07:冒険者ギルド
朝の喧騒が静まりつつある時間、灰色のローブを羽織り冒険者ギルドに向かう。
今はローブのフードを被っているので、指定席の無くなったクロ君は陰陽浄衣の少し緩めた衿の合わせから顔と前足だけをだして、周りをきょろきょろと見ている。
陰陽浄衣というのは、浄衣が公家の着る水干の神職版みたいなもので、んー、まあ、巫女服みたいなものです。陰陽というから白と黒の配色をイメージするかもしれないけど、女の私が装備したからか赤と白の配色で万人がイメージする巫女服みたいな見た目になっています。上からローブでも羽織らないと目立って町中を歩けません。ま、ローブを着れない場合は隠密スキルを発動して誰にも気付かれずに移動するんだけどね。
冒険者ギルドに着く。
町の一区画を丸々使った大きな建物です。無駄に大きいね。
入り口の門に、門番らしき人が立っていて入っていく人をチェックしている。
(きらーん! 戦闘の予感)
(なにそれ、別に私達冒険者ギルドに喧嘩売りに来たわけじゃないんだけど)
(ふふふ、しかし我の第ネコ感が囁くのだ)
(ネコ缶って、なにさ)
(第六感を超えたその先、セブンセンシズをも超えたネコセンシズ! それが第ネコ感!!!)
(はいはい、凄いねー)
被っていたフードを外し、ずりずりと胸の前の合わせから出てくるクロを掴んでフードに格納する。
(なにをするリン、あれは我の獲物なのだ!)
(戦闘なんてしませんよー)
澄ました顔で、門番の横を通り過ぎる。
こちらを見る門番と目を合わせ、ニッコリ微笑み軽く会釈する。
名付けて、貴族の振り作戦。
自分で言うのもなんだけど、普通に貴族に間違われるのを利用した高等戦術。
もしかして貴族様? と相手に少しでも疑念が湧いた時点でこちらの勝ち、傍若無人な貴族様を下手に呼び止めようものならどうなるか、そう考えただけで止められない。
(リン、貴族のわたくしを止めようものならどうなるかわかっていらして作戦は、優雅な我も肩にいることで完成する作戦だ! 我の存在抜きでは失敗するのだ!)
無事に通り抜けられた。ちょろい。
(がーん、我の存在を否定された気分)
(残念でしたー)
えーと、受付はあそこだね。
建物内部も式によって調査済みなのです。さすがにスキルの迷宮内までは探れていないけどね。
この町の管理迷宮に潜る以上、許可を取らなくては問題になる。受付を見ると、私と同じか少し上くらいの女性が立ってこちらを見ている。
「あのー、」
「はい! なんでございますか!」
あれ? あ、貴族だと思われてる?
「私、ローランの冒険者です。スキルの迷宮に潜りたいんですけど、審査か何か必要なんですか?」
「え、そうなんですか? よかった、緊張しました」
「はあ、すいません」
「いえいえ、こちらこそすみません、そうしましたらギルドカードの提示をお願いします」
…………うーん、まあいいか。
「はい、どうぞ」
「確認させていただき...」
固まった。
後見人の欄を見たのだろう。
冒険者には後見人がつく事がある。
ランクが上がっていき、ランクCかB辺りで貴族からの依頼が受けられるようになり、依頼を完遂する事で貴族との縁が出来ていき、運がいいとその貴族の支援が受けられるようになる。
さらに信頼を重ねていき、貴族にその存在を必要と認められると後見という形で、その貴族の一員とみなされる事となる。
大抵はその時点で、貴族の血縁者の嫁か婿をとり自身も貴族となることが多いと聞く。
または、貴族の子息が戯れで冒険者登録するとき自身の家を後見人として登録することもある。
つまり、後見人の欄に名前がある場合。その冒険者はこの後見人の家名と同族とみなされるという事。
そして、私のギルドカードの後見人の名は、フレデリック・ローラン。
その名は、ローラン王国の現国王の名だ。
そりゃ見たとたん固まるよね。