表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/391

クリテリウム②

スタートと共に、全選手の、ペダルにクリートを嵌める音が、一斉に鳴る。


もうここまで来たら、後には退けない。

逃げ出したい気持ちを抑え、ペダルにクリートを嵌める。


プロチームの選手たちは、最初は抑え気味に引いてくれているようで、概ねみんな、集団についてこれていた。


冬希は、集団の中でも、コースの一番内側に位置を取った。

深く考えたわけではなく、単純に内側の方が、距離を得するのではないかと思った結果だ。


だが、結果的にこれが幸運をもたらした。


みんなレース初心者だ。ガチガチに緊張しているのは冬希だけではなく、みんなそうだった。


個人タイムトライアルのときに冬希がコースから飛び出しそうになった、坂を下った後の急カーブ。

冬希の前を走る選手が、オーバースピードでブレーキをロックさせ、曲がり切れずに外側のコースの選手たちを巻き込んでいく。


冬希は、追突されないようにハンドサインを出しつつ、急カーブの最内をゆっくり丁寧に曲がっていく。

曲がった後に急にペースが上がり、冬希は立ち漕ぎ(ダンシングというらしい)で集団に食らいついていく。


曲がり切れなかった選手のせいで、丁度そこから、集団に中切れが起きていた。

落車、転倒していたかどうかわからない。冬希も自分が集団についていくので手いっぱいだ。

だが、コースの外側に位置していたら、かなりの高確率で冬希も巻き込まれていただろう。


地面に誰かのドリンクボトルが落ちている。

後続が踏まないように、ハンドサインでボトルを指さす。


後方から「ハンドサイン、ありがとう!」と声がする。

その一言で、冬希は多少緊張がほぐれた気がした。


1周目を終え、かろうじて冬希は集団に留まることが出来た。

集団の中で、一人目標を決めその人の後ろに張り付く。


3周しかないレース、プロチームはペースを落とさずハイペースでレースを引っ張る。

30人くらいになった集団から、ポロポロとペースについていけない選手たちが千切れていく。


冬希にとって運がよかったのは、目標にした選手が集団に留まってくれていたことだった。

この選手が千切れていたら、間違いなく冬希も一緒に、集団から千切れていただろう。


走り続けるごとに小さくなっていく集団。

2周目を終え、先頭はまだ遠くて見えないが、恐らくプロチームが引っ張っているのだろう。


ペースは相変わらず速い。

だが、集団に残れてることで冬希の呼吸には余裕があった。


メインストレートで鐘がなる。最終周だ。

集団はかなりシュリンクされている。だが、冬希は残れている。


先頭はどこかわからない。ただ、目の前の選手から遅れないよう必死に食らいついていく。

メインストレートを通過し上り坂に差し掛かる。かなりキツイ。

そして下りに入る。

出来るだけペダルを踏む足を止め、少しでも呼吸を整えたいが、集団のスピードがそれを許さない。


下りきったところで、急カーブ。

十分減速して、一気に集団が加速していく。

冬希も必死に食らいつく。

心拍数が、見たことのない数値を叩き出している。


アップダウンを抜けた後、平坦を楽に感じた。

一瞬だけペースが緩んだ。先頭のプロチームが牽引を外れたらしい。


だが、それは本当に一瞬のことだった。もうゴールは目前なので集団では全力全開、メインストレートだけのスプリント勝負が始まっていた。

集団にギリギリ残っていた冬希もメインストレートに入り、スプリントを開始する。


冬希が目標としていた選手を見る。かなり苦しそうだ。


抜ける。と感覚的に察した。心臓が破裂しそうだ。足ももう動かない。

しかし、メインストレートで目標としていた選手を含め、2名を抜いたところでゴールした。


2名を抜いた後に前を見ると、その先の選手とはもうかなり差が開いていた。


呼吸が苦しい、死にそうだ。むしろもう死んだほうが楽だと思えるぐらいだ。

コース脇の芝生に倒れこみたい。


だが、ここで倒れると、救護班などが駆けつける事態となり、なんとなく大事になりそうなので、苦しいのを我慢して自転車の上にとどまった。


死んだほうがましだとも思えるほど息苦しい時間を3分ほど耐えると、呼吸が安定してきた。


土日は長距離乗った。平日は朝練を頑張った。その力は出し切れた。

先頭集団でゴールするという目標を果たせたのだ。自分に満点をあげてもいいだろう。


コースから出て、一休みすると、一応結果を確認するため、受付付近でレース結果が掲出されるのを待つ。

結果が貼りだされた。


76人中、6位だった。

入賞していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ