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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第三章 分かたれた道
90/112

予想外の戦闘

ココ最近、忙しかったんだ。

マジ勘弁してください!

軽く最後が雑になりましたが、ほんとすいません!

後今回も悠斗のキャラ崩壊が酷いですが、次話位にはデフォルトに戻ります(多分)。

「《接続コネクト》、《同調リンク》」


  黒ローブの大人達ーーー正確には魔道士ギルドの連中を無傷で無力化した悠斗は、一度クレド達と別れて、少し離れた別な裏路地で尋問を行っていた。

  いや、尋問と言うには少し語弊がある。

  悠斗式の尋問には二種類ある。

  一つは《精神汚染》によって精神的拷問を繰り返し、情報を吐かせること。

  これは既に無力化する際に使ったのであまり効果的ではない。

  そこで二つ目のやり方ーーーつまり、ユニークスキル《接続》と《同調》による意識と記憶の共有を一方的に行う方法が必要になる。

  こっちのやり方は間違いないのだが、消費魔力と精神的な疲れがバカにならないのであまり使いたくはないのだ。


「……っ」


  意識の共有を自分だけ一方的に行うこのチカラは異常なまでの情報が頭の中に流れてくる。

  その中にはどうでもいいモノと重要なモノがあり、それをふるい分けなければならず、決して簡単な作業ではない。

  だが今回は、思ったよりあっさり必要な情報を見つけられた。


「……これか!」


  圧倒的な情報の坩堝から、欲しいものをサルベージする。

  引き上げたその情報を自分のモノとし、記憶情報として自身の脳へ刻み込んだ。


「やっぱり出てきたか……禁忌研究所」


  悠斗が探していた情報、それは黒ローブ共と禁忌研究所との繋がり、そして禁忌研究所本体の情報だった。

  悠斗の目的は禁忌研究所を潰すこと。

  強くなることも大事だが、情報収集はさらに大切だ。


「何か良くないことを企んでいることは間違いなさそうだけど……タルザード・ルクセントは何が目的だ?」


  ここ最近、魔道士ギルドの連中と接触、唆したり、エルザの孤児院周辺を彷徨いていることが多い禁忌研究所の尖兵、タルザード・ルクセントの行動に、悠斗は頭を悩ませる。

  戦闘狂(バトルジャンキー)であるという情報とクレドの証言、そして黒ローブの記憶の中にあったタルザードの言葉から察するに、どうやらやつはクレドとの再戦をするために行動してるかもしれないことが分かった。

  だが、何故この男が王都にいるのかまでは分からない。


「禁忌研究所は一体何を……」


  タルザードが王都にいるのは禁忌研究所の意向である可能性が高い。

  そこらの農村や都市ではなく、王都に来るほどの要件と言うのはあまりにもくさい・・・

  とは言え、末端以下……使い捨て前提の手足代わりがそれ以上の情報を持ってる訳もなく、さらなる収穫は望めない。


「しょうがない。帰るか」


  もう用はない。

  黒ローブ達を引きずって、詰所にでも突き出してやろうと歩き出した時、彼らの一人ーーー黒ローブリーダーが口を開いた。


「貴様……一体何なんだ。貴様が使ったあの『闇』、あれは紛れもなく禁忌研究所の男が使っていたものと同質のそれだった。貴様は何者だ?何故グリセント王国の人間ーーーそれも有力者に近い人間がそれを宿す?」


「……」


  やはりそうか。

  内心そう思っても決して口には出さない。

 

「っ、貴様も何か思うことがあるのではないか!?その力を持っているということは貴様も裏社会に関わる者だろ?ならばーーーっ!?」


  悠斗が冷めた眼で男を見つめると、男は焦ったように口走り始めた。

  明らかに表だって使うことができない力を所持している悠斗を、丸め込めると思ったのだろう。

  醜悪な笑みを浮かべて必死に弁明する男を見る悠斗の顔が、どんどん冷えていき、しまいにはなんの表情も無くなった。

  男の濁った瞳には悠斗自身は写ってないのか、彼の表情に気づくことなく男はしゃべり続ける。

  悠斗が何も言わないのを、一考していると考え、好機と見た他の黒ローブ達も、男の説明に補足を重ねる。

  だが、そんな彼の五月蝿うるさいお喋りを、悠斗は力ずくで押し止めた。


さえずるなよ。不愉快だ。お前らみたいなクズ共を見てると吐き気がする。今ここで殺してやろうか?」


  底冷えするような声音。

  心底軽蔑しきった眼。

  ハイライトの消えた瞳は漆黒で、そこに湛えたクロは果てなき深淵の様。


  男にしては小柄で、細身で大して力もなさそうな少年が、魔道士とは言え自分よりも大きな相手を持ち上げる。

  ステータスが存在するからこそ為せる異常な光景だが、それを差し引いても男の目には眼前の存在が異様に見えた。

  明らかに温和そうな少年だった子供が、堅気では決してしないような眼を自分に向けて、見た目からは想像も出来ないドスの効いた声を放つ。

  これを異様と言わずなんと言うのか。


「いい加減に口を閉じろよ。その一言一言が自分の命を危ぶめているの分かってる?」


「ーーーっ!?」


  片手で頬を鷲掴みにしているため、脅された男はどう頑張ってもくぐもった声しか出せない。

  ますます剣呑になる少年の眼に、男は今度こそ言い様もない恐怖に包まれる。


  悠斗にとって、男達はなんの義もないただの私怨を最低最悪の手段で晴らそうとしただけの愚物。

  殺す価値すらない路傍の石同然の存在だ。

  彼らは初犯で、しかも禁忌研究所に唆された結果暴走しただけかと思っていた。

  だが、彼らの様子を見る限り何度でも同じことを繰り返す可能性が高い。

  さきの《精神汚染》で完全に心を折ったつもりだったが甘かったらしい。

  また彼らが子供達を人質に取ったら、傷つけようとするのなら……その時悠斗がその場に居合わせる可能性が低い以上、この男達を殺す方が良い。


「気に食わないよ。自分が大した力を持ってないから、それ以上に力無い子供達を狙うその愚行。憂さ晴らしにしろ私怨の復讐にしろ、どうして関係ない子供達を巻き込むのか……。その存在そのものに吐き気を覚える」


  悠斗の冷えきった視線が男達を射抜く。

  その声音には、彼の根幹にあるであろう何かを刺激されたことへの苛立ちや怒りが滲んでいた。

  最早隠すことの無い嫌悪感を全開にし、空いているもう片方の手を男の首に掛ける。

  絞めるか折るか、なんなら感電もありか。

  今の状態で可能な殺し方を模索する。

  だが、悠斗の手が男の命を刈り取る前に、嫌悪感を煽るような声が割って入った。


「使えねぇっとは思ってたがまさかここまでとは……クソの役にも立たねぇ野郎どもだなぁ!」


  ふざけたような声音に含む、失望のイロ。

  だがその顔に張り付いているのはそもそも期待はしていないと言う冷徹さ。

  突如現れた第三者に、悠斗は覚えがあった。


「タルザード・ルクセント……」


  悠斗が追う禁忌研究所の尖兵が、そこにいた。


「おおう?なんでお前みたいなガキが俺のことを知ってやがる?お、もしかして俺有名人!?」


  ふざけた態度、ふざけた言葉。

  煽るような言葉使いにしかし、既に限界まで冷めきっていた悠斗の心は動じない。


「一つ聞きたい、タルザード。あんたの……いや、禁忌研究所の目的はなんだ?」


「ほぉ……」


  急に(かお)と雰囲気が変わったことに、悠斗は気がついた。

  巫山戯た戦闘狂(ジャンキー)のそれではなく、組織の奥にくい込んだ構成員の空気だ。


「あー、そうか。お前も禁忌研究所(ウチ)に接触したいっていうクチか。入室か?取引か?」


「質問しているのは僕なんだけどな。目的?決まってるだろ、研究所(お前ら)をぶっ潰す事だよ!」


  男を放り投げ、腕から『闇』を滲み出す。

  しかし、それを放つ訳ではなく、無詠唱で雷属性魔法Lv4『雷槍』を連続発動。

  迸る雷が、幾条もの槍となってタルザードに迫る。

 

「ハッ!随分な挨拶だなァ!」


  しかしタルザードは俊敏な動作で避けると、そのまま悠斗に近づいてくる。

  タルザードの腕にもまた『闇』が集まり、何かの形を成そうとしていた。


「俺に喧嘩売ったんだ、さぞ愉しませてくれるんだろうなァ!」


「っ!」


  闇が、腕の延長のように鋭く伸びる。それは剣のようだった。

  激しく振るわれる闇の剣の舞が四方から悠斗を襲う。

  だが、悠斗とて負けていない。

  だからどうしたと言わんばかりに両腕を《竜人化》によって硬化、付与魔法を上乗せし、さらに闇を篭手のように変化させて斬撃を打ち払う。


「『身体強化』!」


  更に無属性魔法『身体強化』で肉体を強化し、刹那の隙を縫って拳を叩き込む!


「ぐおっ!?」


  完全に意表を突かれた形で自身の腹に食いこんだ拳が、タルザードの身体を吹き飛ばす。

  両足で踏ん張り、耐えたタルザードだが、尚も迫る悠斗に目を見張る。


「ちっ!」


  腕の闇腕剣を盾の形に変え、咄嗟にガードする。

  だが悠斗の拳は途中で軌道変化し、盾を掻い潜ってタルザードの頬に突き刺さった。

  よろけた身体を立て直そうとする前に、悠斗の回し蹴りがタルザードのがら空きな胴に直撃する。

 

「『雷砲』!」


「ぐ、ぐぉおおおおおおおおッ!!??」


  トドメに一撃、雷属性魔法Lv3『雷砲』を魔力多めに解き放つ。

  魔力過多オーバーフローによって撃たれた雷の砲撃は激しい稲妻の嵐となってタルザードを呑み込んだ。

  後に残されたのは、ボロ雑巾のようになったタルザードーーーではなかった。


「あっぶねぇなァ。俺じゃなかったら死んでたぜ?」


「っ!?」


  雷に呑まれたはずのタルザードは、無傷ではなくとも目立った外傷は無く、五体満足で立っていた。

  いや、よく見ればその身体は真っ黒に染まっている。

  そのクロは、『闇』だった。


「くくくっ、闇を鎧にするのが、お前だけの専売特許かと思ったか?」


「……」


  得意気に語るタルザード。

  それに対して、悠斗は何も返さずじっと油断無く構えるのみ。


「はははっ、どうした、予想外すぎて言葉も出ないか?手加減でもしてやろうか?」


「……っ!!」


  挑発。

  本来なら、乗るべきではないのだろう。

  だが、悠斗の中で何かが爆発した。


「来い、ノクス!《飛燕》!」


  マジックチェストより、魔剣ノクスを喚び出す。

  ノクスの副能力、『闇』を存分に解放し、短距離高速移動スキルの《飛燕》で一気に距離を詰める。


「っ、後ろか!」


「はぁっ!!!」


  斬撃一閃。

  辛くも闇腕剣で防ぐも、力足りず吹き飛ばされる。


「ぐァッ!?」

 

  近場の壁に叩きつけられ、短い悲鳴を上げるタルザード。

  それを悠斗は冷ややかに見下し、怒声を上げる。


「どうしたタルザード!まさかお前は、まだ僕が手加減するべき相手だと認識しているか!?そんな巫山戯たことを抜かし続けるなら、今すぐ斬り殺してやる!」


  火山の大噴火の如き激怒。

  目まぐるしい感情の変化に、タルザードは僅かに硬直した。

  これから自分が戦うであろう組織の、中枢ですらない人間に手加減される。そんな屈辱から生まれた激情が悠斗に今、力を与えていた。

 

  だがしかし、相手も強者。

  一瞬の停滞の後、黒い鎧を纏ったまま悠斗に突撃する。


「ぶっ殺す!」


「来いッ!」


  剣状態を解き、拳に闇を集中しながらタルザードは悠斗へと猛突する。

  振るわれる拳を躱し、反撃の機会を伺う悠斗だが、僅かでもそのを見せると一瞬で反応し、隙を無くしてくるタルザードの察知能力と反応速度、そして行動能力に舌を巻いていた。


「【薙ぎ払え】!」

 

  このままではジリ貧と考えた悠斗は、腕を薙ぎながら命じた。

  その動きに同調するように闇は波打ち、長大な刃となって地を走り、周囲を薙ぎ払う。

 

「ちっ!」


  攻撃を受ける訳にはいかないと、タルザードは一旦距離を取る。

  だが次の瞬間にはタルザードを覆う闇が流動し、闇の触手を展開、その触手も尖端が鋭く尖ったモノ、鎌のような刃を持ったモノ、盾のように広がったモノに変わった。


「はははっ、クソガキが、この怒涛の連撃に耐えられるかァ!?」


  闇の触手が、迫る。

  しかし悠斗は動じることなく、ノクスを構えた。

  彼の魔剣にもまた、夥しい程の闇が収束し、異様な威圧感を散布している。


「《絶閃・破断》」


  自身の最強技、《絶閃》の威力を宿した剣で悠斗は触手を切り裂きながら進む。

  悠斗自身も、闇の鎌群を作って対応するという方法もあったが、それをやらなかったのは堂々巡りになりそうだと思ったからだ。

  《飛燕》で高速移動し、邪魔な触手を切り払う。

  みるみるタルザードまでへの距離は詰まり、ついに悠斗の間合いへと入った。


「ざっけんな!」


  このままやられるのを良しとしないタルザードは、腕を突き上げ、闇を凝縮、そして刃だけの巨大な剣を形成し、振り下ろす!

  収束が甘いのかはたまたそれ以外か、悠斗の《絶閃》程の威力は見られないが、まともに当たるのは致命的だろう。

  だがしかし、悠斗が今剣に宿しているのは万物を殺す必滅の『闇』なれば。

  少し強めの踏み込みと共に、ノクスを横薙ぎに振るい、闇巨剣を迎撃する。

  タルザードは、少なくとも拮抗はすると思っただろう。そうなれば、重さで押し潰してやれると。

  だが、その考えは虚しく、魔剣ノクスは闇巨剣を僅かな拮抗さえも許さず両断・・した。


「嘘だろおい!?」


「《飛燕》!」


  高速接近。

  タルザードが驚愕している隙に、飛燕(スキル)を使って背後に迫る。

  背面強襲としては完璧。

  どうやっても逃れられない。

  魔剣に闇を携えて、悠斗は勝利を確信したーーーその時。


「「おっと危ない!」」


  ガキィンッ!と、硬質な音を立てて、悠斗の一撃は防がれた。

  いくら《絶閃・破断》を解除してしまった状態とは言え、渾身の一撃を、それも完全な強襲を防がれたことに対するショックは大きい。

  だがそれ以上に、悠斗に衝撃を与える要因があった。


お前達(・・・)……誰だ?」


  悠斗の攻撃を受け止めたモノ、それはとある二人組み。

  全身真っ黒で、手に槍のようなモノを持った長身の男。


「「俺は誰かって?タルザード・ルクセントだよォ!!」」


  二人のタルザードは手に持っている槍を振り回し、悠斗に迫る。

  未だ衝撃が抜けない悠斗は後手に回るも、すぐに形勢を取り戻し、二人のタルザードに斬撃を与える。


「はぁッ!」


「「グヒィッ!?」」


  一閃。

  たったそれだけで、二人のタルザードは腰から真っ二つになり、その身体は闇に溶けて消えた。

  タルザードにしてはあまりに弱すぎる、悠斗はそう感じていた。


「くくくっ、惜しかったなァ」


「闇分身、といった所か。ベタ過ぎるよ」


「っ、気に食わねぇガキだ!」


  顔をニヤつかせて挑発するタルザードだが、あっさりと悠斗に看破され、逆に冷静さを失った。

  悠斗の攻撃を止めた二人のタルザードは、彼の推測通り『闇』を人型にしたモノ。以前クレド達とやり合った時に使った闇の獣の応用だ。


「ならこれはどうよ!」


  タルザードはまた二人の分身を作り、さらに闇の触手を生やさせる。

  系三人のタルザードが、各々幾本もの触手を振り回し、悠斗に向けて射出した。


「「「死ねぇ!」」」


  迫る触手群。

  流石にその数は多すぎる。

  全ては打ち払い切れないと踏んだ悠斗は今一度、己の切り札の一つを切った。


「《接続》、《同調》!」


  ユニークスキルにより、魔剣ノクスに残った意識と記憶の残滓に自己を同化させる。

  途端に悠斗の瞳は淡い水色に変わり、髪も灰色混じりのそれに変わる。

  この魔剣に遺された記憶の残滓が、悠斗に何をすればいいか教えてくれる。


「《飛燕》!」


  魔剣の記憶が導くままに、悠斗は動く。

  触手の波を掻い潜り、攻撃の嵐を避け、悠斗はタルザードに接近していく。


「「「っ、来るなァ!」」」

 

  数の暴力を持ってしても止められない悠斗の進撃を恐れたか。

  タルザードは悲鳴のような声を上げて触手攻撃を激しくする。

  それでも当たらない、当てられない。

  さきの触手攻撃は全て切り裂くことで解決した。

  そしてそれが出来ないと踏んで悠斗が次に取った行動は極力攻撃が少ない所に移動しながら最小限の行動で対象まで辿り着くーーーつまり、弾幕ゲームのような攻略法だった。

  悠斗でも完全には見きれない弾幕の薄い所はノクスの記憶が教えてくれる。

  それに従って悠斗は邪魔物を切り払って進んだのだ。


「【剣と成れ】」


  悠斗の空いた片手に、闇が凝縮され剣が生まれる。

  二刀流となった悠斗はさらに斬撃の数を増やし、ついにタルザードのもとに辿り着く。


「まず一人!」


「っ、グギャァァァァッ!?」


  闇の剣を投擲。

  ソレは見事に分身タルザードの胸を貫き、闇へと還す。


「畜生がァ!」


「二人!」


  ヤケになった分身タルザード二人目が、闇の剣を構えて襲ってくる。

  しかし悠斗は《感知》でそれを知っていたため、タルザードが攻撃するよりも早くノクスを突き出して額を穿った。


「っ、ぐぅぅぅ……っ!」


「次はお前だ!」


  自慢の波状攻撃がいとも容易く打ち破られたことに、タルザードは忌々しげに悠斗を睨みつける。

  だが、次の瞬間には何かを思いついたようにニヤリと嗤った。


「ハッ!死ぬのはてめぇだよ!」


  タルザードは懲りもせず闇の触手を飛来させる。

  《感知》スキルのお陰で自分に被弾しかねないモノを把握しそれらを撃ち落としーーーた瞬間に、自分の失態とタルザードの目的に気がついた。


「しまーーーッ!?」


  残った触手が向かった先は悠斗が放り投げた黒ローブ達。

  触手は彼らの体を食い破り、そして何かを注ぐような動きを見せて沈黙した。


「何をしたッ!?」


「別にィ。ま、そろそろ時間だ。お暇させて貰うかねェ」


「させるものーーーッ!?」


  させるものか。

  そう言おうとした悠斗にの耳に、くぐもった悲鳴が聞こえた。


「ぐ、ァがぇギャぐる゛グブェ゛!?」


「ぉごっぅ゛ぶぉ゛がブェ゛!?」


「ぁぁぁあがぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?」


  総勢5人ほどの黒ローブ達が胸を抑えてのたうち回り、足をばたつかせ、暴れ回る。

  骨が軋み、肉が弾け、筋が断裂する音が周囲を包み込んだ。



「「「「「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!?」」」」」


  最後の悲鳴の後、彼らの肉体は変異し、全てが異形の怪物と化す。


「タルザード!何をっ!?」


  問いただそうと振り向いた時、既にタルザード・ルクセントの姿はなかった。


「畜生、あの時の再来か!?」


  悠斗は目の前の異形が【冒険者殺し】の男の最期と類似してることに気づき、最悪の想定をしてしまう。

  即ち、あれはタルザードによって人為的に引き起こされた『闇』の暴走である、と。

  元々禁断の力。故に禁忌研究所が研究していたのだ。当然、そんなこともあるだろうと思っていたし、その実例は【冒険者殺し】のお陰で知れたが、人為的に引き起こすのは予想外すぎる。


「クソッ!」


  悪態を付いても最早意味は無い。

  今のところ救う手だては無い。

  無意味に助けようとして、こいつらを表に出すわけにも行かない。

  ならばーーー


「これが因果応報ってやつかな。恨んでくれても構わないが、呪うなら禁忌研究所(あんな組織)に手ぇ出した自分らを呪え!」


  闇を収束。

  《絶閃・破断》を宿し、悠斗は異形共に斬り掛かる。


「はぁああああああッ!!!」


  異形共は【冒険者殺し】の成れの果てよりは弱くて。

  僅か数分で全滅出来た。

  当然生存者はゼロ。

  また、これまでの戦闘音が周囲に響いていたようで、衛兵が近づいて来た。

  ここまでバレなかったのが奇跡と言うべきか。

  流石にこんな化け物が都内にいるのは不味いと思い、悠斗は異形共の死骸を魔法で火葬し、衛兵達にバレる前に隠密スキル《隠形鬼》を使用しながらその場を後にしたのだった。












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