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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
82/112

復讐者の行く末

めっちゃ速く書き終わったので、どうぞ!

  《精神汚染》。

  対象の精神に介入し、嫌な記憶や最悪の光景を脳内に直接見せつけるスキル。

  短時間でも耐性スキルがない者は気絶し、長時間ともなれば廃人化や自害だってさせられる恐ろしい力だ。

  しかし、その力は調整次第で別なことにも使えることが判明した。

  そのことが発覚したのは、悠斗が精神汚染で苦しむ希理達を助けようとした時だ。

  希理達に悠斗が使えるようになった精神汚染を掛けることで、影騎士の精神汚染を打ち消そうとしたのである。

  結果は成功。無事に希理達を助けることに成功し、スキルの新たなる可能性も立証された。

  そして悠斗は考えた。精神汚染を上手く使えば拷問によってではなく、もっと効率の良く情報を取り出せるのではないか?と。

  その実験を兼ねて、悠斗は白刃達を襲った男に精神汚染を使った。

  そして、『それ』は起こった。









 ……

 ……

 ……


『存在交差』。

  膨大な量の魔力がぶつかり合った時、その人達の魔力に溶け込んだ記憶が互いに流れ込み、相手の過去を見る現象。


「……存在交差って、かなりレアな現象じゃなかったかな?」



  ここ最近、やけに頻発するレア現象に対して悠斗はため息をついた。

  男に精神汚染を掛けたその時、悠斗の視界が白光に包まれた。

  そして光が失せた今、悠斗は存在交差に立ち会っていた。


  のどかな村で、楽しく暮らすある男の姿。

  それは幸福に満ち溢れた光景。妻子と共に一日を平穏に過ごす男は、あまりにも幸せそうだ。


  世界が移り変わり、次に映るのは倒壊した家屋と荒れ果てた村の姿、そして泣き崩れる人々だった。

  男もまた、故郷を守れなかった悔しさからか、涙を流し、歯を食いしばって嗚咽を漏らすまいも堪えていた。

  ここまで来た時点で、次の光景は目に見えていた。


  世界は変わり、案の定村は燃え、人々は血溜まりに伏していた。

  屍山血河を積み上げた張本人であろう冒険者の集団は、下卑た笑みで涙を流す男を嘲笑し、嬲る。

  全てが灰となった後で、生きながらえてしまった男はのろりと立ち上がる。

  涙は枯れ果て、慟哭の叫びを出す声帯も擦り切れた。目元には血の跡が残っている。

  復讐者の誕生の、第一幕であった。


  そして世界はまた変わる。

  いつ死んでも良いと言わんばかりの捨て身で冒険者達を一人、二人と殺した彼だったが、流石に限界を感じていた。

  短期間に負傷と回復を繰り返した体は傷こそ少ないが中身はボロボロ。そもそも男自身に大した強さが無かったのも都合が悪く、これ以上の戦いは厳しかった。

  そんな時、男の前にある人物が現れた。


『復讐できるだけの力が欲しいか?』


『君の望む力をあげよう。僕の研究に協力してくれよ』


  そいつは、そう言った。

  男は、その人物から受け取った禍々しい物体を経口摂取……つまり口にした。

  そして男は手に入れた。復讐を成し遂げるための力と、それを扱えるだけの土台を。

  最後に、謎の人物はこう言った。


『君はその復讐心を燃やし続けろ。そうしている内は君はヒトのまま至高の力を振るうことが出来る。

  さて、この力を受け取った君にはこう言わないといけないね、ようこそ、【禁忌研究所】へ』

 

  その言葉を皮切りに、世界は何度も変わり続けた。

  【禁忌研究所】がしていた研究。それらの実験内容と結果。

  そして男が殺してきた人々の最期。

  こうして、悠斗は当初の目的を達成した。





 ……

 ……

 ……



  存在交差の中で必要な情報を手に入れた悠斗は、男の記憶情報の最奥までたどり着いた。

  その場の光景の異常さに、悠斗は声を漏らした。


「二つの世界……」


  悠斗が見た光景。

  それは、ある地点から境界線が引かれた、鏡合わせのような白と黒の世界だ。

  白の世界は、ある村に住む一家とその周りの人々が笑顔で暮らしている、とても眩しい光景。

  黒の世界は、村の全てが燃え、崩れ、殺されて、その中でただ一人泣き叫ぶ光景。

  言わずもがな、男の記憶だろう。


「どうしても、忘れられなくてね」


  穏やかな声が聞こえた。

  声の主が誰かなんて、振り返らなくても分かる。


「……存在交差で最後に訪れ、相手と対談する時に互いが見る景色は、それぞれの忘れられない光景だと言われていますからね」


  存在交差の記憶の終着点。最後にお互いが対話する場所、相手にとって忘れられない光景である。

  それは、体験資料が少ない存在交差の研究で分かった数少ない事実だ。

  影騎士との存在交差の折、悠斗がノクスと言葉を交わした場所は、彼にとって忘れられない場所、断頭台だった。

  その時は恐らく、ノクスもまた悠斗が忘れられないあの日の光景(・・・・・・)の場所で、対話していたのだろう。

  そしてまた、悠斗と対峙する男も、悠斗の最悪の記憶の世界で、こちらを見ていた。


「という事は、これは君の忘れられない光景がこれなんだね」


「……」


  悠斗は何も返さない。

 

「そう。私にとっては、どちらも忘がたい、忘れられない記憶なんだよ」


  特に言及することもなく、男は話を続けた。

  鏡合わせの二つの世界。

  ある意味歪な記憶世界。

  その根底にあるのは、きっと二つの人格なのだろう。

  一つは今悠斗と会話をする穏やかな彼。

  そしてもう一つは、復讐の炎に身を燃やす、修羅としての彼。

  どちらも忘れられないのだろう。幸せの絶頂だったあの頃も、絶望のどん底だった今も。

  きっと彼は、己の唯一の人間性をあの暖かい記憶で何とか繋ぎ止めていたのだろう。それがなければ、彼にとって復讐の道とはかけ離れた殺戮の悪鬼となっていた。故に、男にはその記憶だけが彼を人間として動かすモノだった。

  だが、同時に彼はあの絶望の光景も日頃から思い出していたのだろう。徐々にヒトの形を失っていく自分が怖くて、ずっと幸せだったあの頃に浸っていたいと自分に刃を突き立てないために、自分で悪夢を見て復讐の炎を何度でも再燃させたのだ。


  だから、彼にとってこの二つの光景はどちらとも一番忘がたい光景なのだ。


「礼を、言うべきなのだろうな。本当なら」


  それは一体、何に対してのものか。


「でも同時に、少し憤っている自分もいる」


  本当なら、そっちが正しい。

  復讐を望む自分を止めてくれてありがとう、なんて普通言えない。


「では何故貴方は、僕を罵ることも、怒りをぶちまけることもしないんですか?」


「……強いて言うなら、見てしまったからさ。君の記憶を」


  それはそうだろう。

  この現象は存在交差。互いが互いの記憶を見る現象なのだから。


「君もまた、私と同じ体験をした。程度の差はあるかもしれないが、そこで受ける痛みに違いなんてないんだ。それでもなお、私と同じ道に落ちない君を見れば、私も、もう一人(復讐者)の私も、君を恨むことは出来なくなった」


  受ける痛みは同じ。

  そしてそれを受けた悠斗は、復讐の道に堕ちた男と違って最後の最後で踏みとどまった。だから男は悠斗を責めない。

  だってそれは、男がどうしても出来なかった、あまりにも眩しい生き方なのだから。


「でも、一つだけ君に問いたい。何故君は、君自身を保っていられる?」


  絶望の奥底に叩き落とされた男は、復讐の鬼と化して別な自分へと変わった。

  では目の前の少年は?何故堕ちず、変わらずにいられる?


「……保ってなんかいませんよ。あの日、僕と言う人間は死んだ(・・・・・・・・・)。今貴方の前にいるのは残ったモノを必死に抱えているだけの空っぽな残骸ですよ」


  自嘲的に、悠斗はそう言った。

  でも、と悠斗はその後も言葉を続けた。


「でも、空っぽの残骸でも、僕に火を灯してくれる友達(ヒト)がいる。僕はソレを、護りたいだけなんだ」


  その言葉だけは、強く、強く言い切った。


「そうか……。ならばもう、何も言わない」


  男の様子は、どこかスッキリとしたそれだった。


「ユウト君、君に頼みがある」


「……?」


  突然、男は悠斗に告げた。

  怪訝そうに眉を顰める悠斗に、男は申し訳けなさそうな顔でその内容を言った。


「それは、君にとってはとても辛いモノだ。それでも、君が大切なモノを護りたいならば、この頼みを引き受けなければいけない」


「?要領を得ませんね。どういうこと──────っ!?」


  よく分からない男の言葉に、悠斗はさらに疑問を重ねようとした、その時。

  男の口から、黒いナニカが漏れた。


「こふっ。私は、いや、俺はもうダメだ。君も俺の記憶を見たなら分かるだろう?俺の闇の力は、俺が復讐心を燃やし続けている間だけは俺の支配下にある。俺の意思が弱り、ほぼ詰みと言っていい今、闇は俺の支配下にはない」


  つまり。


「俺と言う存在はもう死ぬ。残るのは俺の器に宿った暴走状態の闇だけ」


  既に白と黒の世界はおぞましい黒が落ちて染まっていた。

  男の体も顔以外黒に包まれ、ただの黒い人型だ。


「頼む。俺を、殺してくれ」


  最後の力を使い切ったのだろう。

  言い切った瞬間、男の体は爆裂四散して存在交差は終わりを迎えた。











 ☆☆☆☆☆


「っ、全員伏せろ!」


「悠斗っ!?きゃあっ!!!」


  存在交差から帰った悠斗は弾ける様に後ろへ飛び下がり、凛紅達を守るように立って竜魔法『竜鱗』を広範囲に展開する。

  悠斗の咄嗟で鬼気迫る警告について行けず、オウム返ししようとする凛紅よりも早く、それは起こった。

  完全に王手を掛けられていた男の体が真っ黒に染まり、闇のオーラが膨張、爆発を引き起こす。……正確には爆発じみた放出であるが。

  そんなこと、今の悠斗達にとってはどちらでも変わらない。とにかく不味い事態であることに変わりはないからだ。


「っ……」


  闇のオーラの超大放出が終わり、悠斗はゆっくりと『竜鱗』を解く。

  そして魔力が余計少なくなったことに膝をついた。

  マジックポーションはない。魔力回復アイテムもない。ついでに言えば、超強化薬もない。

  この状況で何かが襲ってくれば、正しく最悪の展開だ。


  疲れ果てた顔を必死に上げて、悠斗は前を見た。

  男がいた地点から悠斗が防御魔法を張った地点までを半径とした円状に、岩石の大地は抉られて、クレーターが出来ていた。

  そしてその中心には煙が。《感知》スキルの影響だろう。悠斗は否応なしにその情報を得てしまった。

  そこをよく見れば、煙をスクリーンとして影が蠢いている。

  それは最初こそ人型であったが徐々にその原型が破壊されていく。

  めきゃり、ごきゃりと嫌な音を立てて骨格が変形し、肉が流動する。

  男の両手は男が持っていた氷と炎の魔剣がそれぞれの腕と同化して肥大化した腕の手首から先が剣になっているような見た目に。

  体躯が何倍にもなった訳ではないが、異様な肥大化を見せる両腕とそれを支えるやけにアンバランスな胴体や脚も相まって、恐らく全長は二メートルを軽く超えている。

  瞳は血のような紅に染まり、それ本来白い部分が全て真っ黒へと変わっている。

  溢れ出る闇のオーラが抑えきれず、僅かに滲み出る中、男の全身には血管が浮き出で、破裂しては闇に再生される。

  まさしく、異形であった。


「……っ!」


  目の前の理解不能(アンノウン)に悠斗は震えた。

  武者震い、と言えば聞こえはいいが、悠斗の震えはそんなモノでは無い。

  前例も情報も無く、ロクな体力魔力も残っていないこの状況で挑まねばならない強敵。それも明らかにこれまで以上の崖っぷちを味わうことになることが確定している戦いを前に、どうして震えずにいられるだろうか。


『ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!』


「「「っっっ!!!」」」


  異形が、吼えた。

  あまりにもおぞましいその咆哮に、現在意識のある三人は全員硬直した。


『ゥ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!』


  異形は飛び上がり、クレーターを余裕で超え、剣と一体化した腕を振るう。

 

「させるか!」


  避けられない、避けてはいけないと判断した悠斗は魔剣ノクスを異形の剣の側面に叩きつけて軌道を逸らす。

  剣腕は悠斗のすぐ横を爆砕した。


「お前の相手は僕だ!」

 

  魔剣ノクスとの《同調》が切れていない悠斗は、最適化された動きで異形の攻撃を避け、カウンターを与える。

  悠斗が新たに手に入れたユニークスキル、《殺人剣》。〇〇術と言う名前こそついていないが、剣術スキルの上位武術スキルである《殺人剣》は、瑛士の《舞剣術》と同様、専門のスキルアクションが存在する。さらに通常の武術スキルにはない付帯効果がある。

  その効果は計二つ。一つは人型特攻。言わば人型の相手にはそのダメージが倍増する。二つ目は対人戦闘時ステータス補正だ。

  どちらも、人と戦うことを前提としたスキル。

  その能力(チカラ)と技は正しく、人を殺すためのモノである。


  僅かに、本当に心無し程度に人型をのこした異形にも、人型判定はあるらしく、スキルも刻んだ魂が疼いた。

  異形の人型にとって一撃一撃が痛手に等しい攻撃を何度も受けても、異形は意に介さないかの様に濁った雄叫びを上げ、傷を修復し、悠斗に向かって剣腕を振るう。


「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ィ゛ィ゛ィ゛ァ゛ァ゛ッ!」

 

  聞くに耐えない奇声。絹を裂くようなとか、耳をつんざくようなとか、そう言う次元では無い。

  あまりにも不快、どこまでも忌まわしい、本能的に拒絶してしまう咆声。

  それと共に振り下ろされる魔剣だった腕は、岩石の地を砕き、悠斗()をも砕こうと振るわれる。

  そして悠斗も、やられる訳にはいかないと精一杯斬撃を逸らし、回避し、反撃する。

  だが、それらは決定打にならない。

  全て体から吹き出る闇のオーラによって再生されてしまうからだ。

  何度攻撃を避けようとも、何度反撃を試みようとも、それはどこまでも不毛な足掻き。

  魔力がほとんど無く、現段階で必殺を持ちえない悠斗では、異形は倒せない。


「だからって、黙って死ぬわけにはいかないだろっ!!!」


  感情のままに吼え、人型特攻の効果が乗った斬撃を重ねる。

  《殺人剣》の効果を最大まで発揮したいなら、本当はスキルアクションを使うべきなのだ。

  だが、魔力がもうほぼ底ついた状態の悠斗にとって、一回スキルアクションを発動させて殺しきれなければ即ゲームオーバーだ。

  故に打てる手立ては無い。

  だがそれでも、敗北を喫するわけにはいかないと魔剣を振るう。


「ィ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!」


「うぐっ、ぁあああああああっっっ!」


  絶叫と共に繰り出される上段切りの剣腕が悠斗を襲う。

  避けきれず、ガードするも圧倒的な膂力の前に悠斗は膝を付く。

  腕が軋み、食いしばる歯からは血が吹き出る。そして悠斗は悟ってしまう。


(このままじゃ押し切られる!)


  それはいけないと判断し、咄嗟に横へ勢いよく転がる。

  急に力場を失った剣腕はさっきまで悠斗がいた場所を砕き、粉塵を舞わせる。

  一方、地を転がる悠斗は刹那の内に体勢を立て直し、異形へと向き合った──────瞬間に自身を覆う影に気がついた。


「しまっ──────!?」


  少年を覆う影の正体は腕部と共に肥大化した魔剣だったモノ。

  異形の膂力から放たれるその一撃は、あらゆる防御も虚しく全てを圧壊するだろう威容を誇っている。

  刹那の逡巡。回避は不可能。防御も間に合わない。竜鱗()も同様。付与魔法には魔力が足りない。

  つまり、死。

  最悪の一文字が悠斗の頭を過ぎる。


  ──────だが、その結末を拒む二つの影。


「そんな事っ──────」


「──────させない!!!」


  聖剣の閃きが、刀の瞬閃が異形の剣腕を跳ね飛ばした。

  その反動で異形は大きく仰け反った。

  その隙を突いて白刃が《剣術》スキル、スキルアクション《天衝撃》が異形を吹き飛ばす。

  それによって生まれた僅かな余裕。

  その好機を見逃さんと、魔導書の通話機能で三人は連絡を取る。


『悠斗!大丈夫!?』


『何とかね。助かったよ。それよりも、今はコイツをどうにかしないと』


『それについては同感だけど、何か手はあるのか?オレの残り魔力じゃコイツを倒しきる技は出来ないよ?』


『……僕に一つだけ手がある。五分……いや、一分稼いでくれ』


  一分。決して長く無いように思えるその時間はしかし、今の彼らにとっては一時間のようにも感じる時間だ。

  だがそれでも──────


『『分かった!』』

 

  二人の少年少女は即答した。

  それは彼に対する深い信頼の現れだった。


「ぅおおおおおおおおおおっっっ!!!」


「やぁあああああああああっっっ!!!」


  必ず彼ならやり遂げてくれると信じて、少年少女は異形へと立ち向かう。

  その人外の膂力を必死にいなし、斬っても斬ってもダメージを与えている実感が湧かない体に傷を付ける。


  そして後ろに控える悠斗もまた、不安を押し殺し、凛紅と白刃を信じて己の内にある魔力をかき集めていた。


(集中しろ。僕に出せる全てをここでぶつけるんだ!)


  集う。

  本来意識しないような箇所まで全身に意識を張り巡らせて、そこにある魔力をたとえ雀の涙程度でも徴収する。

  貪欲にかき集めた魔力はそれでも安心段階まで届かない。


(これ以上はもう無いか。……賭けに出るしかないな)


  腹は括った。

  死なせたくない人がいる。

  護りたいモノがある。

  ならば、成し遂げるだけだ。


『二人とも、下がって』


  魔導書の通話機能で、タイムアップを告げる。

  凛紅と白刃は悠斗の方まで後退し、異形もまたそれを追う。

  ドタドタと大きな足音を立てて迫る異形は、二トントラックのような迫力があった。


「ィ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!」


  異形が奇声を上げる。

  それに対して悠斗は動じもせずに、顔の前で魔剣を構える。

  そして、最後の切り札を切った。



「《魔剣擬似解放》!!!」


  それは、異形になる前の男が使っていたスキル。

  魔剣を完全ではなく、擬似的に解放することで、本物の半分位の性能に固有能力が落ちる分、代償を払わずにその力を発現するスキル。

  本来は代償を回避するためのモノなのだろうが、擬似解放は通常の魔剣解放よりも使う魔力が少なくて済む。

  悠斗はそっちの作用を狙って、擬似解放を使った。


「ッッッ!!??」


  流石の異形も動揺したのか、体を震わせた。

  悠斗の全身からは異形が体から溢れさせているソレと同じような……いや、それよりもさらに濃い闇が放出されているからだ。

  悠斗が持つ魔剣、ノクスの固有能力は言わば影騎士化。影騎士と同じような全身鎧を着込み、闇のオーラを纏う力。

  擬似解放になると、全身鎧は纏えず、闇のオーラも本解放程の出力も出ない。

  この状態でいられる時間もそう長くない。

  だが、悠斗にとってはそれだけで十分だ。


「ゥ゛ィ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!」


  その闇を消せ、と怒り狂う様に異形は剣腕を振りかぶる。

  次の瞬間には剣腕は振り下ろされ、悠斗の肉体はぐちゃぐちゃになるだろう。

  だが、その時異形は選択を間違えた。

  今の悠斗に、隙が出来る上段切りはすべきでなかった。


  全身から放たれる闇が、一本の魔剣に収束される。

  あらゆるモノを塗りつぶすような闇がどんどん集い、濃縮され、より一層深淵の如き黒へと変わる。

  そして収束が最高になった時、悠斗は異形の攻撃よりも速く、その必殺を繰り出した。





「《絶閃》ッッッ!!!!!」


  迸る黒閃。

  刺突から放たれた一条の闇の剣は、胸元に直撃し、首に至るまでを消し飛ばした。



  異形の体には着弾点から首までを半径に円形にくり抜かれた様にぽっかり穴が空き、結果として首を失った頭部がゴトリと転がり落ちる。

  紛れもなく、即死だ。再生する様子も見られない。


「……」


「……」


  唯一意識を持っていた凛紅と白刃は、その光景を唖然と見つめている。


「やった……のか?」


  思わず零れた言葉。

  しかし、そのお約束(フラグ)が回収されることもなく、異形は二度と起き上がって来なかった。

  誰も歓声を上げない。

  もとよりその場で意識を持っている者が少なく、しかもあまりにもあっさりとした異形の最後に、現実感が持てないからだ。


「……っ」


「悠斗っ!」


  不意に、悠斗が倒れた。

  硬い地面に叩きつけられる前に何とか凛紅が受け止めたが、彼の体は驚く程に衰弱していた。

  黒鬼がけしかけた魔物達との戦闘、黒鬼との決戦、多少なりと休んだとは言え、十分とは言えない休憩の後に男と異形との戦い。

  まさに連戦に次ぐ連戦を潜り抜けた悠斗の体は、魔力切れと疲労などが相まって酷く弱っていたのだ。

  今眠ったらしばらく起きれないことを本能的に察した悠斗は、掠れる声で二人に言う。


「凛紅……桐生君……後は、任せたよ……」


  それだけ言い残し、悠斗は完全に気絶したのだった。














 ……

 ……

 ……


『──────ユニークスキル《復讐者の赫怒アヴェンジャーズレイジ》を獲得しました』









 ☆☆☆☆☆

 スキル・設定解説

 《殺人剣》

 ・武術スキル。殺人剣を行使可能。

 ・対人型特攻。

 ・対人戦闘時、全ステータス補正


 《鏖殺剣》

 ・常時発動型(パッシブスキル)。敵(人間でも魔物でも問わず)を殺せば殺す程、ステータス上昇。効果時間は最後に敵を殺した時から三十分。

 ・敵を殺す度に魔力が少し回復する。


 《一騎当千》

 ・常時発動型(パッシブスキル)。その時の戦闘で、自分よりも相手の方が数が多い時にステータスに補正。敵の数が多ければ多いほど補正値が増える。


 《復讐者の赫怒アヴェンジャーズレイジ

 ・常時発動型(パッシブスキル)。受けたダメージの分だけステータス上昇。効果時間は最後にダメージを受けた時から三十分。

 ・憤激時ステータス補正。

 ・魔力吸収(マジックドレイン)



 〇スキルについて。

 ・スキルには基本的に任意発動型(アクティブスキル)常時発動型(パッシブスキル)、武術スキルの三つがある。任意発動型はその名の通り意識して発動するスキルで、《電撃スパーク》などが該当する。常時発動型は常に効果を発揮しているスキルで耐性系のスキルが該当する。そして武術系は、半分は常時発動型と同じで常に何らかの効果を発揮するが、その武術の技、スキルアクションが使える様になるということもあり一概に任意発動型とも常時発動型とも言えず、そう言う分類になっている。




 

最近、ダンまちとハイスクールDDにハマっています。もしよろしければ、感想欄とかに自分はこの小説が好きだーというのを書き込んでくれると嬉しいです!


ブックマーク、ポイント評価、感想をお願いします。これらは全て私の動力源となるので、是非ともやって欲しいです!

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