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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第一章 Welcome To Anotherworld
9/112

仲間ー転ー

書き直しパートでございます。

  惨劇が、始まった。


「ーーーッ!!」


  刹那の呼吸で最大の酸素を取り込み、魔力を纏って体を強化する。魔力による身体の保護強化を初めとした、より効果的な身体の使い方は異常精神スキルが教えてくれる。

  悠斗はただ、スキルに導かれるままに惨劇をもたらすだけで良い。


『ギィィィーーーッ!?』


  悠斗がゴブリン達の一塊に突っ込むと、すぐさま複数の小鬼の断末魔が上げられる。

  悠斗が数回、剣を振るうだけでゴブリン達は無惨に解体されてゆく。


「すげぇ……」


「悠斗さん……」


  悠斗が立ち上がってから今に至るまで、終始圧倒されて声を出せずにいた大輝と双葉は、各々の唇から言葉を漏らす。

  そこに含まれる感情は驚愕と心配。だが、割合で言えば心配の方が強い。

  ボロボロと言っても過言ではない身で、一度は倒れと少年が再び激戦を繰り広げる。そんな光景を心配するなという方が無理な話だ。


「今はアイツの心配より、アイツの足を引っ張らない方が優先だ。行くぞ」


「……っ、はい」


  だが、何故か冷静な彼らの思考は最善を選択する。

  不安を押し殺して、悠斗の枷にならないよう行動する。



「ーーーッッッ!!!」


  最早意味を為さない咆哮を上げ、悠斗は再び縦横無尽に森を掛ける。一度はスタミナ切れに陥ったはずなのに、その動きは万全時と遜色ない。いや、むしろ無駄な動きが減り、最低限の動作でゴブリンを屠っている。

  魔力で身体を保護し、足りない力を補い、より戦いの効率を極めていく。

  悠斗の体が、動きが、思考が、敵を狩るためだけのマシーンと化していく。


「ァァァァァああああああああッッッ!!!」


  剣を振るう腕の筋繊維が悲鳴を上げる。戦況を少しも逃さないために見開かれた瞳が充血する。限界を超えて思考を回し続ける脳が崩壊の前触れを訴える。

  人としての自分を忘れ、ただ血紅を撒き散らす旋風へと姿を変える。

  その身が、狂性に支配されるーーーその寸前。友の叫びが暗闇を打ち払った。


「悠斗っ、戻れ!」


「っ!!!」


  ただ前に進むだけだった体が止まる。圧倒的な暴虐をもたらすだけの存在が、普通の少年に戻る。

  その一瞬の空白の内に、大輝が悠斗の体をかっ攫う。


「《火炎ブレイズ》ッッッッッ!!!」


  ありったけの魔力を込めて、ありったけの数の炎を乱射する。

  炎塊の数々は地面に着弾すると同時に、連鎖的大爆発を引き起こす。

  地面が抉れ、土埃と炎塊が直撃した小鬼の肉片が舞う中、大輝は悠斗を背負ってひたすら走る。

  食いちぎった包囲網の隙間を駆け抜ける彼だが、当然敵も陣形を崩し後ろから追ってくる。

  ゴブリン達で形成された一列が、大輝達の背中を追う。動けない悠斗を抱えたままでは追いつかれるのは時間の問題だがーーーこの状況を待っていた。


「安木!」


  先に安全な場所に避難していた双葉の元に大輝達がたどり着いた瞬間、彼の指示に従って双葉は切り札を解き放つ。


「『炸裂光球(ライトボム)』……!」


  光属性魔法Lv3『炸裂光球(ライトボム)』。包囲網突破の戦闘で《光属性魔法》のスキルレベルが上がった結果使えるようになった魔法。

  双葉の杖の先からバスケットボール大の光の球がそこそこの速度で射出され、群れの真ん中辺りに着弾、大爆発。

  光属性の中で最初に使えるようになる範囲攻撃魔法である『炸裂光球』は本来、半径三メートル程の範囲炸裂しか起こさない上に、威力も弱い。

  だが、魔法に特化したステータスの双葉が、必要以上の魔力を注ぐことで完成した魔法は、炸裂範囲、威力共に数倍となっていた。

  衝撃波と炎熱がゴブリンもホブゴブも区別なく消滅させ、大地に大穴を空ける。殲滅、とまではいかないものの大群の九割を消し飛すことに成功した。


「……っ」


「考えこむのは後にしろ。今は先を急ぐぞ!」

 

  醜悪な化け物で、敵であった小鬼達。しかし、そこに宿る本物の命を戦いですらない理不尽な爆発で大勢奪いったことに、双葉の手が震える。

  そんな彼女を後目に、大輝は冷たく言い放つ。彼とて、双葉の気持ちはよく分かる。それでも今は時間がないのだ。

  一先ずの安息こそあれど、彼らの逃避行はまだ終わらないーーー。




 ☆☆☆☆☆


  これで何度目か。


「ぅおおおおおおッ!」


  フルスイングした大剣が、命を纏めて刈り取る。

  胴体を泣き別れにされたゴブリン達は恨めしそうにその下手人を見つめ、(たお)れる。

  その視線に晒される度、彼らの憎悪がナイフとなって自らを傷つけるように錯覚する。

  だが……それさえも慣れてくる。罪悪感は浴びる血に割られて薄れていく。視線の刃は心にぽっかりと空いた穴を通り抜けて刺さらなくなった。

  “生きるために”という免罪符はとうにその機能を失くし、“痛み”を感じる感情はすり切ってしまった。


「……くそっ」


  悪態をついて、剣を地面に突き立てる。たったそれだけの動作があまりに遅い。

  激戦をくぐり抜けた後もちまちまやってくる敵襲に、精神も肉体も疲れ果ててしまった。


「安木……悠斗の様子はどうだ?」


  チラリと横を見る。背の高い少年ーーー大輝は、地に突き立てた剣に身を預け、少女に介抱されている彼の友の様子を伺った。


「……あまり良いとは言えません。現状、魔法で体力の回復は出来ないので……」

 

  悠斗を膝枕して介抱している少女ーーー双葉は声を固くしてそう言った。

  一人で殿を務め、双葉の魔法が完成するまでの間奮戦していた少年は、その役目を終えると糸が切れた人形のように動かなくなった。

  回復魔法を掛けて傷は癒したが、疲労は取れず、意識は戻らなかった。

  大輝達にも限界は近かったため、たまたま見つけた人が数人入れる程の大きさの木の洞に身を隠し、大輝は見張りをしている、というのが現状だった。


「……状況悪すぎだぜ。森でサバイバルするには知識不足モノ不足。つーか腹減るし喉乾くし。動けなくなるのも時間の問題か?」


「せめて桜田君が動ければ……」


  三人一組、一人ダウン。それだけでも痛いのに、双葉は戦闘に向いていないため、留守番と探索に別れることも出来ない。

  悠斗が起きていればどちらかが外で探索できたかもしれないが、タラレバの話は虚しいだけであった。


「そーいえばよ」


「……?」


  おもむろに口を開いた大輝に、双葉は首を傾げる。

  彼は意地悪な笑みを貼り付けたまま、その問いをぶつけた。


「名前呼びしたって、別に悠斗(アイツ)は気にしないぞ?」


「!?」

 

  双葉の顔が真っ赤に染まる。唐突に出された話題であるにもかかわらず、彼女は大輝の言葉の意味を正確に理解し、彼の望む通りの反応を返した。


「ま、頑張るこった」


  ニヤリとした顔でそれだけ言うと、大輝は視線を元に戻す。

  からかわれた本人は恥ずかしいやら、何か悔しいやら複雑な心境でーーー


  ォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!


『っ!?』


  大気が震えた。

  その振動に悲鳴を上げるかのように、双葉と悠斗の居る樹木も軋む。

 

「何か不味いっ、安木、悠斗をーーーッッッ!?」


  言葉は、続かなかった。大輝の視界、その片隅に映った流星群(炎の雨)が、悪意を持って降りしきる。

  その赤に意識を向けた時には、致命的に遅かった。

  大輝達は知る由もないが、それは火属性魔法Lv5『炎塊雨弾(フレイムレイン)』に酷似していた。

  炎の雨が降り注ぎ、着弾する度に爆ぜ、大地と木々に甚大な被害をもたらしていく。炎塊一発一発の威力は低い。だが、数十、数百の規模で放たれたそれは地球の爆撃機の如く働いた。


『〜〜〜っ!?』


  五秒後、炎の雨は収まった。だが、それに晒された場所は凄惨たる有様だった。

  木々は焼け、地は穿たれ、人間達は倒れ伏していた。

 

「……生きてるか」


「何とか……生きてます……」

 

  咄嗟に木の洞の中に入り、入口を大剣で塞いだお陰か、大輝達は九死に一生を得ていた。だが、隠れていた木にも炎弾は当たり、その余波を受け続けた彼らはかなりのダメージを受けていた。

  気絶中の悠斗は双葉が覆い被さるようにしていたため、ダメージは少ないようである。


「本気で不味いことになったぞ」


  体はそのままに、目を動かして炎の雨が降ってきた方向を見る。

  視線の先、五百メートル程離れたところには、魔物の群れがいた。

  杖を持った小鬼ーーーゴブリンメイジが十。

  両手持ちの棍棒や、刃こぼれや損傷が酷いくたびれた金属製大型武器を携えるゴブリンウォーリアが四。

  雑兵の通常個体が十。

  だが、何よりも目を引くのはーーー二体の異物。


  ゴブリンメイジのそれよりも豪奢な杖を持ち、魔道士然とした格好の個体。

  ホブゴブリンに並ぶ体躯、その身の丈に迫るロングソードを肩に担ぎ、金属製の鎧を身につけた個体。


「ギィガァ、ギィググ、ギガゴォ」


  『ギィィィィ!』


  鎧を付けた個体が何か言葉のようなものを発し、それに返すように他の個体が叫ぶ。

  恐らく鎧を付けた個体は一定以上の知能がある。便宜上、大輝達は奴はゴブリンジェネラルと名付けた。


「グギィ、グギャゴ、グギャゲゴギィ」


『グギィ、グギャギゴ、グギャゲギギ、グギギガ』

 

  魔道士然としたゴブリンーーーこちらはゴブリンメイジエリートと呼ぶことにしたーーーが何かを告げると、後ろのゴブリンメイジ達が一斉に同じ言葉を紡ぐ。それはまるで、呪文のように聞こえる。


「おい、何か不味くないか……」

 

「ゴブリンメイジ達の杖に魔力が集まってます。多分、魔法のーーー」


  斉射を行うつもりだ。そう言う前に、全身を包んだ寒気に従って、彼らは迅速に行動していた。

  死を偽る擬態から一変、誰よりも逃げ足の速い獣になるーーーいや、なろうとした。

 

「あっ……」


  駆け出した瞬間、少女の体から力が抜ける。

  堪らず地面に膝をつき、可憐な顔を苦痛に歪める。

  それはあまりにも致命的な隙だった。彼女の死が確定した瞬間だった。

  悠斗を背負って駆け出した大輝は少女の脱落に気づいていない。そのまま走り続けて、きっと範囲外まで逃げ切るだろう。


(きっと、これで良いんだ……)


  絶望が少女に爪を立てる中、彼女は冷静に諦観していた。

  いや……諦観とは違うのかもしれない。それは一瞬の喜びだった。足手まといになっていたことから抜け出せる、喜び。

  悠斗達は言った。彼女(ヒーラー)は必要だと。攻撃魔法が使えるなら尚良いと。

  本当にそうなのだろうか?


(私が居なかったら、きっとあの人は傷ついていない……)


  そうだ。確かに回復役は必須だろう。回復薬(ポーション)の存在が確認出来ていない以上、傷を即座に癒せる存在は何よりも重宝されるべきだ。

  だが……これはゲームではなく現実。やろうと思えば、敵に囲まれてもさっさと逃げることだって出来たはずだ。戦わず、傷を負うことしない選択肢もあったはずだ。

  それをしなかったのはーーー


(全部、私のせいなんだ……)


  双葉を庇ったから。

  ステータス云々ではなく、生来の気質として運動することが酷く苦手な彼女は、逃げ足が早くない。三人の一斉に走り出しても、彼女だけはすぐに捕まってしまう。

  それを理解していたからこそ、悠斗達は戦うことを選んだ。戦って戦って、傷ついた。

  だからきっと、自分(双葉)が死ねば、彼らが傷つくことは無い。

  少なくとも彼女は、そう考えていた。


「安木ッッッ!?」


  漸く気づいた大輝が、双葉の名を呼ぶ。でも分かっている。間に合わない。向こうの魔法は完成した。

  今に炎の塊は飛来して来るだろう。

  死は、免れない。


「安ーーーッッッ」


  真っ先に飛んできた一発が、大輝と双葉の間に着弾し、煙幕を張る。

  最早確定した未来に備えて、双葉はその目を閉じ……


  ドドドドドドドドドドッッッ!!!


  炎が、少女を飲み込んだ。





  ……

  ……

  ……


「安ーーーッッッ」


  名を呼んだ少女との間に、炎が落ちた。爆発し、巻き上げられた煙に巻かれる大輝。その顔は酷く強ばっていた。

  その後続く火炎の雨。空気を揺らす破砕音。


(嘘だろ……)


  目撃してしまった人の死。

  何の罪もない少女が、死を迎える瞬間。

  動けなかった。何も出来なかった。

 

「……っ」


  奥歯を噛み締める。でも、行かない。行けない。

  ここで行っても、助けられる可能性は低い。その上こっちまで死んだら、それこそ、彼女は無駄死にだ。


「っっっ、クソがァっ!」


  あまりの現実に、悪態を吐き捨てた時、気づいた。


  「ーーー悠斗?」


  背中の重みが、消えていたことに。






 


  ……

  ……

  ……



  その光景を、見たくなかった。もう二度と起こすまいとした光景を、彼は見たくなかった。

  あの時は恐怖で体を動かせなかった。

  今は蓄積したダメージで体を動かせない。


  (それでも……)


  それでも、その光景を許容出来なかった。

  だから、彼はーーー




  ……

  ……

  ……


  これから訪れる、どうしようもない衝撃を、安木(やすらぎ)双葉(ふたば)は身を縮めて待っていた。

  しかし、いつまで立ってもソレは来ない。まるで彼女を焦らして、彼女の覚悟が折れた時に襲うつもりであるかのようであった。

  奇妙な安堵感と圧倒的な恐怖がごちゃ混ぜになった心境の彼女にとって、その空白は何分にも何時間にも感ぜられた。

  だから、気がついた。今際の際で研ぎ澄まされた感覚だからこそ、僅かなその音に。

  地を蹴り、踏み締めるかのようなその音に。


「ーーーえ?」


  ゆっくりと、目を開いた彼女の視界映ったのは、少年の背中だった。

  彼女を守るかのように立ちはだかる、少年の、ちっぽけな背中。しかし、今の少女の目には、その背中は如何なる城壁よりも巨大で、堅牢に見えた。


「大丈夫。君は死なせない」


  片腕を突き出す。その格好はまるで、砲を構えているかのようにも見えた。

  いや、実際、構えているのだ。そして、撃った。


「《電撃スパーク広域死電デッドボルト》」


  雷撃が、走った。

  少年少女を照らす炎の雨に対して、飛び出した極太の電撃は途中で枝分かれし、無数の電気の槍となる。

  総数は炎の雨の方が多い。だが、電撃の槍は、持ち主に害を与える炎塊を撃ち抜き、彼らに届かせる前に爆裂させた。


  ドドドドドドドドドドッッッ!!!


  撃ち落とされなかった炎塊が地に堕ちる。その余波を身に浴びて、衣服を髪をたなびかせ、衝撃にあおられる少女は、信じられないモノを見るかのような目で少年を見た。

  その姿は、英雄のようだった。


「なんで……助けに来たんですか……?」


  気がつけば、口が動いていた。ありがとうでも、ごめんなさいでもなく、何故、と。

  震えるその声はしかし、怒りさえ宿してみえた。

  足を引っ張るのが嫌で。ようやく、そこから抜け出せると思ったのに、と。

  それに対して、彼はーーー


「君が自分をどう思っているのか、僕には分からない。何で死を受け入れようとしていたのかは分からない」


  あの時、親友の叫びの中、朧気だった意識か捉えたのは、諦めと、安らぎの顔だった。

  これから死ぬと言うのに、浮かべたその顔が、彼にとってあまりにも不可解だった。


「でもさ」


  彼女が浮かべたその顔は。

  何故か、彼を苛立たせる。


「君が何と言おうが、僕は君の意志を尊重しない」


  その言葉は酷く我儘なものだった。

  人の気持ちを踏みにじる、最低な行為を宣言した。

  だがそれは、最低だけど、優しい言葉だった。


「君の望みなんて関係ない。君の思いを斬り捨てても、僕は君の命を助ける……!」


  英雄宣言。

  本物の英雄(ヒーロー)でなくて良い。万人を救う正義である必要は無い。

  彼はそれらになり得ない。

  だから、悪でも良い。最低でも、卑怯でも、邪道でも良い。

  護れ。たった一人でも。真に『救う』ことはできなくとも、命を絶やさせるな。

  それが、彼が立てた誓い。いつか砕けた誓約。

 

「今度こそ、守ってみせるッッッ!」


  戦いは、白熱するーーー


 

 

書き直しパートです。前後の繋がりにご注意ください

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