第4話 十日夜の月
花が咲いていた。好奇心という名の栄養によって養われた、確かな輝きをもった純真な一輪の花が。それは、誰が見ても百点満点と言えるような大輪の笑顔で、確かな存在感をもってそこに咲いていた。
僕たちは今、動物園に来ている。僕の隣には、キラキラと目を輝かせたアイちゃんがキョロキョロと周りの動物たちを見回していた。可愛い。初めて本物の動物を見て、きっと興奮しているのだろう。
色々と見回した先に目星いものでも見つけたのか、突然アイちゃんは走り出した。向かった先はクマの檻。サービス精神旺盛にも、クマは立ち上がって吠えてくれた。
「ガオーーー!!」
「キャーーー!!」
アイちゃんは涙目でブルブルと震えながら、僕の服の裾を掴む。ナイスだ!クマ!
「大丈夫だよ。檻があるし出てくることはないよ」
「そうは言っても怖いですよ〜」
裾を掴むどころか、ギュッと僕に縋りつくアイちゃん。人前なのにも関わらず、必死でギューっとしてくる。やがて、自分のやっている事の大胆さに気がついたのか、慌てて体をはなし、頰を真っ赤に染めて俯いた。
しばらくは、しおらしくなるかなと思ったのだが、知的好奇心には勝てないのか、またすぐに目を輝かせて、色々な檻を行ったり来たりしていた。楽しんでもらえているようでなりよりだ。
動物を見ていたかと思うと突然、フフッと笑いながらこっちを見る。今日のアイちゃんはテンションが高くていつもと違う。でも、そこに普通の女の子らしさを感じる。今までとは違った魅力を感じる。
「どうしたのアイちゃん?突然こっちを見て」
「ご主人様と一緒に動物園に行けているっていうことが嬉しくて。本物の動物を見ることができたのも、もちろん嬉しいですけど、それ以上にご主人様と一緒に動物を見に行くことができたってことが本当に嬉しいです」
「そっか。一緒に来られて良かったよ」
嬉しい。アイちゃんが喜んでくれたというのはもちろんだけど、僕と一緒に行けたのが嬉しいと言われるとなんとも言えない気持ちになる。あと何か一つきっかけがあれば即座に爆発しそうだが、ギリギリのところで何とか抑えつける。
「ご主人様!見てください!白鳥ですよ!大きくて、真っ白で、なんというか凄く雄大で凛としててカッコいいです!」
「フフッ。今日のアイちゃんは凄い元気だね」
「だって、好きな人と一緒に思う存分好きなものを見られるんですから。また、来ましょうね。動物園」
「ああ、また来よう」
微笑むアイちゃんの顔はとても清らかで、安らかで、可愛くて、美しかった。好きな人だからだろうか。今まで人の笑顔でこんな気持ちになることなんて一度もなかった。こんな安らかな気持ちになることなんて。可愛いだけじゃない。心の底から暖まるような、そんな笑顔。まるで、寒い冬に暖かいお風呂に入るときのような、芯から暖まるような笑顔。たぶん、これからも僕はこの笑顔に癒されて生きるんだろう。
絶対にこの笑顔を絶やさせない。無くさせない。この笑顔を守ってみせる。心の中で僕はそう誓った。
帰りますよと名残おしそうに言うアイちゃん。ああ、と白鳥の人形を抱いた僕。幸せで満ち足りた2人は手を繋いで仲良く家に帰った。この幸せを永遠だと信じて。
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