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全国高校自転車競技会 第9ステージ(武雄温泉〜脊振山頂)⑤

 第8ステージ終了時の船津と尾崎の総合タイム差は、1分6秒となっている。

 尾崎のいる先頭集団と、船津のいるメイン集団は、約1分30秒のタイム差が広がっているため、TV放送ではバーチャルの総合リーダーは尾崎として表示されていた。

 TVを見ていた視聴者は、まさかここで大逆転で総合リーダー入れ替わりか、と画面にかじりついて尾崎を応援していた。タイム差を表示している画面上では、バーチャル総合リーダーとして、尾崎の名前の左側に、イエロージャージのアイコンが表示されている。

 しかし、尾崎は自分の置かれている状況を、誰よりも理解していた。

「仕掛けが早すぎた。だが、他に手はなかった」

 と、尾崎はのちに語った。

 船津を追う立場にある尾崎は、船津とのタイム差を逆転するために、あらゆる策を講じてきた。だが、千葉神崎高校は、それらに落ち着いて対処し、すべてのステージで逆転するまでのタイム差を尾崎に許さなかった。

 ステージが進むごとに、尾崎擁する静岡は追い詰められていき、次第に打つ手も限られていった。

 その結果、無理な仕掛けを行わざるを得ない状況に追い込まれていったのだ。

「丹羽がいてくれたら、対等な勝負ができたかもしれない」

 尾崎は、自分が1番頼りにしていたアシストで、第8ステージに棄権した、丹羽智将のことを思った。

 丹羽がいれば、今間違いなくこの先頭集団の中で、自分をアシストしてくれて、このままのタイム差でゴール、逆転で総合リーダーを獲得できていたかもしれない。しかし、それは叶わぬ夢だった。先頭集団にはもちろん、レース自体に丹羽はいない。

 宮崎の小玉、有馬、山形の秋葉、そして尾崎の4人の先頭集団で、尾崎が先頭を曳くローテーションが回ってきた。

 尾崎の調子は、第7ステージからはっきりと悪かった。今朝も、足は重く、呼吸も苦しい。だが、ペースを落とすわけにはいかない。ペースを落とせば、一瞬でメイン集団に差を詰められ、総合リーダーの芽が消えてしまう。

 宮崎もそうだが、尾崎擁する静岡のアシスト達は、メイン集団からアタックで抜け出す際に、全員使い果たしてしまった。宮崎の小玉は、最初から逃げ集団にいたため、そこで使い潰されることはなかった。

 次第に、先頭集団の中で小玉が曳く時間が長くなり、その分有馬が曳く時間が短くなってきた。小玉の負担を増やし、その分有馬の脚をためさせようとしているのだ。

 小玉、有馬の2人の牽引時間の平均は、秋葉、尾崎の牽引時間とは変わらないため、秋葉も尾崎も何も言えなかった。だが小玉の足が限界を迎えた時、有馬は秋葉と尾崎を置いてアタックをかけるであろうことは、2人にもわかっていた。

 後ろからは、アシストに守られて全く脚を使っていない植原、近田、そして船津が迫っている。

「丹羽がいてくれれば・・・」

 前後からのプレッシャーで、尾崎は不安に押しつぶされそうになるが、弱気になるなと自分に言い聞かせた。


 尾崎が果敢に攻めた先頭集団とは違い、メイン集団は丁寧に天山の下りをこなしたため、先頭集団とメイン集団との差は、2分近くまで広がっていた。

 その代わり、メイン集団は誰1人アシストが欠けることなく、脊振の登りに入っていくことになった。

「郷田」

 船津が合図を送ると、郷田がメイン集団の先頭に立ち、ぐいぐいと集団を牽引していく。一定のペースで曳くことにかけては、スペシャリストと言っていい実力を持っている。5%程度の上りであれば、難なくこなせる。

 メイン集団は加速し、ついていけない脱落者を出して次第に小さくなりながらも、総合上位勢はしっかりとアシストを残したまま、一気に先頭集団との差を詰めにかかった。


 そして、上りですでにメイン集団についていけなかった冬希は、無事にメイン集団から5分遅れのグルペットに合流していた。

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