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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第三章 分かたれた道
94/112

悠斗の修行ー終ー

めっちゃ遅れてすいません!

遅ばせながら、一応投稿します!


「はぁぁぁ〜〜〜。きつかった」


  クレドが介入し、強制的に終わらされた悠斗とエルザの戦闘訓練。

  そのフィールドになった結界を解いたシャルルは、酷く疲労した様子でそう呟いた。

  シャルルが展開した結界空間複合魔法『隔離結界:空間置換』は結界魔法と空間魔法を組み合わせた超高難度魔法なのだが、当然の如く強力だが魔力の燃費が悪い。それもすこぶるつきで。

  まあ、結界で覆った空間を魔法で作った別空間に置き換え、それを維持するなんてことしていれば当然と言えば当然だろうが。


「少し乱暴じゃないの、クレド?」


「うるせぇ。あいつ熱くなりすぎなんだよ。あのままじゃあ、あいつが(・・・・)怪我をする(・・・・・)


  解かれた結界から出てきたエルザの質問に、クレドは残酷とも言える答えで返した。


「そこは嘘でも弟子の肩を持つべきじゃないの?」


  シャルルは表向き、悠斗を擁護するような言葉を掛けたが、その中に含まれるのはクレドの言葉を言外に肯定しているものだった。


「アホか。ありゃどう考えてもエルザが本気じゃなかっただろ。悠斗(あのバカ)も冷静になりゃ理解するだろうよ」


  クレドは気づいていた。

  誰よりもエルザという冒険者と長らく戦ってきたからこそ、彼女がまだ本気ではないことを。

  確かにエルザは、悠斗の力を認め『疾風装纏』を使った。

  だがそれがイコール彼女の本気と言われれば、違う。


「第一、お前遊び過ぎだろ。なんでわざわざ杖で接近戦に応じるんだよ」


「あら、貴方の弟子だもの。一体どれくらい仕込まれたのか、見てみたかったの」


  そもそも、だ。

  いくら杖術が他者よりも長けているとは言え、魔道士であるエルザが悠斗と接近戦を繰り広げる時点で異常なのだ。

  本来杖術は、敵に接近された際に不利になる魔道士達が、少しでも対応できるように研鑽を重ねてきた言わば自衛の技術だ。

  つまるところ、杖術にはほとんど自分から仕掛ける技はない。

  あるにしても、それは相手から距離を取るためのものであって、相手と殺陣を演じるためにある訳では無い。

  その段階で、エルザは既に悠斗を試していたようだ。


「でもあの子、私が接近戦をしないで魔法攻撃に専念しても最終的には『疾風装纏』を使わせてたと思うわよ?」


「それは認めるがな。だがそこに至る段階でほとんど戦闘不可能なほど削られている。それじゃあダメだろ」


  どこまでも厳しく、冷静な言葉。

  そこにはなんの思慮も含まれていないーーーなんてことは無く。


「随分と厳しいのね」


「事実を言ったまでさ」


  苦笑するエルザに、クレドは素っ気なく返す。

  が、僅かなタメの後、「それに……」と言葉を続けた。


「それに、悠斗(あいつ)優しさ(ソレ)を望んじゃいない。今のあいつに必要なのは徹底的な鞭。実践、評価、指摘、座学、技術、知識、俺たちが与えるあらゆる鞭が、あいつにとっては同時に飴にもなる」


  そういうクレドの顔は、一人の師の顔であった。







 ☆☆☆☆☆


  窓から射し込む光が目に当たり、ぼんやりとしていた意識が浮上して覚醒した。

  異世界に来てからというもの、誰よりもダントツで気絶や意識を失った回数が多い悠斗は、寝起きで働かない頭でもすぐに直近の記憶を掘り出し、現状を把握した。


「……訓練はどうなったんだろ?」


  そして第一声がこれである。

  起き抜けに心配するのが訓練のことな辺り、そろそろ訓練狂ジャンキーにでもなりつつあるのではないだろうか。


  記憶が正しければ、悠斗はエルザとの模擬戦で『電光石火』をかなりの出力で発動し、エルザも隠していた手札を一枚切り、悠斗に応戦した。

  妖精を模した風の衣と火力が増した風属性魔法を駆使してくるエルザは、接近戦にも対応してきて、かと言って距離を取るわけにはいかないのでかつてないほど苦戦を強いられた。


  最後の方には戦いが白熱し、悠斗も力の限り戦い、その果てにーーー

  突如介入してきたクレドによって気絶させられた。

  これが一連流れではあるが、正直な話、今考えればあの模擬戦を戦いだと認識していたのは自分だけな気がする。

  態々接近戦に応じてくれたのもそうだが、使う魔法も直接的な攻撃魔法ーーー『疾風装纏』は別にしても、『雷鞭』や『雷閃』、『風爆球』や『風刃』などの威力こそあれど単調な攻撃魔法ーーーばかりだった。

  『大気迷彩エアスクリーン』や『風分身』などの搦手もあるにはあったが、彼女程の使い手ならもっとえげつない攻撃はいくらでもできたはずだ。

  それらを踏まえると、やはり手加減されていたのだろう。

  そう思うと、悠斗の心にはどんよりとしたしこりが生まれた。


「考えても仕方ない、か……」


  頭に湧いたうじうじとした思考を切り替えて、これからのことについて考える。

  魔導書で確認した限り、現在時刻は一般的な朝食時間前だ。

  エルザとやり合ったのが早朝で、その後にしばらく部屋で寝かされたのだろう。

  エルザには昨日、朝食の際には食堂に来るように、と言われていたが、他人の家を勝手にうろつくというのはやはり慣れないものでどうも気まずい。

  さてどうするか、などと思考を始めた悠斗の耳に、扉を叩く音が飛び込んで来た。


「おいユウト。そろそろ飯だとよ。はよ起きろ」


  と言うのと同時に、扉を蹴破ってくる。

  幸い、扉は無事だった。そもそも鍵をしてないから。

  とは言え乱暴すぎやしないか。と言う内心を押さえ込んで、悠斗は一言。


「師匠。ノックの意味、知ってます?」


「あァ゛?知らん」


  ガラ悪い。

  本当にこの人は宮廷魔道士なのだろうか。

  確かにこれじゃあ魔道士ギルドの連中が絡んでくるのもうなずける。


「冗談だ。ここの扉は一際頑丈でな、昔良く蹴破ってたから今回も戯れでやってみた」


  冗談らしい。

  やけに物理的で冗談に聞こえない冗談だ。

  曰く、ここは昔クレドが良く訓練に使っていた部屋の一つで、蹴りの練習をする際、扉を壊すことが多いのでエルザが改修してこの扉だけ頑丈にしたそうだ。


「って、こんな話をしに来たわけじゃねえ。飯だ飯。はよこい」


「え、ちょっ、分かりましたから!引きずらないでっ!?」


  グイッと。

  さも今思い出したと言うように悠斗の首根っこをとってそのまま引きずるように悠斗を連行するクレド。

  そこから食堂へ行くまでの数分間。

  孤児院には悠斗の悲鳴が響き続けたそうな。





  悲鳴を上げ続けた上に、情けない姿で食堂に引きずられて食堂に入ってきた悠斗を見た子供達が、大爆笑したのはここだけの話である。








 ☆☆☆☆☆


「酷い目にあった……」


  食事の後。

  部屋で熱い茶を飲みながら、悠斗は困憊した様子で呟いた。

  朝食を食べ終わったはいいが、この後に一体何をすればいいのか分からない。

  いつ訓練が始まるかも分からないから出かけるのは論外。

  今朝と同上の理由で孤児院をほっつき歩くのも論外。

  はてさて、困った。

  外に出て素振りでもするべきか、そう考えた時ーーー再びと言うべきかーーークレドが入ってきた。


「入るぞ、ユウト」


「師匠、だからノックを……いや、いいです」


  プライバシーも何もあったもんじゃないクレドの横暴を、最早悠斗は止める気にもならなかった。

  まあ異世界なのでその辺が怪しいと思わなくもないが、もう少し気にかけて欲しいものだ。悠斗だって仮にも思春期男子なのだから。


「で、なんの用ですか師匠」


「何って、修行だよ」


  待っていた言葉を聞いて、悠斗は歓喜する。

  急いで支度を整え、悠斗は準備を終えた。

  そのまま部屋を出ようとする悠斗をクレドは軽く諌めた。


「待て待て。慌てんな、話を聞け」


  ゲシッ!と、クレドのチョップが頭に落ちた。

  不意打ち気味に降ってきた衝撃に、悠斗は対応しきれずに、想定以上のダメージを受けて頭を抑える。


「痛いです……」


「早とちりするからだ」


  涙目で恨み言を言う悠斗に、しかしクレド素っ気なく返した。

  痛みから解放され、ノロノロと立ち上がった悠斗に、クレドは一枚の紙を渡した。


「お前、金はそこそこあったよな」


「ええ、まあ」


「そこの紙に書いてある物を自腹で買ってこい。強制はしないが、お前が一秒でも速く強くなりたいなら買うべきだ」


「っ」


  付け足されたクレドの言葉に、悠斗はその意味を察した。

  紙に書かれている物の大半は魔法に関連する道具。

  魔力回復薬マジックポーションや魔法鉱石、魔力媒介、etc……。

  どれもこれも、魔法や魔道具製作に入用なものだ。

  この場合、魔道具製作は少しおかしいので、やるとするならば魔法の訓練であろう。


  朝の戦闘を経て、悠斗は己の魔法に関する技能の甘さが課題であることを理解した。

  本来、前衛を担当する悠斗は魔法を極める必要はない。

  異世界人である悠斗は幸運にも剣士であるにも関わらず、魔法を得た。

  結果、悠斗は剣と魔法を使う言わば魔法剣士になった訳だ。

  それは白刃達のように突出したものがない悠斗にとって、ありがたいものであった。

  だが、同時に突出したものがない悠斗は、当然ながら天才と言うほどの才能はなく。

  剣やスキルと同等にあくまで手札にしかならなかった。

  それでも『電光石火』や『雷の幻想達ライトニング・ファンタジア』などの強力な手札(カード)を手に入れた。

  手札を増やし、数多くのそれを状況に合わせてそれらから最良を切る、それが悠斗の戦闘スタイルである。


  悠斗は剣の天才ではない。

  悠斗は魔法の天才ではない。

  悠斗は体術の天才ではない。

  悠斗という少年に強みはない。


  だからこその器用貧乏。

  百芸に秀でるが、そのどれもが極まらない。

  絶対無双の『一』を持たない代わりに、多種万能な『十』を持つ。


  故に、悠斗は魔法というモノを疎かにしていた。

  剣技を身につけ、肉体を鍛え、戦いの感覚センスを磨いてきた反面、こと魔法はあくまでもおまけ、スキルが成長するままにして、自分で魔法の技術を磨かなかった。

  その結果が今回の様。

  接近戦では一歩上に行けたとはいえ、基本は互角。

  スキルは確かに《魔剣創造》とその他派生位しか使っていないが、それは使わなかったのでは無く使えなかった。

  《電撃スパーク》や《拘束バインド》は効果がない事が分かっていたし、スキルアクションは使う間もなかった。


  もし今後、そんな相手と相対した時どうする?

  悠斗には対エルザ戦では使わなかった『闇』や魔剣ノクスなどの強力な手札がある。

  だがそれが常に使えるかどうかは分からない。

  だからこそ、悠斗は今、魔法の訓練のが必要だと思っていた。

  それがすぐに叶いそうなのだ。喜ばないわけが無い。


「それじゃ、さっさと行って帰ってきます」


「おう、そうしろ。だが急げよ。後一時間ちょい位で訓練が始まる。店の場所は書いてやったから、そこに行きゃ安値でそこそこのもんが買える」


  一分一秒も惜しい!と言わんばかりに部屋を飛び出そうとした悠斗の背中に、クレドは警告を掛ける。

  粗暴で横暴な所があるが、それでもなんだかんだ、不器用な『お兄ちゃん』なんだな、と思いつつ、悠斗はクレドに「ありがとうございます」と簡素に礼を伝えて孤児院を飛び出した。



「『電光石火』!!!」


  ……強化魔法まで使って。






 ☆☆☆☆☆


  まさかの『電光石火』まで使って買い出しを終えた悠斗は、その甲斐あってかすぐに訓練を始めることが出来た。

  どうやらクレドが買ってこさせたものは訓練に必要な物もあったらしく、エルザに確認された。

 

「さて、いくつか買ってきて貰ったものもあるからおおよそ察しがついていると思うけど、私が貴方に教えるのは魔法技術よ」


  安全を考慮し、前庭の真ん中に黒板……のようなモノを置いて、エルザは悠斗への指導を始めた。


「対人、対魔物戦闘におけるそれぞれの立ち回り方などは過程の中で教えていくとして、ユウト君の戦闘スタイルは何?」


  唐突の質問。

  その答えは分かっているだろうに、と思いつつも悠斗はしっかりと答える。


「スキルと強力魔法を使いつつの高速移動からの強襲接近戦による一撃離脱戦法(ヒットアンドウェイ)。そして剣技、体術、魔法、スキルなどの多種多様な手札用いたテクニカルスタイル、です」


  自分で言うのは中々恥ずかしい、そう思いつつ、悠斗は平然とーーー少なくとも表面上はーーーしていた。


「そう。貴方は剣を持てば一撃離脱戦法を主とするタイプだし、その中にも魔法やスキルによる牽制や体術による不意打ちなどの攻撃を織り交ぜるのを是とするスタイル。

  それはやりよう次第で格上にも通じる戦い方よ」


  剛腕怪力にものを言わせ、一撃で相手を粉砕するパワースタイル。

  鉄壁堅牢な防御を固め、相手の攻撃を完封した上で敵を打ち倒すディフェンススタイル。

  技と見切りによって相手の攻撃をいなし、生まれた隙を確実に突いて倒すカウンタースタイル。

  これらの何かに特化したスタイルはどれも強く、何より分かりやすい。

  何か一つにさえ尖っていれば、それが相手に突き刺さるからだ。

  が、それは相手が格下の場合。

  ただ尖っただけ、ただ単一を極めただけであれば、格上と相対した時、その人物は確実に負ける。

  何かに特化しているというのはつまり、その単一分野で勝っていなければ、絶対に勝てないということであるのと同義なのである。


  が、単一に尖っていない……つまり、特化する所が何もない人物は、そのほとんどが一つの技術にこだわらず、一生懸命に多数の技術を磨く者が多い。

  何か一つが異様に高い人と、全体はパットないが、一つ一つの値が決して低いわけでもない人を比べた場合、後者の方が格上相手を降しやすい。

  彼らは常に相手のほとんどが格上で、常に思考し、己の切るべき最善を切り続けるからだ。

  突出した『一』は確かに強いが、対策されたり相手が悪ければ通用しない。

  しかしある程度の練度の『十』は、たとえ『一』が通用しなかろうと、残りで対応できる。

  それが強い『一』を持たず、半端な『十』で戦うしかない者の強みだ。


「でもそれがどれだけ難しいか、それを何度も成し遂げてきた貴方なら分かるはずよ」

 

  エルザの言う通り、テクニカルスタイルを主とする人々は格上にも戦える。だが、それをやって勝利を掴み取るのは、生半可な難度ではない。

  これはどの戦闘スタイルにも言える事だが、格上を相手にする時は常に思考し、相手の動向を読み、そこから対応していくのが必要になる。

  テクニカルスタイルはそれが特に顕著で、数多くの手札から選び、時には組み合わせ、戦わないといけない。

  矛盾するようだが、特に極まった『一』を持つ相手はそれがより求められる。

  特化型よりも地力が低いため、生半可な攻撃は通用しない。

  極まった『一』はたとえ相性が悪かろうとも、その相手が半端だった場合それを打ち砕く。

  黒鬼の時のように、再生能力を抜きにしても圧倒的な身体能力フィジカルによる破壊力や防御力の前に、悠斗の剣は通じず、魔法は効かず、スキルすらも意味を為さなかった。

  それらを組み合わせ、虚をつき、魔剣ノクスの固有能力とそこからくる『闇』というイレギュラーな力を持ってようやく退かせることが強敵。

  黒鬼は凶悪な『一』を振るう敵としてはまさに教科書のような存在だった。

  とにかく、そんな冗談じみた存在を退けられたのは奇跡に等しかった。

  その時も、剣技だけでなくスキルや魔法、魔道具などの技能を組み合わせて使っていた。

  いや、そうしなければ勝てなかった。

  持てる全てを出し切り、その上で『闇』を収束させた《絶閃》の絶対消滅効果があってようやく勝てたのは奇跡だ。

  故に、悠斗はその奇跡を起こす難しさをよく知っていた。


「貴方の場合、下地は十分にあるわ。剣技、体術、スキル、魔法、手札としては十分過ぎる程に。しかもその中から最善を選ぶ能力も高い。

  だからもし貴方がこれ以上のレベルアップを望むなら、やるべき事は手札を増やす事ではなく手札を強くすること。付け焼き刃を本当の武器に変える、それが重要よ」


  エルザによって示された、強くなるための明確な道標。

  保有戦力が未知数な禁忌研究所を潰すためにひた走る悠斗に差した一筋の光明。

 

「少し辛くて大変な修行よ。耐えられるかしら?」

 

  挑発するように、エルザは言う。

  だが悠斗は迷わない。

  葛藤も逡巡も必要ない。

  ただ一言、悠斗は不敵に笑って叩きつける。


「望む所です」

 

  そうして、悠斗の修行は始まった。

 







サブタイトルで分かる通り、悠斗とエルザの修行を書くのはこれでおしまいです。

次からはまた城に戻り、本編を進めるつもりです。

悠斗が果たして修行の末何を得たか、どうなったかはおいおい分かっていくようにするつもりです。

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