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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
83/112

迷宮攻略最終章

投稿頻度を上げて行けたらと考えています。


タイトル通り、ダンジョン攻略編はこれを含めて後三話位で終わらせたいです。ちょっと急ぎ足になりますが、楽しんでいってください。

「無駄な戦闘はするな、一気に切り抜けるぞ!」


『おおっ!!!』


  【光の勇者】である白刃の号令が砂漠に響く。

  リーダーの激を受けた異世界転移組の面々は威勢の良い返事と共に、それが威勢だけのモノではないことを証明するかのような働きをする。

  魔法の弾幕が白刃達をとり囲もうとする魔物を尽く殲滅し、無残な死体だけをその場に遺す。

  ある者達は豪剣から閃剣、舞剣などの様々な剣術を振るい砂漠の砂に血を混じらせる。

  更には魔力の弾丸が魔物の体を穴だらけに、或いは弱点を的確に撃ち抜いて絶命させる。


  第二層森林地帯(フォレストエリア)でしたような強行突破をしている彼らの現在地は第四層、砂漠地帯(デザートエリア)だ。

  第二層が辺り一面木々で覆われていて、第三層が岩石の凹凸が激しい大地と岩山しかないエリアだとするならば、第四層はどこを見渡しても砂漠しかない。

  時折見えるのは砂丘と蟻地獄のような大穴、そして避暑地にはなりそうな倒壊した建物。そして蜃気楼のみだ。

  だが稀に、本当にオアシスが見つかる時もある……と言うか【修練の魔境】は完全に地図化(マッピング)が済んでいるため、どこに何があるのかはあっさりと分かる。

  地図を見る限りでも意外にオアシスの数は多い。

  異常事態(イレギュラー)に見舞われ混乱極めるダンジョンも、地形までは変えられないらしい。流石初心者向けダンジョンと言える低難易度地形だ。

  とは言え、異常事態は継続中。ビギナー向けダンジョンとは思えないランクと量の魔物が押し寄せる。

  それを捌く彼らの実力、何より白刃の采配能力は、目を見張るものがある。

  それは数ヶ月前、始まりの森や最初の【修練の魔境】攻略に出た時の彼から考えれば、飛躍的な変化だ。


「隊列を崩すな、そのまま前進、振り切るぞ!」


  正面の敵を纏めて薙ぎ払った白刃は号令を掛け、一気に駆け出す。

  それに続くクラスメイト達は、前回のようなただ全力で逃げる形ではなく、立派な陣形を取っていた。

  前方を白刃。さらにその周囲を彼のパーティーで固め、後方の表面に瑛士とそのパーティーを配置する。内側には遊撃手として凛紅を置き、そのアシストにミーシア。上空には双葉が飛行し、前後を行き来して回復と補助を掛け続ける。そして隊列の中心、皆に守られる様にして移動するのは大輝。そして……今なお目覚めない少年、悠斗だ。

  【魔鳥の導き(マジックガイド)】によって確立した最短ルートを、常に襲いかかってくる魔物達を引き離す様に激走しながら、白刃は異形との戦闘が終わってから今までのことを思い出していた。









 ☆☆☆☆☆


「悠斗君の様子はどうなんだ?」


  彼女が簡易天幕から出てくると同時に、オレ、桐生白刃(きりゅうはくば)は声を掛けた。

  異形……自身を復讐者と名乗り襲撃してきた男を倒してすぐに倒れた悠斗君は、一件からしばらくして、ほとんどのメンバーの意識が回復した今でも目を覚まさない。

  倒れた原因は不明だが、目立った外傷も、状態異常も無いのに倒れた彼は、いつ意識が回復するか分からない状態だった。

  オレ達十五人のリーダーとして、そして友人としてオレは悠斗君の様子を知るために、先程まで彼の看病していた凛紅に、交代のタイミングで声を掛けたのだ。


「……分からないそうよ。何も」


「……どういうことだ?」


  凛紅が語るには、双葉さんが治癒魔法『診察』を使っても悠斗君が倒れた理由は分からなかったらしい。

  因みに、治癒魔法『診察』は魔法の中で唯一《鑑定》や《解析》スキルなどの情報特定スキルと同効果及ぼす魔法だ。患者の損傷具合を確かめたり、状態異常を見極めたりするのに使われるそうだ。

  双葉さんは本来、その魔法を攻撃のためにはあまり使わない。戦いというモノ自体が苦手らしい。ただ、その膨大な魔力を用いて治癒魔法を中心に味方を補助することを己の戦いとしている。同じ光属性魔法や神聖魔法を持っているが、攻撃型のオレと違い彼女は補助型なのだ。

  話は戻るが、別に何も得るものがなかったという訳ではないらしい。

  治癒師(ヒーラー)としての役割をより高次のレベルで果たすために、魔法医療を学んでいる彼女が言うには、悠斗君の体には、異常な程の疲労とストレス、そして謎の負荷がかかっていたらしい。

  疲労とストレス、そして文字通り精も根も尽き果てるまで魔力を搾り取ったせいで、肉体は深い休息を取らなければ再び動かない程消耗しており、精神の方にも謎の負荷がかかっているせいで目が覚めるのがいつになるかは本当に分からないそうだ。


「双葉さんが言う、悠斗君に掛かった謎の負荷って……」


「ええ。間違いなく、アレが関係あるでしょうね」


  悠斗君に掛かったという謎の負荷に、オレと凛紅は心当たりがあった。

  悠斗君が男との戦いの際に見せた、魔剣解放とも魔法とも違う新たなる力。

  彼は確か接続(コネクト)同調(リンク)と言っていたか。

  兎に角、それを発動した後、悠斗君の体に一目で分かるほどの変化が生じた。

  それが、何かは分からない。だが、尋常なモノ出ないことだけは分かる。


「悠斗君。君は一体、どこに向かっているんだ……」


  何も知らない、何も知ることが出来ない我が身を呪いながら、オレは呟くことしか出来なかった。








 ……

 ……

 ……


「寝てなくて大丈夫なのか?」


「悠斗が目ぇ覚まさないんだろ?なら俺がおちおち寝てるわけにいかねぇだろうよ」


「それもそうだが……」


  ベットに座り込んで話し合いに参加しようとする大輝に、瑛士が心配そうに尋ねた。

  もっともと言えなくもない言葉を返され、彼はこれ以上の説得を止めて、オレの方を見た。


「で、これからどうするよ」


  あっけらかんと言われたその言葉はしかし、その場に重たい沈黙をもたらした。

  オレ達は今、リーダー会議のために大輝の療養天幕にいた。本当は大輝の参加は無理だろうと、オレ達の天幕で話し合おうと思っていたが、わざわざ大輝が治りきっていない体を引きずってこっちに来ようもんだから、せめて安静にしてもらいながら会議に参加してもらうために、彼の天幕にいる。


「一先ずは、ダンジョンからの脱出……当初の目的通り、最奥部にある統括装置(マザーポータル)への到達を念頭に置くことにしよう」


  通常の脱出手段である各階層設置の転移装置は使えない。

  故にダンジョンの全てを統括する統括装置(マザーポータル)……別な名前で言えば、ダンジョンコアに到達するのがここまで目的であった。

  そのために第二層に転移したのに、悠斗との分断や黒鬼やら異形やらのせいでだいぶ遠回りした気がする。


「それについては異論はない。だけど問題は俺たち以外の士気だ。ウチのパーティー含めお前らのパーティー、特に女子達は軒並み士気が低いんじゃねぇか?」


「それは……」


  瑛士の意見に押し黙ってしまう。

  オレ達のパーティーや瑛士のパーティーは連戦に次ぐ連戦ですっかり疲弊し、何度も死にかけたこともあり、士気がとても低い。

  女子達に至っては何度攻撃しても、どんな攻撃をしても死なない黒鬼が半ばトラウマになりつつあり、さらに男への生理的嫌悪感などもあり、おおよその女子たちは気分を悪くしていた。

  理由こそ違えど、気落ちした様子が見られるのは悠斗君パーティーの女子たちも同じだった。リーダーである悠斗君が一向に目覚めない現状に、不安が募っているようだ。


「正直に言おう。オレはなるべくすぐ……具体的には二日以内には次のエリアを攻略すべきだと思う」


  このままじゃダメだと思い、オレの意志を告げる。


「その心は?」


「まず一つは物資の問題だ。以前話した通り、食料と水は十分にある。だけどポーションの類がほぼ全部なくなった」


  双葉さんの治癒魔法、或いは回復魔法があるから必要ないと思われがちなポーションだが、実の所そんなことはない。

  如何に双葉さんが術者として優れていようと、使うモノが魔法であることには変わりない。そのため、必ず癒すまでのラグが出てしまう。

  それに対してポーションならば即効性、遅効性問わずすぐに使える。

  僅かな差と思われるかもしれないが、その一瞬が勝負を分けるかもしれない前衛職にとってはポーションは欠かせない。

  通常の回復薬(ポーション)よりも希少価値も需要も高い魔力回復薬(マジックポーション)なら尚更だ。

  そしてそれらが尽きたということは、これからの戦闘で危険が増すということだ。


「ほぼって……在庫はどれくらいだ?」


「マジックポーションは完全に品切れ。回復の方も低い方が前衛職だけ二本ずつ、後衛には一本ずつで配りきれるくらいだ」


  低い方と言うのは、オレ達が遠征に出かける際に用意した二種類の回復薬(ポーション)のうちの片割れだ。

  オレ達が買った二種類のポーションは通常の回復薬(ポーション)と所謂高級回復薬(ハイポーション)だ。

  正確には、ポーションにもランクやらレアリティみたいな出来栄えの区分があるのだが、名称的にはこちらの方がメジャーなのでこう呼んでいる。

  どちらもポーションではあるものの、呼称を区別するために低い方、言ったわけだ。


「二つ目はこのまま一つの場所に固まっているのは危険かもしれないことだ」

 

「どういうことだ?」


「……オレ達がこのダンジョンに来た目的は覚えているな?」


「勿論」


  これは黒騎士戦後にも確認したことだ。

  オレ達の目的はダンジョンで起きている異常事態の調査だ。


「今までこのダンジョンの異常事態に巻き込まれてきて、オレは一つの仮定をした。……今のダンジョンの異常事態は全て、ダンジョンが引き起こしたことじゃないか、という仮定だ」


「「なっ!?」」


  驚いた表情を見せる二人。

  それもそのはずだろう。オレが言ったことはつまり──────


「──────つまり、ダンジョンが自我を持っている、って言いたいのか?」


「その通りだ」


  オレが考えた一つの仮説。

  それはダンジョンが意志を持ってこの騒動を起こしているのではないかということだ。

  有り得ざる現象であるこの仮定であるが、しかし、この仮定を当てはめれば、これまでの異常事態に説明がつく。

  本来駆け出し(ルーキー)向けダンジョンである【修練の魔境】に出たブラッドナイトオーバーロードなどの推奨ランクにそぐわない魔物達。ダンジョンに閉じ込められるというアクシデント。

  まるで意志を持ったかの様に白刃達を襲ってきたこれまでの異常が、本当に意志のままに起こっていたのではないだろうか。

 

  「この仮定が正しいとする。だとすれば、ダンジョンは異物であるオレ達を排除したいはずだ。これまでは、階層主(エリアボス)を強化することや、徘徊魔物エンカウントモンスターの数を増やすことで対抗してきた。でもオレ達が止まっている間に黒騎士のような魔物を何体も用意して、オレ達にぶつけて来るかもしれないぞ?」


「「……っ」」


  その光景を、想像したのだろうか。

  大輝達がゾッとしたように体を軽く震わせたのに気付いた。

  当然だろう。オレだってそんな事態になったら、心が折れかねない。


「これはあくまで仮定だ。だけど、これが実際に起きないかどうかと言われると、起きないとは言いきれないだろう?」


  難しい顔をして考え込む二人。

  そんな二人に、オレは最後の理由を伝える。


「そして三つ目。悠斗君のことだ」


  今回の、いや、これまでの立役者と言っていも過言ではない彼が倒れた今、これまでの様に事は進まない。

  今の彼は一種の爆弾。不発弾かもしれないし、イタリアの赤い悪魔のような不安定なモノかもしれない。

  兎に角、今の悠斗君の扱いはとても繊細になる。


「本当なら、彼が目を覚ましてからここを発つのが一番だろう。今の彼はいつ目が覚めるか分からない状況だ。そんな彼を待ち続けれるのは、いたずらに物資と時間を浪費するだけだ。食料も有限。しかもタイムロスはできるだけ避けたい状況だ。そんな時にいつ目を覚ますか分からない人を待つ訳にはいかない」


  まるで悠斗君を足でまといと切って捨てるみたいな言い方になってしまったが、これがオレの言いたいことの全てだ。

  先に言った通り、ずっと第三層の臨時キャンプ場にいれば、ダンジョンに狙われる。それに今は余裕のある水と食料もこのまま何もせずに消費していれば、四層以降の攻略時に不足する恐れがある。

  ただでさえ、色々とアクシデントが多いダンジョンだ。不安要素や不足の事態になりかねない種は一つでも多く消しておきたい。


「それに今はチャンスでもある」


「チャンス?」


「簡単な話だ。大輝達は第二層のボス部屋を通った時、エリアボスを確認したか?」


「エリアボス……いや、してない」


  オレの急な質問に怪訝そうにしながらも、大輝と瑛士はそう答えた。

  それもそうだろう。あの時まず第一に目に入るのは無残に食い荒らされた死骸になっていることだ。ボスがどんなモンスターかなんて、いちいち確認はしないだろう。


「オレはあの時、ボスモンスターの死骸と共にあるものが目に入った。こいつがそれだ」


  オレはポケットからソフトボールくらいの石を見せる。

  赤黒い色をした、不気味な模様の石だ。


「こいつは魔核。あのボスモンスターのモノだ」


  魔核とは、魔物の言わば心臓のようなモノだ。

  一部の種を除いた魔物の中には大体あるモノで、運が良いとドロップアイテムとして手に入れられる、希少価値が高いアイテムだ。魔力伝達が良く、ものによっては属性魔力を帯びたモノがあって、有力な魔道具や魔法武器の素材になる。大体の魔核は魔物の命が尽きると同時に砕けるので、それがドロップした時はラッキーと言われている。


「こいつを《解析》スキルを使って調べた結果、あのボスモンスターはトロルジェネラル……強さで言えばランク7、つまりタートルモックと同じくらいの魔物だった」


  トロルジェネラル。

  オークを超え、オーガに並ぶ巨体を誇り、オークとはまた違う醜い容姿の怪物であるトロルの上位個体。体躯は三メール近くにも及び、巨体とその図体から繰り出される凄まじい膂力を武器とする。

  さらに、黒鬼程では無いものの、元々種の特性として持っている再生能力も強化され、切れた腕も原型さえ留めていれば、またくっつけれる程の性能を手にしている。

  よって世界に定義されたランクは7。魔物として、十分に高位である。


「確かに、タートルモックは強敵だったが、正直な話、今のオレ達にとってタートルモックがそこまで強敵とは思えないんだ。無論、トロルジェネラルも」


  少し前、まだグリセント王国に来る前のオレ達は、タートルモック相手にボロ負け、全滅を目前にした。

  だが、今のオレ達はその時とは違う。オレは奴の魔力砲声にも勝る火力と力を手に入れた。瑛士も奴の堅牢な甲羅を切り裂ける(スキル)を手にしている。

  今のオレ達に、タートルモック相手に負けることはないだろう。


「考えて見てくれ。黒鬼は完全な想定外(イレギュラー)だとしても、一番最初のボスが強くてその後が弱い……なんてことをするか?」


「それは……」


  そう、普通はしない。逆なら有り得る。

  だが、全体的に魔物を強くするではなく、最初のボスだけを超強化した。

  侵入者を排除するための、門番として。


「それはつまり、黒騎士クラスの魔物はそう簡単に用意出来ないということだ。すぐに用意できるのは最高でもランク7が限界。今のダンジョンに、それ以上を用意する余裕はない」


「なるほどな。そう考えれば、確かに今はチャンスと言える。だが、それを証明しきれる根拠はあるのか?他の奴を納得させるなら、それは必要だぞ?」


「それについては考えがある。まずボス部屋の前までキャンプ場を移動する。そしたらオレがボス部屋を覗く。それで《解析》していけそうならいけばいい。

  今まは黒鬼がその辺の魔物を食い散らかしたり、隷属させていたお陰で敵が来なかったけど、そろそろ奴らも復活してくる頃合だろう。早めに移動しようと言えば何とかなるさ」


「……分かった。俺はその案を支持する。このままこの場所に篭ってても意味ねぇしな。さっさと外に出てぇ。瑛士はどうする?」


「……そうだな、俺にも異論はない。だが、悠斗はどうすんだ?移動しようにも、あいつは今動けねぇんだそ?」


「それに関しても大丈夫だ。悠斗君は大輝に運んで貰う」


「俺が?」


「ああ。大輝は病み上がりで完全に傷も塞がっていない。激しい戦闘を避けて、悠斗君の運搬に専念してもらう」


  大輝の傷は深かった。悠斗君の魔道具と双葉さんの魔法で傷のおおよそは塞がったが、その時受けたダメージと連戦の疲労はまだ抜けきっていないだろう。

  悠斗君を運ばせるには、うってつけの人材だ。


「……分かった引き受けよう。悠斗(アイツ)を他の奴に運ばせるのもあれだしな」


  大輝にしては、思いの外あっさり引き受けた。

  てっきり「じっとしてんのは性にあわねぇ」って言うかと思ってた。


「何考えてんのか分からんが、俺はそんな戦闘狂じみた人間じゃないぜ。脳筋の節があるのは認めるがな」


  苦笑しながらオレの思考を読んだかのような言葉をかける大輝。

  まさかの言葉にオレも苦笑しか返せない。


「悪いな。瑛士もそれでいいか?」


「構わねぇさ。ただ、編成は任せたぞ」


「あぁ、そっちは既に大体考えておいた。明日には出発しようと思う」


  ニィッと笑ってオレは言った。


「さあ、行こう!」









 ☆☆☆☆☆


  結論から言えば、数少ないランク5程度の魔物を屠って辿り着いた第三層のボス部屋にいたのはそこらにいた魔物と同じランク5の魔物、オークナイトだった。

  二メートル半位の体躯と豚の頭を持つ怪物の騎士は、駆け出し(ルーキー)向けダンジョンである【修練の魔境】第三層のボスとしてよく出てくると情報にある。

  これでいよいよダンジョンに余裕がないことを証明できた。

  大して強くもないオークナイトを一太刀のもとに葬りさり、第三層を後にする。

  そして今に至る訳だ。


「ボス部屋まで後少しだ!一気に駆け抜けるぞ!」


  士気を上げるため発破をかけ、オレ自身も奮い立って足を速める。

  群がる魔物共を最低限の動作で斬り捨て、トドメを刺すことなく走り抜ける。

  流動する砂に足を取られ、余計に体力を食うが、そんなことをいちいち気にしてはいられない。

 

「前方はオレ達が切り開く!後方は悠斗君を守れぇ!」


「「「「了解!」」」」


  悠斗君のことを大輝達に任せ、オレは後ろをきにせず剣を振るう。

  大剣を少しだけ小さくしたような大きさの聖剣であるウィルトスは、一太刀で魔物を数体まとめて屠れる。

  レベルも上がり、黒騎士戦からクラスチェンジして《聖剣士》になり確実に強くなっているオレ達にとって、例えランク5の魔物だろうと、有象無象と変わりなく斬り倒せる。

  そして、長かったような行軍に終わりが見えてきた。


「ボス部屋が見えてきた!一気に行くぞ!」


  オレの号令に皆希望を見たような顔をする。

  この全力マラソンのような行軍が終わるのだ。その反応も分かる。

  ボス部屋を前にして、オレ達は一度止まる。


「神川さん、頼んだ!」


「……任せて。《魔銃招来》!」


  全て作戦通り。

  中衛から殿(しんがり)に回っていた神川さんが彼女のユニークスキル、《魔銃招来》を発動させる。

  ポリゴンのようなモノが大量に発生し、それらが集い形を成していく。

  やがてポリゴンは台座に固定された巨大な固定機関銃(ガトリングガン)のような見た目のモノへ変わる。

  心なしか、こちらに迫り来る魔物達の顔が引き攣ったかのように見えた。オレ達の目的が分かったのだろう。

  装填された魔弾は魔力榴弾。着弾時に爆発を引き起こす魔力の弾丸が、地球でも対戦車用ミサイル兵器(ロケットランチャー)に並んで恐れられる、僅か数秒で複数の人間を蜂の巣にする怪物兵器によって放たれる。これ以上ないほどの悪夢だろう。


「《榴弾機関銃掃射ガトリングブラスター》!!!」



『〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!』


  ガガガガガガガッッッ!、と万物を喰らい尽くす獣の如き砲声が轟く。

  バスケットボール大の一弾一弾が魔物の肉体を抉り、周囲の魔物ごと辺りを吹き飛ばした。

  それは最早災害。これに巻き込まれては、如何なる生物とて無事では済まないだろう最悪の現象に似ていた。

  永遠に続くかとは思われた災害の咆哮は、実際には三十秒程で終わりを告げた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……やったよ」


  荒い息を吐いて蹂躙の終わりを告げる神川さん。その顔色はあまり優れない。

  それもそうだろう。一発の威力という点では劣りこそすれ、殲滅範囲や最終的な破壊力ではオレの《勇者の一撃ブレイブストライク》を上回る攻撃だ。長時間使うには魔力があまりにも足りないのだろう。

  だが、先程まで魔物がいた場所は、《榴弾機関銃掃射》の威力の凄まじさを物語る様に凄惨たる有様だった。

  砂漠であるはずの大地に砂は無く、大穴が空き蟻地獄の様に周りの砂を落としている。それが何ヶ所も存在し、ほとんどクレーター郡のようだ。

  しかも、被弾箇所と思われる場所は酷く熱を帯び、熱された砂が溶け、一部は急速に冷えてガラスとなっていた。


「ありがとう、神川さん。後はオレに任せてくれ」


  大量の魔力を使い、息も絶え絶えな神川さんに労いの言葉をかけ、オレは次なる行動に出る。

  ここら一帯の魔物がいなくなったところでオレは土属性魔法Lv3『砂城壁(サンドウォール)』を展開。高さは五メートル、厚さ二メートル程の、まさに城壁のような壁を四方に設置した。

  『砂城壁(サンドウォール)』は本来、高さ一メートル半から二メートル、横に一メートル、厚さ三十センチ程度の壁を砂を使って立ち上げる魔法だ。

  魔法使いではない人々は、砂より土の方が防御に優れていると思いがちだが、実のところそんなことは無い。砂だって立派な壁になるのだ。

  砂の粒子はとても細やかで、その一粒一粒に魔力を巡らせ、密度を上げれば、砂の防御力は跳ね上がる。それこそ、城壁にだって劣らない硬度まで。

  それを利用して、城壁を作り、ボス部屋前で休息を取ろうと言うのが、オレの作戦であった。

  さすがにボス戦を休まずにやるのは危険だ。

  だが、見張りを立てると全員が均等に休めない。だから、城壁を立てることにしたのだ。こうすれば、例え魔物が集まって来ても直ぐには壊れないし、襲われる心配もない。壁が壊されるような事態になれば、すぐさま戦闘準備すればいい。

  キャンプ場にしなければならないので、大体学校の教室二つ分位の大きさで囲った。魔力をそこそこ消費してしまったが、休めばどうということはない。


「明日は直ぐにボス戦だ。しっかりと休んでくれ!」


  壁が出来てから、地面に倒れ込む様に座って休んでいる皆に、そう声をかけてから、テントを貼るための行動に移る。

  休まずに、そのままテントの設置をやろうとしてくれる人もいたので、それらの作業は直ぐに終了した。

  その後は、特に何も起こることなく夕餉を食べ、魔法で作った風呂で体を清め、そのまま就寝した。

  そうして、次の日が訪れる。




  朝。

  訪れる眠気が暑さのお陰で吹き飛び、スッキリした状態でボス部屋の前にオレは立っている。

  砂の洞窟みたいな見た目の入口には巨大な門があり、それを閉じる扉もある。ダンジョンのボス部屋の定番である。

  その扉に手を掛け、一気に開け放つ。

  目の前にいる階層主(エリアボス)の困惑する顔が目に入るなか、オレは飛びっきりの大声で号令を掛けた。


「戦闘、開始ぃ!!!」








イタリアの赤い悪魔というのは、昔の手榴弾のことです。不発だったり、ちょっとの衝撃で爆発することから、敵にも味方にも恐れられ、その異名を貰ったそうです。もし気になる人がいたらウ○キで調べて見てください。


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