入試で受けることになると思うので、今度こそ死ぬ気で勉強しなければならない。
その前に、もう1レースぐらい出ておこうと手ごろなレースを探す。
JCSCというところが主催するレースがある。
日本サイクルスポーツクラブ協会というらしい。
場所は、前回惨敗したフレンドリーパーク下総で、初級クラスが10周。
事前に登録申請が必要なようで、申請を行い、後日エントリーまで完了した。
そして、ついに神崎高校のスポーツ推薦入試の、入学試験要項が掲出された。
問題のセレクションの内容は、渡良瀬遊水地での、タイムトライアルだった。
「がーん・・・」
冬希は項垂れた。
ヒルクライムほどではないが、たぶん2番目に苦手なやつだ。