凛紅の涙
めちゃんこ遅れてすいません。
これからペースを取り戻して行きますので、お付き合いよろしくお願いします。
今話は時系列が少し戻って、悠斗がエルザの所へ行った日の夜のことです!
時を遡り、悠斗がエルザの所へ行った日の夜。
転移組に用意された寮の中にある食堂にて、凛紅は不安を募らせていた。
「遅い……っ」
いや、怒っていた。
「待て待て、一旦落ち着け」
相席していた大輝が宥めるが、効果がないどころか、燃えたぎる炎の中に油をぶち込んだかのように激化し、射殺すような視線を大輝に送る始末。
これには大輝も「アッハイ、スイマセンデシタ」と片言になって引き下がるを得なかった。
なんで凛紅がこんなにも憤っているかと言うと、それは悠斗が帰って来ないことが原因だ。
グリセント王国に世話になるようになってから……いや、異世界に来た時から、悠斗達は四人ーーー今は五人で一緒に食事を摂るようにしていた。
それは共に戦う者同士で絆を深めるためであり、同時に一種の儀式でもあった。
直接的な言葉で思いを交わさなくとも、互いに生きていることを喜び、次も共に生きて帰ろうと誓い合う、そんな儀式。
これまで数多くの修羅場を潜り抜け、何度も死にかけた彼らは、誰から言い出したわけでもなく、無意識的にそうするようになっていた。
だがいつ頃からか、悠斗はそれをしなくなった。
いや、するにはするのだ。だが、ほとんど会話することなく食事を済ませ、さっさと出ていくことが多くなった。
食事の時にも顔には余裕がなく、どこか生き急いでいるようにも見えた。
最初は疲れているのかと思っていた。
悠斗が他者の何倍も訓練を重ねているのは知っていた。
それがなんのためなのか、朧気ながら分かっていたーーーいや、分かっていたつもりだった。
だがその訓練はストイックを超え、最早異常の域にまで達していた。
それでも、凛紅達は止めることが出来なかった。
しかし、毎日酷使される身体と、闇のような昏さを宿す瞳は見ていて痛々しくて。
今日、ようやく悠斗に訓練を休むように言おうと決心したのにも関わらず、悠斗は時間になっても来ない。
ルームメイトの大輝曰く、部屋にも帰ってないそうだ。
「大輝……正直に言いなさい。貴方、悠斗の行先知ってるでしょ?」
「……」
殺意すらこもったような視線で、大輝を射抜き詰問する凛紅に、大輝は黙りを決め込んでいる。
「ひとついいか?」
「……何よ」
不意に口を開いた大輝に、凛紅は不機嫌ながらも返す。
異世界に来て共に修羅場を駆け抜けてきた歴戦の戦友とは思えない空気が場を支配していた。
「悠斗の居場所を知って、お前はどうするつもりだ?」
「そんなの決まっているじゃない。行って、迎えに行くの」
「……じゃあ言えないな」
「なんでよ!」
バンッ!と力強くテーブルが叩かれて、激しい音が食堂に木霊する。
宮廷料理人と彼ら以外誰もその場にいなかったことが、幸いだった。
そして凛紅に詰め寄られている大輝本人はと言うと、一切動じた様子を見せずに、目を閉じたまま口を開いた。
「お前に、いや俺たちに、その権利はないからだ」
「……っ」
途端に言葉に詰まる凛紅に、大輝はなおも言葉を重ねた。
「悠斗は誰のものでもねぇ。それなのにあいつの行動を縛るって言うのは、決して褒められたもんじゃあない」
「っ、私は悠斗のことを想って……っ!」
「それはお前のエゴだろう?」
「っ!?」
凛紅の激情に対し、大輝は冷たく言い放つ。
凛紅は怒りの顔を浮かべながらも、大輝の言葉にハッとしたように俯いた。
「俺はあいつの意志を尊重してやりてぇ。あいつがやるって言ったことは手伝えるなら俺も協力するし、出来ないにしてもあいつに賛同し着いていくつもりだ。だから、あいつの邪魔になるような因子を態々俺が作るとでも?」
言葉を重ねる大輝の瞳に宿るのは、揺らぐことの無い決意だった。
その眼を見れば、例えどんな手段を弄しようとも、口を割ることがないことを理解せざるを得ない。
「大体、お前が行ってどうにかなると本気で思っているのか?仮に俺がお前にあいつの居場所を教えて、お前が悠斗の所に行って、あいつが黙ってお前に従うとでも、本気でそう思ってるのか?」
「……っ」
「大輝君、そんな言い方は……っ」
酷く厳しい言葉を連ねる大輝。
その言葉責めを受けた凛紅は顔を蒼くして俯く。
それを見て、今まで口を閉じていた双葉が口を挟んだ。
「黙ってろ、安木。……いや、お前もか」
しかし、返ってくるのは冷たい言葉。
「ミーシアもだ。お前ら二人も、今は言葉に出してないだけで、悠斗の居場所さえ分かれば行くつもりだろ?」
「「……っ」」
図星か。
目に見えて硬直する二人の少女に内心苦笑しながら、それでも顔は変えずに言葉を重ねる。
「お前らの悠斗への好意は知ってるし、そこに口を挟むつもりはねえよ。けどな、あいつのことを想うなら、せめて止めないでやれよ」
どこか悲しそうに言う大輝。
凛紅達はただ聞くことしか出来ずにいた。
「本来なら、あいつの常軌を逸した訓練は止めてやるべきなんだろうよ。悠斗のことを想うなら尚更な。でもよ、分かってんだろお前ら。あいつがなんのために、狂人の如き訓練を積んでいる理由を」
「「「……」」」
押し黙る三人。
そう分かっていた。彼女らは禁忌研究所の存在も、悠斗がその組織を潰そうしていることも知らない。
だけど、その根幹にある、凛紅達を護ろうとしている思いだけは、彼女らも気づいていた。
「俺たちは何度も死にかけた。特に前回の探索では本気で危なかった。それがあいつの負い目になっていること、分かってないとは言わせねぇぞ」
修練の魔境での探索。
その際に交戦した【冒険者殺し】に、大輝達は為す術なく敗北した。
大輝はあの段階で黒鬼戦のこともあって既にボロボロだったが、それを抜きにしても恐らく勝つ事は無理だっただろう。
大輝は死にかけ、双葉は倒れ、ミーシアは伏し、凛紅に至ってはその身体を蹂躙される寸前だった。
護れなかったことが、傷つけてしまったことが、悠斗の心に枷を付けている。
この場にいる誰しもが、そのことに気づいていた。
「今のところ、俺たちはあいつの足枷にしかなってねぇ。あいつの心に傷を負わせ、追い込み、ついには乗り越えようとしているあいつの邪魔をするなんてこと、俺はしたくねえ。
……弱い俺たちには、あいつを止める資格なんて無いんだよ」
最後の一言は、あまりにも弱々しかった。
三人の少女達に向けられたその言葉は、大輝が一番気にしていたことなのだろう。
言い終わった後、大輝は力無く座った。
「……てるわよ」
しかし。
正論で理詰めされた彼女は、その心を爆発させた。
「分かってるわよ、そんなのッ!!!」
再び、机が叩かれる。
やり場のない怒りが、テーブルにぶつけられた。
「でもどうしろって言うのよ!少しでも近づきたい、傍にいたいと思っても、彼は私を置いていく!背負う必要の無いものを勝手に背負い込んで、悩む必要のない事で悩んでっ、そしていなくなっていく!私はただ一緒にいて欲しいだけなのに!一緒にいてさえくれれば、どんな世界だって構わないのに……っ!」
瞳から零れた、一筋の輝き。
一人の少女の、心からの叫びがもたらしたその雫は、不謹慎な程に美しかった。
嗚咽と共に流れていく言葉が、彼らの心に突き刺さる。
言い終わった少女は、そのまま食堂を出ていった。
「あ、凛紅ちゃん!」
「待ってください!」
それに、双葉とミーシアが続く。
たった一人、食堂に残された大輝はなんとも言えない雰囲気のまま、天井を仰いで顔を手で覆った。
「……そんなの、俺が知りてぇっての……」
涙は出ない。出さない。
それでも、どうしても上を見たくなる時くらいあるだろ。
自分にそう言い聞かせて、大輝はしばらくそのままでいた。
不意に、コトリとテーブルに何かが置かれた。
見ると、一杯のコーヒーがブラックのままで置かれていた。
淹れたてなのか、湯気が漂っていて、香ばしい匂いが鼻腔を刺してくる。
気を利かせた宮廷料理人が、淹れてくれたのだろう。
悠斗と一緒に隠れ名店のような店【アセビ】に行って以来、大輝は良くコーヒーを飲むようになっていた。
とは言え、その時はミルクを入れて飲んでいたのだが、今出されたブラックコーヒーには気遣いが見て取れた。
カップを持ち上げて一口。
黒い液体を口に入れた大輝は一言。
「苦っ……」
暗い気持ちは、落ち着いていた。
☆☆☆☆☆
分からない、というのが彼女の今の心境だった。
どうしたら良かったのか分からない。どうするべきなのか分からない。
分からない、分からない、分からない。
分からないが幾重にも重なって、彼女の心を囚える檻となっていた。
「私は……」
ぽつりと呟かれた言葉に意味は無く、やるせない想いと共に夜闇へ溶けた。
食堂を飛び出した凛紅は、その足で自室ではなくテラスへと出ていた。
基本的に年中暖かいグリセント王国だが、今の時期ーーー地球で言う十二月〜二月である凍月の一つ前にあたる月である廻月の後半の風は早朝同様肌寒い。だが、その寒さが逆に凛紅にとって丁度よかった。
白磁色の手すりによっかかり、夜風を浴びながら、凛紅はぐちゃぐちゃになった思考を懸命に落ち着かせようとしていた。
しかし、どれだけ余計な思考をシャットアウトしようとしても、頭の中を巡る大輝の言葉は呪いのように頭から離れない。
『……弱い俺たちには、あいつを止める資格なんて無いんだよ』
「分かってるわよ、そんなの……」
脳内をリフレインする、心を抉る言葉に凛紅は言い返すことも出来ない。
修練の魔境へ行って、彼ら悠斗パーティー四人組の中で一番無力さを感じていたのは他でもない凛紅だった。
通常会敵の雑魚モンスターなら、いくら来ようと相手にはならない。ボスモンスターの取り巻きも、彼女にとってはそこらの雑魚モンスターと五十歩百歩でしかない。
だがそれがボスモンスターになると、話は変わった。
速度を武器した剣士である凛紅は、筋力値と防御値が圧倒的に低い。
そのため、彼女は硬かったり、巨大なモンスターと戦う場合、決定打に欠けてしまい、満足に戦うことが出来ない。
その事実は過去のサイクロプス戦の時には浮上し、黒騎士戦の時から如実になってきた。
修練の魔境では黒騎士を始め黒鬼やデザートキングゴーレム、フロストゴレームガーディアンなどに直接的なダメージを与えることは叶わなかった。
トドメには【冒険者殺し】との戦闘。
凛紅は剣の腕に自信があった。
ステータス何てものがあっても、地球で培ってきた技術とこれまで修羅場を潜り抜けたきた経験が彼女に自信を与えていた。
だがそれを、完膚なきまでに打ちのめされた。
双葉をやられた怒りで我を失ったこともあった。しかし、剣をあっさり受け流され、挙句の果てにスキルアクションとは言え殴打一発で倒された事実は、凛紅の自信を砕くのに十分であった。
「私は……弱い……強くなりたいのにっ!」
手すりを握り締めている手は白く変色し、掴まれている手すりもミシミシと軋んだ音を立てる。
吐き出された弱音は虚しく夜空に消えた。
自分の実力がこの世界でも上の方にいるのは分かる。
だが、凛紅にとってそれは慰めにもならない。
上だからなんだ、多少強いからなんだ。例え他者から強いと認められようとも、悠斗の隣を歩けぬなら彼女にとってそれは無いに等しい。
守りたい、好きな人のことを守ることが出来ない強さなど、一体誰が欲するというのか。
凛紅の思考が失意の底に沈みかけたその時、虚空から魔導書が発光した状態で彼女の目の前に現れた。
魔導書の通話機能に受信があったことを教えてくれているのだ。
時刻を確認すれば、食堂を出てから三十分は過ぎている。
大方かけてきたのは双葉だろうと思い、通話に出た。
『ーーー凛紅、僕だよ。悠斗だ』
「っ!?」
通話をしてきたのは、悠斗だった。
まさかこのタイミングで掛けてくるとは思わず、凛紅は一瞬動転した。
『連絡遅れてごめん。クレドさんの知り合いに稽古を付けてもらうことになって、場所が場所だけにいちいち王城から通うのは非効率だからその人の家に泊まることになったんだ。だからしばらく帰って来れない』
唐突に告げられる事情。
あまりにも急過ぎた悠斗の外泊は、凛紅の胸中にわだかまるモノを生み出した。
凛紅がそのモヤモヤを口から吐き出そうとした瞬間、しかしその感情は霧散する。
頭の中を、大輝の言葉が過ぎったのだ。
ーーー弱い俺たちに悠斗を止める資格はない、というその言葉が。
それでも凛紅は何かを言おうと言葉を探した。
「ねえ悠斗……何でそんなに頑張るの?」
そして、絞り出したのはその言葉。
『……』
返答はなし。
それは無言の拒絶に違いなかった。
「答えて……お願いだから……」
自分の声が震えていることが分かった。
凛紅は今、生きてきた中で一番強く悠斗を詰問している。
だが、それはそれ程に悠斗を想っている故の言葉でもあった。
凛紅の想いが通じたのか。
悠斗は幾秒か躊躇うような反応をし、そしてゆっくりと口を開いた。
『僕には……目標がある。とても難しくて、無謀な目標だ』
「目標……?」
『うん。その為に、今僕は頑張っている』
優しく、諭すような口調に違和感を覚える。
だが、何よりも先に、凛紅は自分の心を告げた。
「なら、その目標を教えてよ!私にできることがあるならーーー『君にできることは無いよ』ーーーっ!?」
にべもなく言葉を切り捨てられたことにショックを受ける前に、凛紅の脳内は困惑が占めていた。
衝撃のあまり、しばらく思考が硬直していた凛紅が何故の声をこぼす前に、悠斗の追い打ちが彼女の心を打ち付ける。
『理由は……分かるよね』
聞いて即座に思い出すのは数日前の出来事。
数日前、凛紅達は悠斗と模擬戦をした。
ただし、凛紅、双葉、大輝、ミーシアの四人対悠斗一人の、だが。
悠斗のスキル《魔剣創造》でそれぞれの要求通りの刃を潰した武器を創り、魔法有り、スキル有りのほぼ実戦に近い状況での戦闘を行った。
幾ら悠斗が強いとは言え、四人も相手にして勝てるわけがない。そう思っていた。
しかし、それは傲慢だったと彼女は知ることになった。
黒騎士戦でその強さを発揮した四人の連携を駆使した怒涛の攻撃を、悠斗はあろうことか体捌きだけで躱した。
炎を纏う大剣を余炎の一欠片も受けずに避け、光と炎の魔法弾雨をなんでもないように躱し、煌めく閃光の如き斬閃を児戯を相手するように受け流した。
剣は届かず、魔法は消え、あらゆる攻撃は虚しくも通じなかった。
そして十分後、その場に立てていたのはただ一人。無傷の悠斗だけだった。
凛紅達は持てる全てをぶつけて挑んだ。
対して悠斗は《電光石火》こそ使えどそれと雷属性魔法、そしてスキルアクション以外の手札を一切切らずに凛紅達を完封してみせた。
当時凛紅達は悠斗が自分の能力を知るための訓練だと思って悔しがりつつもそれ以上は考えずにいられた。
しかし、今になってようやく、あの模擬戦の意味を知った彼女は湧き上がる悔恨の念に歯噛みする。
あの時、例え勝てずとも一矢報いろうとしていれば良かったと。或いは、それが悠斗に自分の力を証明するきっかけになったかもしれないと。
『……凛紅、君を連れていくことは出来ないけれど、僕は君に頼みたいことがあるんだ』
失意の底に囚われた凛紅の意識に、僅かな光明が差す。
震える声で凛紅はその内容を尋ねた。
『これは君だけじゃなく、大輝達にも伝えて欲しいことだ。
ーーーみんなには強くなって欲しい。少なくとも、自分の身を護れるくらいには』
深い、とても深い感情が込められた言葉。
その真意を計り、少女は或いはと淡い期待を抱く。
それはつまり、強くなりさえすれば彼について行くことが許される、そう思った。
だが、次に発せられた言葉によって、それは幻想だったと少女は気付かされた。
『……そのうち、僕は君達と共に居られなくなる。その時になって、君達に危険が迫っても僕は助けることが出来ないだろう。だからどうか、強くなって欲しい』
一拍置いて。
『ーーー僕が居なくても、生き残れるくらいに』
「っ!?」
何を言っているのだろうか。
ただでさえ静かな夜に、息が詰まるような静寂が訪れるのを凛紅は感じた。
身体が震える。意識が飛びそうになる。
拒絶でも離反でもなく、決別。
彼の言葉に、凛紅はいずれ来たるであろう自分達と悠斗の決定的な別れを感じ得てしまった。
『それじゃあ、明日も早いから僕はもう切るよ。おやすみ、凛紅ーーー』
フッと魔力が消え、通話が終了した。
薄暗い夜のテラスに立ち尽くす少女は機能を終えた魔導書を握ったまま動かない。
涙を湛えた少女の瞳から、一粒の雫が煌めいて、白磁の床に弾けた。
凛紅はついに溢れる感情を抑えきれずにその場にへたり込む。
手で覆っても漏れ出す涙をそれでも懸命に抑えようとして、注意が疎かになった口から嗚咽が零れた。
「……っ、ぅぁあああああああああっ」
王城の敷地内にある寮、そのテラスから見える街灯に照らされた王都の街並み。
昼夜問わずその賑わいを表すその光はしかし、夜が耽るにつれ次第に消えていく。
雑貨屋から始まり、民家、食事処など、人々のその日の生活を締め括る闇が王城を覆う。
そして数分後に残ったのは、夜に営まれる店の僅かな光だけだった。
本日の天気は曇り。灰色の雲が夜空を包み、宙の星々を隠している。
灯光は無く、月光もそのなりを潜めてる夜は、まるで鏡のように暗闇を映し出す。
人工と天然の光が失せ、本当の闇が支配した夜が、ただ一人泣き続ける少女を見守っていた。
☆☆☆☆☆
「……厳し過ぎたかな?」
通話を切り、魔導書をしまった悠斗は一人呟いた。
悠斗の言った言葉、その全ては嘘ではない。
これから先、禁忌研究所を倒すために活動する上で、彼女らは重石にしかなりえない。
さらに言えば、悠斗は彼女達に危ない目にあって欲しくない。
元をいえば、彼女らを守るために禁忌研究所を潰そうと思ったのだから。
「いや、それも表向きかな……」
分かってた。
本当は、彼女達に人殺しをさせたくない。
人死にを見せたくない。穢したくない、綺麗なままでいて欲しい。
そして何よりもーーー自分が人を殺すのをこれ以上見て欲しくない。
「ははっ、なんて最低な奴……」
ああ、なんて自分本位な考えだろうか。
自分のために、彼女らの意思に基づく行動をねじ曲げている。
こんなクソッタレなエゴイスト野郎に、良くみんな付き合ってくれたものだ。
そこまでの幸運に感謝して、悠斗は床に就く。
「せめて……君達だけは護るよ」
決意を固め、悠斗は激戦の朝に備えて瞼を落とした。
最後の方、表現が複雑な感じになったと思います。「は?この表現意味わかんねえよ」って思った人は、感想で教えてください。意味を返信した上で、書き直しを一考します!
さて、悠斗が言っていたように、彼と凛紅達の物語は並行線を辿り、交わることは極端に減るでしょう。
黒化現象、禁忌研究所、帝国など、これから先悠斗達を巡る状況は刻々と変化し、新たな敵や真実が出てくるでしょう。
その上で、彼らがどう異世界を生きていくか、楽しみにしていてください。
長くなりましたが、これからもこの作品を書き続けるつもりです。エタる気はありません。今後も、悠斗達と共に私自身も成長していくので、どうか応援をよろしくお願いします。




