表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/391

冬希の成長

初めてのレースを終え、冬希はようやく帰宅した。

レースは午前中に終わったのだが、そこから帰ってくると夕方の4時を過ぎていた。


早速自転車のメンテナンスを行う。


玄関の外に、ビニールシートを敷き、その上にサイクルコンピュータを外した自転車を、逆さまにして立てる。

前後のホイールを外し、ブレーキ部分の清掃。結構砂とか挟まっている。


外した後輪のギア部分、スプロケットに、今日のレースで貰ったパーツクリーナーを振りかけ、ヨレヨレになった父親のシャツを切ったもので、丁寧に拭いていく。


父親の話では、ヨレヨレになったシャツが、一番着心地がいいらしいが、母親がそれを許さず、捨てようとしていたところを、冬希が自転車整備用に貰い受けた。


それにしても、色々なところからの貰い物で、自転車生活はやっていけるものだと思った。


チェーンを掃除した後に、油を差し、フレームを乾拭きして終了。


「はあ、これでようやく寝れる・・・」

朝4時半に起きたのもあり、眠くて仕方なかった。


「ようやく寝れると思うと、興奮して寝れそうにない」

「いや、結局寝れないのかよ」

ぺちっと後頭部を叩かれ、後ろを振り向くと姉が立っていた。


「馬鹿なこと言ってないで、早く片付けなよ。プリン食べようぜ」

「プリンあるんだ」

「バイト先の居酒屋の大将からもらった」


大学に入り、居酒屋でバイトをするようになり、姉は少し変わったと、冬希は思う。

冬希に対する態度は、昔から変わらないが、他に対しては近づきがたい雰囲気をまとっていた。


元々、頭のいい人ではあったので、色々なことが分かってしまい、どこか周囲を見下した感じがあったのかもしれない。


だが、居酒屋でバイトをするようになり、食べられないと言っていたものが、いつの間にか食べられるようになっていたり、箸の持ち方が正しくなっていたり、他人に接する態度も、どこか柔らかくなっていった。


居酒屋の大将は、厳しい人(姉はうるさい人だと言っているが)らしく、冬希は、居酒屋でのバイトは長続きしないと思っていた。


だが、既にもう2年続いている。


うちの父親は、温和で、一切厳しいことを言わない。優しくて、人間的にも尊敬できると冬希は思ってるが、姉には、厳しく怒ってくれる人も、必要だったのかもしれない。


「大将が作った、お店で出すプリン、今日までに食べなきゃいけないやつが、1つ残ってたから、貰って来た」

「あれ?でも2つあるよ」

「弟にもやるから、もう一つ寄こせって言って、無理矢理もらってきた」

「え?大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。だって、プリンそんなに出ないじゃんって言ったら、大将泣きそうな顔をしてたけどね」

「いや、アウトでしょ・・・」

「アウトの中でも、まだセーフでしょ」


アウトの中にセーフなんて無いと思う。


まだ会った事も無い、居酒屋の大将に、感謝と哀悼の意を込めて、いただきますをして、プリンを頂く。


「で、レースどうだったの?」

「完璧」


ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべて見せる。

姉は、怪訝そうな表情になる


「何位だったの?」

「40人中33位」

「ふーん・・・」


姉は、少し考えると、何かを理解したかのように言った。

「あんたが満足したなら、それでいいんじゃない?」


冗談で言っているではないと理解したようで、姉は、ねぎらいもかねて、冬希の肩をポンポンと叩いた。

冬希と自分のプリンの容器とスプーンを台所にもっていき、洗い始める。


「洗い物やるよ?」

「あんたは疲れてるんだから、ゆっくり休みな」


こういう、気遣いが出来るようになったところも変わったなと、冬希は思う。

そして、そういったところを見習うことで、冬希自身も、成長している部分があるのだと思う。


姉に奴隷のように使われていた時期が長くあり、最近はやさしさや気遣いを身に着けていく姉を見習う面もある。

そういったところが、冬希の女性に特に優しくする部分に繋がっていっている。


お言葉に甘えて、少しの間、冬希は寝ることにした。


レースの後や、激しい練習の後など、回復走と言って、軽いペダルである程度の時間、自転車に乗ることで、乳酸が分解され、回復が早まるという。


だが、冬希はもうレース後に、ひーこら言いながら50キロを走って帰ってきた。

もう十分だろ・・・と思いながら、そのまま眠りにつき、朝まで起きることは無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ