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全国高校自転車競技会 第9ステージ(武雄温泉〜脊振山頂)③

 スプリントポイントを通過し、冬希は1位通過で20pt、坂東は2位通過で17pt獲得。冬希と坂東の間に、3ポイントだけ差が広がった。しかし、通常であれば、板東のみが逃げに乗って、20ポイント差を詰める場面だっただけに、坂東にとっては、それだけで大きな痛手だった。

 スプリントを終えた坂東と冬希が、ゆっくりと逃げ集団に戻ってくる。

「坂東さん、俺も本気でスプリント賞を獲りに行こうと思います」

「1年坊主、全日本チャンピオンが本気になったら、どれだけ恐ろしいか、思い知らしてやるぜ」

 表情には出さないが、冬希には、坂東が心から嬉しそうにしているように見えた。

「坂東さん、恐いですよ。どれだけ戦いが好きなんですか」

「とぼけたことを言うな。お前だって人と争うのが好きで好きで仕方ないって目をしてるぜ」

「俺は、平和主義者なんですけどね」

「お前、小学生の時から、柔道をやってたんだってな」

「・・・よくご存知ですね」

「そんなもん、選手名鑑を見れば載っている。それだけ長いことやってたのは、お前が他人と戦うことを好んでいるからだ」

「辞めるきっかけがなくって、だらだら続けていただけですよ」

「てめえがそう思いたいんだったら、そう思ってろ。だがな、人間の根底にある本質というやつは、最終的には

そいつを飲み込んで変えてしまうんだ」

「・・・」

 冬希は迷った。坂東は、冬希に精神的揺さぶりをかけている様にも思えたが、板東の言うことにも思い当たる節があった。勝てなくてもいいと思いつつも、勝った時に胸の奥から湧き上がる感情をまた求める自分がいた。


 天山の登りに入った。冬希は、動揺しているうちに、逃げ集団から離脱する機会を失い、そのまま逃げ集団と共に、天山の登りに入って行った。

 天山へは、平均8%〜9%の登りだ。800mほどを10kmで上っていく。スプリンターや平坦系の選手にとっては、十分辛い登りだ。

 坂東は、さっさと逃げ集団から離脱していた。坂東は、福島の松平や島根の草野に比べると、はるかに登れるスプリンターなのだが、今日のコースでは、もうスプリントポイントはないため、単に残る意味がないと判断したのだろう。

「青山くん、すごいね。あの坂東さんと堂々とやりあうなんて」

 1年生チーム、宮崎の小玉が冬希に話しかけてきた。

「見た目はおっかないけど、話してみると面白い人だよ」

「そう思ってるのは、青山くんだけだと思うけど・・・」

 小玉から見ると、決して気安く話しかけられる相手ではなかった。それでなくても、全日本チャンピオンなど、普通の選手たちからしたら、雲の上の存在。スーパースターなのだ。

「ああいう人、羨ましいと思うよ。最初からパンツを脱いでるというか・・・」

「え、パンツ!?」

 小玉が赤面している。

「あ、自分を曝け出しているって意味で言ったんだけど・・・」

「あ、え!?」

「いや、坂東さんちゃんとレーサーパンツ履いてたよね。なんでフルチンの坂東さん想像してるの」

「いや、してないから!!」

 そんな話をしていると、モトバイクが追走グループとのタイム差を、手書きのホワイトボードで表示してきた。

「30秒・・・?上り口で、まだ3分は差があったよな。下がっていった坂東さんとのタイム差が出てるのかな」

 それにしてはおかしい、もう少ししてモトバイクが次に見せてきた時は、12秒にまでなっていた。

「青山くん、ごめんね。僕そろそろ行かなきゃ」

 小玉が後ろを振り返る。

「まさか」

 冬希が驚いて後ろを振り向く。そこには、メイン集団から抜け出してきた宮崎のエース、有馬豪志がいた。そしてその後ろには

「尾崎さん!」

 静岡のエースで総合2位の尾崎の姿もあった。

 2人は、まるで平坦を走るようなスピードで登りを走ってきて、あっという間に逃げ集団に追いついた。そして、逃げ集団にいた小玉が2人を引き連れ、さらに逃げ集団を突き放していく。

「小玉選手が逃げ集団にいた理由は、これだったのか!」

 前待ち作戦というやつだ。後から上がってくる有馬のために、小玉は逃げ集団で待機し、有馬が来たタイミングで山岳アシストとして有馬を牽引する算段だったと、冬希はようやく気が付いた。

 秋葉が追い縋ろうとする。

「くそ、余計なのまで引っ張ってきてるじゃないか!」

 宮崎の作戦は見事で、それはいい。だが総合1位の船津を擁する冬希にとっては、有馬が尾崎を引き連れてきてしまった方が問題だった。

 冬希も、必死に尾崎の後ろにすがりつこうとするが、登りを高速で登っていく3人についていけない。

 秋葉、冬希が必死に追いかけようとすることで、逃げ集団のペースは一瞬上がり、坂東と小玉を除いた28人の逃げ集団は、バラバラに解体されていった。

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