第7話 満月
今日は、ご主人様と私の結婚式の日です。空にはお月様が私たちの晴れの日を見逃すまいと大きな目をまん丸とあけています。祝福をするかのように照らし出される、真っ白なスポットライトは私のドレスにあたり、キラキラと輝き、ピーターパンの妖精の粉を彷彿とさせます。
今日からご主人様は旦那様になります。ですが、一片の疑問が心によぎります。本当に私で良かったのか?ご主人様は人間。私はあくまで家庭用の家事アンドロイドです。人間とアンドロイドの結婚は本当に幸せになれるのでしょうか。
「ご主人様」
「どうした?」
「今更こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、本当に私でよかったのですか?」
「もちろんだ。逆にアイちゃん以外は考えられないよ」
そう言ってご主人様は私にキスをしました。初めての時は、自分が自分でなくなってしまいそうで、とろけてしまいそうで、なんとなく怖かったのです。ですが、今はその幸福に思う存分身を任せています。これも、ご主人様を本気で愛せるようになったということの証なのでしょうか。
純白のドレス姿の私。真っ黒なタキシードを着たご主人様。二人で手を繋いで、月明かりが照らす結婚式場へと向かいました。
神父様と私とご主人様だけの世界。ゲストはイエス様とお月様のお2人だけ。とても静かに、荘厳に式は始まりました。
正直に言って、神父様の話は殆ど聞けません。私の胸はご主人様への想いで溢れそうになり、それを抑えるのに必死です。告白された時のこと、初めてキスをした時のこと、夢を語った時のこと、動物園にデートに行った時のこと、プロポーズされた時のこと、ご主人様との思い出の数々がシャボン玉のように心の中に浮かびます。気がついたら私は、泣いていました。ご主人様は嬉しそうに、にこやかに笑っています。そしてとうとう、神父様の誓いの言葉が始まりました。
「あなたはこの女性を健康な時も病める時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も、愛し合い敬いなぐさめ助けて、変わることなく愛することを誓いますか?」
「はい、誓います」
「あなたはこの男性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も、愛し合い敬いなぐさめ助けて、変わることなく愛することを誓いますか?」
「はい、誓います」
「あなた方は自分自身をお互いに捧げますか」
「はい、捧げます」
ご主人様と私が同時に答えます。もし私に心臓があれば、きっとその音がお月様まで届いたことでしょう。そう思うほど、私の胸は高鳴っています。心がジワーッと暖かくなり、手に力が入ります。
「ではベールをあげてください。誓いのキスを」
顔がゆっくりと近づいていきます。ご主人様が目を閉じ、私も目を閉じます。ご主人様の息遣いが耳に届き、鼻息が肌をくすぐります。お互いの熱が心に伝わり、互いに混じりあい、永遠の愛がここに誓われる……。
「俺は認めねーぞ!」
愛は誓われませんでした。突然の乱入者が荘厳な場を、私たちの想いを破壊します。
「アンドロイドは人間をダメにする!アンドロイドなんかと結婚しようとするとは正気ではない!それに、人間とアンドロイドの間に愛などが生まれるわけないだろう!お前はアンドロイドに踊らされているんだ!目を覚ませ!」
何で?どうして?私たちはお互いを愛し合っているからここにいる。この気持ちに、想いに、嘘なんてない。それなのに何故この男は私たちの邪魔をするの?
『こんな人間なんて死んでしまえばいいのに』
頭にピリッと電流が走りました。
「ふざけるな!確かにアイちゃんはアンドロイドだ。だけど、それ以前にアイちゃんは一人の女の子だ!誰が何と言おうと僕とアイちゃんの愛は本物だ!」
ご主人様は私を引き寄せてキスをしました。必死で、暖かくて、少し硬い。私は、やはり幸せものです。こんなにも、私を愛してくれる人がいるのですから。
「そこまで言うのならいいだろう。だが、覚えておけ。因果は巡るぞ。人間とアンドロイドの愛という矛盾を世界は許さない。お前らは、必ず不幸になる」
乱入者は立ち去り、世界に再び静けさが戻りました。神父様とイエス様、お月様に見守られて私たちは、永遠の愛を誓いました。
お月様は満ちて、いずれ欠けます。ですが、満ちた時も、欠けた時も私は、ご主人様を愛し、支えます。ご主人様と過ごすこの生涯がお月様のように、苦しい時が来ても、その後満ち足りた時がきますように。私は、空に浮かぶ満月を見てそう願いました。満月は深い雲の底に隠れ、鈍い光をこちらに投げかけるだけで、何も言いはしませんでした。
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