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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
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悪意と殺意

少し遅れました、すいません。


※軽いキャラ崩壊がありますが、気にしないでください。

  悠斗が初めて騒動を認知したのは、白刃達が悠斗の《感知》スキルの範囲内に入ってからだ。

  伊達に上位スキルと言われてはいないようで、《感知》スキルは悠斗の想像以上に便利だった。

  スキルにはレベルがある。パッと見では表記されてないが、魔導書のステータス画面のスキルを更に詳しく見るとスマートフォンのように別画面になり、そのスキルの詳細が記載される。

  記載されるのはそのスキルの具体的な能力、消費魔力、そしてスキルレベルだ。


  スキルレベルと言うのはそのまんまスキルのレベル。そのスキルを使い込めば使い込むほどレベルが上がる。レベルが高ければ高いほどその効力は強くなる。

  悠斗は索敵・鑑定能力代わりにダンジョンでは《感知》スキルを常時発動していたし、普段もよく使っているため、そのスキルレベルは高い。

  結果、今の悠斗の索敵範囲は円形で全方位ではなく、扇形に変えればその範囲は優に二キロを超える。

  その上、悠斗の記憶にある人間であれば、索敵で感知した時にその人物を現在の状態付きで分かるようになっている。


  その優れた索敵能力で、悠斗は少なくとも白刃達がピンチであることを理解した。

  そこからは速い。

  魔力があまり回復していないので、使用を抑えていた長距離高速移動スキル、《限界加速》を乱用。

  岩肌の起伏などお構いなしに、それらに引っかからない程の速さで移動した。

  ある程度距離が縮まった段階で、白刃の大輝を呼ぶ叫びを聞いて、更に加速。


  そうして白刃達を目視可能距離まで辿り着いた悠斗は最悪の事態を見た。

  血を流して倒れる大輝。

  何かあったのか倒れたまま動かない白刃。

  倒れ伏すミーシアと双葉、そして瑛士や希理達。

  そして、下手人だと思われる男に覆いかぶさられて、上の衣服を破られた凛紅。


  その瞬間、悠斗の中であらゆる思考は白熱した。

  残りの魔力とか体力とか理性とか躊躇とか、そういう考えが一切消し飛び、ただ目の前の男をどうやって凛紅から引き剥がすか考える。

  男の次の行動は大体目に見えている。

  近づいて物理攻撃は論外。まず間に合わない。

  魔法は詠唱、無詠唱にしても術式構築に時間がかかるからなし。

  ならばスキル。悠斗が使える最速の攻撃スキルは《電撃スパーク》だ。

  だが《電撃》では威力が足りない。

  じゃあ威力を上げればいい。

 

  一瞬でありえない程の高速思考をして、その結論にたどり着く。

  威力を底上げするため、必要以上の魔力を注ぎ込んでそのスキルを発動させる。



「《電撃》!!!」



  腐っても光速。

  秒速約三十万キロメートル、とまでは行かないものの、圧倒的な速度で最早落雷の如き一条が横殴りに男を襲う。

  着弾の衝撃で男は吹き飛び、誰もいない所まで飛んで行った。

その余波が白刃達すら襲い、凛紅と白刃以外の全員を気絶させた。


  そのまま《限界加速》を継続して高速移動。すぐに彼らの元へたどり着く。



「ゆ……うと……くん」


「桐生君。状況は理解している。でも君はなんで動けないんだい?」


  白刃は満足に動かない身体で、悠斗の顔を見た。

  そして、ゾッとした。

  だって、その顔は、あまりにも恐ろしかったから。

  途方もなく怖い顔をしているのではない。

  何か底知れぬ闇の様な暗さを孕んだ、あまりにも恐ろしい無表情。されど、その中には激怒と言う言葉ですら生温い激情が渦巻いているのは、言うまでもなかった。


「神経……毒……だ。あいつ……に短剣で……刺されて……その時に……」

 

「毒か。じゃあこれでいいね」


  そう言って悠斗は、白刃にあるものを手渡す。

  それは、簡易試験管の中に入った青色の液体だった。


「超強化薬の製造過程で生まれた副産物なんだけど、ある程度の回復能力は保証するよ」


  錬金術師の最奥、万能回復薬(エリクサー)には程遠いけどね、と付け足す悠斗だが、その顔はやはり笑っていない。

  白刃が何とかそれを受け取り、呷っている間に、悠斗は凛紅の元へと向かっていた。


「悠斗……なの?」


「うん。僕だよ、凛紅」


  優しく凛紅を抱き上げた悠斗は、彼女に緑色の石の様なモノを押し当てる。

  すると石が緑色に発光し、凛紅の身体を包みこんだ。


「ぁっ、暖かい……」


「良く、頑張ったね、凛紅」


  悠斗・双葉の共同製作魔道具【癒しの緑石(ヒーリングストーン)】。

  回復魔法が苦手な人でも回復が出来るようにすることをコンセプトにしたアイテムだ。

  悠斗はある程度回復した凛紅から石を離し、彼女を優しく抱きしめた。

  それがきっかけか。凛紅の張り詰めていた感情は一気に決壊した。


「悠斗ぉ……怖かったよぉ……もう行っちゃ嫌だよぉ……」


  幼くなったようにすら感じる凛紅の言葉を真摯に受け止めて、悠斗はどこまでも優しく、彼女を宥め続ける。


「大丈夫だから。もう、君を傷つけさせないから。だから、泣かないで」


  そこだけ見れば、感動の場面なのだろう。

  だが、それをぶち壊す悪意()がいた。


「感動の再会のところ悪いけどさァ、イチャつくなら他所でやってくんなぃ?」


  男は生きていた。

  悠斗が放った《電撃》が直撃する瞬間、闇のオーラで体を守ったことで直接のダメージを防いだのだ。

  それでも吹っ飛ばされて、岩肌に叩きつけられたダメージがあったらしく、今まで出て来れなかったのだ。


「ああ、そうさせて貰うよ。でもそれは貴方を殺してからだ」


  男の悪意がこもった言葉に、どこまでも不敵に返す悠斗。

  だが、その言葉には白刃だけでなく近くにいた凛紅すらも凍りついた。


  あの悠斗が、殺すという言葉を使った。

  それも、さっきまで凛紅を抱きしめていた優しい顔ではなく、剥き出しの刃を連想させる様な顔と、底冷えする声がその言葉をハッタリや脅しの類でないことを思わせた。

  男が巫山戯た顔から戦士の顔になるのと同じくらい、豹変という言葉が似合う普段との変わり様は、白刃達を戦慄させるのに十分だった。


「くくくっ、おお怖い。俺には分かるぜェ。お前は俺と同じだな」


「……」


  自分と同じ。

  男の言っている意味が分からないと思った白刃だったが、次の瞬間にはその思考はさらなる混乱へと落ちる。


「お前のその眼。それは俺と同じ、人殺しの眼(・・・・・)だァ」


「……」


  ニタリ。

  そんな擬音が頭に浮かぶ様な笑みを浮かべて、男は悠斗に言った。

  それを聞いた白刃はようやくそこそこ動くようになった口で叫ぶ。


「違う!悠斗君は人殺しなんかじゃない!」


「いいや、人殺しさ。言っておくが、死の間際で苦しんでる人を楽にする為殺した、なんて事じゃないぜェ。こいつは本当に、一度、自分の意思で、人を殺してる。こいつの眼は、そういう眼だ」


「……」


  言い返され、白刃は思わず悠斗の顔を見た。

 

「……ッ!?」


  白刃が見た悠斗の顔は、眼は、あまりに昏かった。

  眼は据わり、その瞳の黒は日本人が宿すそれではなく、まるで深淵の様な深い闇で出来ているよう。

  彼が知っている桜田悠斗さくらだゆうとと言う人物からはあまりにも掛け離れたその顔に、白刃は絶句した。


  そうして白刃達が絶句している時、悠斗はゆっくりとその顔を上げる。

  男の位置では男子にしては長めの前髪に隠れて表情が分かりにくい状態で、悠斗は告げた。


「そうだ。僕は人殺しだ。でも、だからどうした?例え何と言われようと、貴方を殺すのに躊躇いはない」


  その瞬間、空間が悲鳴を上げた。

  悠斗は何もしていない。魔力を放出した訳でも、何か特別な魔法・スキルを使った訳でもない。

  だが、悠斗の大事なヒトを傷つけた男への怒りと、あと少し遅ければ大惨事だったと言う不安や焦りが悠斗の感情を抑制しきれなかった。

  そう、それは男への怒りであり、敵意であり、何よりも殺意。

  空間を軋ませたのは、齢十五の少年が放ったとは思えない程の、殺気だった。



「っ、こりゃ驚いた。ガキが、なんて殺気出しやがる。俺もちぃと本気を出さねぇとなァ!!」


  悠斗の殺気に当てられてか。

  男もまた狂気の様を捨て、一人の武人の顔となる。

  油断なく腰を落とし、二本の魔剣を構えた。


「……凛紅。この石を大輝と双葉、ミーシアに当てて。回復魔法の効果がある。特に大輝は最優先だ。頼めるね?」


  ボソリと、凛紅にしか聞こえない声で悠斗は指示を出した。

  油断なく男を見ながら魔道具の石を手渡しして、凛紅を少しずつ移動させる。



「先手は貰う!」


  不意に、男が駆けた。

  白刃達と戦っていた時よりも更に速い動き。

  男が右手の魔剣で鋭い振り下ろしを悠斗に見舞う。

  悠斗も魔剣ノクスで受け止め、勢いそのまま切っ先を背後に向けて逸らして男の体勢を崩す。


「ちっ、だが!」


  男もそこで終わらず、崩れた体勢のまま左腕の魔剣を横薙ぎする。

  今度は持ち手はそのまま逆手に持ち替えた魔剣でそれを受け止める。

  距離が近くなった所で悠斗は左脚で膝蹴りを放ち、それが男にクリーンヒットする。


「がっ!?」


  スキルアクションの一撃ではないにしろ、人体でトップクラスの打撃力を誇る部位、膝の一撃は決して軽くはない。

  それが腹部に入ったとなれば、その衝撃は思いのほか強いものだ。

  男は思わず腹部を押さえて数歩後退する。


「ふっ!」


「ちぃっ!?」


  当然その隙を見逃すわけなく、悠斗は猛烈な勢いで攻勢に出る。

  先ずは袈裟懸けに一閃。

  辛くも避ける男だが、悠斗は間髪入れずに斬り上げの攻撃。

  何とか剣をクロスして防いだものの、その衝撃で男の防御はがら空きになった。


「吹っ飛べ!」


  そこに悠斗の牙は突き刺さる。

  《体術》スキルアクション、《煌打》をアッパー気味に下から男の腹部へと叩き込む。

  インパクト時に無属性魔法『魔弾』を故意に爆発させる無属性魔法『魔衝撃』を発動。

  強烈な一打に強烈な追い討ちを加えるこの技は、新たなる悠斗の魔法技(アーツ)、《煌魔衝打》だ。


  生命体の肉体を破壊することだけに特化したその魔法技は、悠斗の想定以上にぶっ飛んでいた。威力的にも、男の吹っ飛び具合的にも。


「……?」


  あまりも一方的に男を殴り飛ばした悠斗だが、その顔はどこか険しい。

  慎重に周囲を見渡し、鋭い目付きで警戒する。


「そこかっ!」


  振り向きざまの一閃。

  誰もいないはずの空間を薙いだその一撃は、悠斗にぶつかり合う金属音と鈍い衝撃を伝えた。

  そして何かを引きずるような音と共に空間が揺らぎ、男が姿を表した。

  どうやら悠斗の一撃を魔剣二本を交差してガードしたらしい。


「っと。まさかバレてるとはなァ」


「いくら連戦続きだったとは言え、その程度の強さで瑛士達に勝てるわけないからね。驚いた。大した隠蔽、偽装能力だ。……魔剣の力だな?」


「さぁて、どうだかねェ!」


  悠斗の詰問に答えず、男は悠斗へと駆け出す。


「《魔剣擬似解放》!」


  走りながら、魔剣の力を解放する。

  悠斗は知る由もないが、双葉を気絶させた魔剣の力、刀身が幾条もの黒い帯へと変わり、悠斗へ迫る。


「擬似、ね。はぁっ!」


  男のスキルに違和感を覚えた悠斗だが、今は気にしている場合ではない。

  生き物のように迫る帯を躱し、或いは斬り払って凌ぐ。

  だが、腐っても魔剣ということか、見た目とは裏腹に相当の硬度を持つ帯は斬り払っても弾くことしか出来ず、すぐに体勢を整えて再攻撃してくる。

  そのあまりのやりにくさに悠斗は歯噛みする。


「そこォ!」


「っ!?」


  男の命令でより早く動いた帯に悠斗の両手は拘束される。

  一瞬で加速したため回避が間に合わなかったのだ。


「その隙頂きィ!」


  致命的な隙を晒した悠斗に男が斬り掛る。

  右手の魔剣で左の肩口から胴体までをバッサリ行く袈裟斬りを悠斗はまともに受けた(・・・・・・・)


「なァッ!?」


  今度は男が驚く番だった。

  間違いなく致命傷になると踏んだ斬撃が、あろうことか肩口で止まっていたのだから。


「《廻脚》!」


  縛られた両腕はそのままに、《体術》スキルアクション、《廻脚》を放つ。

  身体を拘束されているにも関わらず無理行った回し蹴りは当然、上手く行かないだろう。

  だが悠斗はそんなもの知ったことじゃないと言わんばかりに黒い帯を無理矢理振りほどき、蹴りを炸裂させた。


「ぐおっ!?」


  男も流石の反応で左手の剣を盾にするが、その衝撃は途方もなく、そこそこの距離を飛ばされた。奇しくも、男が誰かさん(ミーシア)にやった時のように。



「ちっ!」


  立ち上がりと同時に、男は何かを悠斗へと向けて投げつけた。


「破ッ!」


  男の声より僅かコンマ数秒後、悠斗の周囲を囲むように散らばって空中を落ちるソレは、一斉に爆発した。


「っ!?」


「悠斗!」


  爆炎に飲み込まれる悠斗を見て凛紅が叫ぶ。

  普通なら無事ではないだろうと誰もが思うだろうが、こと男だけは油断なく煙が立ち込めている所を見つめている。



「やっぱりな!」


  突如男はバックステップで後退し、そのまま魔剣の力を解放、刀身を帯へと変えて煙の中へと突き出した。

  だがその数秒後、煙の中で硬い何かを弾く音が聞こえ始める。

  更にその数秒後には強烈な一陣の風が巻き起こり、煙諸共刀身の帯が吹き飛ばされる。


「……」


  悠斗は、やはり健在だった。

  斬撃をモロに受け、爆発もまともに食らった悠斗が何故ほぼノーダメージなのか。

  それは悠斗が攻撃を受ける直前に身体を竜人化させていたからだ。

  斬撃の時は一部分、つまり肩口だけを竜人化した上で、付与魔法『耐性付与レジストエンチャント斬撃スラッシュ』を使い斬撃に対する防御を上げた。

  そして爆発は全身を竜人化し、『耐性付与:炎』を付与して爆炎を凌いでいたのだ。


「なるほどね。ここまで受けてようやく分かったよ。貴方の魔剣解放、本物ではありませんね?」


  佇んでいた悠斗は突如口を開くなりそう言った。

  その言葉に男はにぃっと笑って答える。


「そうともォ。俺の魔剣解放は擬似、つまり偽物だ。故にその効果は落ちる」


  一旦切って、男は刀身が帯になる魔剣をかざした。


「こいつだって本来は刃帯をあらゆる所から生えさせられる。擬似解放だと刀身を帯にするので精一杯だ。だけどな、利点が無いわけじゃない。擬似解放はリスクがないのさァ」


  嬉嬉として手の内を明かす男だが、それでも悠斗は男の持つ魔剣を脅威だと感じていた。

  いや、正確にはその魔剣を男が持つことを脅威と認識していた。


「うん、駄目だ」


「は?」


  だが、男はびっくりする程あっさりその魔剣を捨てた(・・・)

  それには流石の悠斗も気が抜けた声を出す。


「二本使ってたら、君には勝てそうにないからねェ」


  そう言って、男はもう一本の魔剣を右手に持ち変えて、スっと構える。


「行くぞ?」


  おどけた様な言葉なれど、紛れもない男の本気(・・)だと悠斗は直感的に判断した。


「っ!?」


  だから、男の動きを一瞬とは言え見逃したことが、悠斗にとって衝撃的だった。


「シャァッ!」


「ぐっ!?」


  繰り出された斬撃を、悠斗は咄嗟に剣を盾にして受け止めるも、その腕に返ってきたのは凄まじい痺れだった。


(重いっ!)


「《電撃スパーク》!」


  鍔迫り合いは不利。

  そう判断した悠斗は即座に腕を突き出し《電撃》で男を牽制、距離を取る。


「ちぃっ!」


  男は舌打ちを吐き捨てて一時後退。

  再び剣を構え直した。


「ほんと厄介だなァ、そのスキル」


  男が言う通り、悠斗は《電撃》を重宝していた。

  このスキルはRPGで言う所の“特技”、それも最初の方に覚えるモノだ。

  ゲームではそういったものはあまり使われない。なぜなら威力が低いからだ。

  だが、リアルな戦いとなるとこの様な攻撃系スキルはその価値を激変させる。

  魔法とは違う、通常攻撃よりも強力な攻撃。しかも速射性に優れ、消耗も少ない。

  それは黒鬼などの耐久性、或いは回復能力などに優れた魔物には効果は薄いが、対人や対小型魔物などを相手にする時に非常に強力な一手となる。

  対人戦における《電撃》の有効性は、それほどまでに高いのだ。


「だがッ!」


  男の体が前のめりに倒れる、寸前で急速に視界から消える。

  やはり一瞬で悠斗の前に辿り着いた男は、今度は大きな攻撃では動作小さめ、斬るというよりは傷付けるよりの攻撃を悠斗に見舞う。


「くそっ、やりにくい!」


  小手技。

  小手先の技術で扱うそれは、小さく速く振ることを重要視した技だ。

  その攻撃を寸でのことろで凌ぎながらも、悠斗は軽く悪態を付く。

 

  男の攻撃を凌ぎながら、悠斗は気づいた。

  自分が相対している相手は、技巧派(テクニカルファイター)であると。

  奇しくも、悠斗もまた技巧派。

  武術の技とはまた違う、言わば戦闘の技術を用い、使えるものならばなんでも使って敵を翻弄する戦闘スタイル。

  これまで悠斗は自身と同じ技巧派と戦ったことはない。

  そもそもこれまで戦ってきたのはほとんどが魔物であるし、人型の魔物であっても影騎士は武術の技の極地を行く敵であったし、逆に黒鬼は怪力と再生というストロングスタイルの極みを行く存在。それらはどちらも一極型のバトルタイプだ。

  唯一近しいのはクレドであるが、やるのは模擬戦、それも格闘と無属性魔法限定の勝負なので、技巧派との勝負とは言えない。


  故に、悠斗の技巧派に対する、いや、そもそも対人の戦闘経験があまりにも少ないのだ。

  それでも戦えているのは一重に、悠斗が内に宿す絶対的な対人戦闘の才能故だろう。


「《飛燕》!」


  このままではジリ貧だと感じた悠斗は短距離高速移動スキル《飛燕》を発動して男から一気に距離を取る。


「《魔剣擬似解放》!」


  すかさず男は魔剣を擬似的に解放し、手に持っている魔剣から巨大な炎の塊を放射する。

  擬似であっても流石は魔剣と言うべきか、みてくれは火属性魔法Lv6『豪炎火球』のそれと似ているが、内包された熱と威力はそれを優に超える。


「そんなもので!」


  だがそれに対して、悠斗は竜魔法『竜鱗』を展開。

  竜の鱗を模して作られた魔力の障壁にぶつかった炎は、その威容に反してすぐに霧散し、火の粉を散らせて悠斗の視界を一瞬染めた。


「!?」


  炎が晴れたその時には男の姿はさっきまでいた場所にいなかった。


「こっちだよ!」


「っ!」


  声がした。

  いつの間にか、既に男は悠斗の右側に回り込んでいたらしい。

  男が腕を振るう気配を感じ、悠斗は振り向くと同時に剣を盾にする。

  キィンッ、と言う硬質な音と共に悠斗の腕に衝撃が走る。

  悠斗の腕は剣ごと後ろまで弾かれている。

  防御崩し(ガードブレイク)された。

  そして晒される決定的な隙。そこに、男は剣を持つ腕を突きの構えで後ろに引き絞る。


「《狼牙突き》!」


  そして引き絞られた腕をボクサーのパンチのように突き出し、《剣術》スキルアクション、《狼牙突き》を放つ。

  狼が飛び掛るような鋭い突きが悠斗の胸部へと直撃した。


「悠斗!」


「悠斗君!」


  その一撃を受けて大きく吹っ飛び、硬い地面に叩きつけられる悠斗。

  その様子を見た凛紅と白刃はその異常に気が付かぬまま叫んだ。


「……?」


  そして男はその異様な手応えに首を傾げた。

  酷く硬い岩に切れ味の悪い剣を突き立てたかのような感触。

  間違いなく必殺のタイミングだった今の攻撃を、さすがに防ぐことは出来ないだろうと思っているが、どうにも嫌な予感がする。


  そして──────


「おいおい、マジか。今のは勝ったと思ったんだけどなァ……」


  悠斗は、ゆっくりと立ち上がった。

  さすがに胸の辺りがプレートアーマーも含めて裂けており、本人も痛そうに胸を抑えているが、明らかに致命傷らしきモノはなく、それどころかほとんど無傷と言っても良い位だった。



「ごほっ、結構危なかったけどね」


  悠斗がほぼ無傷な理由。それは先程同様、部分竜人化と付与魔法を何とか間に合わせた体だ。

  男が向けていた切っ先の方向で何となく突きが来る場所を予測して、そこにピンポイントで展開したのだ。

  男が刺突ではなく斬撃を、単突きではなく連突きを選んでいたら危なかっただろう。


「一つだけ解せないことがある」


  突然悠斗はそう言い出した。

  男は訝しそうな視線で悠斗を見て、「なんだ?」と問う。


「貴方の瞬間移動じみた高速移動。それは“歩法”の技術だな?」


  歩法。

  体術、体さばきの一種。

  要するに足運び、つまり足の使い方で多様な動きを見せる技だ。


「……ヘェ、よく分かったじゃん。”瞬脚“って技なんだよ」


  男は悠斗に技の正体を看破されたのにも関わらず、動揺するどころか嬉嬉として技の名前まで教えた。


「だからこそ解せない」


  鋭い口調で、悠斗は言う。


「それほどまでの技、そしてその運用方、何よりも膨大な戦闘経験と愚直なまでの努力が見える立ち回り。才能とか特別な何かとか、そういうのが一切見えないのにここまで強くなれる人は、少なくても努力と真っ当な精神が必要だと僕は思っている」


  だからこそ、と悠斗は続ける。


「貴方の元の性格が、そんな風に狂気を撒き散らす様なモノとは思えない」


「……」


  男は悠斗の言葉を黙って聞いていた。


「一つ聞きたい」


「何かな?」


  少し間を置いて、悠斗はその言葉を発した。







「──────貴方に昔、何があった?」



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