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全国高校自転車競技会 最終第10ステージ(宗像〜博多)

 先頭の坂東は残り5.9km地点で、追走集団の冬希、船津、近田、立花を引き離しにかかった。

「坂東さん、さすがは全日本チャンピオンだ」

「ああ、計り知れない力を持っている」

 冬希にとっても、立花にとっても、高すぎる壁だ。だが、諦めるわけにはいかない。

「ここからは俺が牽く」

「いいのか、船津」

「ああ」

 ほぼ直線の国道3号線、船津は、視線の先に水玉ジャージの選手を捕らえていた。

 船津は3人の前に出ると、一気にペースを上げた。総合リーダーがトレインを牽く姿に、道路の両側の観客たちがどよめく。

「船津さん、見えました」

「ああ、尾崎だ」

 箱崎宮の鳥居の前で、冬希たちは総合2位で、船津に対して逃げ切りでの逆転勝利をめざした尾崎を捉えた。この瞬間、船津の総合優勝がほぼ確実になった。ゴールまで残り4.3kmだった。

「青山、あとは任せた」

 船津は牽引を終えると、冬希たちを先に行かせた。ゴールまで残り3.5km。タイム差は20秒まで縮まっている。

「ここからは俺の出番だな」

 近田が立花、冬希の1年生2人を牽引する。

「近田さん、近田さんが最後まで残れば、尾崎さんを逆転して総合3位で表彰台に上がれるかもしれませんよ!?」

「馬鹿を言うな立花。次世代のエースが1勝できるかどうかなんだ。3位での表彰台なんてクソ喰らえだ」

 近田の強烈な牽きで作られた空気のトンネルを、冬希と立花は労せずに走り抜けていく。

「坂東、まだ見えないのか」

「坂東さん、とんでもない男だ」

「強すぎる・・・」

 坂東の後ろ姿はまだ捉えることができない。近田、立花に焦りが見え始めた。

 国道3号線から千鳥橋に右折したところで、ついに坂東の後ろ姿が微かに見えた。

「うおおおおおお」

 近田が叫び声を上げ、冬希と立花に勢いをつけると、そのまま力尽きて牽引を外れていく。

「立花、親父さんに教えてやれ。お前の判断は間違っていなかったと」

 近田は、そのまま1年生2人の背中を見送った。

 だが、その時、ごごごごと地響きを立てながら、後方から何かがやってきた。近田は目を見開いて驚愕した。

「メイン集団、もうここまで来ていたのか!!」


 冬希と立花は、坂東に遅れること10秒で大博通りへ入った。

「立花、死んでも離れるなよ!」

「ああ」

 冬希は加速する。しかし、なかなか差が縮まらない。

 海の中道が横風だと言うことは、大博通りは追い風になる。追い風は、逃げる坂東に力を与えている。

 残り500mで、冬希はスプリントを開始する。一瞬たりとも坂東に脚をためる余裕を与えてはならない。

 冬希のスプリント持続距離は精々120mだ。しかし、そのスプリントスピードは、まさに光速だった。

「青山ぁあああ!!」

「届け!!」

 冬希は、持続距離120mの光速スプリントで立花を牽いたまま、坂東に並んだ。

 ここで、冬希は無理をしようとした。本来120mで脚も呼吸も限界のはずだ。無理をすれば体のどこかを壊すかもしれない。だが、それでも冬希は、立花を勝たせるという約束を優先しようとした。

 ただ、冬希の体より先に持たなくなったのは、冬希のロードバイク だった。

「うおっ」

 踏み込んだペダルが一気に軽くなった。チェーンが切れたのだ。

「まずい!!」

 バランスを崩した冬希は、左側を走る坂東と後ろを走る立花の邪魔だけはすまいと、右にハンドルを切り、中央分離帯に自転車を向けたが、立て直しは効かず、後輪を横滑りさせながら、転倒、落車した。

「いけえええ、立花ああああ」

 冬希は叫ぶ、それは立花に、自分の無事を伝える意味も込めていた。


 後ろからの本人の声で、冬希の無事を確認した立花は、左を見る。坂東の脚色はまだ衰えず、並走している。

「マジかよ、この人。何km単独で走り続けてるんだよ」

 立花は驚愕した。坂東は、まだ立花より前に出そうな勢いで走り続けている。

 残り200mでスプリントを開始した。

「頼む、負けてくれ!」

 立花は祈る気持ちで踏み続ける。

 坂東もスプリントを開始し、譲らない。

 冬希という発射台付きの、スプリンターに対して、ずっと単独で走って坂東がまだ譲らない。

「あり得ないだろ、この人」

 だが、立花も負けるわけにはいかない。フォームもめちゃくちゃで、がむしゃらに踏み続ける。

 残り50m、ついに坂東が力尽きた。そして立花の目の前には、ゴールのゲートが見えてた。だが、立花はそれ以降は前を見ず、下だけを見ながら、無心でペダルを踏み続けた。

 そして、ゴールの白いラインを先頭で通過した時、ようやく頭を上げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 熱い! [気になる点] > 「頼む、負けてくれ!」 これはどちらの台詞ですか? この回では追走勢しか喋っていないので立花っぽく感じるのですが、直後の地の文が坂東なのでどちらの台詞か迷って…
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