表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/391

全国高校自転車競技会 最終第10ステージ(宗像〜博多)③

「無理はするな、ペースを維持しろ」

 坂東は、一緒にメイン集団から抜け出した佐賀、静岡のメンバーに指示を出した。

 横風に対応するため、両チームのアシストたちは、道路を横に広がって走っていた。

 風上側から、佐賀の天野、武雄、鳥栖、坂東弟ら、そして静岡の陸川、沢田、岸川は坂東と尾崎を守るように走っている。

 今のところ、アシストの7人は上手くローテーションして一定ペースを保っている。

 だが、佐賀と静岡ではアシストの質に差がありすぎた。

「よく鍛えられている」

 坂東が感心するほど静岡のアシストは横風への対応が上手く、しかも強力だった。反対に佐賀のアシストは、すでに呼吸が厳しく、静岡のアシストの半分ほどの時間で先頭交代を行なっていた。

 坂東が横風区間で一緒にアタックをかける相手に静岡を選んだのは、確かに求めるものが尾崎と被らないという点もあった。尾崎は、総合リーダーの船津とのタイム差を逆転すれば、必ずしもステージ優勝をする必要はない。だが、坂東の方は、ステージ優勝が必須条件だった。中間スプリントを4位通過で13ポイント加算したものの、冬希との差はまだ27ポイントある。ゴールで獲得できるスプリントポイントは、50ポイントだが、2位も30ポイント獲得できるので、優勝しても2位が冬希だと、7ポイント差で、スプリント賞は冬希に獲られてしまう。逆に、冬希が0ポイントでも、坂東は2位以上でなければ、スプリント賞を逃す結果となる。

 そこで坂東が考えたのが、尾崎を一緒に連れていくという策だった。

「こいつは最強の餌だ」

 総合リーダーの船津と、尾崎のタイム差は1分51秒。上手く逃げ切りが決まれば、ひっくり返せないタイム差ではない。千葉は、青い顔をして追いかけてくるだろう。

 だが、船津を最優先する千葉は、冬希もアシストとして使い潰すことになる。脚を使い果たして途中で千切れるかもしれないし、ゴールに行く前に尾崎の脚が止まったら、追いついた時点で安心して、集団でゴールすることになるかも知れない。

 どちらにしても、冬希はスプリントに絡むことなく、ゴールすることになる。

 坂東、尾崎らの集団は、逃げていた秋葉、四王天、小玉の3人を並ぶ間も無く抜き去った。これで先頭集団となる。

 モトバイクがホワイトボードで後続とのタイム差を見せてくる。

 逃げていた3人とのタイム差を無視し、その下を見た。

 グループは4つに分かれており、1つ目は坂東たちの先頭集団。2つ目は先ほどまで逃げていた3名、その次、3番目のLeaderと書かれたグループとのタイム差が、2分30秒と表示された。メイン集団に至っては、2分40秒差となっている。

「意外と遅かったな」

 船津らのグループとメイン集団とのタイム差が少ないところを見ると、多少のタイムラグはあれど、この1分前ぐらいにメイン集団から抜け出したと見るべきだろう。

「ペースを維持しろ」

 坂東は、重ねて指示を出した。


 気の抜けていたメイン集団の狼狽ぶりは激しかった。そして、冬希たちもしっかり準備する前に坂東たちが仕掛けたため、やむを得ず福岡、千葉の2チームのみで集団から抜け出すことになった。

 本当なら、植原の東京や、有馬の宮崎も一緒に先頭集団を追いたかったところだ。しかし、両チームとも、落車などのリスク回避のためか、メイン集団の中でバラバラに散らばっており、尚且つ植原、有馬の2名がそもそもどこにいるかすらわからなかった。

 苦渋の決断だが、時間的な余裕もなく、冬希たちは2チームで追走グループとして、坂東たち先頭グループを追う羽目になった。

 時間的な余裕を与えてしまうと、それはすなわち坂東たちに休む時間を与えてしまうことになる。

 先頭集団との差は、2分30秒。必死に追ってはいるが、差が縮まらない。逆に後ろのメイン集団との差はグングンと開いていく。

「焦るな。ペースを維持しろ」

 福岡の舞川が冬希に言った。

 船津と冬希は、協調してもらう条件として、早い段階で尾崎を抜くことで、近田を総合3位以内、つまり表彰台圏内に引き上げることに協力する。そして立花にステージ優勝を取らせるというものだった。

 現在、追走集団は、船津、近田、立花、そしてゴール前の立花のアシストとして、冬希というこの4人を守るように横風の中を走っていた。

 先頭集団が7人で2名を守っているのに対して、冬希たち追走集団は、6人で4人を守るような形となっていた。しかし、先頭集団に引けを取らないペースを維持しているのは、千葉の郷田の強烈な牽きによるものだった。その姿に対抗意識を燃やした黒田、古賀も異常な力を見せている。

 徐々に先頭集団と追走集団との差が縮まり始めた。そして、追走集団とメイン集団との差もまた少しずつ縮まり始めた。

 

「兄貴、もうダメだぁ」

 坂東裕理が先頭集団からちぎれていく。これで佐賀のアシストは全員力を使い果たし、脱落していった。

 これで先頭集団に残っているのは、坂東と、尾崎を含む静岡の4人の計5人だけとなった。

 坂東ら先頭集団は、横風区間の海の中道を終え、和白に差し掛かっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ