全国高校自転車競技会 表彰式①
表彰式が始まる。
全国高校自転車競技会というのは、高校自転車競技選手にとって、インターハイ、国体、全日本選手権を超える最大の自転車競技イベントで、その最終ステージの表彰台に立つことは、自転車競技を行う少年たち全ての夢でもある。
その夢の舞台で表彰台に上がる選手達のうち、1年生でその夢を達成した選手が3人いる。
第10ステージの優勝者、立花道之、新人賞で総合第2位、植原博昭、スプリント賞の青山冬希。そのうち2人が、先ほどからぶつぶつと訳のわからないことを言っており、もう1人の1年生である冬希を不安にさせていた。
「いや、しかし俺はずっとあゆみと一緒だったわけだし、一緒に過ごした時間の長さでは・・・」
「雛姫はずっと僕を支えてくれてる、かけがえのない存在で・・・」
「2人とも、どうした・・・?」
冬希が心配になって声をかけると、一斉に
「いい気になるなよ」
と睨まれた。そしてまた、なんであんな可愛い子がこんな奴と・・・、などとぶつぶつ言い始めた。
「こいつら、どうしたんですかね」
冬希が、総合優勝で表彰される船津、総合3位の近田、山岳賞の尾崎の3年生3人に聞いてみる。
近田は
「わからんでもない」
と言い、尾崎は本当に何もわからないと言ったふうに首を振る。
船津は
「ひょっとして浅輪さんに会ったんじゃないか?」
と言った。
「はい、先ほどここに来ましたよ。監督のパス持ってたから入れたみたいです」
「だからだろうな。あの子には、不思議な魅力があるから」
船津は苦笑した。船津には、ずっと想い続けてきた幼馴染がいるので、他の子に惹かれたりはしなかったが、春奈には、可愛いとか、綺麗とかだけではない、何か人を惹きつける魅力のようなものがあると思っていた。
「2人は青山に嫉妬しているんだよ」
「はぁ・・・」
冬希は気の抜けた返事をした。2人とも、それぞれ仲の良い女の子がいるだろうに、と首を傾げる。
「ステージ優勝の立花選手、準備をお願いします」
「はい」
立花が立ち上がる。司会をしている報道部活連の女の子が
「それでは、最初に、第10ステージを制した、福岡代表、私立福岡産業高等学校の、立花道之選手です!」
と呼び込む。
博多駅前の広場は、観客のゾーンに柵が置かれ、広くとられたスペースの真ん中に表彰台が置かれている。
冬希たちが待機しているテントから表彰台までは30mほど歩かなければならなかった。
立花は、多少緊張しつつもその花道を歩いていく。そして花道の柵の最前列に、幼馴染の堀あゆみと、立花の父親が一緒に立っているのが見えた。
立花は、立ち止まり、花道を逸れて、自分の父親の前に立った。
「父さん、今回は勝手をしてしまって申し訳ありませんでした」
立花の父は、立花に勝てる環境を、と思い、福岡産業への入学や、選手としてのエントリー、個別の宿泊施設など、手を尽くしたつもりだった。だが、立花は途中からその手を振り払って、自分の勝利よりチームの一員として役割を果たすことを選んだ。父は怒っているのではないかという懸念は、立花はずっと心に引っかかっていた。
「道之、いい顔をするようになった。こちらこそすまなかった、お前は・・・」
「道之くうううううんん!!」
立花の言葉をつづけようとしたが、感極まった堀あゆみが、柵越しに乗り出して、立花に抱きついてしまった。
「うわあああん!!」
「・・・」
「・・・」
親子の和解のシーンのはずが、そういう空気でもなくなってしまった。
あゆみの横では、雛姫と春奈が、きゃーと言いながらあゆみの行動に照れまくっている。
「・・・コホン。道之、後で話そうか」
「はい、父さん」
「すごいな、堀さん」
「ああ、でもちょっと羨ましい」
テントの隙間から見ていた植原と冬希は、さすがにビックリしていた。
柵の向こうで、あゆみと一緒にいた雛姫と春奈も
「ヒナちゃんあれ出来る?」
「いやー、ちょっと無理だよ!!」
と、盛り上がっていた。
立花は、なんとかあゆみを落ち着かせると、しがみついていた両腕を解き、また後でと、花道に戻って表彰台へと向かって歩く。
プレゼンターの地元福岡の女の子2人が、微笑ましいものを見たと、優しい目で立花を見つめていたのが、余計に立花にとっては恥ずかしかった。