その頃彼らは...…
ふー、週一投稿って結構大変です( 笑 )
走る。
ひたすらに、走る。
まるで、恐ろしいモノから逃げるように。
実際、カレは恐ろしさから逃げていた。
初めて感じた、恐怖。
何度も殴った。
何度も潰した。
何度も魔法を放った。
そして、何度も切り裂いた。
それなのに、防ぎ、或いは受けても尚立ち上がっては自分を傷付けたヤツが、怖かった。
付けられた傷のほとんどは、すぐに治る、大したことないモノだ。
だが、どんなに切っても潰しても、ゾンビのように立ち上がるヤツの剣は、いつか、自分の生命に届くんじゃないかと、そう思った。
いや、何よりも、どんなに斬られても治るはずのカレの肉体を治癒不能に、いや、消滅させたあの一撃が何よりも恐ろしい。
もしあの少年が全快で、あの一撃を放っていたら自分はあれを避けられる自信が無い。
無様に漆黒の斬閃を受けて、自分という存在が殺される未来しか想像出来ない。
件の一撃を受けて消し飛ばされた左腕が疼く。
正確には左腕があった場所、であるが。
……実を言うと、本当は逃げ出さずにあのまま悠斗を殺そうかとも黒鬼は考えていた。
だが、黒鬼とて致命傷ではないが、長らく放置すれば死に至りかねない傷を負っていた。
闇のオーラは《絶閃》によって大幅に削られて、現在負っている重傷を癒すには不十分だった。精々止血にしかならない。そして、それすらも長くは持たないだろう。
それに悠斗を確実に殺せる確証がない。
彼としては何度も殺した思える攻撃をしてきたのに、そのことごとくから生き抜いて見せた。
下手に攻撃を仕掛けて、逆に反撃されたらそれこそ詰みだ。
だから、カレは一旦引く選択を取った。
それが正解か不正解かと言えば、実の所微妙だ。
確かに悠斗は悠斗は弱っていたし、黒鬼ならトドメをさせたかもしれない。
だが、そうした場合、高確率で黒鬼も死ぬ。
理屈がどうこうではなく、ありとあらゆる能力を以て、それこそ、生命すらもチップへ変えて、悠斗は確実に黒鬼を殺すだろう。
そう考えれば、黒鬼の選択は間違いではないだろう。
黒鬼の闇のオーラを回復させるには、魔物や人間、つまり生物を喰らい、血肉と魔力を摂取する他ない。
幸い、この辺の魔物で自分の敵はいない。
この階層にはもうほとんど魔物はいないだろうから、一つ前の階層へ行こう。
必死に、死にものぐるいで走りながらも、カレは黒化の影響で異常発達した脳で、冷静に思考していた。
かくして、絶望の権化、破壊の鬼は片腕をなくしながらも、生を獲得するために、走り続ける。
☆☆☆☆☆
「このっ、しつこい!」
シャンッ、と鈴のような音を奏でて抜刀された刀がテナガザルのような魔物を、手に持っていた棍棒ごと両断した。
「邪魔しないで!」
その勢いで、周囲一帯に《剣術》スキル、スキルアクション、《円閃連斬》を放つ。
広域高速連撃技であるこのスキルアクションは、円形型の一定範囲に高速かつ、無数の斬撃を放つ技だ。
これにより周囲一帯の魔物が一気に殲滅された。
これをやったのはもちろん、凛紅だ。
そして、無双をしているのは彼女だけではない。
「そこを通してください!『聖光守護者』」
神聖、光属性複合魔法『聖光守護者』。
神聖魔法と光属性魔法によって形作られた人型の守護者を呼び出し、術者を護らせる、……地味にオリジナル魔法。
術者たる双葉もまた、光属性魔法の攻撃魔法で周囲の敵を殲滅していた。
……守護者が何故かプレートアーマーを着て、双剣を装備しているけれど、それは本人の意思ではない。……多分。
「『ファイアストーム』……、まだ残りますか、『火炎連槍』」
ミーシアが淡々と広域魔法を放ち、残った魔物を多重展開の単体魔法で仕留めていく。
その姿、まさに狩人。
「《貫通弾》、《炸裂弾》、《徹甲弾》」
大仰な活躍こそしていないが、狩人じみた戦闘なら希理もまた、負けていない。
悠斗から貰った連射式の魔力銃を操り、スキルアクションを上手く扱って次々に魔物を屠っている。
圧倒的な殲滅能力を見せる女性組。
その共通点に半ば気が付いている男子代表は、この絵面を見て、
「う、うわぁ……恋する乙女、マジパネェ」
である。
第二階層で悠斗との通信が途切れた白刃達一行は、悠斗がいる第三階層に向かっていた。
一度攻略したことがある第二階層ではあるが、魔物の数がやけに多く、思うように進めていなかった。
「四人共、随分ピリピリしてるね」
「それもそうだろうなぁ、悠斗一人だけ危険な所に飛ばされて、しかも音信不通と来た。正直な話、俺もそんなに余裕ねぇよ。ま、アイツらがピリついてるお陰で、こっちはちと冷静だ」
「普段無表情で何考えてんだかイマイチな希理でさえあれだしな」
一騎当千の働きをした凛紅達を一度休ませている間、白刃、大輝、瑛士の三人が集まって話し合いをしていた。
悠斗がいない今、事実上のリーダー会議だ。
本来ならこうもゆっくりと話している余裕はない。
だが、悠斗との分断というイレギュラーがあったため、あらゆる点で再考慮が必要となったのだ。
かつて最弱のステータスと最低ランクの加護(と曲解した)だった悠斗ではあるが、今では戦闘、探索、補助など様々な面で彼の存在は大きくなっていた。
そんな悠斗の欠落はあまりに痛い。
少なくとも、至急に対策を立てる必要があるくらいには。
因みに、何故連絡が途絶えてすぐに会議を開かなかったというと、彼らも連絡途絶後、多くの魔物に襲撃を受けていたからだ。
「まずは方針の確認だ。オレ達が最初にやるべきことは────」
「勿論、悠斗との合流だ」
かつてないほど強く、きっぱりと、大輝が断言した。
「俺も賛成だ」
瑛士もそれに賛成した。
驚くことなく、白刃は大輝達に向かい合う。
「当然、悠斗君を見放そうなんて考えてはいない。彼とは第三階層の入り口で待ち合わせることになっている」
「そうか……ならいいんだ」
「悠斗君のことなら大丈夫だと思う。彼の異常事態に対する対応力は誰よりも突出している。
一先ずの問題は第三階層に向かう上で大量に襲い掛かってくるだろう魔物達の処理だ」
白刃達が臨時会議を開いた第二の理由。
それはダンジョンでのイレギュラーの一つ、魔物の大量発生だ。
あたかも、黒騎士の召喚魔法で呼び出された使い魔達の軍勢の如く魔物が押し寄せて来るのだ。
これだけならまだ何とかなるが、それが影騎士の亡者召喚クラスになれば、本当に不味い。
こと殲滅に関して言えば、白刃と希理の二強がいる。
純粋な火力と殲滅力は希理が、あらゆる意味で可能性を秘める点では白刃が利を持つ。
だが、希理の殲滅技、《殲滅極光魔弾》はチャージに時間が掛かるし、白刃の《勇者の一撃》は本気で放てば彼が動けなくなる。
どちらにせよ、多用も出来ないし、使うタイミングも限定されるのだ。
「策と言える程の物じゃないけど、一応考えはある」
「本当かい、瑛士?」
重い口を開くかの如く、考えを言う瑛士。
その顔は、苦虫を噛み潰したようで、その考えに穴があることを雄弁に示していた。
「穴だらけではあるが、強行突破作戦がいいと思う」
「強行突破?」
「ああ。大量の魔物が襲ってくるにしろ、来ないにしろ、悠斗がいない今、イレギュラーに対応出来るのは白刃だけだ。
なるべく白刃を温存させて、一気に突き抜けたい」
瑛士の作戦を簡単に説明するとこうだ。
大量の魔物が襲いくることが確定していないので、わざわざ魔物を集めて一網打尽という作戦は取れない。
であれば、時間の関係もあるのでゴールまで一気に走り抜けてしまおうと言う魂胆だ。
魔物が来なければ、早々に悠斗と合流出来て万々歳。
例え遭遇しても多少なら無視して構わない。
ただどうしても無視できない数、つまり五十を超える数の魔物に取り囲まれた場合は一度足を止めるしかない。
この時点で、白刃を消耗させたくない。
となれば当然、活路を開くのは希理の仕事だ。
《殲滅極光魔弾》はチャージが必要だが、希理は奥義程じゃないにしろ、ユニークスキルの《魔銃招来》と《魔弾》スキルによって、広域範囲攻撃を放てる。
殲滅が出来なくとも、強力な攻撃で陣形を崩せば、一気に押し通れるだろう。
「こんなもんが、俺の考えた作戦だ」
「……確かに、下手に待ち受けたり、何も考えずに移動するよりは確実だ。
ただ……」
「ああ、この作戦には決定的な穴が存在する」
瑛士が認めた通り、この作戦を遂行するには致命的にあるものが足りていない。
それは情報だ。
情報が足りないという一点で言えば、最初から足りていない。
現在の階層中の魔物の数。
それらの密集地帯。
リスポーン頻度。
ありとあらゆる情報がない。
だが、今回の作戦は、足りない情報を必要なくするための作戦だ。
しかし、それでも最低限必須の情報というのは必ず存在する。
今回の作戦で言うならば、現在地からゴール……つまり第二階層のボス部屋までの道だ。
一度攻略したとはいえ、当時はまだ冒険者家業に慣れておらず、しかも巨大ボスを倒して精神的、肉体的の両方で疲労困憊のまま、階層を練り歩いただけで、マッピングをしていない。
地図もあるのだが、現在地がそもそもどこか分からないので、役に立たない。
つまり、どうしようもないのだ。
「どうにかならないものか……」
「うーむ………………あっ」
「ん?」
「え?」
必須情報を得るため、どうにかならないかと考えていたその時、大輝がふと間抜けな声を上げた。
「どうした、大輝?」
「なにか案があるのかい?」
二人に尋ねられる大輝は、少しバツの悪そうな顔で答えた。
「いや、案っていうか……その、情報を得る方法、あるわ」
そう言って、魔導書の収納機能である【マジックチェスト】から腕時計のような物体と二枚の手紙を取り出した。
大輝から受け取った手紙を読んだ白刃は目を見開いた。
「なになに……なっ、こんなものまで作っていたのか、彼は!」
悠斗が大輝に託した手紙にはこう書いてあった。
『僕に何らかのアクシデントがあり、分断された時のために大輝にいくつか魔道具を渡しておいた。遠慮なく使ってくれ』
『この魔道具は【魔鳥の導き】。
名前で察せる通り、道案内のための魔道具なんだ。
使い方だけど、まず事前にインストールしておいた地図を表示する。今回は修練の魔境の全地図を登録しておいた。
第一階層なら01番、第二階層なら02番をボタンを押して欲しい』
指示に従い、腕時計型の魔道具のボタン……02番を押す。
すると魔導書を開いた時のようにホロウィンドウが現れた。
そこには、修練の魔境第二階層の地図が表示されていた。
「なっ」
「すっ、すげぇな……」
異世界魔法の技術が加わり、地球では未だ再現出来いないSFチックな地図に、思わず感嘆の声が漏れていた。
『ボタンを押したら、ホロウィンドウで地図が表示されるはず。
そうしたら、端末に魔力を込めてくれ』
再び、指示通りに魔道具に魔力を通した。
すると、今度は魔法陣が浮かび、魔力で形成された鳥が現れる。
『そうしたら出てくる魔力の鳥は、簡易的な使い魔だ。
あとは、使い魔に行けと命じてみて欲しい』
「行け!」
魔力の鳥に指示を与えると、魔鳥はどこかへ飛び去ってしまった。
「あれ?」
「取り敢えず続きを見よう」
『命じれば、魔鳥は使い魔はその周囲一帯を飛び回り、ホロウィンドウの地図に皆の現在地とそこから指定場所までの最短ルートを見つけてくれる。
目的地は地図をタッチしてくれればいい』
言われた通り階層出口と描かれている所をタッチすると、数秒後には現在地と思われる赤い点と、赤いラインが目的地までに引かれていた。
「凄いな、これ……」
地球で言うところのナビゲーションシステムを魔法で再現したこの魔道具は、正しく現在の状況に最適のアイテムだった。
「うーん……一体いつ間に作ったんだ?」
「一度聞いたことがあるが、確か訓練の後、空いた時間で作ってるらしい。
生産系スキルもあるし、シャルルさんがサポートしてくれるから、そんなに苦労はないらしい」
「うへぇ、マジか。俺なんか訓練の後は大体疲れて動けねぇってのに」
「ほんと、一体どんな体力してんだか」
瑛士の心底驚嘆したような言葉に、大輝の苦笑い気味に同意した。
「何はともあれ、これで必要な情報は全て揃った。時間もないし、これ以上の案は浮かばないと思う。
みんなにこの作戦を説明して、実行に移そう。
悠斗君がいない分、頼んだぞ、二人とも!」
「おう」
「ま、程々に任せてくれ」
頷き合い、各々のパーティーを集めるために別れる三人。
彼らの顔には例外はなく、決意が宿っていた。
☆☆☆☆☆
「……なんだっていい。まだ行かないの?」
簡易的ではあるが、作戦の概要を伝えられた希理の第一声はそれだった。
予想だにしない一言目に、流石の瑛士も軽く引き攣った。
「いや、取り敢えず落ち着け、神川。
さっきも説明した通り、この作戦はお前が肝心だ。
有事の際に敵の囲いに一撃で穴を開けられるお前の火力が重要だ。
どうだ、奥義以外に高火力の攻撃はあるか?」
「……《魔銃招来》と《魔弾》スキルを使えば、作れる。
いくつかケースが欲しい所だけど、一応汎用性が高いタイプをいくつか用意してある」
「本当か?出来ればどんな感じの攻撃か教えて欲しいんだ。
指示を出すタイミングや陣形を決めるのに役立つからな」
「……対物ライフルみたいなのを作って、収束魔力砲を撃ち出すタイプと大砲みたいな銃を幾つか作って魔力榴弾を同時射撃、連射するタイプの攻撃の二種類」
「しゅ、収束魔力砲?」
聞き馴れない……というか、名前からして厳しくてヤバそうな言葉に、瑛士はついオウム返しをしてしまった。
「……弾に込めたのとは別に、周囲の自然魔力を集めて凝縮、発射後はおよそ四秒間で一発分を出し終え、同時に軽爆発を起こす」
つまり、ロボットモノによくある荷電粒子砲である。
それを魔力で、しかも個人で行おうと言うのだから、とんでもないことであることは違いない。
「お、ぉおう。なんかすげぇな。
じゃあ、魔力榴弾は?」
「……予め魔力を込めた弾丸を発射、着弾時に込められた魔力に応じて中から大規模の爆発を起こす。今回の攻撃はそれをいくつかの兵器で同時に放つから、威力と範囲はもっと上がる」
「……おっふぅ」
悪夢である。
まさかの大量破壊兵器のオンパレード。
発想力さえあればこんな感じの攻撃を何種類も作れると考えると頭が痛い。
最早一人軍隊だ。
もし戦争でも起きた場合、希理を相手に回すのは明らか異常の下策だろう。
……希理に人を殺せるのであれば、だが。
「それぞれの利点、欠点はあるか?」
「……収束魔力砲は外部魔力のチャージが必要な分、時間が掛かる。でも、爆発が少ないから殲滅力は魔力榴弾に劣るけど、貫通力、威力共に高いことから一点突破力は高い。
魔力榴弾はほぼノータイムで放てるけど、威力は程々で殲滅に特化している。戦況によっては爆発にこっちが巻き込まれる可能性があるから注意」
「ふむ……」
要するに、包囲された時用が収束魔力砲で、正面に集団で固まれた場合は魔力榴弾という訳だ。
希理の手持ち、大方の攻撃パターンを把握した瑛士は、その情報を白刃へと伝えるべく、パーティーメンバーに声を掛けて、移動しようとした。
だがその前に、希理が瑛士を呼び止めた。
「……神崎君、まだなの?」
何を、とは言わなかった。
付き合いの長くない彼らだが、瑛士はその短い言葉の中に含まれる真意を十分に理解しているからだ。
「ああ、まだだ。だが、すぐでもある。
時間的には長くはないが、俺達からすれば永く感じるだろうよ。
だけど、もう少し待ってくれ。今回の作戦はお前が最も重要だ。
だから、気負わず、もう少しだけ待ってくれ。全ては、悠斗と合流するためだ」
「……分かった」
悠斗のため。
そう言われると、希理は待たざるを得なくなった。
いや、そう言われるのを望んでいたのかもしれない。
そうでもなければ、今すぐにでも一人で飛び出してしまいそうだったからだ。
そしてそれは、瑛士とて同じだった。
「だから待ってろ、俺。今はこれが先決だ」
自分に言い聞かせるために、わざわざ口に出して心を落ち着かせる。
握りしめた手からは紅い雫が零れていた。
☆☆☆☆☆
「まあそんなかっかするなって。一人じゃなんにも出来ねぇことくらいわかるだろ?」
少し離れた所で、大輝もまた、作戦の簡易的な説明をしていた。
「……分かってるわよ、そんなこと。でも、落ち着いていられないのよ」
作戦概要を話している時も、そして今も、ソワソワして落ち着かない様子を見せているのは凛紅だった。
「いつも悠斗に助けられて、ようやく私たちが助ける番だって言うのに、この体たらく。むしろ貴方はなんでそんなに落ち着いているの?」
焦りからくる苛立ちを隠しきれない様子で、八つ当たり気味に大輝に詰め寄る凛紅。
だが、その苛立ちもすぐに吹き飛ばされてしまう。
「落ち着いて、いる?俺が?
……本当にそう見えるか?」
さっきまで飄々としていたはずの大輝が、その大柄な身体を震わせ、凛紅以上の苛立ちと怒気を滲み出していた。
募る苛立ちで視界が狭まっていた凛紅も、落ち着きを取り戻した。
「……ごめんなさい。軽く当たってしまったわ」
「いや、俺も強く言いすぎた。ともあれ、今は内輪揉めしている暇はない。悠斗との一刻でも早い合流のため、とにかく迅速に動け」
言葉なく、頷く三人娘達。
凛紅程じゃないにしろ、彼女らにも焦りは募り、自分の気持ちを抑えるのに手一杯で周りに気を使っている余裕がない。
「……言っておくが、余計なことを考えたり実行したりするなよ?」
「「「っ!?」」」
呆れたような、そして真剣な声音の忠告に少女達の身体は震えた。
「悔しいが、今回の作戦で俺達に出来ることは殆どねぇ」
そう、階層主やエリアボス、魔物達との戦闘で幾度となく前線に出張り、活躍してきた彼らだが、今回の作戦、強行突破作戦において彼らは殆ど無力だ。
何せ、彼らは圧倒的多数を一瞬で灰燼に帰せる力を持ち合わせていない。
それが出来るのは、白刃達を含めても希理と白刃、そして悠斗だけだ。
「そんな俺らが勝手に行動した時、何かあったらどうする?
恐らく、いや、まず間違いなく悠斗は悲しむし、気に病む。
お前らは悠斗をそんな目に合わせたいのか?」
「「「……」」」
「それに俺達の内、誰が死んだりしたら今度こそあいつは狂うぞ」
「っ!?」
最後に、ボソリと呟いた言葉に凛紅だけが身を震わせた。
「だが、そんな俺らでも出来ることがある」
それは、進路を妨害してくる魔物の討伐だ、と大輝は続けた。
どんなに急いでも、例え囲まれなくてもチラホラ何体かの魔物とは遭遇するだろう。
そんな魔物に万が一にも不覚を取られないよう、ヤツらを倒す存在が必要だ、とも。
「それに、どうせあいつのことだ。お前らに最低一つずつは、何か渡してんじゃないのか?」
俺の【魔鳥の導き】のように。
その言葉を呑み込み、彼女達の返事を待つ。
結局、言葉はなかったが、態度で全てを理解した。
「焦る気持ちも分かるが、一人でどうこうするより、今は皆一緒に行動するのが最もの近道だ」
一度話を切り、息を吸う。
そして──────
「何より、悠斗を信じろ」
これまでで一番、力強い言葉。
「ええっ……!」
「はいっ!」
「うんっ!」
少女達の顔に、憂いはなかった。
☆☆☆☆☆
そこからは迅速だった。
一同が揃った所で作戦の詳細を説明し、否定も反論も、それどころか質問・意見さえも認めないような気迫で一方的に説明を終わらせた。
とはいえ、最低限の質問には答え、準備に移った。
これ以上の作戦が考えつかなかったということもあり、準備はスムーズに進み、あっという間に決行の時が来た。
「よし。では皆、作戦を始めようと思う」
白刃の言葉に異世界転移組の少年少女達は息を飲む。
「オレが合図したら、一斉に走って欲しい。とにかく止まるないでくれ」
嵐の前の静けさのように、なんの音もしないダンジョンはヤケに緊張する。
張り詰めた空気が肌を刺すようで、静寂が痛い。
どれだけ緊張しようとしなかろうと、泣いても笑っても残酷に時は流れる。
そして、その時は訪れた。
「よし。作戦、開始ぃぃぃっ!!!」
その瞬間、全部で十四の影は、一斉に走り出した。
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