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せみは悲しげに鳴かない。

作者: 湯船子

山に点々と伸びた木の間から昇る太陽をぼんやり眺め、我に返った。

頭の中に爽やかな感覚が広がって、耳が開いた。

うるさいせみの声が開いた耳を塞ぐように鳴り響いた。

日は木を抜いて山の上に聳え立った

朝醫は悲しげに鳴かない。

ふと、そんな気がした。



すでに熱い太陽と予告された真夏は、夏が好きだった私さえも眉をひそめた。

扇風機が回転して止まってしまった。

あまりにも長く回したせいか、それとも40度を超えてしまった天気のためか、体の部分が火だるまのように熱かった。

私はゾンビのように立ち上がって台所に向かった.

暑い夏に表面が熱くなった冷蔵庫のドアを開けた。

冷蔵庫も故障したのか。

冷蔵庫内部の電灯が消えている。

期待した涼しい風は出ない。

扇子で風を起こすと暑い風が出そうな天気だったので、頭がくらくらした。

どこへでも行こうかと思いきや、玄関からベルが鳴った。

玄関へよろよろ歩いていって、受話器を取った。

"もしもし"

友達の声だった。

"なぜ?"

"今すごく暑いでしょ? "どこへでも行こう。"

"それ、ちょうど私が電話をかけて言おうとしたのだった"

"じゃあ、学校の前に来て"

"うん"

幼なじみなので、長い会話は必要なかった。

どこに行くかはまだ決まっていないが、私は待ち合わせの場所に出かけるために財布を探した。

棚の隅には薬瓶と一緒におかれていた.

私は財布と携帯電話をポケットに入れた。

服を全部脱いでも暑い天気だったので、私は別に服をまとわないまま外に出た。

家の外へ出ると、屋根がかろうじて遮られていた日光が体をうさめた。

久しぶりに外に出たせいか、体がひりひりする感じだ。

頭がくらくらする感は、かげろうに混じって見分けられなくなった。

人目もなく青い木々が熱風に揺れる。

確かに私が幼い頃は夏は適当に暑い水準だったのにね。

歩いていてスリッパが脱げた.

足の裏がアスファルトに着くや、足の裏が焼けるように熱くなった。

悲鳴をあげる気力も残っておらず、素早く足を離して転げ落ちたスリッパに放り込んだ。

こんなに青い空なのに、こんなに熱いのかと思った。

赤色なら納得がいくのにね。

そんな考えで学校との距離を縮めていった。

炎天下の通りには人影はなかった。

学校前に到着したが、友達はまだ来ていないか見えなかった。

私は木陰に座って待つことにした.

ポケットに入っていた飴をひとつ取り出した.

あまり好きではないが、やることもなかったのでハッハマッキャンディーの包装をはがして口に入れた。

口の中で飴玉を転がした.

普段も壊してはいないが、先日歯科では今歯の状態が悪いから、固い食べ物はしばらく控えるように言われた。

あめ玉は、口の中で転がったり、歯にぶつかって、口蓋垂に付いて落ち、舌の下に落ちたり、口蓋にくっついた。 飴は転がるほどどんどん小さくなり、いつの間にかおいしそうに見えていた飴の姿はどこかに消えた。

しがない、ごつごつした砂糖の塊は、砕けることなく溶けていく。

まさに人生のようなものだ。

あちこちに轢かれて、転んで激しくぶつかり、底まで落ちることがあり、上へ再び上がることもある。

私がこのような話を並べると、友達はいつも私に考えがあまりにも老人のようだと言った。

目の前のかげろうがもう一回りした

私は、めまいがしたのか、かげろうがひどくなったのか分からない。

遠くから友人がとぼとぼ歩いてくるのが見えた.

私は手を振って木陰の下で立ち上がった.

足に力を入れて起きた瞬間、低血圧でも来たように目の前が黒く曇った。

最近、運動をしていないからかな。

日ごろもしばしばあることだから、何でもつかまえていればよくなるだろう。

そう思いながら底をついた。

だが、陽炎とともに声も曇り、黒がどんどん広がった。

友達の叫び方がだんだんぼやけていく。

助けを要請したいが、声が出ない。

そのまま上半身が倒れて床に倒れた。

世の中のすべての音が潰れ、 はっきりしたせみの鳴き声だけが耳元で埋まった。

7月の夏の日、 私は死んでいたかも知れない.





目が覚めたときは、そんなに驚かなかった。

いつかこうなると思っていた。

私は家の書斎で目が覚めた.

立ったまま

私はふだん好きだった本が床に落ちていた.

頭の中にかげろうが咲くように熱くてめまいがする.

すべての非現実的な状況がかげろうに縛られて消え去るようだ。

書斎の端にある机には、まだひっくり返していない砂時計が置いてある。

砂は濃い黒色でいっぱいだった。

砂時計をまたひっくり返そうとは思わなかった。

落ちた本の中に私の写真が入っているアルバムが見えた。

私はアルバムを拾って広げた.

最初のページには、5歳頃の私がいた。

いつも木の枝を拾い上げ、友達と冒険するように遊び回った。

次の写真で5歳の私は地面に転んで泣いていた.

膝の擦りむいた傷は、今また見ても痛く見えた。

そして、次の写真で、私は床をついて立ち上がった。

まだ涙は乾いていないが、奇特にも一人で立ち上がったのだ。

次の写真では、小学生の時の運動会だった。

特に走るのが得意だった私は、先頭を走っていた。

そして次の写真で、私の後を追っていた友達が倒れた。

いつも負けず嫌いな友達だった。

次の写真で、私は友達を起こしていた。

遠くから見学するうちのクラスの子供たちは、とても驚いたようだった。

手をつないで引き起こした友達を、支えて連れて行った。

そして、その次の写真には仲良くビリ印をもらって立っていた。

頭の中のかげろうがだんだん晴れていた.

次の写真では、年を少しとった。

一間の部屋のドアが開いていて、しゃがんで泣いている女の子がいた。

私はこんな写真を撮った覚えがない。

次の写真では、開いているドアから私が入ってきた。

慌てて飛び込んできたのか、 息が切れて見えた.

次の写真では泣いている女の手を引っ張って、起こして外に出ている私の後ろ姿が見えた。

そしてその次の写真では、工事現場でレンガを運んでいる私が見えた。

だれが見ても気の毒なほど泣きべそをかいていた

次の写真では、レンガを床に落として後ろに転がっていた。

アルバムをめくりあげた私は、自分で気づかないほのかな微笑みを浮かべていた。

そして、顔に乗って涙があふれた。

アルバムがコーティングされてなかったら大変だったよ。

私はすでに次の写真について知っていた.

そう、私は地面をついて立ち上がった。

そしてれんがを拾い入れた。

顔は隠れて見えなかったが、再び笑っていたはずだ。

私はそんな人だったから。

次のページをめくると、さっき一間の部屋から救ってきた女の子と一緒に家の周りを散歩していた。

後ろ姿ばかり見えて表情は分からなかった。

次の章には、写真ではなく、厚いファインホームにビデオテープが入っていた。

私はアルバムを何気なく床に落として、ビデオテープを持って居間に出た.

テープの入るプレーヤーを探すのに一苦労したが、一つを見つけて取り出した。

ビデオテープを再生した

この前あったことだった。

私たちは小型トラックから1人ずつ降りた.

初夏、私たちは海に到着した。

知り合いの後輩がよろめきながら浜辺を指差した。

"先輩、あの女、すごくきれいじゃない?”

"あんまり。関心もない"

"ほら、ちょっと見て。 先輩もただ海に来たのではないでしょう。”

"どういうことだ。 君たちがせがむから引っ張られて来たんだ"

映像の中での私は、いらいらしているようだった。

強制的に連れてこられたから。

"おい、あんまりだ。 こいつ、むりやり連れてこられてイライラしているからな"

"あ、すみません"

友達のやつがかなり鋭く後輩を制止する。

私たちはぶつぶつ言いながら浜辺に向かった.

泳げなかったり、私達3人とも刺身屋に行くことにした。

刺身屋に入って、それぞれが好きなメニューを注文した。

何事もなしに刺身を食べて、お酒まで何杯か飲んで出た。

いや、私は何杯かのお酒に苦しんでいた。

"先輩、大丈夫ですか。 お酒を飲んだらどうしますか。 お酒も苦手な方が。"

"大丈夫、ウウウ"

"ああっ!何がいいの?"

"海に来て刺身ばかり食べて帰るようになった"

友達がぶつぶつ言った。

"ハハハ。乞食みたいな日だね。"

私たちは大爆笑してバンに向かった.


ビデオが終わった。

僕はこういうのを撮った覚えがない。

なに、これでも別に変でもないが

私はそろそろ出て行く時が来たなと思い、薬の瓶の合間にある財布を持って、携帯電話を手に入れた。


七月の暑い夏 私はまた家の外に出た。





目が覚めた。

今回は、本当に浮いた。

私が知っているように、皆が知っているように。

白い天井が喜んでくれた。

あまりにも見え透いた絵に安堵感さえ感じた。

酸素呼吸器、手首に花咲いている針。

ここは病院だ。

時が過ぎて夜になったようだった。

"え?"

友だちがわたしを見て大げさに驚いた。

"ねぇ!あんた大丈夫なの?"”

まだ話せないので、

かろうじてうなずいた。

"お前、突然倒れて二日も横になってたよ。 死んだと思ったじゃないか。"

私は目で笑った。

大ざっぱに嘲笑するほどの意味だった。

すると、一緒に海に行った後輩が急いで病室に入ってきた。

"先輩!急に熱中症ってどういう意味ですか?"

相変わらずおっちょこちょいな。 あいつは。

友人が後輩に一部始終を説明した。

医者が歩いてきて、目が覚めた私を見た。

あまり驚かなかったようだ.

そして、友達に耳打ちをいくつかした。

友達は"え?"と信じられないように聞き返す。

そして、しばらくしてうなずいた。

何を言ってるのか全部聞こえますよ。 お医者さん

医者が行った後、私は簡易酸素呼吸器を外して話を切り出した。

"何を言ったの?”

"おい!これ脱ぐな!"

"軽々しくふるまうな。 もう息ができる。”

"でも、なぜそれを脱ぐんだ"

"お医者さんが何と言ったの?”

友達はしばらく静かだったが、口を開いた。

"お前、倒れて腕の骨が折れたんだよ。"

こいつは演技にはさっぱりした才能がない.

それでも腕の骨が折れたのは本当のようだった。

ギブスになってるじゃん。

"そう?ちょっと運動しないとね。 こんなことで骨が折れたりして。"

"運動はどんな運動?"

"先輩、いつもはやっておけばよかった"


"アハハハハハハ"


海に行った先日のように 私たちは噴き出した.

友達はさっき医者に聞いたという本当の言葉を後輩に言ってくれなかったようだ。

後輩はそんなこと言われたら黙っているやつじゃないからね。

やつらは話をちょっとして、夜になってようやく帰った。


時計の針が止まったように動かない。

一人でいる時、特に何もしていない時は時間がゆっくり過ぎる。

父はいつも大人になると、時間の流れが早く流れるという。

生きていた時、父から聞いた話の中で、間違ったのはそれだけだった。

まあ、人それぞれ違うと思うけど。

"父から聞いた話"と言うと、いろいろなことが浮かんだ。

"立ち上がりが学べば、起こし方がわかる。 誰かを起こしてくれれば、その誰かも起こしてくれる方法が分かるようになったんだ。”

と言うこともあって。


あれ。

空笑いが出た.

今思った言葉も違っていた。

私はいろんな人を起こしてあげたけど、

私は彼らが起こしたことはなかった.

もちろん、その人々を恨んではいない。

私はいつも自ら起きたから。


思い返すほど、父の言い分は、全部食い違った部分があった。

言葉じゃなくて、僕の人生。

誰のせいにもしたくない気持ちが一番大きかった。

私がとても優しいのかな?

夜でも暑い日は続いた。

熱中症になった私の病室には、弱い冷房が点いていた。

何となく、 寝ようと思った。

窓の外の陽炎が、浮いている月が、光る建物が垂れ下がった木が、今私が見ているこの世界が。

あまりにも心を浮き立たせた

遠足に行く前日の夜のように、うきうきして眠れないのだ。

そう思うと退屈ではなかった。

そのように夜が更けていった。


時間を費やすのではなく、流す人々がいる。

時間が早く経つという言葉は、そういう人たちが作った言葉ではないかと思った。

それで、私はそんな人が一度くらいになるのも悪くないと思った。

夜明けになった。

日が昇っていた。

夏の不快な、 ぴんぴんとした

そんな年ではなく、さわやかな朝日がだ。

外に出て外を見物したい.

そう思った。

しかし今の状態では起き上がることもままならないだろう。

そんなことを考えていた時だった。

夜明けに、いきなり病室のドアが開いた。


友だちが入ってきたのだ。

"あら。何でこんな時間に来たんだ"

"お前こそ、どうして寝なかったんだ"

"眠れなくて"

"ねえ、さっき医者の言ったこと···"

"いや、私も知ってるから、あえて言わなくてもいい。”

私が話を切り出すと、沈黙が流れた。

"やりたいことはある?"

友達が聞いた。

"散歩でもしたいものだ。”

私が言った。

"···じゃあそれ全部抜いて起きなさい。"

"散歩がやりたければもうやったんだ。 でも、身体がこれじゃ···。

友達が手を出した。

私は久しぶりにびっくりした。

初めて、だれかが私を立ち直らせようとしたのだ。

誰かにはよくあることかもしれない。

わたしにはよくあることじゃないから驚いたのだ。

私は手首に花されている注射を抜いて、友達の手を握った.

そして体を起こした。

お父さんの言ったことが正しかったな.

私は時間を早く過ごしたし 何者かに起こされた

これだけで人生が変わったと思う。

私は立ち上がって介助され、病室の外に出た.

病院周辺を少し歩いていて、息切れがしてくるとベンチに座るよう頼んだ。

友達は私をベンチに座らせて、隣に座った。

"···すごい奴。"

"なぜ?"

"君はいつも私を先んじていたじゃないか。 運動会の時もそうだし、後で自転車も勝って、成績も私を追い越し始めたんだ"

"ああ、そうだろう"

"わたしがリードするのは一度もなかった。 これからもずっといないよ。”

"どうやってそれを断言できるんだい.”

"お前は今度も私を追い越すから"


その言葉に私は答えられなかった。

ただ昇る朝日を眺め、夜明けをさまよっていた。

暁と朝の境界はあいまいだ。

いつのまにか朝になってしまう。

まさに人生のようなものだ。

病院を取り囲んだ木が何本もない山で、日が昇っていた。

"やあ"

"うん"

蒸し暑いせいか、朝からかげろうが立ち上る気持ちだ。

"飴ある?"

"うん。一つあるよ?”

"何の味?"

"ブドウ"

"私にちょうだい"

"···そうしろ"

私はキャンディーの包み紙をはがした.

ぶどうは私の大好きな味だった。

私はキャンディーを一度に噛んで砕いて食べた。

友達がびっくりしながら聞いた。

"あなた、あれそんなに食べてもいいの?”

私は答えが見つからず沈黙し、口を開いた。

"悪くないね"

友人が沈黙すると、私が話を続けた。

"大好きな味だったけど歯に砕けて、小さな切れになって、口のあちこちで溶けて、それぞれの甘さを出して消えていく。 これって··。"

"人生みたいだって?"

"正解よ"

やっぱり私の友達だな。

そろそろ耳が遠のいてきた

朝醫が鳴き始めた

ぼんやりとせみの声を聞いて、太陽を眺めた。

気がついた。

まばらに伸びた木の間から日がそそり上がった.

もう朝だ。

せみの鳴き声が耳の穴をぽんとあけて、またきつくした。

朝醫は悲しげに鳴かない。

ふと、そんな気がした。

あのセミは地中で6年ほどの時間を過ごし、2週間ほど地上で過ごす。

人生の最後の舞台なのだ。

その最後の舞台を、薄暗い土ではなく、明るい世の中で過ごすのだ。

朝醫は悲しげに鳴かない。

人生の最後に新しく浮かび上がる朝日を眺めながら笑う。

私もそうである。

徹夜したせいか、まぶたがひどく重い。

"おい。起きてごらん。 そろそろ帰らなくちゃ"

"いいえ、大丈夫よ"

"···え?"

私は坐ったまま動かなかった.

今までたくさん立ち上がったじゃん。

転んだら起きて、転んだら起こしてあげて。

もう休まなくてもいいという気がした。

せみの鳴き声がだんだん弱まっている。

友達の叫び方がだんだんぼやけていく。

朝醫が人生を終えようとする。

みんなを後にして、一人で休もうとする。

今だけは利己的でも良いと思った。

それでも良いと思った。


7月の夏の日、 私は笑って眠りについた.













2017年(平成29年)7月28日


男が1人死んだ.

病室にいるはずの男が、病院の散歩道のベンチで死んだまま見つかった。

特記事項では、笑っていた。

とても気楽に笑っていた。

男の友達が私に男の死んだことを知らせた。

私は男を連れてきて死亡宣告した.

"2017年7月28日午前7時28分。 臨終しました。"

男の友人や親戚たちは訪ねてきて、知らせを聞いて涙を流した。

老人の親戚と友達で、みんな年を取った人たちだった。

男の人生がよく分からなかったが、暖かかった人だったということはわかった。



彼の年齢、95歳のことだった。





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