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七天勇者の異世界英雄譚  作者: 黒鐘悠 
第二章 少年少女の戦場
73/112

厄災の咆哮、再び

ちょっと遅れましたが、許してください。m(_ _)m

 

  その集団を見つけた時、カレの胸に訪れたのは言葉に出来ぬ喜びだった。


  嗚呼、コイツは良いカモを見つけた。

 

  コイツらを潰したら、喰らったら、穢したら、さぞ愉しいだろう、と。


  それに、コイツらの何人かからは、強い魔力を感じる。

 

  ソレを喰えば、消滅してしまった腕も戻るだろう。


  嗚呼、楽しみだ。


  楽しみで楽しみで、仕方がない。


 


  カレが求めるのは殺戮。


  カレが欲するのは血と悲鳴。


  カレが愛するのは愉悦。



  故に、カレは、確固たる己を以て、想像する。



  この獲物は、どんな風に哭くのだろうか、と。









 ☆☆☆☆☆



  あまりにおぞましく、恐ろしいモノを見た。

  その場にいるだけで精神がガリガリ削られる第二階層のボスを早々に後にし、白刃達は第三階層の転移ポータル付近で休息を取っていた。


  今回の第二階層強行突破作戦は、誰一人例外なく、消耗を余儀なくされた。

  特に大輝、瑛士、凛紅、双葉、ミーシア、そして希理の消耗が激しい。


  彼らは特に普通に走るのに加えて索敵や敵の間引き、時間稼ぎや掃討など、作戦に必要不可欠なことをやってくれた面々だ。

  彼らの働きのどれか一つでも欠けていれば、作戦成功は難しかっただろう。


  とにかく、ずっと走り続けた反動は軽くない。

  白刃を含めて、大体のクラスメイトが疲労困憊であり、このままでは探索云々の話にはならないし、何より、悠斗との合流場所がこの辺である以上、下手に動けないのが本音であった。



「……」


「どうしたよ、白刃」



  手頃な石に座って、思念顔をしている白刃に、大輝が声を掛けた。

  すると白刃は大輝の方を見て、少し考えるような素振りを見せて……重い口を開くように話し始めた。



「……少し、気になることがあるんだ」


「気になること?」


「ああ。悠斗君のことだ」


「っ……」


  悠斗の名前を口に出した瞬間、大輝の身体が強ばった。

  様子が気になったが、どこか踏み込み難い雰囲気だったので、止めた。


「レイラさんに、聞いたんだ。今、この第三階層では危険な魔物が徘徊してるって」


「危険な魔物!?」


「ああ。……大輝、君は黒化現象を知っているか?」


「……名前だけなら。確か、全身が黒く染まって、黒いモヤのようなモノを魔物が纏うようになる現象だったよな?」


「その通りだ。危険な魔物って言うのは、その黒化現象を発症しているオーガだそうだ」


「オーガ? ……いくら黒化したからとはいえ、オーガがそこまで危険になるとは考えにくいが……」


「うん。でも、ヤツはこれまで多くの冒険者を殺してきている。恐らくだけど、第二階層のボスを殺したのもヤツだ」


「なっ、んな危ねぇヤツがいる所に悠斗は一人なのか!?」


  そう言うや否や、大輝は立ち上がり、どこかへ行こうとした。

  どこに行こうとしているかは、明白だった。


「やめた方がいい」


  座ったまま、白刃が大輝を呼び止める。

  一応立ち止まる大輝は、振り返らずに「……なんだ」と返す。顔は見えなくても、その声に含まれるのが怒気であることはすぐに分かった。


「……分かっているだろう? このまま一人で、或いは四人で悠斗君を探しに行ったところで、見つけることが出来る可能性はかなり低い。下手をすればもっと状況が悪化するよ」


  白刃の言う通りである。

  さらに加えて言えば、入れ違いにでもなろうものなら最悪だ。大幅なタイムロスをくらうことになる。

  それに、不確定要素イレギュラーだらけのこのダンジョンにおいて、黒いオーガ(黒鬼)だけが警戒対処にはなりえない。

  迂闊に行動すれば、死者が出る可能性だってある。


「……だからって、このまま何もせずに待てと?」


「そうじゃない。確かに、迂闊に行動するのは危険だ。けれど、迂闊じゃなければいい」


  白刃の微妙な矛盾じみた言い方に、大輝は怪訝そうな顔をする。


「どういうことだ?」


「そのまんまだよ。もう少しみんなで様子見して、それでも悠斗君が来なかったら、何人かを分けて捜索隊を編成する」


「それじゃあ結局同じじゃねえか?」


「いいや、一回の捜索は一時間という制限を付ける。ダンジョン内でも、魔導書の世界時計は生きているからね。それを基準にするつもりだよ」


「……連絡はどうするんだ? それこそ、世界時計は機能していても、魔導書の通信機能は死んでるんだぞ?」


「それについては、これを見てくれ」


  大輝の質問に対して、白刃はマジックチェストからある物を取り出した。


「コイツは……」


「うん。多分見た目で分かると思うけど、信号弾を打ち上げるための銃だよ」


  白刃が取り出したのは大口径で小型な拳銃、信号拳銃だった。


「想像の通り、これは君が持っている【魔鳥の導きマジックガイド】同様、悠斗君が作ってくれていた物だ」


「……用意周到過ぎるだろ。一体いつ作ったんだよ、ほんとに……」


  呆れと感嘆が混ざった複雑な表情で、大輝は一人零す。

  それに同調するように、苦笑しながら白刃は説明を続けた。


「これを居残り組の人に渡すつもりだ。

  悠斗君が来たら『緑』。非常事態なら『赤』の信号弾を撃つように言うつもりだ」


「……確かに、それなら問題はないだろうな」



  白刃が出した提案に、大輝は渋面ながらも頷く。

  理屈では分かっていても、感情が認めきれない、そんな感じだ。


「俺は……何とかなる。だが、凛紅達(アイツら)はどうする気だ? ただの言葉じゃ止まらねぇぞ?」


「……一応、美鈴や沙耶香、綾音や摩耶に止めるよう頼んでいる」


「ほぼ残りの女子全員か……まあ、何とかなるな。

  だが、編成はどうするんだ?」


「捜索隊にはオレ、瑛士、凛紅、双葉、ミーシアちゃんの五人で行こうと思っている」


「おいおい、俺は留守番かよ?」


  まるで信じられないと言うように……実際信じられないのだろうが、首を傾げる。



「君には悪いと思っている。だけど、君が残ってくれないと指示を出せる人間がいなくなる。

  パーティーのバランスを考えると面子は変えれない。特に瑛士は必要不可欠だ」


「確かにバランスは取れているし、言うことはねぇ。

  だがよ、理屈で納得しても感情まではそうはいかないんだが?」


「それは……」


  大輝の言葉に押し黙る白刃。

  大輝も気持ちを抑えるように頭を掻く。


  実際、白刃が選んだ捜索隊はバランスは取れていた。

  高火力、前衛後衛なんでもござれの白刃。

  中衛で前後衛どちらのアシストにも回れる凛紅。

  回復と補助に優れる双葉。

  強力な魔法をほぼ無詠唱で放ち、状況に応じて魔法改変までする幼き魔導士、ミーシア。

  そして、風の魔力を散布することでそこそこ広い範囲の索敵を可能にする上、《舞剣術》と言うユニークスキルを持つ瑛士。


  現在、指揮を執っているのは白刃だが、作戦立案やら現場指揮は各パーティのリーダー格である白刃、瑛士、大輝が共同で行っている。

  つまるところ、その三人全員が捜索隊に加わることは、居残り組の混乱を意味する。

  指揮者がいるのといないのでは、戦闘は大きく変わる。

  もし三人がいない中で異常事態が起きようものなら、それこそ詰みだ。



「……ちっ、分かったよ。一応、残ってやる」


「……すまない」



  結局、大輝が折れた。

  今は内輪もめしている場合ではない。理にかなっている方に合わせるべきだ。

  そう自分に言い聞かせ、荒ぶる気持ちを無理矢理抑え込んだ。


「……別にいいさ。今は個人でどうこうしていい状況じゃねえ。まあ、俺は精々凛紅達(アイツら)が暴走しないよう、言い聞かせておいてやるさ。ついでにこの件も報告しておくぜ」


「……ああ、頼む」



  その言葉を最後に、大輝は踵を返し、凛紅達がいる方へ向かって行った。

  離れていく背中を見ながら、白刃は一人、零した。


「ままならないなぁ……」



  その言葉は誰の耳にも届かず、迷宮の空へ溶けて行った。









 ……

 ……

 ……



「それじゃあ、行ってくる」


「そっちは任せたぞ」


「ま、居残り組コッチは任せておけや。それよりも悠斗のこと、頼んだぞ」


「おう。しっかり見つけて来てやるよ」


  その時は思いのほかあっさり訪れた。

  大輝と白刃の話し合いから少し経って、いよいよ捜索隊出発の時を迎えた。

  大輝に挨拶を済ませた白刃と瑛士は、すぐに顔を引き締めていた。


  精神統一の邪魔をしちゃ悪いかと思ってその場を後にしようかと考えた大輝だが、そのタイミングで凛紅から声が掛かった。


「大輝、貴方がいない分まで、私達が悠斗を探す。だから心配しないで」


「別にそこは心配してねぇよ。ただ、お前らこそ気を付けろ。第二階層でも言ったが、お前らに何かあれば、確実にアイツは狂うぞ」


「分かってる。もう悠斗のあんな顔……私は見たくないもの」


「そりゃ俺だって同じだよ」


  何かを思ってか、凛紅の顔が悲痛さに歪む。

  そして苦虫を噛み潰したようなような表情に悲しみを乗せて、大輝も同意した。



「……ともあれ、悠斗のこと、頼むぜ」

 

「ええ。任せなさい」


  最後に、短くも互いの真意が伝わる言葉を掛けて、大輝と凛紅は互いに背を向け、その場を後にした。


「……本当に、頼んだぞ……っ」


  去り際に零れたその言葉は、誰の耳に入るわけでもなく、ただ悔しさだけを滲ませて落ちていった。







 ……

 ……

 ……


  ダンジョン、修練の魔境第三階層『岩山地帯』。

  その名の通り、大小多彩な岩石とそれで出来た山で構成されるダンジョンだ。

  ゴツゴツとしている岩肌の大地は動きを阻害し、かつ山と言うだけあって登り降りを繰り返すような地形は体力をすこぶる削る。


  また、辺りを見渡しても、どこを見たところで視界に映るのは灰色の景色。

  岩山が多く並び、石柱のようなものまであるので、見渡しも良くはない。

 

  一体何故あるのか分からないダンジョン内の謎太陽の光に照らされて、白刃達捜索隊はひたすら歩いていた。


「瑛士、様子はどうだ?」


「……正直、全く見つからねぇ。大輝の【魔鳥の導きマジックガイド】の見せて貰った感じ、この階層もかなり広い。一回の捜索で見つけるのは困難かもしれないぜ」


「なら見つかるまで何度でも捜索するまでだよ。時間と食料にはまだまだ余裕はあるからな」


「違いない」


  風の魔力を散布して索敵をする瑛士だが、彼の広い範囲の索敵能力を以てしても広大な階層のどこかにいる悠斗を見つけることは難しかった。

  ……余談ではあるが、地味に白刃達が移動しているのは悠斗が現在寝ている所とは真反対の方向である。


「それにしても……」


「ああ。……めっちゃピリピリしてんな。正直近寄り難いぜ」


  後ろから来るどこか殺気にすら似た圧力に、割とマジでビビる男二人。

  いや……後ろ三人の様子を見れば、例えいくつもの修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の戦士でも、威圧感を感じずにはいられないだろう。

  それくらい、後ろの三人娘はとんでもない圧力を放っていた。


「……」


「……」


「……」


  無言である。

  ただ無言で、黙々と歩いている。

  しかし、片手はいつでも抜けるように刀に添えてたあったり、杖を既に構えていたり、獣耳少女ミーシア に至っては既に魔法をスタンバイしていた。

  敵がいたら即殺サーチアンドデストロイする気満々である。


  そんな少女らが後ろを殺気すら伴って歩いているのだから、戦闘を行く白刃達の内心は、恐々としている。

  ないと分かっていても、もしかすれば後ろからズバッ!とかドカンッ!とか殺られかねなくて、とてもではないが気を抜いていられない。

  というか、この場で平然としていられるのは精神が伝説の金属オリハルコンで出来ている人間くらいだろう。いや、ほんと、マジで。

 

  閑話休題それはさておき


「おかしいな……」


  不意に瑛士が呟いた。

  少し顔を険しくしているあたり、ただ事では無さそうだ。


「何かあったのか?」


「逆だよ。……何もいないんだ」


「何も? どういうことだ?」


  予想とは違う返答に、戸惑う白刃。

  瑛士の言葉の真意を聞いた時、彼の表情は戦慄した。


「そのまんまの意味だ。人ならともかく、魔物の反応すらこの辺一帯にはない。明らかに異常だ」


「つまり、この辺の魔物をナニカが殲滅した、とか?」


「さあな。だが何か嫌な予感がする。時間も時間だし一旦引き上げた方が────っ!?」


  不安を払拭するため、一度戻ることを提案しようとした矢先。

  彼らは見てしまった。

  その光景を。


「なんだ……これ」


「こんなの……どうしたら……」


「……っ」


  その光景の前に瑛士はおろか、ついさっきまで殺気立っていた凛紅やミーシア達でさえも、硬直を余儀なくされた。


  それも仕方がないことだろう。

  この階層の大地である岩肌は広く浅く、だが確かに抉れていた。

  その周囲にはあちらこちらに夥しい程の血液や臓物、肉片がべっとりと付着しており、その現場はあまりにもグロテスクだった。

  見れば、飛び散る肉片の中にはヒトの指や目玉といったモノが混じっているのに気づくだろう。

  ただそれを見ただけで、何があったかは簡単に察せられる。


「……兎に角、一回戻るべきだ。これは……不味い」


  流石に、反論する者はいなかった。

  近くに悠斗が居ないのは分かっている。

  そして、やばいナニカの存在。

  これらの条件の中、まだ捜索するのは下策以外の何ものでもないのは明らかだ。


  元来た道を引き返すために踵を返した、その時。



「なっ……」



  短い驚愕は、白刃の口から発せられた。

  造り上げられたダンジョンの空に、異物が上がっていたからだ。

  空をまっすぐ突き破り、一定の位置で停止したまま光り続けるソレには、白刃も覚えがあった。

  何せそれは、彼が居残り組に渡した信号弾なのだから。


  そして、その色は『赤』。



  異常事態の、発生である。



「〜〜〜っ、急ごう!」


  すぐさま走り出す白刃達捜索隊。

  その顔にはただ一つの例外もなく、焦りが浮かんでいた。










 ☆☆☆☆☆


  それは、白刃達捜索隊がいなくなってすぐの事だった。

 


「ん? あれは……」


  現在地から少し離れた所に謎の影が見えた。

  敵か、味方か。そもそも人か、魔物か。人であっても油断は出来ない。

  居残り組に警戒をさせる為に、大輝は声を張り上げた。


「お前ら、取り上げず武器構えろ!」


「はぁ!? どうしたってんだよ急に」


  無論、そのいきなり過ぎる指示に、周囲は混乱する。

  近くに正体不明のナニカがいるから警戒しろ、そう言おうとした大輝だったが、それよりも早く希理が反応した。


「……近くに敵かもしれないヤツらがいる。私たちのようにダンジョンに入ったまま出られなくなった人かもしれないし、魔物かもしれない。だから取り上げず警戒しろってことでしょ?」


「お、おう、そうだ。助かったぜ神川」


「……別に」


  素っ気なく言葉を返す希理。その顔には微妙にではあるが苛立ちというか焦りというか、妙な迫力が出ている。


(それにしても、アイツも気づいていたのか。随分とまあ、よく見てやがる。

  ……それだけ本気なんだろうな)


  何をとは言わないが。

  胸によぎった言葉を飲み込み、思考を切り替える。


「ちっ、分かったよ」


  突っかかってきてた蘭藤も、希理の説明に納得したのか武器を構える。

  他の面々も既に構えてはいるが、その顔に緊張が張り付いていた。

  黒騎士戦から来る恐怖だろう。あの時は、大輝を含めたほぼ全員が手痛い敗北を喫したのだから。



「来るぞ……」


  気がつけば、その影はもうすぐ近くまで来ていた。

  後数秒もしないうちに影は取り払われ、その姿形を拝めるだろう。


  誰もが手に持つ武器に力が籠る。

  冷や汗が頬をつたい、静かに流れ落ちて行った。


  そしてその時は、静かに訪れた。



「……っ!? 消えた!?」


  あと少して会敵。そのタイミングで急に謎の影が消えた。

  比喩ではない。文字通り、溶けるように消えたのだ。


「なっ、なんなんだよ!?」


「一体何があったんだ……!?」


  唐突かつありえない出来事が目の前で起きて、蘭藤や村山が困惑する。

  他の面々も声にこそ出していないが、あまりにも突飛な現象に唖然としていた。


  ────そして



「ちっ、危ねぇ!」


  直感か、はたまた別な何かか。

  ざわつきを覚えた大輝は、周囲を見渡す。

  すると、案の定、どこから現れたのか、真っ黒な見た目にコウモリの翼を生やしたような人型の魔物が、蘭藤に爪を突き立てようとしていた。


「あ? なんだよ一体……ってうおっ!?」


  気づいた時にはもう遅い。振り上げられた爪が、蘭藤の身体貫かんと迫る。

  回避も反撃も、防御すらも間に合わないタイミング。

  その場の誰もが、彼の死を幻視した。

 


「させるか、よぉっ!!!」


  だが、勢いよく突き出した大輝の大剣が、魔物を胴を切り裂いて、蘭藤の死を防いだ。


「た、助かった……。ありがとよ、大輝」


「礼はあとだ。見ろ……まだ居る」


「はぁ? ……なっ!?」


  大輝の言う通り、彼の見ている方向を見た蘭藤。

  彼の目に飛び込んできたのは、地面に闇の池のようなものをつくり、そこから生えてくるように出てくる多くの魔物達だった。

  それも、一体一体の見た目がほとんど異なる。



「な、なんだよこれ!?」


「さあな。だが、殺らなきゃ殺られるのだけは確かだ。おら、武器を構えろ!術士は詠唱開始、銃士は援護、前衛共は俺に続けぇ!!」


  周りを置いて行かんばかりに指示を出し、誰よりも先に、大輝は前に出た。


「しゃらくさい!」


  魔物共の前に立ち、大地を踏みしめ、横薙ぎに大剣を振るう。

  スキルも何も使っていない一撃であるのに関わらず、多くの敵を数体纏めて屠る。


「うぉおおおおおおっっっ!!!」


  スキルを使い、魔法技アーツを使い、初級とはいえ魔法すら用いて敵を屠り、無双するその姿、まさに鬼人。


「ちっ、やってやらぁ!」


「俺だって……っ!」


  大輝が獅子奮迅の活躍をする中、蘭藤や春樹達も戦闘に参加し、前衛組の乱戦が始まった。


 



「ぉおおおっ!! ────なにっ!?」


  唐竹割りの一撃を、魔物に叩き込もうとした時、その魔物が闇に溶けた。

  だが、それを気にしている余裕はなく、別な魔物に意識を向けた、その時。


「キシャァァアアアッ!!!」


「なっ、うおっ!?」


  大輝の後ろから、さっき消えたはずの魔物が現れた。

  カマキリ型のソイツは鋭利な鎌腕で大輝を切りつけようとするも、大輝は大剣ではなんとか止める。

 

「この、離れろよ……っ!」


  ジリジリと押される大剣。

  鍔迫り合いをしていたその時、大輝は極限の集中力を以て気がついてしまった。



(黒い見た目に微かに漏れている闇のオーラのはようなモノ……まさか!)


「コイツら全部、黒化状態!?」



  当たりである。

  現在大輝達と戦っている魔物共は実を言うと全部黒化現象を発症している魔物だった。

  カマキリ型が消えて、後ろから現れたのも黒化の恩恵の力だ。


 

(くそ、本当にコイツらが全部黒化状態なら、面倒極まりねぇぞ。悠斗を早く見つけてぇが、一旦白刃達を呼ぶのが懸命か……ってやべぇ!このままじゃ!?)


  そう、大輝はかなり危うい状況に瀕していた。

  目の前の鍔迫り合いをしているカマキリ型の膂力も脅威だが、それにばかり構っていれば、後ろから来る魔物に殺られる。


(くそっ、不味い、本気でどうにかしないと────っ!?)


  こうなったら一撃覚悟で切り抜けるか、そう考えた時、カマキリ型魔物の頭が爆ぜた。

  ふと横を見れば、銃を構えたままの希理の姿が。どうやら助けてくれたようだ。

  そのチャンスを逃さず、振り向き様に大剣を一閃。近寄ってきていた魔物を両断した。



「神川か。助かったぜ」


「……魔法の準備が終わった。一気に倒せるよ」


「おーけー、お前らぁ! 一旦引け!でかいの行くぞ!」


  大輝の指示に、前で戦っていた男子達の顔に安堵が浮かぶ。

  すぐさま安全ラインまで退却し、最後の仕上げを様子見する。


「術士隊、頼んだぜ!」


「『地岩鉄拳グラウンドフィスト』!」


「『アクアサイズ』!」


「『ブレイズミサイル』!」


  大輝の号令によって、岩石の巨大な拳が、水の大鎌が、爆炎をもたらす追尾弾が、残る魔物共を纏めて吹き飛ばした。


  強力な魔法を放った後故、疲労困憊の様子で倒れる術士隊。

  だが、彼女らがその身を削って放った一撃は、確かに魔物共を倒していた。

  そう、ほとんどは。


「「ガァァァァッ!!」」


  二体程、後付け能力である闇に溶けて移動する能力を発動して、魔法攻撃から逃げおおせていた。

  ヤツらもタダでは転ばないと言わんばかりに、術士隊の後ろに闇溜りを作っては、そこから飛び出して奇襲を仕掛ける。

  タイミングは完璧。どう足掻いても術士隊には奇襲を凌ぐ手段はない。


  だが、それを読んでいたヤツらがいた。


「来ると思ってたよ!」


「……っ!」


  大輝と希理だ。

  大輝が大剣を振るい一体を両断し、希理が性格無比な射撃で脳天を撃ち抜く。


  こうして、襲いかかってきた黒化状態の魔物共の討伐は無事終了した。

 







  ────かに、思えた。




「なんだ、この揺れ?」


「しかも妙にうるさくないか? こう、ズダンズタンッ、みたいな感じで」


「確かに。ちょっと怖いかも……」


  蘭藤や村山が音と揺れを感じて疑問を口に出し、速川美鈴がそれを不気味がる。


「この揺れ、確かに妙だな。それになんだ……この胸騒ぎ……っっっ!?」


  大輝が自身の胸に去来するどこか警告にも似た胸騒ぎにナニカを感じた、その時だった。



  天より、ナニカが降ってきた。

 

  空は岩で覆われているはずなのに、だ。


  ソレは黒い鬼だった。


  夜のそれよりも深い闇を身に纏い、その身すらも黒く染め上げた鬼。


  片腕がなくとも、ソレは圧倒的なまでの存在感を放っていた。


 

  だからか。大輝が何をするよりも先に行った行動は一刻でも早くソイツの存在を遠くにいる仲間に伝える事だった。

  マジックチェストから高速で悠斗特製の信号銃と赤の弾薬を取り出し、弾込めを即行で終わらせて、上に打ち上げる。


  空へと飛翔する弾薬は赤の光と軌跡を残して、僅かに輝いた後、残滓となって消えた。



「おいお前ら……」


  震える声で、大輝が呼びかける。



「……コイツ、マジやべぇぞ」


  決して離すまいと懸命に握りしめる大剣もまた、持ち主の声と同じく震えている。


  言われるまでもなく、彼らは察していた。


  ソレが、想像を絶するくらいには、恐ろしいものだと。



「ォオオオオオオオオッッッ!!!」


  厄災を運ぶ黒鬼は今、獲物を捕食する歓喜に咆哮を上げた。






 

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