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18:秘め事

雑踏(ざっとう)


魔法により作り出された色とりどりの光と、香料を混ぜた油を燃やすランタンの光が街道を照らす。

酒に酔った冒険者が今日の成果を声高々に自慢し、成果の無かった冒険者はそれに負けないくらい盛大に愚痴る。


ある商店の扉が開き、灰色のローブを羽織った少女が出てくる。

キョロキョロと周りを見回し、スッと人の流れに溶け込む。注意して追っていなければ一瞬で見失うようなその自然な動き。

自覚して行っているのか無自覚で行っているのか、どちらにしても秘密裏に護衛しているこちらにしてみれば非常に困る動きだ。

そう思った。それはまさしく一瞬の思考。目で注意して追っていたが、一瞬だけ思考が別の方向へ向いたというだけ...


「ローランの人?」 と背後から声が掛かる。


驚きを(おもて)に出さないように振り向けば、灰色のローブを羽織った少女が立っている。

いつの間にと言う言葉を飲み込み、部下達に動かないように指示し、両手を挙げ敵意が無い事を示しながらゆっくりと話す。


「ヤン、と申します」

「ヤンさん。同じ名前の人に王都でも会いました、ヤンというのは一族の名とかなんですか?」

「そのようなものです」

「ふーん、私の護衛という事であってますか?」

「はい」

「わかりました、ありがとうございます。出来れば些細な情報でもいいので私に知らせてくれると助かります」

「わかりました」

「じゃ、失礼します」


礼儀正しくお辞儀をし、雑踏の中に消えていく少女。

ローランの暗部。ローラン全土に散らばり影として王族を警護する我等。

新しく王族の加護に入った冒険者がこちらの地方に単独で来るという事で出張ってきたが、王都のヤンからの伝言が正しかったようだ。



【素直に名乗り出て指示を仰げ】



何の冗談かと思ったが、正当な評価だったということだ。

簡単に背後を取ったのに脅すための殺意も敵意も無く、ただ単に話しかけてきた。しかもそれは確認のための言葉だ。

加護が必要な者ではない。ローランという名の鈴を付けられた冒険者という事なのか、それにしては我等を簡単に受け入れすぎな気もするが...



【必要以上に踏み込むな】



さらに意味不明だった伝言を思い出す。

過去、王族の名を与えられた一般人や冒険者は極わずかに存在したが、それらには必ず何かしらの制約が掛かっていた。

わかりやすく言えば、王家の血筋に絶対に逆らえない契約を結ばせてから、実質的なローランの下僕(げぼく)としてのローラン家の傘下に組み込むという名ばかりの王族だ。

それが今回は、隷属の呪縛も無しに王族の名を与えられているばかりか、本人に対する行動の制限も無い。


…………これ以上は考えないほうが良いのだろう。

好奇心は何とかをも殺すと言う。何とかとは、なんだっただろうか...ああ、猫だ。

暗示的だな、何か迂闊な興味でも示そうものなら逆にあの猫に殺されてしまうのではないか、そのような考えが頭を()ぎる。






バラの宿のある部屋:

ゴルジフの使いの者がテーブルに金貨を置く。

「十日分の報酬です」

暗い目でそれを見つめながら、ガロッチが呟く。

「お払い箱か」

「はい、もし今後スキルの迷宮に潜るならば、試験を受けていただく事になります」

「俺が迷宮に潜ると不都合でもあるのか?」

「……」

肯定も否定もせずただ黙る使いの者。

「まあいい、その試験、俺より強いものを用意できるとは思えん」

「残念ながら、しばらく試験は実施されません」

用意されてたように答える。

「……キヒッ」

ガロッチから殺気が放たれ、使いの者を殺す。



部屋を出て、ロビーに降りる。

そこにはゴルジフ家の紋章のマントを羽織ったものが数人。俺に反応し身構えるそいつらに話しかける。

「連れて行け」

「……殺したのか?」

俺だけが降りてきたことに対する問いか。

「気絶しているだけだ、ゴルジフ家と事を構えるつもりは無い」

何があったかは知らぬが、そのうちまた俺が必要になる。


俺の部屋へ向かう者達を余所に、カウンターに声をかける。

「おい、新しい女を呼べ」

受付の男に金貨を弾く。

「かしこまりました」

当たり所が悪ければ気を失う速度の金貨を難なく受け止め男が返事をする。


殺し応えのありそうな男だ。


気を失った男を背負って階段を降りてくる奴等の視線に答えながら階段を登る。

金はある。しばらく女を抱いて過ごすか。








「お帰りなさいませ、リン様」

「ただいまです。セバスチャンさん。これ、お土産です」

「いえ、お客様から頂く事は出来ません」

「え、そうなんですか。んー、じゃあクロ食べる?」

「にゃ!」

「そういえば、さっきゴルジフ家の人達が出て行ったみたいですけど、関係者がいるんですか?」

「……いえ、居ません」

「あ、そっか、他のお客さんの事を勝手に教えることなんて出来ませんね」

「はい。申し訳ございません」

「いえいえ、気にしないで下さい」





あれか。


階段の上、死角から暗い目が少女を見つめる。

面白い。どこの貴族かは知らぬが女ひとり、商売女にも飽きていた所だ。

ゴルジフ家が気を遣う貴族、あれを()とせばゴルジフを黙らせることも出来る。


多少強引にしても問題あるまい。女の扱いには慣れている、言う事を聞かなければ魔剣で焼けばいい。


「ケヒッ!」


暗い嗤いが漏れる。


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